仏検と大学におけるフランス語の復権

長沼 圭一 (愛知県立大学 外国語学部)

私が6年前から勤務している愛知県立大学には外国語学部があり、フランス語専攻が存在している。高いモチベーションを持ってフランス語を学んでいる学生も少なくない。そのため、仏検については、強制されずとも、毎年それなりの数の学生たちが出願し受験していた。そこで、学生たちの受験状況を把握したく、私は愛知県立大学の頭文字をとってAKDの名前でAPEFさんに団体受験の登録を申請した。団体受験と言っても、会場提供や一括申込のような大掛かりなことはせず、個別に申し込む学生たちに団体コードを願書に書いてもらい、合否の通知が私のところに届くようにしたというだけであった。

私がこの大学に赴任した当初、私が所属するところは「フランス学科」という名称であり、10名の日本人教員がいた。ところが、その翌年、新カリキュラムの導入に伴い、「ヨーロッパ学科フランス語圏専攻」という名称に変わった。それまでの「フランス学科」、「スペイン学科」、「ドイツ学科」がまとめられ、「ヨーロッパ学科」となったのである。その際に、ヨーロッパ学科の3専攻は教員の定員を1名ずつ削減され、9名となった。さらに、この新カリキュラムが導入されて5年経った今年、また新たなカリキュラムが導入されることになった。5年前と同じようにヨーロッパ学科の3専攻は教員の定員がさらに1名ずつ減り、8名となった。そのうえ、今回は学生の募集定員も50名から45名へと削減されたのである。なぜ、こんな風にヨーロッパがどんどん縮小されてしまうのか。

これは全国的な傾向であるように思われるが、現在の大学では実利的な部分ばかりが求められているのではないであろうか。現在の世界の経済成長は、アジアにおいて著しいものがある。したがって、今後は大学でも中国や東南アジアに関する学問を提供する場を拡張していくことが必要だと考えられ、相対的にヨーロッパの需要は少ないという判断なのであろう。しかしながら、これについては2つの疑問の念を禁じえない。1つは実利と学問を同じ土俵に乗せてよいのかという疑問である。学問というのは、利益と結びつかなければやる意味がないのであろうか。人は知りたいことがあるからこそ真実を追究し学問にいそしむのではないのか。ヨーロッパで長い年月を経て培われてきた英知をそんなに簡単に切り捨ててよいものであろうか。知を愛することこそが学問の本質ではないのか。もちろんこれが理想に過ぎないことは私もよく理解していることであり、実利的な目的で学ぶことを否定するつもりはない。しかし、これをよしとしたならば、2つ目の疑問が湧くことになる。今後経済成長が期待されるのはアジアだけであろうか。もっと長い目で世界を見れば、アフリカの経済発展は無視できないはずである。フランス語はヨーロッパだけで使用されている言語ではなく、アフリカにはフランス語を公用語とする国が21ヶ国あり、通用語も含めれば29ヶ国にのぼる。本当に実利主義をとるつもりならば、大学におけるフランス語教育を縮小するのは決して得策とは言えないではずである。では、フランス語をいつ学ぶのか。

そんな中、本学では、文部科学省のグローバル人材育成推進事業に申請していたプロジェクトが採択され、2012年度後期からこのプロジェクトが始動した。このグローバル人材育成推進プロジェクトの一環として本学に誕生したのが、iCoToBa(多言語学習センター)という語学学習スペースである。この名称の由来であるが、iには、愛知県立大学の「愛」、I(わたし)、independent(自主性のある)の「i」、Coには、communication(コミュニケーション)、community(共同体)、cooperation(協同)の「co」、Toには、格助詞の「と」、to(~へ)、together(一緒に)の「to」、Baには「場」といった意味が込められており、「愛知県立大学においてコミュニケーションによって世界とつながる場」というコンセプトで新設された。このiCoToBaには英語2名、フランス語1名、スペイン語1名、ドイツ語1名、中国語1名、合計6名のネイティブ教員が配属されている。ネイティブ教員は、大学の正課には組み込まれていないiCoToBa独自の授業を担当する他、iCoToBa施設内のラウンジでの学生とのフリートーク、各種イベントの企画・運営なども行っている。また、iCoToBa施設内には、パソコンを使ってe-Learningができるスペースや大画面テレビで外国語放送やブルーレイ・DVDが見られるスペースも用意されている。

また、グローバル人材育成推進プロジェクトの一環として2013年度後期から実施されたのが、語学検定試験の受験料負担制度である。当初は外国語学部の学生全員分を負担することを目指していたが、結局は予算の都合で2年生と4年生のみが対象者となり、秋季のみ補助されることとなった。仏検については、フランス語専攻の4年生は準1級を、フランス語専攻の2年生は準2級を、第二外国語としてフランス語を履修して2年目の学生は3級を、大学側の受験料負担のもと、受験することが義務付けられた。当然のことながら、これまで学生が自分の意志により私費で受験していたときと比べ、圧倒的に受験者の数は増加した。これに伴い合格者の数も増加したことは言うまでもない。例えば、準1級は私の記憶では以前は毎年1人合格者がいるかどうかという程度ではなかったかと思われるが、今回の2013年度秋季では12人の学生が合格となった。正直なところ、これは私の予想を上回る嬉しい誤算であったが、今後仏検の団体受験が学生にとってフランス語習得のモチベーションを上げるよいきっかけとなり、さらには大学におけるフランス語の復権につながることを期待したい。

 

フランス語は、高校生中学生に世界を開いてくれる

菅沼 浩子(聖母被昇天学院中学校高等学校)

「フランス語を学べてホントによかった」「フランス語の授業が楽しみだった」「フランス語と出会えて世界が広がった」「この学校に来てよかったと思うことの一つはフランス語をやれたこと」「進路が見つけられた」「大学でも続けるね」etc. 今年も高3の卒業生達が卒業式にたくさんの嬉しいメッセージをプレゼントしてくれた。

本校は、各学年2クラス約70名という小規模校だが、母体となるAssomption修道会の創立者がフランス人であるため、高1からフランス語を第二外国語として必修で履修させている。国公立、理系を目指す生徒をのぞき、高2高3もほとんどの生徒が履修を続け、3年間フランス語とかかわる。ただ3年間といっても、1コマ45分授業を週2回、行事等で授業が抜けることも多く、年間では60回程度。1コマの時間も大学の半分だが、高校生達は、毎日1時間目から7時間目(あるいは6時間目)まで、1時間ごとに違った科目を学び1日を過ごす。数学の次は、大急ぎで着替えて体育、また大急ぎで着替えて単語テストから始まる英語、古典、フランス語、情報、世界史といった具合だ。

このような生活の中で、受験科目でもなく、高校で二外を学ぶことが一般的ではない現状で、フランス語を必修で学ぶということが生徒達にどのような意味をもたらすのかを全校生徒達へのアンケートをもとに探ってみた。というのも、創立者の精神を伝えるために、開校以来フランス語教育を行ってきた本校でさえ、数年ごとに行われるカリキュラム編成の際、受験に関係ない科目を必修で残す必要があるかどうかという問題に常に直面しているからだ。また、長年、公立や他の私立高校で1年間または2年間選択科目として教えてきた私としては、数年前本校で仕事を始める際、3年間続けて教えられるということで今までとは違う様々な可能性を感じていた。しかし、実際にはクラス全員、30数名の生徒を相手に語学を教えることは簡単なことではなく、3年生ともなると仏検3級取得者から、動詞の現在形もおぼつかない生徒が同じ教室におり、上位層の生徒を伸ばし切ってやれていないということが悩みだった。それを解決するには、必修でなくとも選択で興味のある生徒との小人数クラスにしてもいいのではないかという思いも少し持ち始めていた。

しかし、今回のアンケートから見えてきたものは、やらされている感が強いのではという私の考えとは少し違うものだった。「フランス語が必修であるほうがいいか、選択科目のほうがいいか」という問いに対して、各学年2〜3名の生徒以外は、必修であるほうが望ましいと答えている。その理由の多くは、必修であったからこそフランス語と出会え、世界や視野を広げることができたというものだ。もし、高1の時点で選択科目としてフランス語が設定されていた場合は選んでいなかったと答えた生徒は4割程度いた。つまり、この4割の生徒は必修でなければフランス語と出会わなかった生徒達である。そして、フランス語を学んだからこそ気づけたことを一人一人何らかの形で実感していた。つまり、より多くの高校生にフランス語と出会わすことが重要なのだ。

もちろん前述のように忙しい高校生にとって、フランス語学習の時間をそれほどさけるわけでもなく、私自身も高校での第二外国語は異文化へのスタート地点となればいいと考えてきた。基本的にその考えは変わってはおらず、他教科と違い、ある程度は生徒達自身が自分なりの目標を決めフランス語と付き合ってくれればいいと思っている。そのため以前から仏検には積極的に取り組ませていたものの、希望者が中心だった。しかし、必修で学んでいる彼女達にとって、公的な評価もモチベーションの一つなのではないかと考え、2年前から自校を準会場とし、基本的には高2で全員5級取得を目標とした。ただ、英検と違い、土曜日に行えないため、現実的には様々な理由から全員受験とはいかない。けれども生徒達からは、「まさか自分が高校時代に仏検を取得できるとは思っていなかった。」「取得できて嬉しい。」「また次を目指したい」という声が聞こえているそして、2013年度の秋は、高1も今まで以上に多くの生徒が5級にチャレンジし、高2高3で、4級、3級を受験する生徒達も少しずつ増えてきている。また、3年間学ぶとはいえ、前述したとおり3級を取得するのは授業外での生徒本人の相当の努力が必要なのが現状だが、たとえ5級であっても、日本のほとんどの高校生が英語のみを学んでいる中、他言語の資格を取得したということは高校生にとっては優越感や自信という意味を見出し、その後の学習へのモチベーションアップへつながっていくのだ。

さらに、必修のメリットには学校全員がやっているということにもある。フランス語を学ぶ人、仏検を受験する人が学校内で一部の特別な存在ではないということは、彼女達にとってかなり重要なポイントである。

また、高3では主にフランコフォニーの国々について学んでいるが、ステレオタイプ的なフランスとは違う文化に触れることでフランス語への関心を高めたと感じている生徒が多いのも興味深いし、学年が進むにつれ、フランス語を学習してとてもよかったと感じている生徒が増加していくのも興味深い。そして7割強の生徒たちが卒業後もなんらかの形でフランス語学習を続けると回答している。

中学生についても少し見てみると、本校は中高一貫校であり、隔年ボルドーの姉妹校から来る10数名の高校生が、中高関係なく生徒たちの家にホームステイもする。そのため、中学生にもフランス語は身近にあり、高校で第二外国語を学ぶことに9割程度の生徒が肯定的で、中3の約7割は高校から学ぶフランス語を楽しみにしている。けれども、兵庫県の公立中学3年生150名に行ったアンケートでは、おそらくほとんどは二外のない高校に進学する彼らからも、高校で英語以外の言語を学ぶことが必要か、学びたいかという2つの質問に対して、両方とも7割程度の生徒達がそう思うという結果が得られた。そして具体的に学びたい言語の多くは、大学で人気の中国語や朝鮮語ではなく、スペイン語、フランス語、ドイツ語などヨーロッパ言語があげられていた。(仏検を知っていると答えた生徒は数名だったが。)これらの結果を見ても、中高校生たちにとってフランス語また英語以外の言語を学ぶことは負担感よりも、むしろメリット感の方が強いといえる。

このように、外国語学習を柔らかい頭でとても前向きにとらえている中高生達。フランス語が世界を開いてくれると感じている中高生達。我々大人は彼らをサポートすることをもっと真剣に早急に取り組んでいかねばならない。私たち非常勤講師では様々な限界があるのも現実だが、まず、カリキュラムで削られないための近道として、進路を決める際にも、進学の際にも、フランス語を学んでいることにいかにメリットがあるかを、二外への意識は20年前とほとんど変わっていない高校の現場に示さねばならない。そのためには、大学で高校での履修経験(仏検3級を取得してでさえも)が明確に考慮されていない場合が多々あるが、大学側にももっと高校での現状を知ってもらい、高校側への働きかけをしていただきたい。二外を学ぶ高校生はまだまだマイノリティで、彼らを特別扱いすることは大学でも難しいことは承知だが、フランス語学習者を減らさず、本当の意味での視野の広いグローバルな人材を育てるためにはこれは必須であり、今後は高大連携でめやすを作るなど、高大教員がさらに協力して取り組むべきだと痛切に感じる。

砂漠にて

2013年春季3級合格
沖田 翔
学生(筑波大学)・茨城県

大学の3年生になるまで、つまりは去年の春の時点まで、私はフランス語を学習したことがありませんでした。フランス語を学習し始めて10ヵ月と少し、一言で言ってしまえば私はまだまだ学習を始めてから日の浅い、フランス語初心者ということになります。大学1年生からならまだしも、なぜそんな中途半端な時期にフランス語を始めようと思ったのか、当然疑問に思われることでしょう。もちろん始めるきっかけとなった出来事がいくつかあったのですが、今回はその中の一つであるサハラマラソンについて、触れてみたいと思います。

「サハラマラソン」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?フランス語での正式名称はMarathon des sables で、文字通りサハラ砂漠を舞台にして行われるマラソンレースです。フランスが主催している国際大会であり、レースの特徴としては 

1) 一週間をかけて250キロを走破する耐久レースであること

2) レースの間の食事や寝袋などは自給自足。つまり一週間分の食料や水、寝袋などを全て背負い全行程を走り抜けるレースであること

等が挙げられます。サハラ砂漠は日中は50度、朝方は10度前後と気温の差が激しく、重い荷物だけでなくこの気温差もレースを過酷なものとしています。私は一昨年の4月に、このレースの第27回大会に参加しました。「精神的な鍛錬がしたかった」というのがその動機です。20歳になった自分への、いわば通過儀礼のような意味合いもありました。

