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第22回 冠詞に慣れよう(初級)

 専門:言語・文化教育学 中村 敦子  


語頭のアスタリスク(*)は、その語が誤りを含むことを表します。

22フランス語を始めたけれど、冠詞でつまづいてしまった、あるいはもやもやしたまま学習を進めている方、その悩みを解決します。

フランス語を始めたばかりの学習者が最初にぶつかる壁は、女性名詞と男性名詞の区別でしょう。名詞の性は意味のイメージで判別できませんし、語尾で判断するのも危険です。少し学習してくると e で終わる名詞は女性名詞のように思われますが、musée「美術館」は男性名詞 un musée です。

                


ツボその1:名詞の性は不定冠詞をつけて覚える

名詞の性を覚えるとき、「この名詞は女性名詞、これは男性名詞」のように覚えても、あるとき曖昧になってしまうものです。それだけでなく、実際にフランス語で表現するとき、たとえば une maison と言いたいときに「この名詞は女性名詞だから不定冠詞は une、 だから une maison だ」と考えてしまい、伝えるのに時間がかかります。そこで、名詞は不定冠詞をつけて、un musée [ アンミュゼ ]「美術館、博物館」、une maison [ ユヌメゾン ]「家」のように、不定冠詞をつけた音で覚えていきます。こうすれば、名詞の性が記憶されるだけでなく、すぐに une maison と表現できます。

ツボその2:母音、無音の h で始まる名詞に注意

定冠詞は名詞の性を覚えるのに役立ちません。le と la はエリジヨンするからです。エリジヨンとは、母音、無音の h で始まる語の前で e、a をとってアポストロフで示し l’ にして次の母音とひとつづきの音で発音することです。un hôtel [ アンノテル ]「ホテル」、une école [ ユネコル ]「学校」に定冠詞をつけると、l’hôtel [ ロテル ]、l’école [ レコル ] となります。習い始めのころは、とくに母音あるいは h で始まる語に注意しましょう。

ツボその3:複数名詞につける冠詞 desles に慣れる

英語を勉強してきた学習者にとって複数名詞につけるフランス語の冠詞もやっかいです。フランス語でも名詞を複数にするときは s をつけるのが原則です。ただし、この s は発音しません。フランス語のつづりの読み方では語末の子音字はふつう読みません。Paris は [ パり ] と発音することからもおわかりでしょう。単数の maison も 複数の maisons も名詞の音は同じです。そこで重要になるのが冠詞です。une [ ユヌ ] maison または la [ ラ ] maison と聞こえれば単数ですが、des [ デ ] maisons、les [ レ ] maisons と聞こえたら複数だと判断できるのです。複数名詞に用いる冠詞の存在はとても重要なのです。

  

5級聞き取り試験4にチャレンジしてみましょう。
フランス語の文を聞き取り、対応するイラストを選ぶ問題です。

5q16p4-4


聞こえる文は”Il y a des tomates.” (「トマトがあります」)。des [ デ ] の音を聞き取り、トマトが複数であると判断します。解答は②。

 


聞こえる文は”C’est une amie.”(「(女性の)友だちです」)。C’est [ セ ] の t を発音して次の une [ ユヌ ]とつづけて [ セテュヌ ]、une [ ユヌ ] は次の母音 ami [ アミ ] とつづけて [ ユナミ ]、文全体で C’est une amie. [ セテュナミ ] と聞こえます。男性の友だちであれば C’est un ami. [ セミ ] ですから、文中の不定冠詞の音の違いを聞き取り、解答は①の女性。

  

ツボその4:数ではなく、量でとらえる部分冠詞

フランス語には英語にはない部分冠詞と呼ばれる冠詞があります。不定冠詞、定冠詞は名詞が表わすものを数でとらえますが、部分冠詞はそれを量でとらえます。数えられない、とくに数えない名詞に用いるのはそのためです。De l’eau, s’il te plaît. 「水、お願い」のように、この部分冠詞はある量の水を表わしています。ここで注意するのは、カフェに入って「コーヒーを1つください」と言うときは Un café, s’il vous plaît. です。ここではコーヒーを量ではなく数の「ひとつ、1杯」としてとらえているからです。

