第15回 名詞の前に置く語: 冠詞、指示・所有形容詞(入門、初級)

東京工業大学名誉教授 中山眞彦

日本語とフランス語の大きな違いのひとつに、フランス語は原則として名詞の前には必ず冠詞などを置く、ということがあります。たとえば「彼は田舎に家を持っている」は、フランス語では「家」の前に、「一軒の」に当たるune を置かなければなりません。

(a) (b)は2008年秋季5級筆記問題1より。( )に適切な語を入れてください。

(a) Il a ( ) jolie maison.
des un une
(b) ( ) livre est intéressant?
Ce Ces Cette

答えを出す前に文法事項を整理しましょう。名詞の前に置く語には、男性単数形、女性単数形、男性・女性複数形があります。( )を埋めてください。
定冠詞 (英語のtheにあたる): le, ( ), les
不定冠詞 (英語のa, anにあたる): ( ), une, des
指示形容詞(英語のthisなどにあたる): ce, cette, ( )
所有形容詞 (英語のmyなどにあたる): mon, ( ), mes,…

名詞の複数形にはs (xの場合もある)が付きます。(a)の《maison》, (b)の《livre》はともにsがなく、ゆえに単数形ですね。ところが答案を見ると、約15%が(Ces) を選んでいました。フランス語学習の出発点を踏まえていないと言わざるをえません。

問題は名詞の性です。数えきれないほど沢山の名詞の、男性と女性をどうやって区別するか。実はこれには一定のルールというものがありません。ではフランス人もなかば当てずっぽうでやっているかと言えば、さにあらず。性を間違えることはまずありません。区別すると言うよりも、初めからおぼえているようです。不思議と言えば不思議、母国語とはそういうものなのでしょう。

われわれ日本人はなかなかそうはゆきません。せめて基本単語は性もいっしょにおぼえるべきですが、初級からそれを厳しく求めるのは無理です。そこでヒントを出しています。(a) (b)では、名詞に付く形容詞の性でもって名詞の性を示しています。(a)の《jolie》は女性形、(b) の《intéressant》は男性形ですね。

したがって正解は、
(a) Il a (une) jolie maison. 「彼はきれいな(素敵な)家を持っている」
(b) (Ce) livre est intéressant? 「この本は面白いですか?」

正解率は、
(a)が約75%。(un)を選んだ答案が約20%だったのは残念。
(b)は正解が60%に過ぎない。(Cette)が約25%。
ここをクリアしないとフランス語は先に進みません。 面倒な文法事項ですが、しっかり頭に叩き込みましょう。

さらに厄介なことがあります。冠詞などは、次に来る語と音をつなぐために、形を変えることがあります。具体的には、次に来る語が母音で始まっているときには、冠詞などの一部が以下のように形を変えます。
定冠詞: le→l’ , la→l’
指示形容詞: ce→cet
所有形容詞: ta→ton

練習に次の穴埋めをやってください。
定冠詞を入れなさい。(1) ( ) aéroport 「飛行場、男性」 (2) ( ) église「教会、女性」
指示形容詞を入れなさい。(3) ( ) enfant 「子供、男性」
所有形容詞 (私の)を入れなさい。(4) ( ) amie「女の友だち、女性」

上の答えは、(1) l’aéroport (2) l’église (3) cet enfant (4) mon amie

さて、2008年秋季5級に次の穴埋め問題がありました。  (c) C’est ( ) école?
ta tes ton

école「学校」は女性名詞ですね。だから所有形容詞はtaが入ると考えてしまいますが、しかし《école》と母音で始まっていることに注意。正解は、
(c) C’est ton école?「これは君の学校ですか?」となります。

écoleが女性名詞であると知っていることが仇になった、と言うべきか、taを選んでしまった答案が約30%。意地が悪い、と不満な人も多いことでしょう。

しかしフランス語にはそれ独自のルールがあって、これに従うことが学習の手始めです。そしてルールは決して滅茶苦茶なものではなく、一定の考え方がゆきとおっています。名詞の前に置く語には、男性単数形、女性単数形、男性・女性複数形の三つがあること。これらの語と次に来る語は音をつなぐようにすること、などです。さらに言えば、名詞とその前に置く語は一心同体である。あるいは、名詞がその前に置く語を分泌する、と考えてもよいでしょう。

2008年秋季の問題1にはさらに二つの穴埋めがあって、こちらは部分冠詞がポイントです。正解率はなんと50%前後。この部分冠詞もまたフランス語独特の考え方ですから、入門段階の学習者にはなかなか難しいのでしょう。機会をあらためて解説したいと思います。

第14回 語句と語句の接続 (上級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年秋季準1級の筆記試験(8)は、次の日本語文章をフランス語に訳すことを要求しています。

「私は待つのが苦手だった。ヨーロッパに旅行したとき、エレベーターにドアを閉めるためのボタンがなく、2~3秒の間にもいらいらすることがあった。それにもだんだん慣れてくると、のんびりしたペースで生きるほうが楽であることに気がついた。」

全体は三つの文から成っているとして、最初の文と最後の文について見てゆきます。まずは「私は待つのが苦手だった。」

翻訳(仏文和訳、和文仏訳)は、個々の語にとらわれずに、語と語の集まりが全体として何を言おうとしているかを判断することが肝要です。「苦手だ」という日本語特有の言い回しにこだわりすぎると、肝心のフランス語の発想がそこでストップしてしまう恐れがあります。

答案の多くはこの点をすでにクリアしていて、《Je n’aimais pas attendre.》とずばり文意を表現、これは解答例そのものであって、さすがに準1級であります。《Pour moi, il était difficile d’attendre.》《J’avais du mal à attendre》などの答案も可です。

《(誤) il n’était pas facile à attendre.》がありました。なるほど「facile à + 不定詞」 という言い回しがありますね。ただし後者の場合の不定詞はfacileが形容する語句を目的語とする (例: une voiture facile à conduire 「運転しやすい車」←conduire une voiture)のに対し、前者は il (またはc’) est facile de + 不定詞「~することは容易である」の構文です。字面はわずかにàとdeの違いですが、しかしフランス語の基本がどれだけ身に付いているかがここで問われます。

《(誤) Je n’aimais pas d’attendre》もありました。フランス語の初歩がおろそかです。さらには《(誤) Je n’aimait pas …》が決して例外数ではない。せっかくの良い発想がこれでは台無しです。

「それにもだんだん慣れてくると」

《Au fur et à mesure que》を出だしとする答案がかなりの数、これも解答例と同一です。文の中に《de plus en plus》《peu à peu》を挿入する答案も多数で、準1級受験者のレベルの高さをうかがわせます。

「それにも」は《je m’habituais à cette situation.》とくだいて表してもよく、《je m’y habituais》(解答例と同じ)と代名詞を用いてもよいでしょう。《je m’y suis habitué》は動詞の時制が微妙ですか、得点圏内だと思います。

「慣れる s’habituer」は代名動詞です。《(誤) je pouvais habituer》《(誤) en habituant》などの誤りが目立ちました。基本単語はしっかり身につけなければなりませんね。