とはいうものの、走ってみるとやはりレースは過酷で、一日目から脱水症状に陥ってしまいました。暑さで内臓がやられ、体内の水分も尽きて汗すらかけず、いくら水を飲んでも、いくら塩のタブレットを飲んでも頭痛と吐き気が止まりませんでした。しかしそんな時、一人のランナーが私に声をかけてくれたのです。その人は初老の、紳士然とした男性で、ゼッケンの国籍欄にはFRANCEの文字がありました。声をかけてくれたといっても、その時の私には彼の話すフランス語が理解できなかったのですが、彼はどうやら「水を飲め、一緒に走ろう。」と言っているようでした。彼に励まされ、私は再び走りだすことができました。そうして結局、彼はその日のゴールまで私のことを気遣いながら併走してくれたのです。道中、初めてのフランス語に触れた私はなんとか片言の英語で彼との会話を試みたのですが、あまり上手くいきませんでした。その時、フランス語の簡単な挨拶だけでも勉強しておけばよかったと激しく後悔したのですが、ただ、彼の方は終始鼻歌を歌っていて、そんなことはちっとも気にしていないようでした。サハラマラソンのランナー達は、どこか通じるものがあります。日本から参加していたメンバーとは話が合い、直ぐに仲良くなれました。ならば、あの陽気なフランスの男性とも、もしも私があの時彼が話す言葉を話せていれば、何事かを語りえたはずです。そしてそのように考えると、せっかくのかけがえのない、大切な機会を取り逃してしまったように感じたのでした。

レースが終わり、日本に戻った後も、その時の出来事がいつまでも心に引っ掛かり続けていました。そうして私は、思い切って独学でフランス語の学習を始めることにしたのです。そして今まで、フランス語を短い期間ながらも学習してきた現在になって思うことは、語学を始めるのに「遅い」ということはないということです。私は、物事の「縁」というものを信じています。なにかに強く心惹かれるのなら、それは必然的な文脈の上でそうなっているのだと感じますし、そしてそういった「縁」を感じて何かに夢中になるタイミングというものは、「遅い」とか「早い」とかといった言葉でくくることはできないようにも思うのです。それはあたかも、人間の意図というものとは無関係に、向こうの方からある時突然やってくるかのようです。あの砂漠のレースでの出会いに「縁」を感じた私は、フランス語の世界にどんどん夢中になっていきました。そうして情熱を持って学習していくにつれて、見える世界がどんどん変わっていくのを実感していったのです。例えば、街中には思いがけないほど多くのお店がフランス語の店名を掲げています。聞き覚えのある数々の曲が、実はフランスの歌手が歌うシャンソンであることに気付いた時は、驚きもしました。そして理性的な言語によって紡がれる、フランス哲学の精緻な論理の美しさには目もくらむほどです。フランス語を学び始めて出会った多くの本や音楽、フランスに特有の「理性」の精神は、間違いなく私の生活を豊かにしてくれました。私は、思い切ってフランス語の世界に飛び込んで、本当に良かったと断言できます。そして、それは例え私が50歳からフランス語を始めようが、70歳から始めようが同じように満足したとも思うのです。それは、「知る喜び」というものはそれを求める人間の年齢に関係なく、誰の前にも開かれているということを常々感じるからです。

私はこれからも、あの時砂漠で得た「縁」を胸に、日々「知る喜び」を噛みしめながらフランス語の学習に取り組んでいきたいと考えています。そして、走り続けて、サハラマラソンのようなレースに参加し続けることで、いつかあの時の陽気なランナーに再会することが出来たなら、その時は彼と走ることについてゆっくりと語りあってみたい。そう、強く願っています。

 

第18回 書き取りに強くなるには?(中級)

慶應義塾大学准教授 井上 櫻子 

 

仏検では、準2級以上のレベルになると書き取り問題が登場します。一次試験において最も配点の高い設問ですから、この問題で高得点を獲得するのが合格への鍵だといえるでしょう。しかし、ただ漫然とフランス語の「音」を聴いているだけでは、書き取りの力は身に付きません。それではどのような点に気をつけながら学習すればよいのでしょうか。
 

                

ここでは2013年度秋季2級書き取り問題を例に検討していきましょう。

本問では、2人の女ともだちとともにパリへやってきた女性が、オルセー美術館で有名な絵画の数々を目にしたときの印象が語られています。以下、正解の一部を抜粋します。  

Nous étions toutes les trois très heureuses de voir des toiles qu’on connaît bien. En effet, ce sont des tableaux qu’on avait déjà étudiés au lycée. Pourtant, est-ce qu’on a vraiment regardé la peinture ? Non. Nous étions simplement contentes de retrouver des œuvres célèbres.

私たちは3人とも、よく知っている絵を目の当たりにしてひじょうに満足だった。というのも、それらは高校ですでに習ったことのある絵だったのだ。しかし、本当によく絵を見ていたのだろうか。そうではない。私たちはただ、有名な作品を見つけてうれしかったにすぎないのだ。


  
              

多くの受験者がつまずいたポイントを4点挙げていきます。すると、落とし穴は音を正確に聞き取って単語や表現にむすびつける次元(聴取レベル)よりもむしろ、文法的に正確な文に組み立てる次元(統辞レベル)にあると分かるでしょう。 

1.  正解  Nous étions toutes les trois très heureuses  
                   「3人ともひじょうに満足だった」

まず、toutes les trois は本問で特にできが悪かった箇所の1つです。誤答例で最も多かったのが toute les trois。つまり、発音されない複数形の語末の s を忘れていたのですが、これは形容詞 tout の性数一致に気をつければ避けられたはずのミスです。同様に、heureuses についても、heureuse と単数形にした誤答がめだちました。
 

2.  正解  des toiles qu’on connaît bien  「よく知っている絵」

この一節では、qu’on connaît bien の qu’on がエリジヨンのせいで聞き取りにくかったようです。quand、comme などとした誤答がかなり認められました。しかしこのような接続詞の後に仮に connaît bien と続けてしまうと、従属節に主語が存在しないことになり、文として成立しません。確かに quand と qu’on を純粋に音のレベルで聞き分けるのは難しいかもしれませんが、文法的(統辞的)に正しい表現を意識すれば、うまく切り抜けられたのではないでしょうか。
 

3.   正解  des tableaux qu’on avait déjà étudiés au lycée
                 「高校ですでに習ったことのある絵」

ここにも多くの受験者が苦戦した箇所があります。qu’on avait déjà étudiés の étudiés です。正答率はほぼ1割程度で、半数近くの受験者が étudié としていました。他動詞が複合形の時制(直説法の複合過去や大過去など、助動詞 avoir をともなう時制)で用いられており、さらに直接目的補語が動詞 ( avoir +過去分詞) の前方に置かれた場合は、過去分詞が直接目的補語と性数一致する規則を思い出してほしかったと思います。直接目的補語が人称代名詞や関係代名詞 que の先行詞として動詞の前方に置かれている場合などがこれにあてはまります。ちなみに des tableaux のように単数形に x をつけて複数形とするような特殊な名詞、形容詞も出題されやすいのでチェックしておきましょう。
 

4.   正解  des œuvres célèbres  「有名な作品」

1. で指摘したことと重複しますが、やはりここでも célèbres が単数になっている誤答が目立ちました。また、アクサンの向きや場所を間違っている答案もかなり見受けられました。『仏検公式ガイドブック』でも強調されていることですが、アクサンもつづりの重要な要素の一つですから、アクサンの場所、形をしっかり覚え、かつ明確に記すようにしてください。
 

                

ここまで取り上げたポイントに難しい表現や単語はありません。書き取り問題を制するには、聴取能力や語彙力に加えて、基本的な文法事項をしっかりマスターしていることが実はきわめて重要なのです。書き取りの点数が伸び悩んでいる人は、ぜひ文法書を参照し、実際に手を動かしながらフランス語の文を筆記する練習をおこなってください。得点率はずいぶんかわってくるはずです。








 

 

仏検準1級を受験、取得して

2012年秋季準1級合格
下村 達郎
寺院住職・東京都

準1級の試験において、2級までと大きく違うのは、二次の面接において現実に話題となっている時事問題を扱う点でしょう。

例えば「消費税率引き上げの是非」。消費者として税率が上がらないことを望むのは当然ですが、では引き上げなくてはならないとされる根拠は何なのか。他の税ではなく、消費税にスポットを当てられる理由は何か。そもそも今の日本はどういった目標を掲げ、それにはどの程度のお金が不足しているのか。消費税は日々買い物をする度に支払う最も身近な税金です。しかしながら、私自身その必要性について根拠や背景を把握し、意見を持って日常生活を送っていたわけではなかったため、改めて考える良い機会となりました。

また、「オリンピックを東京で開催したいかどうか」というテーマも考えられます。主催することでもたらされる経済効果や、国際都市としての東京を改めて世界に対し知らしめることができるといった利点が挙げられます。逆に、大掛かりな準備に見合う景気回復が見込めるのか、国内外から多くの人が訪れることによって交通渋滞等の問題が起こらないか、そもそも会場を確保できるのかなど、課題も挙げられます。

一般に日本人は自国のことに関心がない、意見を持たず説明すらできないと言われることがあります。学習を進め、今後海外の方とフランス語で交流する機会が増えていくことを考えますと、この仏検準1級の試験を通じ、自分自身が身を置く社会の現状を見つめ直すきっかけを与えてもらえたのは大変有意義なことであったと実感しています。

話は変わりまして、余談ながら私が準1級受験までに行った勉強について書かせて頂きます。仏語圏に留学したことはなく(一週間程度のフランス滞在は計5回、宗関連の行事等で渡仏することもあります)、NHKラジオ講座(基礎編半年分×1、応用編3ヶ月分×2のディアログを全文暗唱しました)やインターネット上の教材を利用し、同時に東京の語学学校において4年間、週1~2回の授業を受けたところで合格、表彰式にもご招待頂きました。


※写真は2013年6月に行われた浄土宗フランス開教地主催、シャトーにおいての法要の際に撮影

具体的な部分に関して、一次の筆記試験については、[1]で出題される動詞や形容詞を名詞で言い換えるという練習は欠かせないとしても、それ以外はより多くの文章に触れ、自分の中にストックしている語句、表現の量の底上げをする他にないと感じました。また上で触れてきた二次の面接について、私の場合はまず大学入試用の小論文の参考書を読み、質問に対してどういう答えをするものかを確認しました(上でも書きましたが、「税率引き上げについて」を問われた時、「払いたくないから反対」だけでは議論にならないので)。その上で想定したいくつかのテーマに対する回答を用意、ネイティブの友人に添削してもらって、完成した文章を覚え込みました。意見をまとめる際には、そのテーマについてフランス語で書かれた記事をウェブ上で検索し、表現を抜粋するなどして、少しでもナチュラルな表現に近づけるよう努力しました。

勉強の仕方、ペースは人それぞれですが、少しでも皆様の学習の参考になりましたら幸いです。
 

【仏検事務局より】 このエッセイは2013年度7月にお寄せいただいたものです。掲載が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。


 

フランス文学を原文で楽しみたい!

2012年秋季4級合格
奥泉 知佳
会社員・東京都


思えばフランスに興味を持ったのは、小学校高学年の時に読んだある本がきっかけでした。

日本人とフランス人のハーフである主人公が、自分のアイデンティティに悩み、また、他人と見た目が違うことによるいじめ、家族との別離などを経験し、さまざまな障害を乗り越えて成長していく物語で、私はその主人公の強さに憧れるのと同時に、本の中に描かれていたパリに強く心を惹かれました。

その後中学生になり、読書好きだった私は、ヴィクトール・ユゴー、サンテグジュペリなどフランス文学ばかりを好んで繰り返し読んでいることに気づき、いつしか「フランス語を学んで、原文でこの本を読んでみたい」と思うようになりました。

しかし、フランス語を学ぶ機会はなかなか訪れませんでした。憧れのパリに行くことも、やっと実現したのは社会人になって5年目になったとき、去年のことでした。

ついにパリに行けると決まった時、私は、夢と憧れの詰まったその旅を最高のものにしたいと思いました。なるべく現地の人とふれあい、現地の空気をできるだけたくさん吸い込みたいと思ったのです。そこから独学で仏検の勉強を始め、2か月後に5級、その半年後に4級を無事取得することができました。 

社会人になって新しいことを学ぶということは、時間の面でもいろいろと制約があり難しいことではありますが、心の中にひとつ新しい芽が生えたような、フレッシュな気持ちになれます。現在は3級取得に向けて勉強中ですが、目下の目標は2級を取得し、フランスに短期留学をすることです。最終的には大好きなフランス文学を、原文で楽しめるようになれれば・・・と夢見ています。

社会人になって数年経ち、弛んでいた私の心に、風を吹きこんでくれたフランス語。
本当にありがとう。 



【仏検事務局より】 このエッセイは2013年度4月にお寄せいただいたものです。掲載が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。奥泉様はその後2013年度春季試験で3級に合格されました。おめでとうございました!