ツボその5:数えられる名詞にも部分冠詞は使う

「数えられない名詞に用いるのが部分冠詞」と覚えがちですが、部分冠詞は数えられる名詞にも使います。その場合、数ではなく量を表わすので、1つのもののある1部分の量を表わします。パンをまるごと1つ表わすのが un pain で、その1つを切り分けた数切れを表わすのが du pain になります。

  

4級筆記試験1にチャレンジしましょう。4つの文のカッコに適切な冠詞または前置詞と定冠詞の縮約形を入れる問題です。


(1) Cécile a (  ) yeux bleus.

(2) Il a mal (  ) dents.

(3) Nous avons (  ) gros chien.

(4) Tu veux encore (  ) viande ?

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① aux  ② de  ③ de la
④ les   ⑤ un  ⑥ une
 

まず選択肢を見ていきましょう。①は前置詞 à と定冠詞複数 les の縮約形です。*à les ではなく、aux になります。②は否定の冠詞 de 、③は女性名詞に用いる部分冠詞、④は定冠詞複数形、⑤は不定冠詞男性単数形、⑥は不定冠詞女性単数形です。

(1) 形容詞 bleus に s がついていますから yeux は複数名詞です。これは un œil「目」の複数形です。④の定冠詞複数形を入れて Cécile a ( les ) yeux bleus. 「セシルは青い目をしている」となります。セシルの目のことを述べていますから、特定されたものを表わす定冠詞が使われます。

(2) avoir mal à ~ で「〜が痛い」の意味になります。この前置詞 à のあとに les dents「歯」の定冠詞複数形がつづきますから à と les の縮約形を用いて Il a mal ( aux ) dents. 「彼は歯が痛い」となります。実際に歯が痛いとき、痛い歯は一本かもしれませんが、設問文では定冠詞複数形 les を用いています。これは具体的に痛い歯を伝えているのではありません。「お腹」や「頭」ではなく、歯という体の部分が痛いことを伝えているだけです。歯は複数で成り立っていますから、「歯」というものを表わすときは複数形の定冠詞を用います。(J’ai mal à la tête.「頭が痛い」や、J’ai mal au ventre.「お腹が痛い」もいっしょに覚えておきましょう。)

(3) chien は単数名詞です。男性形の形容詞 gros から chien が男性名詞単数であることがわかります。男性単数に用いる冠詞は⑤の un しかありません。Nous avons ( un ) gros chien. 「私たちは大きな犬を飼っています」となります。不定冠詞は、話し手が聞き手に周知されていないものを伝える時に用います。聞き手は話し手が飼っている「大きな犬」のことを初めて聞いたことになります。話し手と聞き手の両者に周知されているものが話題になっているときは定冠詞を用います。

(4) viande は「肉」ですから、数ではなく量としてとらえるので部分冠詞を使います。Tu veux encore ( de la ) viande? 「お肉をもう少しいる?」と尋ねています。塊のロースト肉のある量を問題にして、もう少し欲しいかどうかを尋ねています。

4級では冠詞を使い分ける基礎知識が問われますが、難しそうだと思いこまないことです。まず6つの選択肢をしっかり見ること、次に設問文の名詞に注目し、性と数を確認します。その際、形容詞の形がポイントです。また数と量のどちらを表わしているのか。さらに aimer「好きである」のような動詞は総称を表わす定冠詞を用いることなどをおさえておけばもう大丈夫です!

              

いかかでしたか。冠詞のツボをおさえることができたら、次は実戦です!『仏検公式ガイドブック』に過去の問題と解説・解答が掲載されていますから、これを利用して検定試験の準備につなげていきましょう。