「のんびりしたペースで生きるほうが楽であることに気がついた。」

《j’ai compris que …》《je me suis rendu compte que …》など、出だしはほぼ全答案が好調。解答例は《je me suis aperçu(e) que …》で、これも多数。

とは言えこの続きで、これまで指摘した誤りが繰り返されて、減点になってしまう答案が少なくなく、まことに残念です。

まずは代名動詞。《j’ai aperçu …》がかなりの数でした。他動詞 apercevoir 「~を目にする」と代名動詞 s’apercevoir (de, que)は用法としては別の語です。

そしてなによりも良くないのが、il (c’) est + 形容詞 + de + 不定詞の構文を守っていないこと。《(誤) il est plus simple à vivre lentement.》など (lentementもフランス語としては問題です。解答例はtranquilleを用いています。)

要するに前置詞の問題ですね、と言われればなるほどその通りですが、しかし前置詞の穴埋め以上にフランス語のより総合的な力をテストしています。穴埋めの場合なら与えられた構文だけを考えればよいのですが、ここではいくつか可能な構文がある中から一つを選び、それに則した前置詞を的確に用いることを要求しています。と言っても格段難しいことではなく、中級の段階ですでに通過しているはずのレベルが、本当に身についているかどうかを試しているのです。

たしかに上級には上級なりの高度なフランス語の知識が必要です。しかし実際の点取りには(あるいは点を失わないためには)、初級・中級レベルを確実にマスターしていることがより重要である。これは以前にもこの「学習のツボ」に書いたことですが、あらためて注意を喚起しておきます。

第13回 見当をつけるためにもやはり知識が必要 (初級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年秋季の4級筆記試験より、問題3を取り上げます。会話の空白を埋める問題です。まず問い(1)をやってみてください。

A: Combien de temps faut-il pour aller chez toi?
B: ____________________________
A: Ah, c’est tout près.
① Cinq minutes à pied.
② Il fait beau.
③ Il faut deux heures.

時間について質問していますね。Combien de temps …? (どれくらいの時間・・・?)。何のための時間かといえば、pour aller chez toi (君の家に行くため)。

したがって、Il fait beau.(よい天気だ)は真っ先に除外。

残る二つのポイントはcinq minutes(5分)とdeux heures(2時間)です。決め手は、Aの二度目の発言の中のprès(近い)。

以上の語のほかにも、il faut (・・・が必要だ)、à pied (歩いて)、tout(とても)がありますが、かりにこれらを知らなくても正解①を引き出すことができます。しかし肝心の語、とくに prèsを知らなければ見当をつけることも難しいですね。解答欄の③に印を付けた人が約15パーセントでした。

今度は問い(3)をやってみましょう。
A: Tu n’as pas vu ma clé?
B: _________________________________
C: Merci beaucoup.
① Elle est sur ton bureau.
② Elle n’est pas venue.
③ Quelle clé?

勘が良い人は、ma clé (私の鍵)とsur ton bureau (君の机の上)だけで、正解①に見当をつけたことでしょう。

逆に、clé (鍵)の単語を知らないと迷ってしまいます。迷うと、Tu n’as pas vu…? (見なかった? voirの複合過去形)やElle n’est pas venue. (来なかった。venirの複合過去形)が気になります。加えて、Elleを「彼女」と解釈すれば、「見なかった? – 来なかった」の応答が成立するように思えて、②をマークしてしまいます。このケースが約8パーセント。

フランス語のelleは、なるほど女性代名詞ですが、英語のsheとは違って、人間(さらには動物)の女性だけを指すのではありません。女性名詞一般を受けます。ここではcléが女性名詞ですね。日本語に直せば、「彼女」ではなく、「それ」。

2008年秋季のやはり4級筆記試験に次があります(問題8)。
Vous avez une maison à la montagne? (山にお家を持っていらっしやるの?)
Mais non! Elle est à nos amis, les Martin.(いいえ! お友だちのマルタンさんのお家ですよ。)
Elleは(la) maisonを受けています。être à ~は「~のものである」

ところでこの問い(3)には落とし穴があります。空白に③を入れて、Tu n’as pas vu ma clé? (私の鍵を見なかった?) - Quelle clé? (どの鍵?)は、これだけなら応答がなりたちますが、しかし次にMerci beaucoup (たいへん有り難う)がくることはまずないでしょう。よほどひねくれた人たちなら、あるいは剣呑な雰囲気なら、話は別ですけど。実際にこの落とし穴に落ちた人はごく少数でした。

問い(2)にも同様の落とし穴が仕掛けられていますが、引っかかった人はやはり少数。問い(4)はほとんど全員が正解でした。

実際にフランス語を使うときは、いくつかの主要な言葉をヒントにして、見当をつけてやり取りすることが多いのではないでしょうか。母国語の場合もそうかもしれませんね。その他の言葉は、見当を補強するか、あるいは見当違いの方向に脱線するのを防ぐかの役割をしています。今回のprès (近い)やclé (鍵)は生活上の基礎単語ですから、ぜひ知っておきたいものです。

第12回 日常よく使う言葉を正確に覚えよう

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年度秋季仏検の2級書き取り問題は、ある女性の朝の通勤の話です。その一部に次があります。

D’habitude le bus est à l’heure. Mais hier matin, elle a dû attendre une demi-heure à cause d’un embouteillage.
「いつもはバスは定刻どおりです。しかし昨日の朝は、交通渋滞のために半時間(30分)待たなければなりませんでした。」

ひとつひとつの語句について実際の答案を見てゆきましょう。

D’habitude「いつも、通例」。これはほとんど全員が正しく書いています。

le bus est à l’heure. 「バスは時間どおりに来ます。」Etre à l’heure 「時間が正確だ」という熟語表現です。

この熟語を知らない人がかなりいました。(誤)le bus est alors; (誤)le bus est heure, など苦しい解答が目立ちます。(誤)le bus est à heureは、意味は分かっているのでしょうが、フランス語の熟語としては間違いです。

à l’heureは日常生活できわめてよく用いる言葉です。Elle est toujours à l’heure.「彼女はいつも時間をきちんと守る」。Il n’est jamais à l’heure.「彼は約束の時間に来たためしがない」。Le train est arrivé à l’heure,「列車は定刻に到着した」、など。しっかり覚えておきたい表現です。

Mais hier matin「しかし昨日は」。ここはほとんど全員正解。

elle a dû attendre.「彼女は待たなければならなかった」。ここの正解は少数にとどまりました。

もっとも、(誤)elle a dû l’attendreは文法的に筋が通っていて、書き取りdictéeでなかったら正解にしてあげたいところです。なるほどattendreはまずは他動詞ですね。だから目的語を付けるのが普通だとも考えられます。Je t’attendrai jusqu’à trois heures.「3時まで君を待っているよ」。

その一方でattendreは目的語なし、すなわち自動詞としても用います。目的語が自明である、ということでしょう。日常ではこの用法が多い。J’ai attendu deux bonnes heures.「二時間たっぷり待ったよ」。Attends un peu.「ちょっと待ってくれ」、など。問題文では待つのが「バス」であるのは自明だということなのでしょう。

elle a dû… はdevoirの過去分詞 (^が付いている)は難問といえば難問ですね。しかしdevoirはフランス語の基本語ですから、変化を正確に覚えておくことが大事です。これをクリアーしている答案が少なかったことは残念。

une demi-heure「半時間、30分」。- (トレ・デュニオン)が曲者ですね。(誤)une demi heureが多数。(誤)une demie heureも少なくない。両者とも口頭コミュニケーションならすんなり通じてOKですが、書き取りでは隙を突かれました。口惜しい! と言うべきか。

