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フランス語は、高校生中学生に世界を開いてくれる

菅沼 浩子(聖母被昇天学院中学校高等学校)

「フランス語を学べてホントによかった」「フランス語の授業が楽しみだった」「フランス語と出会えて世界が広がった」「この学校に来てよかったと思うことの一つはフランス語をやれたこと」「進路が見つけられた」「大学でも続けるね」etc. 今年も高3の卒業生達が卒業式にたくさんの嬉しいメッセージをプレゼントしてくれた。

本校は、各学年2クラス約70名という小規模校だが、母体となるAssomption修道会の創立者がフランス人であるため、高1からフランス語を第二外国語として必修で履修させている。国公立、理系を目指す生徒をのぞき、高2高3もほとんどの生徒が履修を続け、3年間フランス語とかかわる。ただ3年間といっても、1コマ45分授業を週2回、行事等で授業が抜けることも多く、年間では60回程度。1コマの時間も大学の半分だが、高校生達は、毎日1時間目から7時間目(あるいは6時間目)まで、1時間ごとに違った科目を学び1日を過ごす。数学の次は、大急ぎで着替えて体育、また大急ぎで着替えて単語テストから始まる英語、古典、フランス語、情報、世界史といった具合だ。

このような生活の中で、受験科目でもなく、高校で二外を学ぶことが一般的ではない現状で、フランス語を必修で学ぶということが生徒達にどのような意味をもたらすのかを全校生徒達へのアンケートをもとに探ってみた。というのも、創立者の精神を伝えるために、開校以来フランス語教育を行ってきた本校でさえ、数年ごとに行われるカリキュラム編成の際、受験に関係ない科目を必修で残す必要があるかどうかという問題に常に直面しているからだ。また、長年、公立や他の私立高校で1年間または2年間選択科目として教えてきた私としては、数年前本校で仕事を始める際、3年間続けて教えられるということで今までとは違う様々な可能性を感じていた。しかし、実際にはクラス全員、30数名の生徒を相手に語学を教えることは簡単なことではなく、3年生ともなると仏検3級取得者から、動詞の現在形もおぼつかない生徒が同じ教室におり、上位層の生徒を伸ばし切ってやれていないということが悩みだった。それを解決するには、必修でなくとも選択で興味のある生徒との小人数クラスにしてもいいのではないかという思いも少し持ち始めていた。

しかし、今回のアンケートから見えてきたものは、やらされている感が強いのではという私の考えとは少し違うものだった。「フランス語が必修であるほうがいいか、選択科目のほうがいいか」という問いに対して、各学年2〜3名の生徒以外は、必修であるほうが望ましいと答えている。その理由の多くは、必修であったからこそフランス語と出会え、世界や視野を広げることができたというものだ。もし、高1の時点で選択科目としてフランス語が設定されていた場合は選んでいなかったと答えた生徒は4割程度いた。つまり、この4割の生徒は必修でなければフランス語と出会わなかった生徒達である。そして、フランス語を学んだからこそ気づけたことを一人一人何らかの形で実感していた。つまり、より多くの高校生にフランス語と出会わすことが重要なのだ。

もちろん前述のように忙しい高校生にとって、フランス語学習の時間をそれほどさけるわけでもなく、私自身も高校での第二外国語は異文化へのスタート地点となればいいと考えてきた。基本的にその考えは変わってはおらず、他教科と違い、ある程度は生徒達自身が自分なりの目標を決めフランス語と付き合ってくれればいいと思っている。そのため以前から仏検には積極的に取り組ませていたものの、希望者が中心だった。しかし、必修で学んでいる彼女達にとって、公的な評価もモチベーションの一つなのではないかと考え、2年前から自校を準会場とし、基本的には高2で全員5級取得を目標とした。ただ、英検と違い、土曜日に行えないため、現実的には様々な理由から全員受験とはいかない。けれども生徒達からは、「まさか自分が高校時代に仏検を取得できるとは思っていなかった。」「取得できて嬉しい。」「また次を目指したい」という声が聞こえているそして、2013年度の秋は、高1も今まで以上に多くの生徒が5級にチャレンジし、高2高3で、4級、3級を受験する生徒達も少しずつ増えてきている。また、3年間学ぶとはいえ、前述したとおり3級を取得するのは授業外での生徒本人の相当の努力が必要なのが現状だが、たとえ5級であっても、日本のほとんどの高校生が英語のみを学んでいる中、他言語の資格を取得したということは高校生にとっては優越感や自信という意味を見出し、その後の学習へのモチベーションアップへつながっていくのだ。

さらに、必修のメリットには学校全員がやっているということにもある。フランス語を学ぶ人、仏検を受験する人が学校内で一部の特別な存在ではないということは、彼女達にとってかなり重要なポイントである。

また、高3では主にフランコフォニーの国々について学んでいるが、ステレオタイプ的なフランスとは違う文化に触れることでフランス語への関心を高めたと感じている生徒が多いのも興味深いし、学年が進むにつれ、フランス語を学習してとてもよかったと感じている生徒が増加していくのも興味深い。そして7割強の生徒たちが卒業後もなんらかの形でフランス語学習を続けると回答している。

中学生についても少し見てみると、本校は中高一貫校であり、隔年ボルドーの姉妹校から来る10数名の高校生が、中高関係なく生徒たちの家にホームステイもする。そのため、中学生にもフランス語は身近にあり、高校で第二外国語を学ぶことに9割程度の生徒が肯定的で、中3の約7割は高校から学ぶフランス語を楽しみにしている。けれども、兵庫県の公立中学3年生150名に行ったアンケートでは、おそらくほとんどは二外のない高校に進学する彼らからも、高校で英語以外の言語を学ぶことが必要か、学びたいかという2つの質問に対して、両方とも7割程度の生徒達がそう思うという結果が得られた。そして具体的に学びたい言語の多くは、大学で人気の中国語や朝鮮語ではなく、スペイン語、フランス語、ドイツ語などヨーロッパ言語があげられていた。(仏検を知っていると答えた生徒は数名だったが。)これらの結果を見ても、中高校生たちにとってフランス語また英語以外の言語を学ぶことは負担感よりも、むしろメリット感の方が強いといえる。

このように、外国語学習を柔らかい頭でとても前向きにとらえている中高生達。フランス語が世界を開いてくれると感じている中高生達。我々大人は彼らをサポートすることをもっと真剣に早急に取り組んでいかねばならない。私たち非常勤講師では様々な限界があるのも現実だが、まず、カリキュラムで削られないための近道として、進路を決める際にも、進学の際にも、フランス語を学んでいることにいかにメリットがあるかを、二外への意識は20年前とほとんど変わっていない高校の現場に示さねばならない。そのためには、大学で高校での履修経験(仏検3級を取得してでさえも)が明確に考慮されていない場合が多々あるが、大学側にももっと高校での現状を知ってもらい、高校側への働きかけをしていただきたい。二外を学ぶ高校生はまだまだマイノリティで、彼らを特別扱いすることは大学でも難しいことは承知だが、フランス語学習者を減らさず、本当の意味での視野の広いグローバルな人材を育てるためにはこれは必須であり、今後は高大連携でめやすを作るなど、高大教員がさらに協力して取り組むべきだと痛切に感じる。