 

フランス語学習を通し、夢を育てる

2012年秋季準2級合格
安原 章
高校教員(立教池袋高等学校)・埼玉県


私の場合、高校教員として日々多忙なこともあり、仏語学習の時間をいかに捻出するか、独学ながらいかに学習を効果的なものにするかに苦慮しました。

通勤電車で動詞活用を確認したり、帰宅後録音しておいたラジオ講座を聴いたり。そして、ことあるごとに簡単な仏作文を声に出しながら行ったり…
電車の中で分厚い紙の辞書の例文を頭の中で音読しながら頭に叩き込むのも効果的であるように感じます。紙の辞書特有の「芳醇な香り」を愉しみつつ…そう、やはり外国語学習は五感を総動員して味わうものですね。特に「文化」の香りが豊かなこの言語は、自分の生活に彩りを加えてくれます。

昨冬はパリひとり旅の夢が叶い、クリニャンクールの蚤の市に出かけ、かねてから興味のある昔のビュヴァール(企業広告が印刷されたインク吸い取り紙)を扱う店の方と片言の会話を楽しんできました。自分の発した言葉がネイティヴに通じたときの歓びは何物にも代え難いですね。時の過ぎるのも忘れ、お店に並んでいる1960年代のビュヴァールや紙袋の意匠の細部に見とれてしまいました。

あるいは、ルイ・マル監督『地下鉄のザジ (Zazie dans le Métro) 』に登場するガブリエル叔父さんの暮らすアパートの前で写真を撮ったり…Bonne Nouvelle界隈も50年前の雰囲気をそのまま残し、映画の舞台にタイムスリップしてきました。

また、高架部分を走ることが多い地下鉄6号線に目的もなく乗り、車窓の街並から歴史を味わい、訳ありの駅名を本で調べたりしていました。ニューヨークの地下鉄の駅名が「〜丁目」と付けられていることが多いのに対し、歴史的記念日や人名が刻まれたパリの駅名は、口に出して発音するだけでも愉しいものです。Place d’Italieの明るい「イ」の音や、Barbès-Rochechouartに3回現れる“r”の音に、本業で教えている英語にはない艶やかさと気品さえ感じられます。

この他、いわゆる「美しく洒落た」パリとは対極的な、「普段着」のパリ(18区など)でセネガル料理を味わったり、すっかりこの街の懐の深さに吸い込まれ、すでに引退後の逗留計画を立てています!!

外国語学習は忘却との闘いで骨が折れますが、何事にも代えがたい歓びと宝物が手に入るということを、自らの学習を通し、日々生徒にも伝えていければと思っております。そして、業務や付加価値のためとしての語学は勿論、好奇心や興味といった純粋かつ情動的な部分も外国語学習の推進力となるのだと、あらためて認識しました。学習の具体的なステップを与えてくれた仏検に感謝しており、今後も上位級目指し、地道に励もうと思います。


 

第17回 日本語表現をフランス語の発想に移しかえる(中級)

                               中央大学教授 小野 潮

語頭のアスタリスク(*)は、その語が誤りを含むことを表します。
 

どのような言語でも、日常的によく用いられ、それを理解することで会話の流れの把握が容易になり、また自分で用いることができれば、発話を滑らかにできる言い回し、しかし、文法学習をしているだけではなかなか身につかず、それ自体を学習しないと覚えられない言い回しが存在します。

実用フランス語技能検定試験(仏検)では、そうした言い回しは5級のレベルから既にテキストには頻繁に用いられていますが、とくに3級、準2級、2級では、日本語の表現に対応させる形で、あるいはフランス語を書き取る形式で、こうした言い回しを問う文章が出題されています。なぜなら、こうした言い回しを、読んで、聞いて理解しインプットした上で、さらに、自分が発話し積極的に書くというアウトプットにも応用できるようになることが、フランス語をなるべく自然に話すためにおおいに役立つものだからです。この問題に出題される言い回しを自分で使えるようになれば、フランス語を話す際の滑らかさが格段に増すはずです。

                

今回は、2013年度春季3級 [1] の問題を検討してみましょう。

それぞれの設問について日本語が与えられ、それに対応するフランス語の表現がその下に記されていますが、その1語が空欄になっており、解答すべき語の冒頭の文字が与えられています。

 (1)  今日は何日ですか。
   Nous ( s       ) le combien, aujourd’hui ?
 (2)  たぶんね。
   Sans ( d       ) .
 (3)  はい、もう二度としません。
   Non, je ne ferais plus ( j       ) ça !
 (4)  まさか!
   Ce n’est pas ( v       ) !

この問題を解くには手がかりが3つあります。

  • 1つ目は、与えられた日本語です。これを読んで、すぐフランス語の表現を思いつけ、それがフランス語で与えられた表現そのものであるならば、既にこの問題は解けているに等しいでしょう。
  • 2つ目は与えられたフランス語表現の(   )を除いた部分です。とくに(   )の前後の表現から、(   )内に入れるべき語の品詞が想定できる場合が多いからです。
  • 3つ目は(   )内に与えられた語の最初の文字です。この最初の文字が現れない解答を思いついても、それは正答にはなりません。改めて、この文字から始まる語を探してください。 


  
        

それでは各設問を検討していきましょう。

 (1)  今日は何日ですか。
   Nous ( s       ) le combien, aujourd’hui ?

(1)で与えられている日本語は「今日は何日ですか」です。このうち「今日は」の部分は aujourd’hui で表わされており、数字を問う「何日」の部分は combien によって表わされています。combien に先立つ定冠詞のleは、日付けを表わす数字の前に現れるものです。この文全体の主語は nous で、これとこれに続く動詞で、日にち、曜日を訊くために用いられる表現を知っているかどうかが問われています。正答は être です。Nous ( sommes ) le combien, aujourd’hui ? となります。もし「今日は何曜日ですか」という問いに変えたいならばNous sommes quel jour, aujourd’hui ? という文が使えます。また主語をそれぞれ on に変えて On est le combien, aujourd’hui ?、On est quel jour, aujourd’hui ? という文も成り立ちます。

この設問に対してなされた誤答で目立ったのは、*somme です。être の活用形であるということまではわかったものの、それを正しく活用できなかったものです。être の活用は基本中の基本です。しっかり覚えましょう。

 (2)  たぶんね。
   Sans ( d       ) .

(2)で与えられている日本語は「たぶんね」です。フランス語で与えられている文の最初の語 sans は前置詞で「~なしに、~せずに」の意味を表わし、これに続くのは動詞、もしくは名詞です。「~なしに」が「たぶんね」という意味を表わすことができるためには「~」の部分に「疑い」あるいは「可能性」などの意味を帯びる語が必要になります。正答は「疑い」の意味を表わす doute です。つまり、Sans ( doute ) . となります。「たぶんね」に相当するフランス語としては Peut-être. もよく使われますが、この設問の、sans で始まり次に d が冒頭にくる語が続くという条件にあてはまりませんから、この問題の答えにはなりません。

この設問に対してなされた誤答で多かったのは d’accord というものでした。d’accord は「了解しました、同意します」の意味を伝える言い回しで、d’accord の d’ は de がエリジヨンした形であり、それ自体が前置詞です。前置詞 sans の後ろに、さらに前置詞の de が続くことはありません。

 (3)  はい、もう二度としません。
   Non, je ne ferais plus ( j       ) ça !

(3)で与えられている日本語は「はい、もう二度としません」です。このうち「はい」の部分は Non で、「もうしません」の箇所は je ne ferais plus ( … ) ça で表わされており、「二度と」を ( j     ) によって表現します。より正確に言えば、この設問で難しいのは ne が ne… plus 「もう~しない」と ne… jamais 「二度と~しない」の二重の役割を果たす形で用いられていることです。正答は jamais です。Non,  je ne ferais plus ( jamais ) ça ! となります。

この設問に対してなされた誤答で多かったのは jusque でした。jusque は前置詞ですが、やはり前置詞である à と連続させ jusqu’à という形で用いられることがもっとも多く、また他の前置詞や、時を示す副詞である alors や maintenant の前で用いられます。

 (4)  まさか!
   Ce n’est pas ( v       ) !

(4)で与えられている日本語は「まさか!」です。この日本語は「まさか、そんなことはありえない」、「まさか、そんなことは本当ではない」といった具合に用いられますから、これを発話する人間が、聞いたことがらについて「信じられない」という感情を示すものです。「ありえない」は、「そんなことは不可能だ」「そんなことは可能ではない」ということで C’est impossible ! や Ce n’est pas possible ! といったフランス語が考えられます。日本語に自由に対応させるだけなら、これらの言い回しでも「まさか!」の意は伝わります。ただし、この設問では(   )内の語の冒頭の文字を v にするという制約がつきますので、これに適合する語を探さなければなりません。 Ce n’est pas possible ! の possible の位置に入る語ですから形容詞を探します。すると vrai という語が適当だと推測できます。正解は Ce n’est pas ( vrai ) ! となります。

この設問に対してなされた誤答で多かったのは *vien というものでした。 *vien という語はフランス語には存在しません。おそらくは bien という語が最初に頭に浮かんだのでしょうが、最初の文字として与えられたのが v だったので苦し紛れに *vien という綴りを記したのだと思われます。しかし、Ce n’est pas bien ! という文では「それは良くない」という意味にしかならず、日本語で与えられている「まさか!」というニュアンスは出ません。

                

この問題で出題されている表現は、いずれも頻繁に用いられるものばかりです。3級から準2級、2級と級が上がるにつれて、日本語とフランス語の発想の違いが問題にされることが多くなり、正解に達することはより難しくなりますが、それでも非常に使い勝手がよい表現が問われていることに変わりはありません。
これらの表現を確実に習得していくことは、自信をもって、かつ滑らかにフランス語を発話するためにおおいに役立つはずです。

仏検活用術 in 群馬

                        佐藤 公彦(外国語会話学校エスパス)

私とAPEFのお付き合いは1993年に遡る。この年の秋、北海道東海大学で開催された学会秋季大会の夜、たまたま学会の幹事を仰せつかっていた私は、偉い先生方に誘われるまま2次会、3次会と流れてススキノのカラオケスナックに辿りついた。そこで偶然隣り合わせたのがAPEFの幹部の方だった。酔った勢いで「群馬の受験者にとっては仏検の受験料よりも東京までの往復交通費の方が高い!」と愚痴ったところ、「それなら群馬に会場を設けましょう。ただし貴方が会場責任者だ!」と返された。お互いに酔っ払っていたせいか話はすぐにまとまったのだが、爾来、私はこの日の口約束を20年近く忠実に守ることになった。

実は、APEFとお付き合いを続けてきたこの20年の間に、私自身には大きな変化があった。2005年に20年間勤めた短大を退職し、2007年には英・仏・西・独・中・韓国語を教える小さな外国語会話学校を開校したのである。このスクールに通うフランス語受講者(以下、会員と呼ぶ)の年齢層は10歳~60歳と幅広い。フランス語圏に赴任する夫に同行する主婦、パリでの修行を夢見るパティシエール、設計事務所で研修する院生、武者修行に旅立つピアニスト、JICAからアフリカに派遣されるOLなど、学習目的も様々で、もちろん習得のスピードにもかなり個人差がある。それでも、一人の例外もなく「やる気」があるのは、教える立場からすればずいぶん贅沢な話だと思っている。そして、そんな彼らのモチベーションをしっかりと支えてくれているのが仏検なのである。

フランス語を学ぶために私のスクールの門を叩く会員の80%は全くの初学者である。その全員にレッスン初日から仏検を紹介し、半年ごとにグレードを上げて受験させている。お断りしておかねばならないが、私自身は資格信奉者ではない。社会に役に立たない学問ほど純粋だという神話を未だに信じている古い人間である。ただ、30年近いフランス語教師経験を通して、仏検が学習者に多大な学習効果を与えていることは否定できない。5級から準2級まですべてストレートで合格した努力家の会員は、私の当初の予想を超えた実力を身につけたし、運良くギリギリの成績で2級に合格した会員は数ヶ月後に取得級に見合う実力になった。仏検には学力診断の他に、飛躍のためのジャンプ台としての効能もあるのである。

この方針のためか、私のスクールは開校してから数年の内に大勢の準2級ホルダーを抱えるようになったのだが、流石に2級はハードルが高く、その手前で足踏みをする者が多い。そのため現在、2級を目指す会員には一緒に過去問研究をする傍ら、時事フランス語の中級読本を使ってシャドーイングや同時通訳をさせて鍛えている。写真は2年前の夏、軽井沢で行ったフランス語合宿の一コマである。1泊2日の週末合宿ではあったが、チェックインからチェックアウトまでフランス語漬けにして計8時間のレッスンを組んだ。ここ数年、会員からはフランス研修旅行実施の希望も出ているのだが、短大教員時代に短期留学を13回企画・引率した当の私にトラウマがあるためか、未だ実現に至っていない。

語学学校を経営する一方で、月・木・金の午前中は県内の国公立大学に出講している。学生たちの所属学部は医学部、理工学部、社会情報学部、文学部、国際コミュニケーション学部とバラバラなので、初講時にはクラスによって内容を変えてフランス語を学習する意味と必要性について話をすることにしている。例えば、将来医師になる学生たちには、フランスの大学や研究所に派遣される可能性やMSF等の活動に絡めて、理工学部や社会情報学部の学生には、就職活動の際、履歴書に「仏検」を記載する意味について触れている。つまり、英検やTOEICの隣に「仏検○○級」と書いてあれば、大学時代第二外国語の単位を取るために悪戦苦闘したであろう人事のオジサマは、君たちに真面目な努力家という評価を下す。その瞬間、君たちはライバルから抜け出るのだと。学部に関係なく全ての学生に伝えているのは次の科白である。「フランス語を第二外国語で1年間勉強しても、10年も経てばフランス語を勉強したという『記憶』しか残らないだろう。でも、仏検を受けて合格すれば『記録』が残る。仏検に合格したその自信が、将来本当にフランス語が必要になった時、君たちを支えるのだ!」

最後に、仏検の発展を願って一つ提案をしたいと思う。受験者を安定的に確保するためには現在のメタボ型受験者構成をピラミッド型に修復しなければならない。そのために5級、4級の受験者確保が必須となる。英検の場合は全国の小・中学生がピラミッドの底辺をしっかりと支えているが、大多数が高等教育機関で学び始めるフランス語の場合は、いきおい大学1年生を取り込んでいかなければならない。ところで、仏検合格をもって単位認定する制度を整えた大学は多いが、はたしてこれまでに何件単位認定の実績があるのだろう。大学のプライドがあるのかもしれないが、単位認定基準が厳し過ぎないだろうか。平均的な学力の大学生が4月からフランス語を始めて11月に3級を取得するのはかなり難しい。学習範囲からしても春に5級、秋に4級を取得するのが妥当である。授業時間や学生の能力といった現状に即して、各大学が単位認定基準を真剣に見直し、学生が積極的に仏検を受けたくなる環境づくりをする必要があるのではないだろうか。