à cause de(d’) は、ほぼ全員OK。

d’un embouteillage「交通渋滞(のために)」。ここは正解がきわめて少ない。その理由に次の二つが考えられます。

一つには、embouteillageという単語が綴りが長くて難しい感じです。しかし「交通渋滞」なら誰でも一日に何度となく耳にし、自分でも用いているはずです。現地で生活をしたことがある人にとってはごく身近な言葉ですが、そうでない人には難しいと思えるでしょう。この点が外国語学習の関門ですね。embouteillageはbouteille「ボトル」から作られた語で、「ポトル(の口)が詰まっている」といった感じ。言い得て妙。

もう一つは、embouteillageの前に置くべき冠詞の問題です。(誤)d’embouteillageが少なくない。「交通渋滞」は、「彼女」が待っているバスの路線のどこかで具体的に起きたわけですから、冠詞を省くことはあり得ません。他方、(誤)de l’embouteillageはこの点に注意を払っていますが、しかし問題文では「交通渋滞」そのものについての言及はありませんから、限定作用をともなう定冠詞 le を用いるのは行き過ぎでしょう。テープの音声にいまひとつ注意を払ってもらいたかった。(誤)d’une embouteillageが目立ったことについても同様。

日常生活の表現は、現地で暮らしている人ならごく自然に頭に定着するのですが、その機会がまだない人にとっては意外に難関です。参考書などでしばしば目にする言葉で、これは、と思ったものは、少なくとも自分で書いてみることが必要でしょう。ラジオやテレビ、また録音テープの音声に親しむことももちろん効果的ですね。

第11回 言葉のピントを社会の現実に合わせよう(上級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年秋季準1級の筆記問題7は、フランス語のテクストの要点について日本語で解答することを要求しています。主題は学校教育における体罰の問題であり、体罰の可否をめぐっていろいろな立場からの意見が示されています。日本でもきわめてアクチュアルな問題ですね。

ある教師が生徒をなぐったということで生徒の親から告訴されました。この事件に対する反応のひとつとして、まずは《Deux syndicats enseignants apportent leur soutien à leur collègue.》(「教師の二つのsyndicatsが彼らの同僚を支持する」)とあります。「彼らの同僚 leur collègue」とはもちろん体罰を加えたとされる教師のことです。

さてsyndicat(s)の訳語ですが、答案では「教師仲間」「同業者の教師たち」などが目立ちました。なるほどそうには違いないが、しかし、ただ「仲間」「同業者」であることと、組織的な集団を結成することとでは、社会的な意義がまったく別です。職場における組合組織は近現代の世界を動かしてきた大きな要因のひとつであります。

もっとも今日の日本では「同業者仲間」と「組合」の違いが判然としない面があるのも事実ですね。職場に労働者組合がない場合のほうがむしろ多数であるといえるかもしれません。だがフランスはそうではなく、たとえば最近のニュースでは、教職員組合syndicat d’enseignants、さらには高校生の組合syndicat de lycéensが、中等教育改革についてデモなどの活動をしている模様がほぼ連日報道されています。

各国の出来事を世界共通の視野でもって捉えることが大事ですね。知的グローバリゼーションとでも言いましょうか。と同時に、共通の事柄にそれぞれの国がそれぞれの言葉をあてはめていることにも注意が必要です。

《(…), le Premier ministre a affirmé que lui aussi le soutenait.》(「le Premier ministreは自分もまた彼を支持すると言明した」。「彼」とは告訴された教師のこと)。le Premier ministreを「大統領」とした答案が少なくない。le Premier ministre =「首相」→ 国の最高代表者 → フランスなら「大統領」、という具合に気をまわしたのでしょうか。しかしフランスにはPremier ministre「首相」とは別に(その上に) Président「大統領」がいます。

《En sa faveur, quelque 150 personnes se sont rassemblées hier devant le collège.》 (「彼(告訴された教師)を支援して、約150人が昨日le collègeの前に集まった」)。le collègeを「小学校」とした答案がやはり目立ちました。フランスの学校制度はécole primaire「小学校」、collège「中学校」、lycée「高校」であることは常識として抑えておきましょう。

以上に関連して、言葉のピントを、述べようとする物事にぴったり合わせることがとにもかくにも肝要です。「筆者は権威をどのように考えていますか」の設問に答えるヒントとして《(…) c’est la capacité à être obéi sans user de la force.》(「それはde la forceを用いないで従えさせることである」)があります。de la forceを「権力」とした答案がかなりの数でした。場合によってはforceが「権力」の意味になることもあるでしょうが、しかしここの話題はあくまでも「体罰」です。ピントがぼけると何を言っているかが曖昧になりますね。

同じ設問へのヒントとして《Si je le fais, c’est que je n’ai plus ou pas assez d’autorité.》(「もし私がそれ(体罰を加えること)をするなら、それは私がもはや、あるいは十分に、autoritéを持たないということだ」)もあります。autoritéを「権力」とする答案がかなりありましたが、これもピンぼけですね。教師に求められるのは「権力」ではなく「権威」であるということを筆者は主張しているわけです。

そんなのはフランス語の知識とは別ではないか、という反論があるかもしれません。これに対しては仏検は明確な姿勢を持っています。なるほどフランス語は一つ(あるいはいくつか)の国に固有な言語ですが、しかしあくまでも世界共通の物事を述べようとしている。日本語もまたしかり。固有と共通のかねあいこそが言語運用の鍵である。この姿勢で仏検のすべての問題を作成しています。とくに上級では受験者がこの姿勢を分かち合ってくれることを期待しています。

第10回 文と文を接着させる語および文の構造 (初級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

文と文を接着させる語、すなわち関係代名詞であります。さっそく次を解いてください。2008年秋季仏検3級筆記問題より。

下欄の語をすべて用いて文を完成したとき、(  )内に入る語はどれですか。
Tu connais _ _ (  ) _ _ tes soeurs?
avec / garçon / le / parle / qui

quiが関係代名詞すなわち接着剤ですね。quiの後には動詞がくるはずですから、まずはqui parle(話す、話している)。parler avcc(~と話す)とつなぐと、tes soeurs(君の姉妹)は話し相手であることがわかります。したがって全体は Tu connais le garçon qui … となります。

Tu connais le garçon qui parle avec tes soeurs?
「君は君の姉妹と話をしている男の子を知ってる?」

この問題は沢山の語を並べなければならないので、かなりてこずるのではないかと心配しましたが、案に相違して正解率は80%に近い。これに対して、空白は一箇所だけの次の問題では正解率が65%ほどでした。やはり2008年秋季3級筆記問題より。

