第19回 前置詞あれこれ(初級から中級へ)
神戸大学教授 松田 浩則
フランス語の上達には動詞の活用をきちんとおぼえたり、名詞や形容詞の性・数一致の規則を習得したりする作業がとりわけ肝心なことは、今さら力説するまでもありませんが、前置詞の用法をきちんと把握しておくことも同様にきわめて重要です。前置詞というと、すぐに à、de、en、pour、dans などが思い浮かぶでしょうが、これら基本的な例を含む多くの前置詞には、多種多様な使い方があり、それらを確実に習得することでフランス語力のアップがはかられるはずです。
今回は、日本人が苦手とする前置詞の習得法を、2014年度春季4級の問題 [6] を手がかりに探っていきましょう。
( ) の内に入れるべき最も適切な前置詞を3つの選択肢の中から選ぶ問題です。
(1) Elle se promène ( ) la plage.
① entre ② pendant ③ sur
(2) Il est à Paris ( ) trois jours.
① à ② avec ③ pour
(3) Il y a une rivière ( ) la maison.
① chez ② derrière ③ en
(4) Qu’est-ce que vous ferez ( ) vos études ?
① après ② depuis ③ vers
(1)から見ていきましょう。
(1) Elle se promène ( ) la plage.
① entre ② pendant ③ sur
選択肢の ① entre が「~と~の間」、② pendant が「~の間に、~の間ずっと」、③ sur が「~の上」という意味だと大体の見当をつけておきます。そのうえで、(1)の全体がどのような意味になるかを考えてみると、「彼女は浜辺を散歩している(する)」となりそうです。①や②では文の意味が成立しませんので、③が入って Elle se promène ( sur ) la plage. となります。それほど難しくはなかったはずですが、得点率は66%にとどまりました。
ここでの sur の使い方は、たとえば、Il y a un livre sur la table. 「テーブルの上に本が一冊ある」と同じように、「事物の表面との接触」を表す最も基本的な用法に属しますので、確実に覚えてください。少しレベルが高くなりますが、sur に関しては、たとえば Je vais trouver ce CD sur Internet. 「私はそのCDをインターネット上で見つけるつもりだ」(場所)、とか Cet hôtel donne sur le lac Léman. 「そのホテルはレマン湖に面している」(「〜に面して」、方向性)などの便利な表現もありますので、ぜひ覚えておきましょう。
さらに、同じ se promener 「散歩する」でも、たとえば、Le dimanche, beaucoup de gens se promènent dans les rues. 「日曜日には、たくさんの人が街を散歩する」の場合は dans を用います。これはフランス(ヨーロッパ)の「道」rue(s) が、建物群に囲まれた「谷の底」にある、つまり建物群の中に組み込まれている、という発想から使われています。また、例えば J’aime me promener en voiture. 「私はドライブをするのが好きだ」の場合の en voiture では、移動手段や方法を示す en が使われています。「飛行機で」 en avion、「電車で」 en train などと表現できます。
(2) Il est à Paris ( ) trois jours.
① à ② avec ③ pour
(2)も同じように、それぞれの選択肢の意味を考えながら、文全体がどのような意味になるかをまず大まかに把握します。文の前半 Il est à Paris が「彼はパリにいる」という意味になるのはすぐにわかるはずですが、① à 「~で、~に」、② avec 「~といっしょに」、③ pour 「~のために」と、それぞれの前置詞が最も頻繁に使われる平均的意味の範囲内で考えているかぎりでは、文全体が明快な意味をまとうとは言えません。ここでは、pour に「~の予定で」という「時期や期間」を表現する機能(使用法)があることを前もって知っている必要があります。正解は Il est à Paris ( pour ) trois jours. となり、「彼は3日間の予定でパリに (来て) いる」という意味になります。得点率は72%でしたが、なかなか難しい使用法だと言えます。
同種の用法としては、たとえば、-Vous partez pour combien de temps ? 「どれくらいの期間、旅立たれる予定ですか」 -Pour un mois. 「一ヵ月の予定です」、-C’est pour quand, ton départ ? 「君の出発はいつの予定?」 -Pour dans un mois. 「一ヵ月後だよ」などが挙げられます。最後の例は、Pour (dans un mois) と理解すればいいでしょう。「dans +時間表現」は「〜(の期間の)のち」という意味になりますので、「1ヵ月後の予定で」という意味が成立するわけです。
(3) Il y a une rivière ( ) la maison.
① chez ② derrière ③ en
(3)選択肢 ① chez はほとんどの場合、Je reste chez moi cet après-midi. 「今日の午後は外出しないで家にいます」、Va chez le boulanger acheter du pain. 「パン屋さんでパンを買ってきて」のように「 chez +人」という形で使いますので、① は簡単に排除できます。③ en は、様々な意味で用いられますが、文脈から推してこの文の内にすっきり収まる気配はありません。すると、消去法で ② derrière 「~の後ろに、裏に」が正解だと推測でき、Il y a une rivière ( derrière ) la maison. 「その家の後ろには小川が流れている」に辿り着きます。derrière は他の前置詞と比べて用法の数が少ないので比較的容易だったはずですが、得点率は66%にとどまりました。
ざっと整理しておきますと、空間的に「~の前に」は devant、「~の後ろに」は derrière を用います。ちなみに、時間的に「~の前に」は avant を、「~の後に」は après を使用します。
(4) Qu’est-ce que vous ferez ( ) vos études ?
① après ② depuis ③ vers
(4)文の動詞が単純未来形であることに着目しましょう。文全体の意味は、「(あなたは)勉学を終えたら(卒業後)、どうする予定ですか」となるはずです。② depuis 「~以来」、③ vers 「~頃;~に向かって」では適切な文が成立しませんので、① が入って、Qu’est-ce que vous ferez ( après ) vos études ? となります。得点率は62%でした。
上述した通り après は、時間的に「~の後に」という意味で使われます。熟語的に Après vous. と言う表現がありますが、「あなたの後に」という文字通りの意味から、「お先にどうぞ」という転義が派生します。ただし、たとえば、Le chien court après un chat. のようなケースでは、「犬が猫を追いかけている」となり、時間的な「後続」のニュアンスは希薄になり、むしろ「欲望の対象」を追求する意味合いが強まります。
以上の記述からも推察されると思いますが、各前置詞の「守備範囲」(基本義)をきっちりと押さえることを、まずは学習の基礎に据えましょう。その後、さまざまな前置詞が、さらにいかなる使用法へと派生的に広がって行くのか、その広範な意味のネットワークを複合的に把握することが、フランス語の上達には欠かせないと思います。そのためにも、具体的なフランス語の例文とともに、たくさんの用法を覚えていくよう、地道な努力を怠らないで下さい。