群馬県で2次試験(1級、準1級を除く)を受験できるようになったのは、2010年春のことである。今回は「ススキノの会談」のようなわけにはいかず1年越しのAPEFとの交渉となったが、最終的に「5分間の面接を受けるために往復4時間かかる不合理」を訴えた会員の声をお聞き届けくださったことに深く感謝している。そして、私の役割はこれからも現場の声をAPEFにお届けすることだと再認識している今日このごろである。

フランス語合宿 in 軽井沢 2011年夏

千葉会場復活

                     高橋 信良 (千葉大学 言語教育センター)

千葉会場が復活しました。今年から千葉大学が千葉会場をお引き受けすることになりました。これはもちろん千葉在住の受験生の利便性向上のためですが、そこには千葉大学のフランス語教育に仏検を積極的に取り入れたいという思いがあったことも事実です。なにを今さら、と思われるかもしれませんが、今だからこその理由があります。そこで、千葉大学教養科目としてのフランス語教育について、少しばかり事情を説明したいと思います。

千葉大学では、1994年の教養部廃止に伴い、一般教養の外国語科目を担当する組織として外国語センター(現在の言語教育センター)が設置されました。同センター設置当初、開講されていた言語は英語を除いて14言語ありましたが、現在は7言語(ドイツ語、フランス語、中国語、スペイン語、朝鮮語、ロシア語、イタリア語)に縮小されています。また、旧教養部では、既修外国語(英語)と同じく初修外国語(フランス語など)も必修科目でしたが、1997年、多くの学部で初修外国語の自由選択化、いわゆるゼロオプション化が始まり、今なお選択必修としている学部は9学部中、2学部のみです(医学部と法経学部、最低必修単位数は両学部とも4単位)。

こうした抜本的変更をうけ、初修外国語はコース別履修システムに移行しました。コースはすべてセメスター制で、週1回の2つのコース(「文化コース」「併設コース」)と週2回の「マスターコース」の計3コース。レベルは6段階に分かれます。「文化コース」は各言語の文化紹介と入門レベルの語学力習得をめざす一方、「マスターコース」は最初から実用的な語学力を習得するためのものとなります。そして、「併設コース」は「表現」(会話、作文)と「読解」(ヒヤリング、講読)に細分化され、「マスターコース」を補うかたちで開講されます。レベルに関しては、1〜2を「入門」、3〜4を「基礎」、5〜6を「中級」とみなし、フランス語の科目名を例に挙げれば、フランス語1、2が「文化コース」、フランス語1+2、3+4が「マスターコース」、フランス語3〜6が「併設コース」となります。また、各コースの特徴を生かすために工夫してきたことは、1)シラバスの見直し、2)基準の明確化、3)「文化コース」1の前・後期への二重設定です。1)については、何をどこまで学ぶか、内容と到達目標をより具体的に説明し、特に「マスターコース」は共通シラバスにもとづき、担当者ごとの特徴を説明するように心がけています。2)については、「入門」の修了レベルを統一することで、「文化コース」から「マスターコース」への移行を可能としています。そして3)については、「文化コース」を前・後期に設定することで、後期からの外国語学習を可能とするだけではなく、前期ドイツ語1・後期フランス語1のように、より多くの言語を学ぶ機会を学生に与えようとするものです。

以上のようなコース制へ変更した結果、初修外国語の受講者数は、ここ数年、増加傾向を示しています。レベル1と1+2を例に挙げると、7言語全体で、2006年に2354人だった履修者数は、2011年には4087人に増えています。しかし、喜んでばかりはいられません。その内訳をみると、レベル1が1111人から2501人に増えているのに対し、レベル1+2では1243人から1586人とほぼ横ばいなのです(フランス語もまったく同じ傾向で、1が150人から327人、1+2が277人から277人です)。つまり、最初から学習意欲の高い学生(週2回の「マスターコース」履修者)が毎年一定数いる一方、多くの学生は未知の言語に関心があっても、まずは様子をみてみたいのです。そういった学生は履修言語が少しでも難しいと感じると、直ちに別の言語に鞍替えします。そして最近、「入門」レベルで複数言語を履修するものの、「基礎」レベルは履修しないまま卒業してしまう学生が多くみられるようになってきました。つまり、多くの言語を学ぶ機会は学生に与えられましたが、一つの言語を「中級」レベルまで学習する動機づけは与えられてはいないのです。

初修外国語の自由選択化が始まったのと同じころ、一般教養のフランス語では仏検の単位認定(過去2年以内に修得した検定資格が対象)を開始しました。その内訳は、4級を2単位、3級を4単位、2級以上を6単位とするもので、現在準2級は3級と同じく4単位認定となっています。最初から高い学習意欲のある学生にとっては、この単位認定制度は励みとなり、今まで一定の効果を上げてきましたが、選択必修ゆえに単位を取らざるをえない学生にとっては授業を履修しないで単位を取る一手段でしかなくなっています。また、マスターコース(1+2)修了者は力試しとして4級から受験しますし、そもそも5級が単位認定の対象外ですから、千葉大学では5級の受験者は4級よりもかなり少ないのが現状です。現在、文化コースで様子をみるだけの学生の学習意欲を高めるきっかけとして、この5級を受験させるシステムが構築できないかと考えているところです。

初修外国語の自由選択化がここまで進んだ現在、検定資格に単位を認定することの是非については改めて検討する必要があるでしょう。しかし、単位云々以前に、仏検はフランス語学習の明確な動機づけとなり、到達目標を具体的に設定してくれます。そこで、検定日を学期末に変更できないか、到達度試験としての仏検の再利用(TOEIC-IP的な団体特別受験制度)は可能か、といった疑問が思い浮かびますが、まずは千葉会場をきちんと運営し、千葉のフランス語教育と仏検のあり方を模索していきたいと思います。 

ずっと友達とおしゃべりをしていたいから

2012年秋季準1級合格
杉本 花野
カフェ勤務・静岡県

わたしは、2000年に1年間パリで、2004年から11年までの7年間を南仏のマルセイユで過ごしました。元々日本でパティシエとして働いていたこともあり、一度本場の生活が見てみたいと思ったのが最初の渡仏で、その時に語学学校に通ったり、製菓のスタージュを経験したりして、「フランスできちんと仕事をして生活してみたい」と思うようになりました。

2004年に再びフランスに渡ってから、語学学校に行く傍ら、アルバイトをしていましたが、その時に「フランスできちんと働くためには資格を取った方がいい」と当時のパトロンから進言され、CAPという職業能力試験を受けることにしました。

通常は職業訓練校のような所に通っているフランス人の若者が受けるテストなのですが、わたしは自由参加枠に願書を出しました。科目は、衛生や労働法、実技といったものがメインですが、初めての受験ということで、国語(フランス語)、算数、歴史などの一般教養もありました。

まだ当時はフランス語もそれほど上達していなかったのですが、たまたま通っていた語学学校が、私立の普通の学校と提携をしていたことから、フランス人の中学校3年生のクラスを聴講させてもらえることになりました。30歳を過ぎてから、15歳くらいの生徒に混じって勉強をした体験は、大変でしたが楽しくもありました。フランス語も、外国人が語学学校で習うものとはやはり違って、いろんな文学の抜粋を読んだり、自分で文章を考えたりというものが多く、とても勉強になりました。周りの生徒達や先生方も応援をしてくれて、無事試験に合格、翌年にはパンのCAPも取得しました。

その後、2011年に結婚を機に帰国するまでの間に、現地でも多くの人と知り合い、親友と呼べる友達も出来ました。

日本に戻ってから、一番心配だったのが、また友達と会った時に普通におしゃべりが出来ないくらいフランス語を忘れてしまったらどうしよう…ということでした。実際、1ヶ月話さないだけでも、言葉に詰まったりすることもあったので、帰ってきてからどうやったら忘れずにいられるのか、と考えた時に、仏検の受験を思いつきました。

最初は2級を受けたのですが、それまでもう何年も読み書きの練習や文法から遠ざかっていたので、問題集を解きながら、いかに自分が忘れていたかを思い知りました。それでも2級の際に表彰をして頂いて、準1級の問題集を送って頂いたので、これは続けなくてはと思い、また準1級の勉強をしました。

前述したように、わたしのフランス語は、基本的には中学校3年生程度かそれ以下、日常会話程度というレベルなので、準1級に出てくる単語も、普段使っていなくて知らないものもあり、苦戦しました。

この度、また準1級で表彰をして頂いたことで、また次の1級に向けて頑張らなくてはと思っています。今度友達に会った時には、「日本に帰ってからさらにフランス語が上手になってる!」って思ってもらえるくらいになれたらいいなと思います。

 






 

2024年度秋季 受験要項・願書PDF版について

2024年度秋季試験 受験要項・願書PDF版は8月下旬にアップいたします。
公開までもうしばらくお待ちください。

印刷版の発送(無料)をご希望の方は
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全国の取扱書店・生協での仏検要項・願書のお取り扱いは3月下旬を予定しています。
書店・取扱店リスト

<参考:アーカイブ>
2019年度春季 受験要項
2019年度秋季 受験要項
2020年度秋季 受験要項
2021年度春季 受験要項
2021年度秋季 受験要項
2022年度春季 受験要項
2022年度秋季 受験要項
2023年度春季 受験要項
2023年度秋季 受験要項
2024年度春季 受験要項

語学はスポーツだ!

2012年春季準2級合格
沼澤 絵璃香
大学生・宮城県
 

私は現在大学4年生です。大学では主にフランス語を学んでいます。小学生だった頃、パティシエに憧れてフランスに興味を持ったと同時に、偶然にも同じクラスにフランス人の女の子が転校してきてその子と友達になり、簡単なフランス語を教えてもらい、それがきっかけでフランス語を勉強したいと思うようになりました。

私が半分本格的にフランス語を学び始めたのは高校2年生の夏です。私が在学していた高校は、普通科と宮城県内では珍しい英語科の二つの科から構成されています。英語科に進むと2年次に選択でフランス語を勉強することができます。私は少しでも早くフランス語を学びたかったのでその高校の英語科に進学したかったのですが、父の仕事の都合のために転入試験という形でその高校を受験したので、英語科に進むことができませんでした。
 

高校2年生の夏、学校の廊下でフランス語検定のポスターを見てこの検定を知り、英語科でフランス語を勉強していたら挑戦できたのにと思った時、問題集を使って独学して挑戦してみれば良いのではないかという考えが頭に浮かびました。
そこで、大学進学までに3級まで取得することを目標に勉強を開始しました。大学受験勉強開始時期と重なったり、高校の授業や部活もあって、あまり時間が無かったのですが、それらを両立させながらこの検定に関わる様々な問題集を使って独学を始めました。

フランス語は動詞の活用が複雑だったり、形容詞も置く場所が語によって違ったり、修飾する語と性・数一致させなければならなかったりと、文法が英語よりも複雑で覚えるのが大変そうでしたが、練習問題が豊富な様々な問題集を繰り返し解いて、動詞の活用や形容詞の性・数一致などの練習をし、習得することができました。

学校で授業を聞き教科書に載っている少量の練習問題を解いて頭で理解するよりも、様々な問題集を使って繰り返し練習してスポーツのように体で覚えたほうがより文法を習得しやすいと思いました。高校2年生の秋に5級を、3年生の春に4級と3級を併願で受験し、目標を達成することができました。このステップのおかげで大学進学後、第2外国語としてフランス語を選択し、スムーズに学習することができました。

大学2年生の夏、幼いころから夢だったフランス留学を実現し生きたフランス語に触れ、帰国後は力試しで準2級を受験し、合格。そして成績優秀者として表彰いただいて、嬉しい限りです。今後もさらに上の級の取得、語学力向上を目指してフランス語に磨きをかけたいと思っています。

”Le français m’ouvre le monde ~フランス語は私に世界を開いてくれる~”。まさしくフランス語は私に世界を開いてくれました。


 

必要なのは 原動力

2012年秋季準1級合格
関根 淑子
東京都

2010年に定年退職後、これからは趣味のテニス三昧と思っていましたが、日本の高齢化社会についての情報を見るにつけ、体だけ丈夫なおばあちゃんじゃまずい!何か脳を刺激することをやらなくては!と思うようになりました。一生楽しく続けられて、脳全体を活性化するもの、そして新しい人生の小窓を開けてくれるもの、色々探してその条件にぴったりなフランス語の勉強を再開することにしました。

再開といっても学んだのは35年前、留学する夫についてパリに行き、生活するのに必要なこともあり、アリアンス・フランセーズで2年半ほどの勉強でした。帰国後は全くフランス語を話すチャンスはなく、時々NHKラジオ講座のテキストを買っても2ヶ月と続きませんでした。

今回私のモチベーションを大きくしてくれたのは、勉強再開時に自分のniveauを知るために受験した仏検2級へのチャレンジでした。

1次試験にギリギリ合格し、2次試験前に2時間フランス語会話のプライベートレッスンを受けましたが完全に準備不足。その上当日は緊張しすぎ、試験官の先生に「昨日の夕飯に何を食べましたか?」と聞かれ、フランス語はおろか何を食べたかさえ思い出せない始末。先生に「取り調べじゃないのだから…」と言われ笑った瞬間TVを見ながら家族で焼肉を食べたことを思い出しました。その時en regardant la téléと言えたので頭が回転し始め、「何のTV?」という質問でエンジンがかかりました。見ていたのは全豪オープンテニスで、1次試験に合格するとは思わず計画していたメルボルン観戦旅行から2次試験の前々日に帰国したばかりでした。旅行の話や大好きなAmélie Mauresmoの話題で、テニス好きらしいフランス人試験官の先生と会話が成立し、何とか2級に合格できました。

この受験で一番感じたのは、フランス語で誰かに言いたいことを伝えられる楽しさでした。この楽しさこそが、私をフランス語の勉強にかき立て、今回準1級に合格できた原動力です。そして、去年見た映画『最強の二人』、去年買ったZazのCD…私の新しい人生の小窓も開かれつつあります。

今回の表彰式で出会った1級合格者の方々のフランス語学習歴と1級の問題の難しさに圧倒されたので、1級へのチャレンジは来年です。今年はフランス語通訳案内士試験を受験しようと思っています。2020年東京オリンピックが開催されるなら、何かの形で参加したい!その準備です。

それに加え、私の準1級合格を知ったテニス仲間との2014フレンチオープン観戦旅行計画が進行中です。旅行に必要なフランス語の上達が私に課せられています。そうは言っても、3月は完全オフ状態でした。4月にもう一度気合いを入れ直して、勉強再開します!