(  )内に入れるのに最も適切な語はどれですか。
J’ai une amie (  ) le frère travaille à Paris.
dont / que / y

y は動詞の直前にくるべき語であるということだけですでに不適切。意味の上でも y 「そこで」を括弧内に入れたらちんぷんかん。さすがに y を入れる人は極めて少数でした。

残る dont と que のどちらを選ぶかということになります。これらが関係代名詞だということを知っていることが大事ですね。関係代名詞は文と文を、それぞれの一部を重ね合わせる形でくっつけます。重なる部分は、関係代名詞の直前の語(句)すなわち先行詞と、関係代名詞に続く文の基本要素です。ここで言う基本要素とは、文が文として成り立つために不可欠な部分のことです。関係代名詞を使いこなすためには、ぜひとも文の基本構造を理解しなければなりません。

フランス個の文の基本構造を見極めるためには、まずは次の二つの目安があります。
(A) 主語 + 自動詞
(B) 主語 + 他動詞 + 目的語

問題文の関係代名詞に続く文 le frère travaille à Parisについて見れば、これは基本型(A)に属します。le frère travaille 「その兄さんは働いている、勤め人である」だけで最低限の意味はすでに成立しますから、à Paris「パリで」はいわば付け足し、補足説明の役です。ただし実際のコミュニケーションにおいてはこちらの情報こそが大事だということが多々あります。今回はあくまでも説明を文の基本構造に集中していることをご理解ください。

というわけで、(  )には que は入りません。que(目的格) は基本構造(B)の場合ですね。que を入れる答案が少なくなかったのには驚きました(約3割)。文の基本構造を理解することは意味を読み取り聴き取るための第一の条件です。これが不十分であれば意味の理解が支離滅裂になってしまいます。

参考として、次は2008年秋季仏検3級筆記問題の中からの抜粋です。
Je voulais retrouver les jouets en forme d’animaux que j’avais aimés quand j’étais petit. 「私は、小さいときに好きだった動物の形の玩具を見つけ出したいと思っていた。」

j’avais aimés「私か好きだった」はこれだけでは文になりません。何が好きだったか、すなわち他動詞aimerの目的語が不可欠です。関係代名詞que (= les jouets en forme d’animaux)はこの目的語に相当します。

ついでながら、関係代名詞が文の主語に相当するケースの例文をあげます。2008年秋季仏検3級の聞き取り問題より。Sylvieが日本からの旅行者に宿を取るためにホテルに電話をかけています。
LE RÉCEPTIONNISTE. Très bien. C’est à quel nom?
「受付係。かしこまりました。お名前は?」
SYLVIE. Madame Tanaka. C’est une amie qui arrive de Tokyo.
「シルヴィ。タナカさん。東京から到着する友だちです。」

arriverは自動詞ですから、目的語はいらない。すなわち基本構造(A)ですね。でも主語はぜひ必要で、これがqui (= une amie)に相当します。

さて当初の穴埋め問題にもどりますと、消去法によって残るのはdontだけですから、これを入れればおのずと正解になりますが、いますこしle frère travaille à Parisを眺めてみましょう。どこか据わりが悪い感じがしませんか?

le frèreの定冠詞 le が気になりますね。「その兄さんはパリで勤めている」の「その」とは何を言っているのか? これを説明するのがここでは関係代名詞 dont の役目です。すなわち dont は de+先行詞であり、le frère d’une (de cette) amie「友人の兄さんは」と読めば文意が完全に明瞭になります。

最後に3級の穴埋め問題過去問(2003年春季)から次を引きます。
C’est le roman (   ) on parle beaucoup.
dont / que / qui

これを解くためには、先に述べた文の基本構造について補足をしなければなりません。(A)型は実は二つに分かれます。
(A-1) 主語+自動詞
(A-2) 主語+自動詞+前置詞+補語
parler「話す」は自動詞ですが、これ単独で意味をなす(Il parle trop vite.「彼は早く話しすぎる、早口すぎる」)ほかに、前置詞をともなってはじめて意味が決まる場合が多々あります。最初に出した作文問題、Tu connais le garçon qui parle avec tes soeurs? もそれですね。parler avec ~「~を相手に話す」。同様にparler de ~「~について話す、~を話題にする」という用法があります。parler =「話す」と単語を暗記するだけではなく、このような前置詞付きの用法を理解することがぜひとも必要です。要するに単語はその用例と一緒におぼえたほうが効果的でね。

上の過去問の正解は、parler du (de ce) romanと理解して、C’est le roman dont on parle beaucoup.「それは(いま)話題の小説です。」

第9回 読解はやはり語彙力 (中級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

仏検2008年春季2級筆記試験の問題(6)を例に取ります。22行の文章で、要旨は次のとおり。

中心人物はインドの16歳の少女。インドは社会階層上の身分の区別(差別)が大きい(大きかった)と言われます。

中学を卒業した少女は高校に進学しました。高校は家から遠いので自転車を買ってもらいました。ところが通学の途中に上流階級の住宅地があります。下層の身分の者はそこを徒歩で通るのが昔からのしきたりです。しかし少女はあえて自転車に乗ってそこを通過します。その少女を護衛するために警官が同行しなければなりませんでした。

少女の勇気のおかげで古い因習はなくなりました。いまは誰でも歩いてこの地域を通ることができます。18歳になった少女はさらに学業を続けて、将来は教師になりたいと考えています。

以上の要約ができたら、もう山を越した感じですね。そのためにはやはり語彙力が必要です。finir par+不定詞 (~することで終わる、ついに~する)、se mettre en route (出発する)、mettre pied à terre (足を地に置く、歩く)などを知っている必要があります。

さて設問は、問題の文章に内容が一致するか否かを問う文が計七つ。いわゆる○×式です。このうちの三つを取り上げます。

問い(4)。D’après Adhika (少女の名前), même avec les deux policiers, elle aurait pu être tuée. 「Adhikaの言うところでは、二人の警官が付き添ったにしても、殺される目にあったかもしれない。」

設問に対応する個所が問題の文章の中にあるはずです。それを探し当てれば、もう土俵儀をまで追い詰めましたね。ここは《Sans eux (=les deux policiers), j’aurais été tuée.》「彼らがいなかったら、私は殺されたかもしれない。」したがって答えは×(解答欄の②にマーク)。

誤答が約20%。elle aurait pu être tuée と《j’aurais été tuée》が似ている、すなわち両方とも条件法過去である、ということに幻惑されたのでしょうか。土俵際のうっちゃりに用心。même avec euxとsans euxはまったく反対ですね。

問い(5)。Les autres familles《dalits》(Adhikaが属する下層階級)ont décidé de donner raison aux hautes castes pour leur plaire.「dalitsの他の家族はみな上層階級におもねて上層階級の言い分が正しいとした。」

要旨がつかめていれば、×だと見当がつきますね。問題文章では Impressionnées par son courage, les autres familles《dalits》ont décidé de la soutenir malgré l’opposition des hautes castes.「彼女の勇気に感銘を受けたdalitsの他の家族たちは、上層階級の反対にもかかわらず彼女を支持することを決意した。」が該当個所です。

