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第18回 書き取りに強くなるには?(中級)

慶應義塾大学准教授 井上 櫻子 

 

仏検では、準2級以上のレベルになると書き取り問題が登場します。一次試験において最も配点の高い設問ですから、この問題で高得点を獲得するのが合格への鍵だといえるでしょう。しかし、ただ漫然とフランス語の「音」を聴いているだけでは、書き取りの力は身に付きません。それではどのような点に気をつけながら学習すればよいのでしょうか。
 

                

ここでは2013年度秋季2級書き取り問題を例に検討していきましょう。

本問では、2人の女ともだちとともにパリへやってきた女性が、オルセー美術館で有名な絵画の数々を目にしたときの印象が語られています。以下、正解の一部を抜粋します。  

Nous étions toutes les trois très heureuses de voir des toiles qu’on connaît bien. En effet, ce sont des tableaux qu’on avait déjà étudiés au lycée. Pourtant, est-ce qu’on a vraiment regardé la peinture ? Non. Nous étions simplement contentes de retrouver des œuvres célèbres.

私たちは3人とも、よく知っている絵を目の当たりにしてひじょうに満足だった。というのも、それらは高校ですでに習ったことのある絵だったのだ。しかし、本当によく絵を見ていたのだろうか。そうではない。私たちはただ、有名な作品を見つけてうれしかったにすぎないのだ。


  
              

多くの受験者がつまずいたポイントを4点挙げていきます。すると、落とし穴は音を正確に聞き取って単語や表現にむすびつける次元(聴取レベル)よりもむしろ、文法的に正確な文に組み立てる次元(統辞レベル)にあると分かるでしょう。 

1.  正解  Nous étions toutes les trois très heureuses  
                   「3人ともひじょうに満足だった」

まず、toutes les trois は本問で特にできが悪かった箇所の1つです。誤答例で最も多かったのが toute les trois。つまり、発音されない複数形の語末の s を忘れていたのですが、これは形容詞 tout の性数一致に気をつければ避けられたはずのミスです。同様に、heureuses についても、heureuse と単数形にした誤答がめだちました。
 

2.  正解  des toiles qu’on connaît bien  「よく知っている絵」

この一節では、qu’on connaît bien の qu’on がエリジヨンのせいで聞き取りにくかったようです。quand、comme などとした誤答がかなり認められました。しかしこのような接続詞の後に仮に connaît bien と続けてしまうと、従属節に主語が存在しないことになり、文として成立しません。確かに quand と qu’on を純粋に音のレベルで聞き分けるのは難しいかもしれませんが、文法的(統辞的)に正しい表現を意識すれば、うまく切り抜けられたのではないでしょうか。
 

3.   正解  des tableaux qu’on avait déjà étudiés au lycée
                 「高校ですでに習ったことのある絵」

ここにも多くの受験者が苦戦した箇所があります。qu’on avait déjà étudiés の étudiés です。正答率はほぼ1割程度で、半数近くの受験者が étudié としていました。他動詞が複合形の時制(直説法の複合過去や大過去など、助動詞 avoir をともなう時制)で用いられており、さらに直接目的補語が動詞 ( avoir +過去分詞) の前方に置かれた場合は、過去分詞が直接目的補語と性数一致する規則を思い出してほしかったと思います。直接目的補語が人称代名詞や関係代名詞 que の先行詞として動詞の前方に置かれている場合などがこれにあてはまります。ちなみに des tableaux のように単数形に x をつけて複数形とするような特殊な名詞、形容詞も出題されやすいのでチェックしておきましょう。
 

4.   正解  des œuvres célèbres  「有名な作品」

1. で指摘したことと重複しますが、やはりここでも célèbres が単数になっている誤答が目立ちました。また、アクサンの向きや場所を間違っている答案もかなり見受けられました。『仏検公式ガイドブック』でも強調されていることですが、アクサンもつづりの重要な要素の一つですから、アクサンの場所、形をしっかり覚え、かつ明確に記すようにしてください。
 

                

ここまで取り上げたポイントに難しい表現や単語はありません。書き取り問題を制するには、聴取能力や語彙力に加えて、基本的な文法事項をしっかりマスターしていることが実はきわめて重要なのです。書き取りの点数が伸び悩んでいる人は、ぜひ文法書を参照し、実際に手を動かしながらフランス語の文を筆記する練習をおこなってください。得点率はずいぶんかわってくるはずです。