フランス、努力、そして楽しみ

2012年春季1級合格
杉浦 恵里
大学生(東京大学)・東京都

私が初めてフランス語に触れたのは、中学三年生の頃でした。父の赴任でパリの現地校に通う事になったものの、当初はフランス語は全く話せませんでした。授業についていけず友人もできなかったため、劣等感を抱いていた私は「早く日本に帰りたい」と強く願っていました。

しかしある日、授業で日本の生活文化について説明を求められたことがありました。その時、「私だからこそできることもある。現状から逃げるのではなく、できることから始めてみよう!」と心に決め、それ以降は毎晩辞書を片手に深夜まで授業の復習をしました。徐々にフランス語力も向上し授業にも参加できる様になると、周囲との意思疎通もできる様になり、友人と共に溌剌とした毎日を過ごす中で劣等感も解消していきました。高校卒業までパリに滞在しましたが、この四年間を明るく前向きな気持ちで過ごせたのも日々の努力の積み重ねのおかげだと思います。

帰国してからはフランス語により一層接していたいと思い、仏検に挑戦しました。この時も、コツコツした地道な努力を惜しみませんでした。1級の対策をしようと問題集を開いた当初は分からない単語ばかりで不安でしたが、小さなノートに片っ端から単語・意味・例文を書き込み、頻繁に読み返すよう心掛けました。また時事用語の対策として、フランス語の新鮮なニュースに触れようとインターネットラジオを聞いたり、フランスの新聞社のスマートフォン用のアプリをダウンロードして毎朝の通学電車で記事を読んだりしました。

こうした取り組みも、一つひとつを「楽しい!」と思う気持ちがあったから続けられたのだと思います。語彙を覚える事で仏検にも役立ちましたし、自分の研究(フランス地域研究)で読む学術論文の理解も深まりました。またフランスのニュースを通して現地でのホットな話題を知れたのは非常に興味深く、気付いたら降車駅を通り過ぎていた事もありました。

1級取得は、私にフランス語の更なる学習意欲を与えてくれました。これからもフランス語、そしてフランスとの関わりをもっと深くしていきたいと思っています。




 

60代は学習適齢期

2012年度春季5級合格
石原三枝子
無職・京都府 

もう、30年以上も前から、姉は教育テレビのフランス語講座をよく見ていました。一緒に暮らす私も時々横から覗いていましたが、なにしろ基本を全く知らないので、「今日のスキットは面白かった」って言っても、ただそれだけです。そんな形のフランス語との付き合いが長く続いていたのですが、ついに決断したのです。心を入れ替えて本気で勉強しよう!!と。

2011年の春、ふと、目にとまった「京都外国語大学・生涯学習講座」のパンフレットにフランス語クラスがあり、アルファベの読み方から始まる入門クラスから受講しました。62歳にして初めてフランス語を一から順序立てて習うことになったのです。

年齢を重ねる間に身についた雑学が、授業で得た知識と結びついて、それらが体系化され理解が深まるのを実感できました。私の雑学フランス篇の始まりは、私が中学生の頃、大学生の従姉が「フランス語で『彼女』のこと『エル』って言うのえー」と教えてくれた事、そして高校生の時、フランス語で「どういたしまして」は「ドッヒャーン」だと誰かが言って、その音の印象が「言葉」とは思えなかった事(それが“De rien”だと気づいたのは最近です)など、他愛ないものでした。あれからン十年、書物や映画、それに何でもない日常生活からも、教わることが、たくさんあります。

受講して初めての冬休みに、問題集を探しに行った書店で手にしたのが仏検5級の問題集で、「仏検」の存在を認識した最初でもあります。はじめは、受験は念頭になかったのですが、問題を解くのが面白く、じゃあ試験も受けてみようと一念発起し、1冊の問題集を何度も繰り返して、確信をもって解答を導き出せるようにしました。その時、受験勉強という学習法が、自己の弱点を容易に気づかせてくれるものだと知りました。何を解決すれば前に進めるかが見えてくるのです。そうすることで試験のためだけではなく実力アップにも役立ちました。

私のフランス語学習まだ、スタート地点に立ったばかりです。この先、山あり谷ありの険しい道が待っていることでしょう。でも、60代は学習適齢期だと思っています。自分の時間がたっぷり持てるし、それに、気力、知力ともに充実して、やる気満々ですから。巷には、勉強大好きな60代が溢れています。私もこの貴重な時期に、様々な知識を吸収し、学び続けることが、先々の習慣になるようにと願っています。 
 

 

「グローバル時代」にフランス語を学ぶとは…

                      鈴木 正道(法政大学 国際文化学部教授)

 フランス語学習者が減っている。最近様々な機会で聞く言葉である。実際フランス語検定試験の受験生も減っている。私の勤める法政大学でもフランス語履修者はじりじりと減っている。実は大規模校でありながらフランス語を専攻とする学科はない。多くの学部では選択必修として一年次と二年次で諸語(本学では英語以外の言語をいかにもその他もろもろと言ったふうにこう呼ぶ)を学ぶことになっている。学部によっては一年次のみの履修となっている。国際文化学部ではSA(Study Abroad)と称して二年生の秋学期に外国の協定大学に留学することが卒業要件になっているが、三年次以降、SA言語を軸にした履修上の縛りはない。

 アンケートや雑談を通して気づいたことがある。英語以外に外国語をやりたいと思っている学生はかなり多いということ。フランス語履修者の学生の中には、負担感を抱く者がいること。特に動詞の活用や文法の複雑さ、発音の難しさを訴える学生が目立つ。他方フランス語の勉強を課さないフランス文化に関する授業は人気を保っている。もっとも単位が取りやすいからという理由もあろうが…また三年生以上を対象とした派遣留学制度(出願資格として仏検、DELF/DALF、TCFの成績を設けている)に関してはフランスの大学志望者の数は安定している。さらに国際文化学部のSAの行き先別特別入試では、フランス志望の応募者が他の諸語に比べて毎年多い。どうやらフランス 語の学習は、一部の思い入れの強い学生が熱心にやる反面、外国語の学習に特に興味のない学生にとっては大きな負担になっているようである。

 ここでフランス語の学習者が減ってきた理由について考えてみたい。まずは大学のカリキュラムで第二外国語の位置づけが低くなったこと。フランス語そのものが科目として廃止された大学もあると聞いた。これはいわゆるキャリア教育重視と関連している。何か開講科目を増やせば何かを減らさなくてはならない。減らさなくても関心が集まらなければ登録学生も減る。就職支援関連の科目が重視されれば就職に直接かかわらないとされる科目は脇へやられる。とりわけ重視されるのが「日本語力」である。いかに「社会人」、「ビジネスパーソン」としてきちんとした日本語で話し、書くかを学ぶ必要があるという。

 第二には英語重視(偏重?)。日本語は必須だが今の「グローバル」な時代では英語も大事ということになる。英語だけでも身につかないのになぜもう一つ、とは昔から言われてきたが、今はそれが実際のカリキュラム編成や学生の動向に表れてきている。巷でも英語は強迫観念の様相を見せている。電車の中でTOEFLや TOEICの対策本、ビジネス英会話の参考書などを読んでいる人が多い。 

 第三に、英語以外の外国語として中国語などが人気を伸ばしていること。電車の中で人が読んでいるのも学校の教科書、旅行会話から労務法規の中国語まで、趣味から仕事の必要まであらゆるレヴェルだ。また朝鮮語(法政大学や東京外国語大学などではこのように呼んでいる)やスペイン語、イタリア語などもかつてに比べて相対的に学習者が増えている。 

 四つ目として、上でも触れたがフランス語は動詞の活用や発音が難しいというイメージがあること。もちろん、このことに対してフランス語の教員はいろいろ工夫を凝らしている。動詞の活用を六つの人称すべてについて一度におぼえさせるようなことはしない。細かい規則にはこだわらず、まず何か言ってみるよう促す。そのために「大人でも遊べるゲーム」を考えるなど。 

 その上でやはり、フランス語が相対的に学習者を減らすのも当然かなとも思ってしまう。中国語学習者が増えている、それも当然でしょ。何しろ十億を超える人口、急激な成長、なんといっても日本のすぐお隣の国で、ここ出身の人が身の回りに大勢いる…韓国ドラマは大人気、それにやはりすぐお隣。むしろ今まで学習者が少なすぎたのだ…西洋語として英語をやったのだからもう一つは東洋語を。英語と張り合ってみても仕方がない?学生の中にはともかくフランス語に夢中と言う人もいるがやはり少数。フランス語を熱心にやってきたが英語抜きでは不安という学生も多そうだ。理科系の学生にとって英語は共通言語として極めて重要になっている。以前は数ヶ国語が様々な分野で世界の共通語として使われていたが、今は英語に収斂しつつある。でもこれはある意味では当然だろう。特に自然科学など対象の普遍認識を追究する分野で媒介言語がいくつもあったのでは不便なのだ。

 簿記、行政書士、会計士、司法試験など日本語を媒介とした資格をとろうとしている学生にとって外国語の履修はそもそも大きな負担になっている。どう結果が出るかわからない(はずの)実験などに没頭している学生はとにかく時間がない。英語だけで精一杯。となると、フランス語がその本領を発揮できるのは、広い意味での「文化」ということになろうか。上述の法政大学の派遣留学制度において、フランスへの希望者の多くはブランドなどのマーケティング、政治や歴史などに関心を持っている。もちろん自然科学などの領域でもフランスが大きな成果を上げていることはよく知られているし、昨今はフランスでも自然科学の授業を英語で行なう大学が増えている。留学するにはフランス語を生活言語として学んで行く必要がある。しかしそれだからこそ敬遠される傾向があるのも事実だ。フランスで学ぶ、ヨーロッパやアフリカ出身の理系学生は多い。日本でもこうした学生が増えるような日仏双方の努力が必要だとも思う。

 法政大学では日本学術振興会の提供するグローバル人材育成推進事業が採択された。国際文化学部では「諸語」に関して高度で専門的な技能を身に付けさせる授業を開講し、国際インターンシップも実施する予定である。フランス語でも仏検やDELF、TCF、TEFの目標値を定めている。これはいわゆる「エリート」養成のための講座である。それと同時に「一般の」学生、さらには学外の一般の人や中学生、高校生に向けた戦略を模索しつつある。e-learningの導入、英語と並行して効率よく学べる方法の開発、「キャリア」に有利になるレヴェルの達成など…

仏検をもっと魅力的に!

                      中村 典子(甲南大学 国際言語文化センター教授)

 
表題からすると、筆者が仏検に魅力を感じていない、と誤解されるかもしれないが、決してそうではない。実は、筆者は、仏検創設以来、ずっと仏検のことを気にしている。それを証明するために、まず、仏検と筆者の係わりについて、次に、仏検の魅力について語り、最後に、仏検で改善を希望する事項を記したい。


 【1】仏検の創設が1981年であったことを筆者はよく覚えている。なぜなら、1980年(サルトルが死去し、アルチュセールの事件が起こった年だ)に大学を休学してパリに留学した筆者が、1981年秋に帰国して卒論に追われていた頃、1年先に大学を卒業し、大学院に進学したり、フランス系の企業に勤めていた友人たちが、創設された「仏検1級」に合格したと知らされたからである。日本にいた友人たちが受かったのに、パリに1年留学していた筆者が落ちると、「留学=遊学」だったとばれてしまいそうで、その後、怖くて仏検を受ける気にはならなかった。そう、筆者は落ちるのが怖くて、一度も仏検を受けたことがないのだ(スミマセン)。 

 しかし、数年後、非常勤講師としてフランス語を教える立場になると、学生たちから「先生は仏検1級を持っていますか?」としばしば聞かれた。焦った筆者は「えーっと、フランス語を教える立場になると、仏検のお手伝いをすることがあり、残念ながら、仏検受験はできないのです」と答えていた・・・(苦笑)。実際、APEFが欧明社の2階にあった頃、フランス語の法定翻訳兼タイプ打ち(コンピューターがなかった1990年以前)、八王子のフランス語合宿の助手、また、仏検の採点にも従事させていただいた。それ故、仏検を何らかの理由で批判することがあるとすれば、それは、仏検をもっとプロモート(promouvoir)したいという思いからだ。 
 
 1997年に神戸の甲南大学に赴任し、友人の勧めもあって準会場を運営するようになった。そこで、運営責任者の立場から、仏検事務局に次のようなお願いや要望をお伝えしてきた。①2級以上の2次試験の採点を、英検のように「別立て」とし、1次試験免除制度を取り入れてほしい。②試験終了後、問題用紙を回収するように仏検事務局から指示された時、受験生のためにならないと反対した。③4級の聞き取り試験のネイティブの発音にかなりの訛りがあったので、口頭および文書で仏検に抗議した。④2003年頃、台風のために試験が実施できない可能性が生じたことがあった。結果的には実施できたが、その後、万が一に備えて予備問題を作ることを提案した・・・という具合に、いろいろと勝手なことをお願いしたが、④以外はすべて実現あるいは改善された。(Merci infiniment !) 仏検関係者の方々が非常に柔軟な考え方を持っておられることを、ここで強調しておきたい。ご退職なさったが、長年APEFの中心的存在でいらした金沢(安川)千鶴子さんには、アルバイト時代も含めて大変お世話になり、心から感謝している。