ここも誤答が約20%。設問文のdonner raison à ~「~に理を与える、~に賛同する」がピンとこなかったのでしょうか。

設問(7)。Adhika veut un jour enseigner dans une école.「Adhikaは将来は学校で教えることを望んでいる。」

該当個所は(Adhika veut continuer ses études ) pour devenir institutrice.「Adhikaは勉強を続けて先生になることを望んでいる。」

もちろん○ですね(解答欄の①をマーク)。ここは簡単だと思いましたが、誤答率が25%は意外。きっとinstitutriceで迷ったのでしょう。これはフランス語で「先生」を名付ける仕方に関係します。中学・高校・大学はprofesseur、小学校はinstituteur, institutriceで、なるほどこの区別は日本にはありませんね。しかし「学校」や「教育」は文化の土台ですから、フランス語を学ぶ者として、踏まえておきたいところです。

今回の結論。読解はやはり語彙(単語、熟語)が決め手です。テクストの趣旨を把握するためには沢山の語を知っていることが必要ですし、さらに趣旨のポイントを的確につかむためには語の意味を正確に理解していることが肝要です。ポイントとなる語をたまたま知らなかったのは、さしあたり運が悪かったわけですが、しかしこの方面の開運は人の努力次第であると、体制を立て直しましょう。

第8回 点を得ること、点を失わないこと(上級用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

仏検の1級、準1級は極めて難関であります。単語はもはや制限なし(特に1級)、文法事項は何でもあり、内容は政治・経済・文化・科学、等の全分野に及びます。にもかかわらず毎回沢山の人が受験して、日本人のフランス語力のほどを証明しています。なによりも、限られた時間内で、あれだけの分量のフランス語に取り組む意欲は、まさしく称賛に値します。

仏検で点を得るためには、フランス語の知識が多ければ多いほど有利なことはもちろんです。ただし、難しい問題を見事に解いても、片方やさしいところでつまずいたのでは、元も子もなくなってしまいます。仏検はやはり点数がものを言う試験です。そこで今回は、「点を失わないこと」にあらためて注意をうながしたいと思います。

例として2008年春季1級の書き取り(dictée)問題。内容は、将来、一般人も宇宙滞在が可能になるであろう、との見通しのもとに、希望者をつのる企画がある、という話です。正解の一部を引用します。

Selon les estimations des promoteurs du projet, près de 40 000 personnes dans le monde auraient les moyens de se payer un tel séjour, mais la proportion de ceux qui seraient prêts à consacrer une telle somme à un voyage dans l’espace reste inconnue.

企画の発案者の見積もりによれば、世界中で四万人の人がこのような滞在の費用を支払う財力があるだろうとのこと。しかし、宇宙旅行のためにこのような金額(四百万ドル、ということが前出)を費やしてもいい、という人の割合はなかなかわからない。

間違いが目立った6個所を抜き出します。

1) 正解: les estimations des promoteurs du projet 「企画の発案者の見積もり」

誤答例: (x) du promoteur 数の取り違え。冠詞desをしっかり聴き取って欲しかった。

誤答例: (x) des promoteur 名詞複数のs が脱落。フランス語の基本の基本。

誤答例: (x) de promoteur フランス語の仕組が理解できていないのではないか。promoteursは話題の中の特定の人物であるから、ぜひ定冠詞。

2) 正解: près de 40 000 personnes dans le monde auraient les moyens … 「四万人の人が財力があるだろう」

誤答例: (x) aurraient スペルミスでした、では済まされない。avoirの変化を覚え直すこと。

誤答例: (x) aurait  主語は複数である (près de 40 000 personnes)。文を全体として把握していない、とみなされても仕方がない。

3) 正解: se payer un tel séjour 「そのような滞在の費用を支払う」。ここは正解が少ない。

誤答例: (x) payer  これが半分以上。se (自分のために)が脱落。脱落したままでは、支払うことは支払うが、誰が実際に宇宙滞在をするのか曖昧。たとえば伴侶のための支払いでもあり得る。例: Mon père m’a acheté un sac. 「父が私に鞄を買ってくれた」。meがなければ、お父さんは自分用の鞄を買ったのかもしれない。

誤答例: (x) un séjour  telが脱落。宇宙滞在という巨大なスケールの話題である。その感じを一貫して掴むことが肝要。

4) 正解: ceux qui seraient … 「・・・であろう人(たち)」。正解はほんの少数。

誤答例: (x) ceux que  queは目的格。関係代名詞は初級レベルの基本文法である。この間違いが半分以上であることには驚かされる。

誤答例: (x) ceux qui serait  動詞の数の間違い。ceuxはちゃんと複数性になっているのに、うっかりミスが残念。

誤答例: (x) ce qui serait  ceuxとceを聞き違えた。文意を振り返れば間違いに気づいたはずなのに。

5) 正解: ceux qui seraient prêts à consacrer … 「費やす用意がある人たち」

誤答例:(x) près à  この間違いはおそらく次の理由によるのだろう。まず、テープの音声がprêts à をリエゾンしていた。そして、リエゾンの「ザ」の音から、prèsを思いついた。
もしprèsならば、次に来る前置詞はàではなくdeでなければならない。そもそもprêt à 「・・・する用意がある」(品詞は形容詞)と、près de「・・・の近く」(品詞は前置詞)では大違い。
ここは、prêt-à-porter「プレタポルテ」など、単数形で印象づけられている語を、複数形で用いているところがミソであり、落とし穴であるとも言える。ここを誤った答案が三分の一ほど。

6) 正解: la proportion … reste inconnue. 「・・・の割合はわからない(未知である)」

誤答例: (x) inconnu 性の一致の間違い。たった一字なのに、と不服かもしれないが、これは重大な間違いである。文の主語(la proportion)がわかっていない、すなわち文意をまったく捉えていない、とみなされてもいたし方なし。

今回の結論: 最初に述べたように、仏検1級・準1級は、いわば、土俵もマットもなく、試合延長無制限の勝負です。死力を尽くす、などと悲壮がることはありますまいが、何でも来い、の気迫が欲しいところです。

何でも来い、何でもありの試合に、もはや安直なルールはありませんし、ましてやマニュアルが存在するはずがない。1級と準1級の参考書をもっと沢山作って欲しい、との要望をよく耳にしますが、それに代わるものが、世に行われているフランス語として、いまやわれわれの周囲に満ち溢れているはずです。これをどう活用するかは、この同じホームページの「合格者からの声」に掲載されている、仏検の先達のアドヴァイスを読んでください。

繰り返して強調したいのは、高度なフランス語の知識も大事だが、基礎はもっと重要だということです。例に出した書き取り問題などは、要するに、フランス語でじかに考える能力と習慣がどれだけ身に付いているか、を試しています。能力・習慣と知識は別です。いくら野球のことをよく知っていても、キャッチボールが下手だったら、試合には出してもらえませんね。

第7回 めげずに前置詞に立ち向かおう(初級用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

前置詞は、初級・中級では、穴埋めの形式で、一組の問題としてまとまって出ることが多いようです。2008年春季4級の筆記問題6について見てみましょう。

(1) Elle travaille ( ) la banque.
① à ② en ③ par
(2) Nous habitons ici ( ) 1980.
① à ②­ depuis ③ entre
(3) On achète des pommes ( ) le dîner?
① chez ­② pour ③ sur
(4) Sylvie va à Paris ( ) voiture.
① avec ­② de ③ en

