中村 典子(甲南大学 国際言語文化センター教授)
表題からすると、筆者が仏検に魅力を感じていない、と誤解されるかもしれないが、決してそうではない。実は、筆者は、仏検創設以来、ずっと仏検のことを気にしている。それを証明するために、まず、仏検と筆者の係わりについて、次に、仏検の魅力について語り、最後に、仏検で改善を希望する事項を記したい。
【1】仏検の創設が1981年であったことを筆者はよく覚えている。なぜなら、1980年(サルトルが死去し、アルチュセールの事件が起こった年だ)に大学を休学してパリに留学した筆者が、1981年秋に帰国して卒論に追われていた頃、1年先に大学を卒業し、大学院に進学したり、フランス系の企業に勤めていた友人たちが、創設された「仏検1級」に合格したと知らされたからである。日本にいた友人たちが受かったのに、パリに1年留学していた筆者が落ちると、「留学=遊学」だったとばれてしまいそうで、その後、怖くて仏検を受ける気にはならなかった。そう、筆者は落ちるのが怖くて、一度も仏検を受けたことがないのだ(スミマセン)。
しかし、数年後、非常勤講師としてフランス語を教える立場になると、学生たちから「先生は仏検1級を持っていますか?」としばしば聞かれた。焦った筆者は「えーっと、フランス語を教える立場になると、仏検のお手伝いをすることがあり、残念ながら、仏検受験はできないのです」と答えていた・・・(苦笑)。実際、APEFが欧明社の2階にあった頃、フランス語の法定翻訳兼タイプ打ち(コンピューターがなかった1990年以前)、八王子のフランス語合宿の助手、また、仏検の採点にも従事させていただいた。それ故、仏検を何らかの理由で批判することがあるとすれば、それは、仏検をもっとプロモート(promouvoir)したいという思いからだ。
1997年に神戸の甲南大学に赴任し、友人の勧めもあって準会場を運営するようになった。そこで、運営責任者の立場から、仏検事務局に次のようなお願いや要望をお伝えしてきた。①2級以上の2次試験の採点を、英検のように「別立て」とし、1次試験免除制度を取り入れてほしい。②試験終了後、問題用紙を回収するように仏検事務局から指示された時、受験生のためにならないと反対した。③4級の聞き取り試験のネイティブの発音にかなりの訛りがあったので、口頭および文書で仏検に抗議した。④2003年頃、台風のために試験が実施できない可能性が生じたことがあった。結果的には実施できたが、その後、万が一に備えて予備問題を作ることを提案した・・・という具合に、いろいろと勝手なことをお願いしたが、④以外はすべて実現あるいは改善された。(Merci infiniment !) 仏検関係者の方々が非常に柔軟な考え方を持っておられることを、ここで強調しておきたい。ご退職なさったが、長年APEFの中心的存在でいらした金沢(安川)千鶴子さんには、アルバイト時代も含めて大変お世話になり、心から感謝している。
【2】仏検の魅力について、筆者は、シラバス等で次のように説明している。
① 一旦資格を取得すると、一生有効である。
② 3級や4級の合格も、履歴書やエントリー・シートの資格欄に記載できるので、就職活動でプラスとなる。
③ 解答形式が多肢選択式のみのTOEIC・TCF・TEF(便宜上、3Tと呼ぶ)とは異なり、仏検では3級以上に記述式解答部分があるため、実力がないと合格できない仕組みである。また、試験終了後、解答例がもらえるので、すぐに自己採点・反省ができる。
さて、①は非常に大事だ。英検もそうだが、一旦取得したら「生涯有効」であることが学習者に安堵感を与え、上の級に挑戦する気持ちを育む(因みに、筆者は、十数年前に英検準1級を取得したので、その後、3回1級に挑戦した。今後も挑戦を続けていきたいと考えている)。
多肢選択式(=クイズ形式)の3Tは、基本的に人をランク付けするための試験であり、レベル別の問題でもなければ、合格・不合格もなく、有効期間は2年間とされている。就職活動や会社等で求められなければ、また、移民申請に必要でなければ、誰が2年に一度試験を受けるだろうか? お金と時間の無駄である。因みに、中国語検定は2005年から急に有効期間を設けたことで、過去に合格した人たちから猛烈な批判を受けたらしい。②について、ちょっと面白い例を挙げよう。筆者の所属する国際言語文化センターでは、学生に複数の言語の修得を奨励しているため、専任教員も、複数の言語の運用能力があることが望ましい。これまでに何回か専任教員の公募があったが、参考事項として、専門の言語や英語以外に、どんな外国語がどの程度できるのか、証明してもらっている。「仏検4級」「ハングル能力検定4級」と記載し、合格証書のコピーを提出した人もいた。高いレベルではなくとも、一定のレベルに達している、という証明は意外と役に立つのである。③も重要で、自分で答を書く部分があることで、学生は真摯に学習に取り組む。検定試験は通過点にすぎないが、仏検受験をきっかけに、フランス語の文章を読み、フランス語を聞き取ろうとする「主体的な学習」の機会が増えることは間違いないだろう。
【3】仏検をプロモートしている教員の立場からは、次のような改善を検討していただきたい。
希望1 :「インターネット申込」が可能となったことは喜ばしい。次に、1次試験に合格した準2級以上の受験者に「1年間の1次試験免除」を適用してほしい。英検では、2013年6月の1次試験に合格すれば、2次試験については、2014年6月まで計4回の受験が可能である。
希望2 :過去1年間の問題をWEB上で公開してほしい。久しぶりに英検のサイトをチェックしたが、問題冊子・リスニング原稿・リスニング音源・解答を過去1年間3回分、すべて公開するだけでなく、無料・隔週更新の級別・英検対策講座も提供している。飛躍的に受験者数を伸ばしているTOEICに対抗するため、英検も随分と変わった。仏検にとって、過去問題や音源を公開することは、学生数が減少するなか、社会人の受験者を増やすことに繋がると思う。サンプル問題さえWEB上にない現在の状況では、社会人の方へのアピール度が低いのは否めない。筆者は、ある文化センターでフランス語の講座を担当しているが、WEB上で過去問題と音源を公開すれば、公式問題集を購入し、受験を前向きに考える社会人の方は少なくないと思う。
希望3 :3年次・4年次の学生は、仏検よりTOEICを優先するので、TOEICと試験日が重ならないようにしてほしい。TOEICは年に10回もあるので、学生が早目に計画を立てればよいのだが、そうも言ってられない。そこで、今年から「各言語の検定試験+TOEIC」のカレンダーを作成し、本センターのポータルサイトに置く計画を立てている。
*よろしければ、4月以降、次のサイトをご参照ください。〈http://www.kilc.konan-u.ac.jp/modules/top/〉 「甲南+言語」の検索で出ます。
数年後、仏検がさらに魅力的になっていることをお祈りしている。