【2】仏検の魅力について、筆者は、シラバス等で次のように説明している。 
① 一旦資格を取得すると、一生有効である。
② 3級や4級の合格も、履歴書やエントリー・シートの資格欄に記載できるので、就職活動でプラスとなる。
③ 解答形式が多肢選択式のみのTOEIC・TCF・TEF(便宜上、3Tと呼ぶ)とは異なり、仏検では3級以上に記述式解答部分があるため、実力がないと合格できない仕組みである。また、試験終了後、解答例がもらえるので、すぐに自己採点・反省ができる。

 さて、①は非常に大事だ。英検もそうだが、一旦取得したら「生涯有効」であることが学習者に安堵感を与え、上の級に挑戦する気持ちを育む(因みに、筆者は、十数年前に英検準1級を取得したので、その後、3回1級に挑戦した。今後も挑戦を続けていきたいと考えている)。 

 多肢選択式(=クイズ形式)の3Tは、基本的に人をランク付けするための試験であり、レベル別の問題でもなければ、合格・不合格もなく、有効期間は2年間とされている。就職活動や会社等で求められなければ、また、移民申請に必要でなければ、誰が2年に一度試験を受けるだろうか? お金と時間の無駄である。因みに、中国語検定は2005年から急に有効期間を設けたことで、過去に合格した人たちから猛烈な批判を受けたらしい。②について、ちょっと面白い例を挙げよう。筆者の所属する国際言語文化センターでは、学生に複数の言語の修得を奨励しているため、専任教員も、複数の言語の運用能力があることが望ましい。これまでに何回か専任教員の公募があったが、参考事項として、専門の言語や英語以外に、どんな外国語がどの程度できるのか、証明してもらっている。「仏検4級」「ハングル能力検定4級」と記載し、合格証書のコピーを提出した人もいた。高いレベルではなくとも、一定のレベルに達している、という証明は意外と役に立つのである。③も重要で、自分で答を書く部分があることで、学生は真摯に学習に取り組む。検定試験は通過点にすぎないが、仏検受験をきっかけに、フランス語の文章を読み、フランス語を聞き取ろうとする「主体的な学習」の機会が増えることは間違いないだろう。

 【3】仏検をプロモートしている教員の立場からは、次のような改善を検討していただきたい。
 希望1 :「インターネット申込」が可能となったことは喜ばしい。次に、1次試験に合格した準2級以上の受験者に「1年間の1次試験免除」を適用してほしい。英検では、2013年6月の1次試験に合格すれば、2次試験については、2014年6月まで計4回の受験が可能である。
 希望2 :過去1年間の問題をWEB上で公開してほしい。久しぶりに英検のサイトをチェックしたが、問題冊子・リスニング原稿・リスニング音源・解答を過去1年間3回分、すべて公開するだけでなく、無料・隔週更新の級別・英検対策講座も提供している。飛躍的に受験者数を伸ばしているTOEICに対抗するため、英検も随分と変わった。仏検にとって、過去問題や音源を公開することは、学生数が減少するなか、社会人の受験者を増やすことに繋がると思う。サンプル問題さえWEB上にない現在の状況では、社会人の方へのアピール度が低いのは否めない。筆者は、ある文化センターでフランス語の講座を担当しているが、WEB上で過去問題と音源を公開すれば、公式問題集を購入し、受験を前向きに考える社会人の方は少なくないと思う。
 希望3 :3年次・4年次の学生は、仏検よりTOEICを優先するので、TOEICと試験日が重ならないようにしてほしい。TOEICは年に10回もあるので、学生が早目に計画を立てればよいのだが、そうも言ってられない。そこで、今年から「各言語の検定試験+TOEIC」のカレンダーを作成し、本センターのポータルサイトに置く計画を立てている。

 *よろしければ、4月以降、次のサイトをご参照ください。〈http://www.kilc.konan-u.ac.jp/modules/top/〉 「甲南+言語」の検索で出ます。

 数年後、仏検がさらに魅力的になっていることをお祈りしている。 

変わらぬ想い

2012年秋季準1級合格
橋本 佳奈
学生・東京都

準1級への挑戦は私にとって3度目で、まさに「3度目の正直」でした。合格できたことだけでもすごく嬉しいのですが、さらに成績優秀者として表彰して頂き、大変光栄に思っております。 

私は小さな頃から、何歳のときからかは覚えていませんが、気づいた時には「フランス語を勉強したい!」と思っていました。確かなことは15歳のときに初めて訪れた国際空港でエールフランスのカウンターを見つけ、乗りもしないのにそこで記念撮影をしたこと。あの時にはすでにフランスに対して漠然とした憧れを抱いており「いつかこの飛行機に乗って、フランスに行くんだ!」と強く思ったことをはっきりと覚えています。 

その想いは一度も変わることがなく、夢への第一歩として、大学の仏文科(学習院大学文学部フランス語圏文化学科)に入学しました。初めて受験した仏検は、大学1年次の秋季試験の4級。今回の準1級の合格も本当に嬉しいものですが、あの初めて合格証書を手にした時の喜びは忘れられません。 

その後、2年次の秋季に2級を取得できたことが私の背中を押してくれ、交換留学生として1年間、リヨン第2大学に留学することを決断しました。旅行でフランスへ行くことと実際にそこで生活することとの間には大きな差があり、渡航当初は戸惑うことも多々ありました。しかし、段々とフランス人の友達の助けがなくても自分のフランス語だけで出来ることが増えていき、そういう小さな成功の積み重ね、それは「ひとりで銀行に行って口座に関する問題が解決できた」や「スムーズにレストランの予約が取れた」など本当に些細なものでしたが、全てが自信につながり、留学生活が楽しめるようになっていきました。 

在学中から、将来はフランス語を使った仕事をして活躍したいと思っていましたが、自分の語学力がまだまだ足りないと感じ、昨年卒業後から今までの約1年間、語学学校(アテネフランセ)で徹底的に勉強しました。準1級に合格するためには文法・読解など全ての要素を全体的に底上げしなければならないと思い、基礎からやり直しました。

大学院などに所属しているわけではないので、自分の不安定な立場に心折れそうになったこともありましたが、合格するくらいの力がつけば、必ず道は拓けると信じていました。そして今、目標を達成したことにより、フランスの大学院への進学挑戦などを含めた、また次の目標を設定することが出来そうです。今後もさらなる高みを目指し、努力し続けたいと思います。




 

Le français pour tous (皆にフランス語を)

 2012年春季1級合格・エールフランス特別賞受賞*
嶋崎 裕子
Yuko SHIMAZAKI
主婦・埼玉県 

Des jeunes salariés ou des retraités? Des Tokyoites ou des provinciaux?
La disparité des occasions d’enseignement demeure au Japan. Certains trouvent sans difficulté les moyens d’étudier le français, d’autres n’arrivent pas à dénicher une telle opportunité. Dans les grandes villes, l’Institut franco-japonais nous fournit des programmes éducatifs de premier plan. Même hors des grandes villes, si on fait appel à Internet, il n’est pas difficile de se mettre au courant du français vivant. Par contre, quelle est la situation pour ceux qui ne peuvent pas profiter de tels moyens?

Je m’appelle Yuko Shimazaki. C’est l’archétype de la femme japonaise qui s’est dévouée aux tâches ménagères. J’ai filé une dizaine d’années heureuses auprès de mes enfants.

Il y a 5 ans, ma vie a connu un tournant. Une amie est morte d’un cancer de la poitrine. Soudainement. Sa mort précoce m’a fait réfléchir sur le vrai sens de vie.
« Qu’est-ce que je ferais, si je devais mourir demain? »
« Qu’est-ce que je ferais, si je devais mourir demain? »
J’ai répété la même question dans la tête. Il n’y a eu qu’une seule réponse.
« J’ai envie de recommencer les études du français! »
Jusqu’alors, j’avais interrompu tout ce qui me libère et m’épanouit. La langue française, entre autres, était délaissée au fond de ma mémoire.

D’abord, j’ai commencé à écouter les émissions éducatives du français de la NHK. Ces programmes n’étaient pas inutiles, mais loin d’être satisfaisants. Du fait que les enseignants et les méthodes changeaient tous les trimestres. Cela me semblait manquer de cohérence et d’uniformité.

Ensuite, j’ai suivi les cours de l’Institut franco-japonais de Tokyo. Les professeurs de haute volée et les cours variés m’ont fascinée. Pourtant, j’habitais loin de l’Institut. Et les frais scolaires n’étaient pas négligeables. Le temps et le coût requis m’ont écartée de cet établissement.

Et puis, j’ai cherché un club d’études du français près de chez moi. Il y en avait deux, mais là, le français n’était considéré que comme un passe-temps.

Finalement, je me suis décidée à étudier toute seule. J’ai acheté régulièrement des journaux et des revues en français. En plus, Internet m’a offert des occasions d’écouter le français vivant et de connaître l’actualité de la société française.

4 ans se sont écoulés. Je me suis lassée d’étudier toute seule. J’ai passé un examen de DAPF dans le but de me lier avec la communauté des francophiles. Mon succès à l’examen du « 1 kyu (NIVEAU 1) » m’a étonnée et encouragée à continuer mon chemin.

Une autre surprise a suivi. Les membres du club que j’avais renoncé à fréquenter m’ont demandé d’enseigner le français, dès qu’elles ont connu mon acquisition du diplôme « 1 kyu (NIVEAU 1) ». Ellles voulaient organiser un autre club pour satisfaire leur appétit de savoir intarissable. Elles étaient dans la soixantaine. Elles ne pouvaient plus aller à l’Institut franco-japonais ni mettre en valeur des sites Internet pour raison d’âge et de santé. Elles vivaient humblement dans la communauté locale.

Je me suis demandé : « Le français, est-ce que c’est la langue exclusivement pour les jeunes salariés intellectuels? Pour ceux qui habitent dans les grandes villes et qui ont accès aux occasions d’études? »« Non! »
J’ai créé un nouveau club du français. Je travaille pour « le français pour tous ». Je suis honorée de contribuer à la promotion de cette langue dans ma petite ville.

* 2012年度成績優秀者表彰式当日に実施されたエールフランス特別賞選考会のために提出されたエッセイを、ご本人の許可を得て転載させていただきました。

フランス語を通して出会った価値観

2011年春季2級合格 
井田 明日香(会社員・東京都)

学生時代に交換留学を通して、フランスの高等教育機関に留学する機会を得ました。

元々、語学に関心を持ちフランス語を学習していたのですが、留学先ではフランス語を通して政治・社会問題について議論する多くの機会を得ました。中でも、女性の社会進出、家事、労働時間等の話が多く議題に上がり、一人の人間として仕事を充実させ、且つ女性として幸せな人生を送ることが可能であるということを教えられました。

また、自分がどうしたいか、どう考えるか、何を発したいかが大事で、周りがどう考えるかは二の次。「空気を読む」という言葉が全く相応しくない空間で、全く異なる価値観の人とぶつかり、主張し合い仲良くなるという不思議な瞬間を体験しました。

個人の権利が尊重されるフランスの価値観は、時に集団を尊重しなければいけない日本の価値観と相反するところがありますが、行き詰った時に自分を強く支えてくれる重要な価値観となりました。フランス語を学習しなければ、決して出会うことのできなかった価値観だと思います。

これからも、フランス語は私の中に生き続け、私を前に進ませてくれるかけがえのない言語となっていくことと思います。














 

ミュージカルでフランス語!

2011年秋季4級合格
北郷 礼奈
中学生/白百合学園中学高等学校・東京都



私はフランスは勿論海外渡航全くの未経験者です。小学校からフランス系カトリック校に通っており、そこでフランス語やフランスの文化に触れる機会があり、フランスは私にとってまだ見ぬ憧れの国となりました。中学ではフランス語と英語のどちらかを選択するシステムの為、私はフランス語を選択し、中学からようやく本格的な勉強が始まりました。

中学入学時には迷わずC.C.F(Club de Culture Françaiseの略)というフランス語ミュージカル部に入部し、二年間で「アイーダ」「グリース」「マルグリット」「ガイズアンドドールズ」を上演してきました。

C.C.Fのミュージカルはまさに女子校の宝塚という感じです。歌・セリフ全てフランス語の為、英語や日本語とはひと味違うフランス語独特の抑揚や発音が、より大人っぽいムードを醸し出します。 

しかし、フランス語の「溶ける」ような発音が発声に厄介さをもたらします。溶ける発音になって大きな声が出しにくいのは主に、[j][s][r]の発音で終わるものです。空気が抜けやすいのです。よく台詞で使われるものでは「changer」「chance」「chéri」などです。

また発音しにくいのは「on」「en」など鼻にかかるものです。「garçon」は発音しにくいです。このような音を発音すると、通常の8割程度の声量になる為、腹筋と発声練習がより重要になってきます。しかし「belle」など「ウ」の段で終わるものは比較的歌いやすいです。私も高校生の先輩方の圧倒される歌声を目標に日々頑張っています。 

どの作品も大切な思い出ですが、印象に残っているのは「アイーダ」と「グリース」です。「アイーダ」は一年生で初出演、無我夢中で「Aimer」「Duel」「Vérone」(仏版ロミオとジュリエットの曲)や「Laissons entrer le soleil」(フランスのポップス)を歌いました。「グリース」は初めて台詞を頂いた特別な作品です。「Salut les copines!」私はこう言って舞台に飛び出、高校二年の先輩を思いきり突き飛ばします。出る直前までの緊張感と飛び出した瞬間伝わってきた熱気は今でも鮮明に覚えています。私にとってフランス語は、常に私に夢と目標を与えてくれる、かけがえのない親友です。

                  

「名古屋造形大学」のフランス語教育

牧 博之(名古屋造形大学教授)

 本学は美術系大学です。『APEF通信』において大学・短大別出願状況欄でたびたび掲載されています。なぜ美術系大学でありながら仏検受験者がこれほど多いのかと思われる方も多いと思います。以下に私の考える理由を挙げてみたいと思います。