(1), (2), (3), (4)それぞれについて見てゆきます。

(1) 誤答例: (en) la banque. ただしごく少数。働いている「場所」を考えたのでしょうか。la banqueは場所というよりは職業の「種類」を言っています。定冠詞 la はすべての「銀行」を総括する働き。もし働いている「場所」なら、dans une banque「ある銀行で」、dans la banque「その銀行で」。

したがって正解は Elle travaille (à) la banque. 「彼女は銀行で働いている」。

類例。Je passe les vacances à la mer.「私は休暇を海で過ごす」。休暇を過ごす場所の「種類」を言っています。「山で à la montagne」などに対して「海で」。

(2) 誤答例: (entre) 1980が少数。「1980年(の間)に」と考えたのでしょうか。もし「間」を言うのなら、entre A et Bの形にならなければなりません。たとえば「1980年の1月と7月の間」など。また、1980年は過去のことですから、動詞の現在形 Nous habitonsとも辻褄が合わない。

正解: Nous habitons ici (depuis) 1980. 「私たちはここに1980年以来住んでいます。」1980年から今までずっと、の「今」に基づいて、動詞は現在形。

類例。Depuis quand êtes-vous au Japon? 「いつから日本にいらっしゃいますか?」Je vous attends entre sept et huit heures. 「7時と8時の間お待ちしています。」

(3) 誤答例: (sur) le dînerが少数。surは「…の上」(例: sur la table「テーブルの上」)の意味ですから、le dîner「夕食」の前に置くことは考えられない。これは当てずっぽうの誤答でしょう。acheter des pommes「ジャガイモを買う」とle dîner「夕食」をつなぐのは「目的」の観念以外ではないはずです。

正解: On achète des pommes (pour) le dîner? 「夕食(用)にジャガイモを買おうか?」なおここのOnはNousの気持ち。夫婦などが買い物をしています。

類例: Il fait de l’exercice pour sa santé.「彼は健康のために運動をしている。」

(4) 誤答例; (avec) voitureがかなりの数。「自動車を用いて」、つまり「手段」のことである、と考えたのでしょう。なるほどMange avec la fourchette, pas avec tes doigts.「フォークを使って食べなさい。手では駄目(小さな子供に向かって)」などと言います。ただし冠詞または限定詞(avec la fourchette, avec tes doigts)が付いていることに注意。また、この場合の「手段」は手や指で扱える「用具」のことで、「自動車」はこれには当たらないでしょう。ここでの「手段」は移動するための「乗り物」のことです。

誤答例: (de) voitureがやはりかなりの数。なぜdeにしたのかは理解できない。当てずっぽうではないでしょうか。

正解: Sylvie va à Paris (en) voiture. 「シルヴィは自動車でパリに行きます。」 必ずしも自分で運転する必要はない。乗り物として自動車を用いるということ。

類例: 一般に乗り物はen+冠詞なしの名詞。en avion「飛行機で」、en bateau「船で」、en métro「地下鉄で」、など。ただしこれらは乗客の体が中に収まるような乗り物の場合であり、「上にまたがる」種類の乗り物は à cheval「馬に乗って」、à bicyclette「自転車で」となります。

今回の結論: 仏検は前置詞の問題が難しい、とよく聴きます。実際、前置詞は数が多く、その一つ一つがいくつもの用法に分かれていて、まことに複雑であり厄介であります。辞書でà、de などを引くと、字面を眺めるだけで頭が痛くなってしまいますね。フランス人って、よほど頭が良い人たちなのだ、と感心したくもなります。

他のことではさほど頭が良さそうでもない人までも、仏検満点の勢いでしゃべりまくるから、これまた不思議です。フランス語を話すことそのものが人間の頭を良くするのでしょうか?

ところがフランス語の前置詞は、よく見ると、必ずしも完璧な論理的整合性と緻密さを備えているとは言い難い面があります。「手段」「用具」「乗り物」の概念にしても、完全な分類と言うわけにはゆきませんし、どこで線引きをするのか曖昧になることがあるはずです。また実際の用法はかなりいい加減(?)な点があります。たとえば「自転車で」はà bicycletteが普通だとされていますが、en bicycletteと言ったりもします。「列車で」はen trainともpar le trainとも言います。それを自由自在に使って話すなんで、ますます頭が良い!

なるほど、そう考えて悪いことはありませんね。ただしその「頭」とは、理屈で固めたものではなく、フランス人(一般にフランス語を母国語とする人)が、赤ちゃんの頃から、初めはお母さんの言葉をまさに口移しに覚えて作り上げたものにほかなりません。ちなみに「母国語 la langue maternelle」は「母親の言語 la langue maternelle」の意味です(ラテン語のmater=mèreより)。

フランス語を学ぶとは、フランス語の母の声に耳を傾けることだと思います。理屈はその後からついてきます。ですから、目にし耳にする言葉のひとつひとつに注意を配りましょう。とくに前置詞はフランス語の要ですから、基本的な例文を正確に覚えることが第一です。

第6回 古池の蛙をどう数えるか (初・中級用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

古池や 蛙飛びこむ 水の音」。これをフランス語に訳す場合の一番の問題点を考えることから始めましょう。

「蛙」はgrenouilleです。「蛙」が「飛びこむ」から、grenouilleが主語であり、動詞は「飛び込む(plonger)」。正当な発想ですね。

しかし、いきなり《Grenouille plonge … 》としたらフランス語になりません。フランス語は「蛙 grenouille」が1匹(単数)か、それとも2匹以上(複数)か、ということにとてもこだわります。これを考えることがフランス語で考えるということである、と言ってもよい。

単数と複数の区別の仕方は、まず、複数は、名詞の語尾に、多くの場合、sを付ける(ただしsは発音しない)。他の少数の場合については参考書を読んでください。

と同時に、冠詞など、名詞の前に置く語で区別する。フランス語は、冠詞や、冠詞の働きをする語(所有形容詞、等)には単数・複数の区別があります。

以上を踏まえて、古池の蛙は、
1匹ならば ….. une grenouille
2匹以上ならば ….. des grenouilles

「蛙がいなかったら、どうなるの?」

なるほど、それも考えなければなりませんね。芭蕉は俳句を作らなかったであろう、としても。
《Il n’y a pas de grenouille.》「蛙はいません。」

この (pas) de はゼロを表す、と考えると便利です。整理すると、
一つだけ(単数) ….. un, une
二つ以上(複数) ….. des
ゼロ      ….. (pas) de

要は、この三つを除いては、フランス語には「蛙」は実在しない、ということです。数えることができるもの(者、物)には、必ずこの三つの区別を付けなければなりません。なお、もの(者、物)が特定されている場合は定冠詞(le, la: les)にします。

こうして、「古池や 蛙飛びこむ 水の音」の仏訳の一例は、
《 Ah! Le vieil étang Une grenouille y plonge (y = dans l’étang) Le bruit de l’eau 》

「蛙」を複数にする訳もあるようです。ネットで「古池や 仏訳」「古池や 英訳」を見てください。

さて、以上を基礎に踏まえて、次は、仏検2008年春季準2級の「書き取り(dictée)」の一部です。

Chaque jour elle (=ma mère) va faire les courses à pied. Elle aime beaucoup écouter de vieilles chansons. 「毎日彼女(年を取った母親)は歩いて買い物に行きます。彼女は古いシャンソンを聴くのが大好きです。」

単数と複数、あるいはものの数え方の面で、上の文から、(1) chaque jour、(2) de vieilles chansonsを抜き出します。

(1)を検討する前に、もう一度「古池や」に立ち戻ります。

「蛙」が7匹いると想定しましょう。すなわち、
grA, grB, grC, grD, grE, grF, grG.

