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東京大学教養学部におけるフランス語教育

寺田 寅彦(東京大学)

大学に入るときに皆さんは何を自分の専門とするか、ひいては何学部に入るかということを考えることでしょう。東京大学では入学した学生はいわゆる科類ごとのクラスに所属することでそれぞれのおおまかな将来の専門性を持ちながらも、全員がまず駒場キャンパスにある教養学部前期課程に入学し、リベラル・アーツの理念に基づく教養教育を受けることになっています。これは東京大学の学びにおいて、専門課程に進むために必要な知識や知的技能を身につけることも大切ではあるものの、特定の専門分野に偏らない総合的な視野を獲得させることで専門的なものの見方や考え方の基本を学び取ることが必要であると考えられているからです。

このリベラル・アーツ教育の根幹をなす科目の一つが外国語科目です。文科生と理科生とでは取得すべき単位数は異なるものの、両者とも必ず二つ以上の外国語を履修することが必要です。多くの学生は既修外国語、すなわちすでに学んだことのある外国語として英語を履修し、初修外国語として初めて学ぶ外国語を一つ選択します(既修外国語を二つ選択することも可能です)。基礎科目とよばれるいわゆる必修の初修外国語として開講されている外国語はドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、韓国朝鮮語、イタリア語の七つですが、この他に自由に選択できる総合科目として現用語から古語にいたるまでのさまざまな外国語が履修できるようにカリキュラムが設計されています。

201609-1

基礎科目のフランス語では主に文法を勉強します。また選択自由な総合科目では、初級、中級、上級の各レベルで、会話や作文、読解、演習、表現練習といったさまざまな授業が展開されています。フランス語を集中的に学びたいという意欲的な学生に向けて、週2コマのペースで行われるインテンシヴ・コースの授業も初級と中級で開講されています。ネイティヴスピーカーの教員の指導による運用能力向上を図るインテンシヴ・コースは、学生の間でも人気の高い科目の一つです。

2016年度からは、履修すべき単位数と総合科目週3コマを合わせて初修外国語でありながら高い運用能力の修得を目指すトライリンガル・プログラム(TLP)フランス語がスタートしました。このトライリンガル・プログラムとは、その名のとおり三か国語をマスターした学生の育成を図るプログラムで、グローバルリーダー育成プログラム(GLP)の一環として発足しました。グローバル化が急速に進んだ現代の世界において、国際的に活躍する人材には高度な英語力はもとより、それに加えて少なくとももう一つの外国語の運用能力を有することがひろく要請されるようになりましたが、そのような要請に応えるべく一定レベルの英語力を有すると認められる学生(上位一割程度)のうち希望者を対象として、日本語と英語に加え、もう一つの外国語の運用能力を集中的に鍛えるために開設されたのです。トライリンガル・プログラムの履修期間は前期課程在学中の1年半で、修了要件を満たした履修生には修了証が授与されます。

2013年度に始まった当初は中国語のみのプログラムでしたが、この2016年度からドイツ語、ロシア語と共にフランス語でもこのトライリンガル・プログラムが始まっています。フランス語では前期日程入試、推薦入試、外国学校卒業学生特別選考のすべての合格者を対象としており、履修者数は最大で40人までであるため、履修希望者が定員を超える場合には成績上位者から履修を許可するシステムをとっています。各セメスター(学期)終了時に期末評価がなされて、英語の成績やフランス語の成績からレベルに達していないと判断された履修者は次のセメスターでトライリンガル・プログラム向けの開講科目を履修できない設計になっています。厳しい制度ですが、2クラスに分かれた学習者はレベルの高い授業を楽しく学んでいます。言語運用能力向上を図る目的から、AV機材の充実した教室や、アクティヴラーニングに対応した「21 Komaba Center for Education Excellence(21 KOMCEE)」(写真参照)という最新の建物の教室を主に使いながら授業が行われていることも魅力の一つです。

トライリンガル・プログラムフランス語はその修了時に「ヨーロッパ言語共通参照枠(CECR)」A2レベルに十分達し、特に優秀な履修者がB1レベルを狙いうる能力に達していることを目指します。履修者は自身のレベルを知るために、さまざまなフランス語資格試験の一つとして仏検で運用能力のレベルをはかることが考えられます。仏検は準2級がおおよそCECRのA2レベル、仏検2級がおおよそCECRのB1レベルです。準2級からは筆記試験の一次試験と個人面接の二次試験があり、文法の知識はもとより、読む、書く、聞く、話すというフランス語の運用能力を試すことができます。一つの具体的な目標として仏検合格を目指すことは有意義なことです。

フランス語は当然のことながらさまざまな専門に開かれた言語です。文学や哲学といった人文科学分野のみならず、政治や歴史・地理といった社会科学分野、数学や化学・物理学・生物学といった自然科学分野、さらに芸術などの分野で偉大な業績を挙げた人物を多く輩出しています。東京大学の学生もその将来の専門性の違いをこえて、基礎科目からトライリンガル・プログラムまで、さまざまなレベルでのフランス語の勉強を楽しんでいます。

東京大学提供

21 KOMCEE