 私は1985年本学の短期大学部(2008年廃止)にフランス語担当非常勤講師として着任し2008年度から本学の教授としてフランス語、哲学などを担当しております。本学の外国語教育の特徴は卒業必修要件の外国語科目(6単位必修、8単位まで履修可)が「英語」または「フランス語」の選択制であることです。すなわち、フランス語も第一外国語として履修されるということです。授業は各教科とも一年次・週二コマ(通年)と二年次・週一コマの演習授業(通年)があります。二年次には週一コマの自由選択科目(半期1単位×2)が開設されています。

 履修選択は次のように行います。毎年新入生全員に対しオリエンテーションの期間中に語学選択のためと英語クラス編成のために「英語実力テスト」を実施し、その折語学選択についてのアンケートをとり英語とフランス語の振り分けおよび英語の実力別クラス分けをします。この結果、新入生総数の毎年概ね3割が希望通りフランス語を履修しております。

 フランス語検定試験は2000年頃からの導入だと記憶しております。当時、語学担当者による合同外国語会議で仏検を単位認定に利用することを決めました。英語は検定試験による単位認定は行っておりません。仏検受験は当初は大学の学生のみを対象に行っておりましたが2003年頃から短期大学でも指導し始めました。短期大学の授業は各学年通年週一回の授業であり、かなり厳しい受験ではありましたが、毎年5級はもちろん、数こそ少ないのですが4級合格者も出しておりました。仏検受験は大学においては担当教員の指導で毎年一年次の秋に5級、二年次の春、秋に4級を受験させておりました。当時の受験者数は毎年延べ人数で100名近くいたと思います。

 しかし、2008年カリキュラムの再編により必修外国語単位が8単位から6単位になったことにより二年次の授業が通年週一コマとなったこと、また私が受験を完全自由化指導したこともあり受験者数は減少しました。近年では春の受験は無理な状況となっています。本学の単位認定の基準は一年次秋の仏検で5級合格、二年次秋の4級合格が基準となっております。後期が始まると昼休みに過去問題を利用した勉強会を始めます。通常授業履修者の半数近くの学生が仏検を受験しないので平常授業中には特別な受験勉強は行っておりません。仏検受験・合格を目指すという動機付けはかなり有効で勉強会に参加する学生はこの時期に一気に実力をつけてきます。また、フランス語に興味を持つ学生も一気に増加します。近年フランスへ行きたいという学生の希望も多くなってきており、実際春・夏休みや卒業旅行でフランスへ行く学生も多くなってきております。

 ところで、クラス数と受講者数の都合で英語は通常の教室で、フランス語はCALLシステムを導入したマルチメディア教室(MM教室)での指導が行われます。私はMM教室の改修を任されておりましたのでCALLシステムを導入いたしました。また、外国語担当教員としてカリキュラムの再編にも関与し、2008年大学に移籍と同時に自由科目として平常授業より進んだ内容の授業を行う仏検4級及び3級の対策を兼ねた上級クラスを立ち上げました。上級クラス開講とCALLシステムの導入が仏検受験で効果を上げた一因と考えております。

 また、私は専任に就任以来一年次での辞書の購入をやめさせました。辞書はMM教室(40ブース)に十数冊を常時置き、必要な時に自由に使って良いこととしました。学生の経済的負担を減らすのが主な目的です。またMM教室ではネットでの翻訳サイトも利用可能だからです。基本的に予習は課していませんからテキストの単語帳で十分のようです。それでも一年次後期以降、仏検の勉強会開始の頃から自分の辞書を持ちたいとの相談が来るようになります。自主的に学習したい学生の増加の現れであると考えます。さらに一年次の2コマで同じ教科書を二人の担当教員で分担して指導するなど、ここでも学生の不要な金銭的負担を減らしています。様々な負担減が「授業アンケート」の自由記述欄に「フランス語は難しかった」という回答を多く見る割にはフランス語選択者数が減少しない要因ではないかと考えております。

 もともと本学に入学してくる学生は語学(英語)学習が苦手な学生が多いという事実があります。入学当初の英語実力テストの結果がそれを示しております。フランス語を希望した学生に時々聞くのですが、履修理由で一番多いのは「必修科目だから」というものです。では、なぜフランス語かというと「英語が嫌いだから」「英語が出来ないから」という理由があげられます。今年フランス語を履修している学生は履修希望で「どちらでもよい」を選んだ学生が29名、「フランス語」を希望した学生は28名です。また、英語実力テストの成績は50点満点で25点以上の学生はわずか20%です。問題のレベルも含めて考えると決して英語の成績が良い学生たちではありません。もちろん、英語の成績が非常に優秀な学生もいることは付け加えておきます。

 以上、美術系大学である『名古屋造形大学』でなぜ仏検受験者が多いかということを考えてきました。これらをまとめると①フランス語が第一外国語として履修可能であること、②単位認定に仏検を採用しまた比較的容易なレベルで基準を設定したこと、③授業形態など履修しやすい環境へと改革してきたこと、④より効果的なシステム(MM教室でのCALLシステム)の導入が挙げられると思います。また、準会場として大学が利用できるということも大きな理由となっていると思います。これまで何回となくフランス語を第二外国語にするという話が持ち上がりました。その都度本学での外国語教育の意味を説明し今の状態を維持してきております。大学の理解・協力もとても大切な要因だと考えます。しかし、「学生は『造形』に語学を勉強したいと思って入学したわけではない」という前任教授の言葉がすべての改革の原点にあったからできたことだと私は考えております。

仏検:最近の受験生事情

塚越 敦子(慶應義塾大学他)

 今回の執筆依頼を受けて、自分がなにかしら仏検にかかわるようになって随分とときが流れたことに気がついた。準会場を開いたり試験監督や2次試験の試験官を担当したりと15年近く経ってしまった。

 フランス語教師として誰もが考えるように、フランス語学習者にとって仏検は一番の具体的な動機付けになると私も思っている。いつも、ひとりでも多くの学生にフランス語を好きになってほしいと願いながら通常の授業を行っている。熱心に授業に参加する学生をみつけると仏検受験を勧めるのが常になってしまった。残念ながら仏検受験用の授業を担当していないので、希望者がいる場合には時間をつくって自主的に補講を行うことになる。それももう10年以上続いている。

 最近、その自主補講に変化が起きてきたように思える。世の中の実学優先指向が反映して、学生たちも「資格取得」ということばに敏感である。昔は、「腕試し」が受験目的であったのか、受験生たちも自分ひとりで勉強に取り組んでいた。過去問題を渡して1回ぐらいの模擬試験を行えばそれで十分であった。しかし、ここ2、3年は2ヶ月ぐらい前から学習塾のような補講をするようになっている。なぜなのだろう。最近の学生は、まず、受かる見込みがあるかないかという見極めをしてから申し込む。「腕試し」などというおおらかな考え方はないようである。そして、受験を決めた者は、授業内容よりも上のレベルの級を志願する傾向がある。これは、先に述べた「資格取得」にこだわっていることのあらわれであろう。自分にとってより有利な資格=級をねらうのである。それゆえ、彼らは丁寧な指導を必要とするのである。自分で蒔いた種であるから、もちろん彼らにきちんと対応するようにしているが、正直、準2級から5級までの級を同時にフォローしなければならないときは、引き受けたことをついつい後悔してしまう。しかし、学生の受験動機が変わってきたとはいえ、合格したときの喜ぶ顔をみると私までうれしくなり、すべてが報われた気持ちになる。それは、今も昔も変わっていない。思わず、『次は、どうする?』などと連続受験を勧めてしまう。大学のカリキュラムの一部である単位取得教科とは関係なく、学生にとってフランス語学習のモチベーションのひとつである仏検は、教師である私にとっても純粋に「教えること」の成果を実感できるツールであるともいえる。そのため、仏検になんらかの形で自ずと参加し続けているのだろう。

 いつも接している学生たちの受験態勢の様変わりとは別に、1次試験の宇都宮会場の試験監督をしていて気がついた変化がある。ここ数年、準2級と2級の受験者の中に年配の方の数が増えていることである。しかも、そういう方たちは決して欠席しない。ある大学のカルチャーセンターのドイツ語講座が年配層に人気があるという朝日新聞の記事を読んだことを思い出した。それは、かつて大学などで学んだドイツ語をもう一度学び直したいという団塊の世代の人たちのことであった。また、同じ頃、テレビで日本経済を建て直すのは団塊の世代であるという特集番組も目にした。これらのことが何か関連があるのかと関心を抱き、仏検事務局から2005年度(準2級設置前年)以降の受験者に関する統計資料を送ってもらった。果たして、それらの数字からいくつか興味深いことが見えてきた。

 まず、準2級を2006年度春季から設置したことによって生じた変化である。2005年度と2006年度の2級受験者数の差と2006年度の準2級受験者数を比較し、2007年度以降の数にそれほどの違いがないことを考えると、2級受験者のうちの20%~25%が準2級を受けてからステップアップしていると思われる。

 年代別にみた場合、年配の層の合格率が意外と高いことが目を引く。もちろん圧倒的に10~29歳の受験者数が多いので合格者数もその層が厚くなる。しかし、合格率に換算すると、50歳以上の確率の方が10代20代の層の確率よりもおしなべて高いのである。これは、年配層が確実な学習をものにして、成果をあげたことを意味するのであろう。

 また、2級と準2級の受験者の中で、一番大きな割合を占めているのは、当然10代20代の層である。しかし、30歳以上が占める割合も、ここ7年間、2級はだいたい40%、準2級は35%前後と健闘している。さらに50歳以上の割合を出してみよう。2級は2007年度まで受験者の内ほぼ6%で、準2級は2008年度まで7~8%であったが、その後、2級は10~13%に、準2級は10~11%に伸びているのである。今や、2級・準2級の受験者の10人に1人は50歳以上なのである。このことは、注目すべきことであると思われる。いわゆる「生涯学習」の意識が高くなったためであると言ってしまえば簡単なことだが、もう少し建設的なことがらに結びつけたい。

 準2級の設置のおかげで2級受験への敷居が低くなり、全体的に中級レベルのフランス語学習へ誰もが抵抗なく移行できるようになったと考えられる。そこに、今の50歳以上の層も徐々に加わってきているのであろう。かつて学んだフランス語をもう一度始める場合でも、はじめてフランス語を学ぶ場合でも、合格率を鑑みれば、彼らの確実なフランス語習得力は大いに期待できる。最近では、少子化現象も手伝ってか、フランス語学習者数が減少したと言われている。そのような状況を打破するためにも、今後、50歳以上の年代の勉学に対する向上心を刺激するような「仏検」、さらに受験したいと彼らに思わせるような「仏検」に発展していってほしいと強く願っている。

フランスといえば、『フランス研修旅行』

渡邊 里江(中部コンピュータ・パティシエ・保育専門学校教員)

私ども、中部コンピュータ・パティシエ・保育専門学校にとり、フランスと言えば、『フランス研修旅行』です。

当校の学校行事には、遠足や球技大会、フェスタ、修学旅行のかわりの研修旅行など多々ありますが、やはり『フランス研修旅行』が学生にとっても一番思い出深い行事のようです。数年前は、学科別にイタリアとフランスに分かれて行っていましたが、今は全学科でフランス研修旅行をおこなっております。

「パティシエ」イコール『フランス』!!ですが、フランス研修旅行の実施に至るまでにはいろいろな縁がありました。実は、最初、パティシエ・ベーカリー科2年制は、イタリアのジェラートの研修をおこなっていました。ところが、数年前の3月、突然、フランス商工会議所日本支部の方から、当校の見学をしたいとの連絡があり、4月にお見えになりました。その時、同行されたのが、国立高等フランス製菓学院(ENSP)の校長先生とフランス菓子組合長さんと製菓雑誌編集者さんでした。もともと、ENSPの校長先生がフランス伝統菓子関連で専門学校の見学を希望していらっしゃったとのことで、そんなご縁から話が発展しまして、その年、パティシエ・ベーカリー科2年制のみ、フランス研修旅行が行われたのです。初心者向けの研修でしたが、学生もフランス国家最優秀職人(MOF)の方から指導を受け、喜んでおりました。宿泊も雰囲気が素敵で、食事もおいしくて、パンやデザートなども抜群と好評でした。

その後、パティシエ・ベーカリー科2年制は、フランス研修旅行に毎年行くことになりました。それまでは、フランス語の授業といえば、お菓子や製菓用具の種類くらいしか覚えていなかった学生が、フランス研修旅行のための日常会話まで身につけるようになり、授業への学生の集中度が違ってきました。最初の年は通訳の方がいないと、まるで話ができず、通訳待ちだったのが、いまはちょっとしたことなら、ボディランゲージとたどたどしい単語会話でなんとか作業等ができるようになりました。やはり、「フランス研修旅行でMOFから直接指導を受ける」という目標のためなら、学生も張り切るようで、それまでは正直言って出席率はあまりよくなかったのですが、目標があると違うなと思いました。

学生は、韓国やハワイ・グアム以外は行ったことがなく、特にヨーロッパにはほとんど行ってないため、うれしいようです。がしかし、やはり12時間の飛行機は長くて、疲れるようです。飛行機の機内食の回数も多く、美味しく食べる学生もいれば、口に合わない学生もいたり、とバラバラです。出入国検査でも、言葉が伝わるかドキドキ。手荷物検査でも金属チェックやボディチェックを受けるなど、学生たちはフランスに行くまでにもいろいろな経験をします。フランスについたら、ものすごくテンションが上がりっぱなしで、空港からホテルまでの風景も、見るものすべてがめずらしく、クリスマス前だったため、イルミネーションもとてもきれいで、喜んでおりました。ノートルダム寺院や凱旋門、エッフェル塔等の観光もしましたが、学生には、やはり世界遺産の「モンサンミッシェル」が一番のようです。パリからの日帰りでしたので、時間的に制限があったため、早めに集合をかけてしまいましたが、学生からは「もっとゆっくり回りたかった」といわれました。