7匹の蛙の全部について述べるのなら、普通には次があります。
les grenouilles (全体はおのずと特定されます。なお、des grenouillesでは全部になりません)

toutes les grenouilles (「全部」ということを強調しています)

chaque grenouille (「それぞれの蛙」。単数形に注意。)

聞き取り問題文の(1) chaque jourについて考えましょう。老齢の母親の一週間を次のように表してみます。
jL, jMar, jMer, jJ, jV, jS, jD.

上の記号が二つの要素から成っていることに注目してください。j (jour)はすべてに共通ですね。たとえば、たとえそれぞれの日の内容は違っていても、一日が24時間であることには変わりない、など。これに対してL(lundi), Mar(mardi), … は内容が様々です。「蛙」についても同じことが、言おうと思えば言えますね。出眼も細目でも、蛙(gr)は蛙(gr)だ、いや、目玉の違い(A, B, C …)はやはり無視できない、云々。

さて「全部の日」が、j に焦点を絞って言うのであれば、j を共有する日「それぞれ」のことであり、《chaque jour》となります。j (L, Mar …)と考えればよい。同一のものが一貫する、といつた感じですね。ここは単数形。

これに対して、L, Mar… にウエイトをかけるなら、いろいろな日があるものの、とにかく「それらすべて」ということで、《tous les jours》となります。もちろん複数形です。

フランス人の頭の中がすこし見えてくる気がしませんか。ところで、日本語の「毎日」はどちらでしょう? また、《tous les jours》にぴったりの語は何でしょう?「来る日も来る日も」ではやや大げさですね。

仏検の答案には次の間違い(x)が目立ちました。
(x) chaque jours.
(x) chaques jours

ともに気持ちはわかります。でもこの気持ち、あるいは日本人だけのものかも。

(2)のde vieilles chansonsについては、フランス語の約束があります。すなわち、多くの場合、不定冠詞複数形+形容詞+名詞(複数形)では、不定冠詞はde に変わる。
たとえばdes grenouillesに形容詞petitesが付くと、
→ de petites grenouilles

これはフランス語の文法(文の法律)ですから、左様でございますか、と従うほかはありません。

問題文では、des chansonsに形容詞vieillesが付いて、
→ de vieilles chansons

仏検の答案では次の誤答(x)が多数でした。
(x) de vieille chanson
deがゼロの印になってしまいますね。お母さんは歌を聴かない、ということになりかねない。
(x) vieilles chansons
フランス語の数は名詞だけでは不十分。
(x) des vieilles chansons
文法違反。悪法(?)もやはり法。

総じて、フランス語は数について几帳面である。神経質でさえある。ということを今回の結論にします。

第5回 やはり一般教養(上級そしてすべての人用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

Des gènes récessifs, このフランス語、知っていますか? 医学や生物学をやっている人は別として、なかなかすぐには答えが出ないのではないでしょうか。

しかし次の文章を読めば、ああ、あのことか、と思い当たるはずです。2008年春季仏検の1級の問題文の一部です。

(…) la fréquence des blonds va mécaniquement diminuer. Et cela d’autant plus que cette teinte de cheveux, comme les yeux bleus, est due à des gènes récessifs. Autrement dit, pour être blond, il faut hériter de deux gènes commandant ce caractère, l’un venu du père, l’autre de la mère.

(金髪の〔出生の〕頻度は機械的に減少してゆく。この髪の色が、青い眼と同様、des gènes récessifsによるからである。言い換えれば、金髪であるためには、この髪の色のgènesを二つ、父親から一つ、母親から一つ、引き継がなければならない。)

いわゆるメンデルの法則ですね。エンドウ豆の交配。生物の授業で習いました。これに思い当たると、des gènes récessifsそのものの日本語訳はもう必ずしも必要ではない。「筆者は生まれつきブロンドの人の数が今後減少するメカニズムをどのように説明していますか」という問いに日本語で答えます。解答例には「劣性遺伝に基づく…」の文言がありますが、「劣性遺伝」という学術風の日本語がとっさに思い浮かばなくても、十分な解答をすることができます。

しかし逆に、メンデルが発見したとされる遺伝の法則に思い当たらないと、まったく見当違いの答案を書いてしまうおそれがあります。ここが決め手でしょうね。

同じ問題(1級の筆記8番)に「筆者の言う《paradoxe》とは何を意味するかを説明してください」の問いがあり、これに該当する問題文は次です。

Mais on assiste aussi à un《paradoxe》: dans les prochaines décennies, la proportion de blond naturel va aller en s’amenuisant, et, pourtant, le mythe pourrait bien grandir.

 (しかしやはり一つの《paradoxe》が見られる。来る数十年で、自然の金髪の割合はどんどん小さくなってゆく。ところが、〔金髪の〕神話は増大し得るのだ。)

簡単な辞書には「パラドックス、逆説」などとありますが、これでピンと来ますか? フランス語で考えると、《para、逆の -doxe、〔世間一般の〕意見》、つまり普通に考えられているのと反対のこと、の意味になります。したがって上の文には相反する二つのことが含まれているはずで、それが、〔A〕et, pourtant〔B〕の構文になっています。〔A: 自然の金髪が少なくなる〕がdoxe、すなわち普通に考えられること、〔B: 金髪神話が勢いを増す〕がdoxeに対するpara、すなわち通念に逆行することですね。

決め手は〔A〕と〔B〕を対立関係として捉えること。答案はこれをはっきりさせないと完全ではありません。もし、〔A〕を言い換えると〔B〕になる、という風に考えてしまったら、もうそれだけで点を取りにくくなります。

Paradoxeは古代ギリシャ以来のヨーロッパの思考法の一つの重要な柱です。バカロレア(大学入学資格試験)にかならず「哲学」が課せられるフランス人には常識の内です。フランス語はフランス文化と不可分である。などといまさら述べ立てるまでもありませんが、当たり前のこともやはり勉強しないと本当に当たり前にはならないのですね。

やはり1級筆記8番からもう一つ。「『ブロンド神話』に関する筆者の意見を要約してください」の問いがあり、答案の材料として次などあります。

Vénus -Aphrodite, déesse de l’amour à la chevelure claire (ヴィーナス -アフロディテ、明るい色〔金髪のこと〕の愛の女神)
un signal d’invite sexuelle dans les années 1950 (1950年代の性的アッピールの印)

これらはOKでしょう。では、次はいかがですか?

une idéologie dans les années 1930 (avec le racisme hitlérien) (1930年代のある思想《ヒットラーの人種差別に伴う》)

ナチスによるユダヤ人大虐殺〔ホロコースト〕はもちろん知っていますね。その裏返しが、「アーリア人種」〔ヨーロッパ民族全般の祖先であると想定された人種。学問的根拠はないとされる〕の優越性の思想でした。白い肌、青い目、そして金髪をイメージしたのでしょう。おぞましく、恐ろしいことです。

さて以上を踏まえてあなたは、たとえば「筆者はブロンドを美の象徴だと考えている」という答案を、どう採点しますか?