学科別の研修も、フランスと日本の比較ができるバラエティに富んだ研修内容になっております。コンピュータコースはコンピュータ関連への見学、ペットコースはトリマー美容室への見学実習、保育科は保育園等への見学、医療事務情報科はクリニックや社会保険事務所への見学でした。研修先で、学生たちは「コンピュータは、日本もフランスもほとんど変わらない」とか、犬のトリミング技術はフランスのプードルからスタートしたはずだったのに、「いまは大型犬が主」といわれ、「プードルやダックスは時代遅れ」ともいわれたそうです。医療に関しては、医療博物館があったり、医療制度が日本とフランスは全く違ったり、「フランスでは医療事務という職種がない」ということに、その都度驚きました。保育も医療と同じで、制度や規定が全く違って驚きました。母乳と人工乳の対応、保育園と幼稚園などかなり違いがありました。そして、それらの違いは、人から教えてもらうのではなく、自分で知ることが重要になってくるのかなと思います。

ただ、日本に戻ってきた後、フランス研修旅行のアンケートをおこなうと、「挨拶が大事」「笑顔が一番」「体調を整えておかないと体力が持たない」「日本の常識が非常識のときもある」等の感想のなかに、「もうすこし、話ができればよかった。」「フランス語じゃあなくてもいいから、英語でもいいから、話せたらもっとよかったのに…」と外国語への希望がありました。パティシエ・ベーカリー科2年制はフランス語の授業を定期的におこなっていますが、それ以外の学科に関しては、外国語の授業がないため、やったほうがいいのかと、少々悩んでおります。

今回、学生は、フランス研修により日本以外のことを少し知ることができたと思っております。今後は、外国語を含めて、もっといろいろな違いや共通点などを身体で感じ取り、視野を拡げていってほしいと考えております。

杉野服飾大学 準会場へ

山尾 聖子(杉野服飾大学フランス語講師)

杉野服飾大学は、毎回5級、4級合わせても10名前後の受検者しかいないが、準会場にしていただいている。20年ほど前から、3,4年次の選択授業でフランス語を続けている学生に、4級、3級の受検をすすめており、個別指導と語学学校の集中講座参加で3級合格者も数名出ていた。ある年、一人の女子学生が受検のため訪れた他大学の広い構内で迷子になり、開始時間に遅れ、周囲のデキそうな学生さんたちの中で気後れしたまま失敗した、という涙ながらの事後報告を聞いた。通い慣れた本学で受検できれば、と思い始めたが、そのためには少なくとも10名の受検者を確保しなければならない。

一方、大学としての団体申込と学内受検は、大学事務方の協力があって初めて実現する。本学では、ファッション色彩、ファッションビジネス、秘書、パターンメイキングなど数多くの検定を実施しているため、受検者の少ない仏検のために、さらに年に2回の日曜日、事務職員2名に出勤していただくということは、言い出しにくいことであったが、さいわい、事務方の好意的な了承を得ることができた。次には受検者を増やすべく、1,2年生の実力底上げに数年を要したが、2006年にようやく18名の希望者が出て、準会場申請が叶った。

杉野服飾大学のフランス語は、英語、中国語と並んで1,2年の選択必修、週に2コマ、2001年から念願のフランス人講師による会話クラスも実現しており、基礎フランス語学習の体制としては充分である。

ただ、各学年約100名のフランス語選択学生の学習意欲にはかなりの差がある。本学の学生にとっては服飾に関する知識、技術を身につけることが第一目的であり、座学の苦手な人も多い。そもそもフランス語選択の動機は英語で失敗したから、という学生もおり、まずは、視覚に訴えるさまざまな資料を提供し、フランスの文化やファッションフランス語に関心を持ってもらうことから始めている。

毎回、約10分程度の動画、学生をモデルにしたファッション用語スライド、先輩学生が作成したレポート、フランスで出版されている MANGAのファッションに関わる場面の抜粋など、とにかく短時間で数多く見せる。

映画については、文法の進度に合わせて選んだ20作品を服飾に関する場面に絞り込んで見せているが、ここ数年は、YouTubeによる、旬のニュース、映画の予告編、ファッションショー、デザイナーインタビュー、ブランドCMなども合わせて活用している。

大学図書館には多くのファッション関連資料があるが、洋書はなかなか手に取りにくいようなので、1年では図書館でのフランス語資料探しとその紹介、2年後期では各自関心のあるテーマのフランス語資料を選び、翻訳し、関連情報も盛り込んだレポートを作成してもらう。レタリングやイラスト、フォトコラージュは、本学の学生たちの得意分野なので、これらも含め「見せるレポート」として評価している。学生は、先輩たちの作成したレポートを見ると俄然やる気を出してくる。

さて、このように文法と発音の大変さを面白さでくるみつつ落ちこぼれが出ないようにし、おもむろに仏検の話をする。

受検をすすめる場合、いきなり過去問を配布したりすると、最初から拒否反応が出てしまうので、「私がみなさんの努力に対してよい評価を出しても、世間では信じてくれません。仏検なら、たとえ5級でもちゃんと勉強をしたということを学外でも認めてもらえます」と学生を説得する。受検者は、合否にかかわらずその努力を期末評価に反映させます、と以前は言っていたのだが、それを期待してか学期末の課題や提出物に手抜きがみられたこともあったので、最近は言わないようにしている。

短期大学部は、1年次のみ週1回しかフランス語の授業がないので、これまで、受検呼びかけはしていなかったが、構内の仏検ポスターを見た短期大学生たちから、私たちでも受けられるでしょうか、と、昨年の夏休み前に相談があった。短大では、大学2年用のファッション関係の資料も簡単に説明し、フランス人講師による会話もあり、文法解説に取っている時間は、11月の受検日まで15時間程度。しかし、彼らの受検してみようという意欲に応えるべく、過去問や聞き取り演習用CDなどを貸し出した。おそらく後期が始まったら、やっぱり無理ですというのではないかと思っていたところ、10月からの週2回の昼休み補習には、大学1年、2年の受検希望者より真面目に参加し、11月の学園祭後の休日を利用して補習の要望もあった。目黒駅前のカラオケボックスで過去問解説をするという体験は、20年余りの教師生活で初めての喜ばしいできごとだった。このようながんばりで短大生3名のうち2名が5級に合格、1名は全国平均を上回る得点だった。学年や授業時間数に関わらず、本人の努力次第ということではあるが、おおぜいの学生に同じように期待はできず、いかに個々の意欲を引き出すかに腐心している。仏検受検が最終目的ではないが、仏検への挑戦が、授業全体を牽引していることは言うまでもない。

1926年に創立されたドレスメーカー女学院では、当初からフランス語の授業が行われていた。1930年代の同窓会報に、当時20代後半の朝倉季雄が「佛語科講師」として「佛蘭西語の讀み方」「ファッション・ブックが讀めるまで」という記事を連載している。1950年に開学した杉野学園女子短期大学では、辰野隆、鈴木信太郎、渡辺一夫がフランス文学を講じ、その後1964年の杉野女子大学開学からは、今尾哲也、佐々木孝次、中原好文が中心となってフランス語を担当。開学当時は短期大学、大学とも、英語とフランス語の2ヶ国語が必修であり、演劇部は「シラノ・ド・ベルジュラック」を上演したという。時代を先取りする女性教育への意欲と、幅広い教養に裏付けられた服飾研究を目指した先人たちの志の高さを忘れないようにしたい。

現在のパリコレの共通言語は英語であるが、それぞれのメゾンでは日常まだまだフランス語が飛び交っている。ファッションフランス語を足掛かりに、フランスならではのエスプリを学生たちに伝えたいと日々試行錯誤している。  

歴代理事長・副理事長

財団法人フランス語教育振興協会/公益財団法人フランス語教育振興協会
歴代理事長・副理事長

  理事長 副理事長
1986遠山  一行福井  芳男
1990安川 加壽子福井  芳男
1992安川 加壽子鈴木 昭一郎
1996澤田   徹鈴木 昭一郎
1998澤田   徹朝比奈  誼
2002澤田   徹加藤  晴久
2004長谷川 善一加藤  晴久
2011長谷川 善一柏木  隆雄
2013長谷川 善一平野  隆文
2015西澤  文昭北村   卓

新理事長からのご挨拶

2015年9月16日

今年6月に長谷川善一理事長の後を受けて理事長に就任しました。長谷川先生は11年の長きにわたり当協会の理事長として、協会運営の責任を担ってこられました。なかでも2011年の公益財団法人化の際には文部科学省での経験を生かされて内閣府と交渉を持たれ、速やかな新法人化を成し遂げられました。そのご尽力に対して心からのお礼を申し上げます。そしてここで特記したいのは、理事長のもと、仏検担当副理事長として比類のない実行力と深い洞察力をもって、仏検実行体制を率いてこられた故平野隆文氏への感謝の気持ちです。

さて、実用フランス語技能検定試験を主催するフランス語教育振興協会はその前身から数えるとすでに48年目を迎えています。その事業のありようは時代とともに少しずつ変わり、現在では英語一辺倒ではないグローバル化の推進が大切な務めとなっています。とりわけ2020年のオリンピック開催は英語以外の外国語を日本国内で盛り立てるよい機会になります。

私が理解する当協会の目標の一つは「日本人のfrancophoneを増やしていくこと」です。この場合の francophoneは「母語でなくても、必要な状況においてフランス語でコミュニケーションが取れる能力を持つ者」という意味です。そのために、当協会は設立以来つねに大学をはじめとする全国の教育機関と協力してフランス語教育の振興に力を注ぎ、また各地のフランス語教授法研究会やコンクールなどを支援してきました。34年の実績をもとに緻密な問題作成プログラムを作り上げ、全国規模な検定試験を実施して、フランス語修得の後押しをしています。

また今年6月には、フランス大使館/アンスティチュ・フランセと協定を結び、フランス政府公認の検定試験(DELF/DALF、TCF)と文部科学省後援の私どもの検定試験(DAPF)が相互に協力すること、両者が補完し合う関係にあることを確認しました。

当協会が発足以来願ってきたことですが、さらに多くの方々にフランス語の修得を通じて豊かな人生を送っていただきたいと祈念しています。どうか皆さまの変わらぬご支援とご鞭撻をお願いいたします。

公益財団法人 フランス語教育振興協会
理事長 西澤 文昭
 

フランス大使館での調印式(左はフランス大使館文化参事官・アンスティチュ・フランセ日本代表Claire THUAUDET氏)

理事長からのご挨拶

2015年9月16日

今年6月に長谷川善一理事長の後を受けて理事長に就任しました。長谷川先生は11年の長きにわたり当協会の理事長として、協会運営の責任を担ってこられました。なかでも2011年の公益財団法人化の際には文部科学省での経験を生かされて内閣府と交渉を持たれ、速やかな新法人化を成し遂げられました。そのご尽力に対して心からのお礼を申し上げます。そしてここで特記したいのは、理事長のもと、仏検担当副理事長として比類のない実行力と深い洞察力をもって、仏検実行体制を率いてこられた故平野隆文氏への感謝の気持ちです。

さて、実用フランス語技能検定試験を主催するフランス語教育振興協会はその前身から数えるとすでに48年目を迎えています。その事業のありようは時代とともに少しずつ変わり、現在では英語一辺倒ではないグローバル化の推進が大切な務めとなっています。とりわけ2020年のオリンピック開催は英語以外の外国語を日本国内で盛り立てるよい機会になります。

私が理解する当協会の目標の一つは「日本人のfrancophoneを増やしていくこと」です。この場合の francophoneは「母語でなくても、必要な状況においてフランス語でコミュニケーションが取れる能力を持つ者」という意味です。そのために、当協会は設立以来つねに大学をはじめとする全国の教育機関と協力してフランス語教育の振興に力を注ぎ、また各地のフランス語教授法研究会やコンクールなどを支援してきました。34年の実績をもとに緻密な問題作成プログラムを作り上げ、全国規模な検定試験を実施して、フランス語修得の後押しをしています。

また今年6月には、フランス大使館/アンスティチュ・フランセと協定を結び、フランス政府公認の検定試験(DELF/DALF、TCF)と文部科学省後援の私どもの検定試験(DAPF)が相互に協力すること、両者が補完し合う関係にあることを確認しました。

当協会が発足以来願ってきたことですが、さらに多くの方々にフランス語の修得を通じて豊かな人生を送っていただきたいと祈念しています。どうか皆さまの変わらぬご支援とご鞭撻をお願いいたします。

公益財団法人フランス語教育振興協会
理事長 西澤 文昭

フランス大使館での調印式(左はフランス大使館文化参事官・アンスティチュ・フランセ日本代表Claire THUAUDET氏)

過去問題サンプル

2015年度(1級は春季、準1~5級は秋季)の実施問題をご紹介しています。
問題形式の確認やレベルチェックにご活用ください。
最新の試験問題は 『仏検公式ガイドブック』 で詳しい解説と共にご覧いただけます。

準2級 2015年度実施問題

1次試験

pdficon_large 準2級 筆記試験問題冊子 pdficon_large 準2級 筆記試験解答用紙
pdficon_large 準2級 聞き取り試験問題冊子 pdficon_large 準2級 書き取り聞き取り試験解答用紙  

準2級 書き取り試験(ふつうの速さ)

準2級 書き取り試験(ポーズ入り)

準2級 聞き取り試験[1] 会話

準2級 聞き取り試験[1] 質問文

準2級 聞き取り試験[2] 話

準2級 聞き取り試験[2] 内容について述べた文


pdficon_large 準2級 正解例と吹き込み原稿

2次試験

※2次試験方法の案内(別画面で表示)

問題[A]

pdficon_large 準2級 2次試験問題カード[A]

問題 [A] イラストカード 本文の音読
問題 [A] 質問1
問題 [A] 質問2
問題 [A] 質問3
問題 [A] 質問4
問題 [A] 質問5

pdficon_large 問題[A] 質問と正解例

問題[B]

pdficon_large 準2級 2次試験問題カード[B]

問題 [B] イラストカード 本文の音読
問題 [B] 質問1
問題 [B] 質問2
問題 [B] 質問3
問題 [B] 質問4
問題 [B] 質問5

pdficon_large 問題[B] 質問と正解例