第4回 文字の読み方

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

1.入門用

フランス語の字の読み方は実にややこしい、そう感じている人が多いことでしょう。教師にも伝わってきます。4月に授業を始めて、音声だけの最初の数回はすいすい進みますが、文字が出てくるととたんにストップです。フランス語などとらなければよかった、という顔もちらほら見えます。

でも、さじを投げることはない。ひとふんばりしましょう。実はフランス語文字の読み方はさほどむずかしくはありません。フランス語は基本的にはローマ字なのです。

ami [アミ、友人]、merci [メルスィ、ありがとう]。ローマ字だと思えばよい。簡単です。

とは言ってもまったくローマ字と同じというわけではない。そこがひっかかるところですね。これをクリアーするために次のことを頭に置きましょう。

要は母音字(a,i,u,e,o)である。4つのことに注意。

(1)単語の最後のeは読まない。amie [アミ、女の友人]、gare [ガール、駅]
(2)母音字が続くと要注意。mai [メ、五月]、tour [トゥール、塔]、など。
(3)母音字の後に m、n があれば要注意。enfant [アンファン、子供]、jardin [ジャルダン、庭]など。
(4)il(le)は辞書などで調べること。famille [ファミーユ、家族]、など。

もちろんこれで全部O.K.ではありませんが、突破口になることは請け合いです。あとは教科書や参考書を見てください。とにかく以上の4項目をいつも念頭におけば、音声と文字の接続が格段に早まるはずです。

2.初級・中級用

je verrai, tu verras, il verra,…voirの単純未来形ですね。私がこれを暗記した(させられた)のは、4月にフランス語の授業が始まって二ヶ月ほど後、夏休み前のことでした。単純未来形そのものはまだ習っていなかったはずですが、とにかく動詞変化を全部(接続法まで)暗記するのが単位をもらう条件でした。

21世紀の今日、そのような蛮行に及ぶ教師がいたらそれこそクビにもなりかねませんが、なにしろ半世紀以上前の学生は国民学校で、教育勅語はおろか、かの膨大な軍人勅諭を全部暗誦するというしごきに耐えていますから、これしきのことにたじろいだりはしません。(以上につき分からない点はおじいさん・おばあさんに尋ねてください。)

ただ一つ難点があって、それは、音声抜きの、まったく字面だけの暗記だったことです。先生が動詞変化表を読んでくれるわけではないし、録音技術はまだ普及していない。もっぱら鉛筆を動かして、がむしゃらに、動詞変化表を丸一冊、とにかく綴り字を暗記しました。当然のことながら疑問点が噴出します。同じ voir の変化である(と見えながら)、devoir の単純未来形は je devrai, tu devras, il devra,…と、e がなく r が一つなのはこれいかに?ずっと後になって、je verrai [ヴェレ]、je deverai [ドゥヴレ]、と聴いたときはハッとしました。ホッとした、と言うべきかもしれない。

この昔話に共感を寄せてくださる方々は、いっしょに次のことを確認しましょう。まずは単語の途中の、アクサンなしのeの字の読み方です。e の後に子音字が二つ並べば読む。例:mettre [メットル、置く]、nécessaire [ネ・セ・セール、必要な]。子音字が一つだけなら読まない。例:melon [ム・ロン、めろん]、demi [ドゥ・ミ、半分]。

これをさらに理屈っぽく言えば、音節の区切り方の問題になります。フランス語の音節の文字上の仕組みには、(1)母音、(2)母音+子音、(3)子音+母音、(4)子音+母音+子音、の4つの型があると考えてよいでしょう。ami [ア・ミ、友達] は a / mi で(1)型と(3)型、nécessaire [ネ・セ・セール、必要な] は né / ces / saire で(3)型と(4)型というわけですね。つまり子音字が続くとこれを分けることになります。例:actif [アク・ティフ、活動的な] は ac / tif で(2)型と(4)型。e を読むのは(2)と(4)型です。effet [エ・フェ、結果](ef-fet)など。

ところが厄介なことに、連続する子音字を分けないケースが少なくありません。retrouver [ル・トルゥ・ヴェ、再び見出す] は re / trou/ ver であり、したがって re の e は読みません。じゃあ、それを早く教えてください、とのご要望はもっともです。ただ話がますます込み入ってきて、ページの余裕も尽きましたから、今回は、辞書をぱらぱらめくって単語の出だしに着目してみたら、とだけ述べておきます。

以上の一部だけでも頭に置いておけば、フランス語の文字を読む際はもちろん、自分でフランス語を書く場合にもきっと役に立つはずです。

第3回 どうせ辞書をひくなら

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

辞書を引くのは厄介ですね。でも知らない単語は辞書で調べざるをえない。どうせ手間をかけるのなら、一石二鳥をねらってはいかがでしょうか。二つのことを提案します。(1)はみんなが試みてください。(2)は2級以上を目指す人に勧めます。

(1)声を出して辞書を引こう。

Il y a une compagnie ou je voulais travailler,…という文があります(2003年秋季3級筆記)。「働きたいと思っていた une compagnieがあります、・・・」ということですね。このcompagnieという単語を知らないとします。
そこで辞書を引きます。電子辞書にc, o, m, p, a, g, n, i,eと入力してクリックすると、compagnie会社、と出てきます。
「働きたいと思っていた会社があります、・・・」。これで当座の用は足りるのですが、コンピューターならぬ人間の頭脳のはかなさ、いま調べたばかりの語をすぐに忘れてしまうのが普通です。せっかく手間をかけたのに、もったいない!
もう少し頭に刻み込む方法はないか?入力の仕方を工夫しましょう。文字といっしょに音声で入力しましょう。すなわち、com [コン]?pa [パ]-gnie [ニ]。 こうすると、肝心の単語の綴りと音が記憶に留まるような気がしませんか?意味だけを調べてそれで終わりでは、フランス語そのものは頭を素通りしてしまうのですね。みなさんはかなりの時間をかけて辞書を調べているはずですから、この違いが蓄積されると結果は大きいと思います。
古典的な(?)辞書をめくっている人も同じことを試みてください。見出し語をcom[コン] ?pa [パ] ?gnie [ニ]と声を出して読むことですね。
あのぅ、読み方がわからないんですけど・・・たしかに、慣れないうちは難しく感じますよね。そこで次回のこのページで、フランス語の文字の読み方についてヒントを差し上げたいと予定しています。

(2)前後ものぞいてみよう。

2003年春季2級筆記に、… le chauffage central, l’aspirateur …という語句があります。20世紀の半ばに生活が便利になったという文脈です。
辞書を引いてみましょう。chauffage暖房、ああそうか・・・では欲がなさすぎはしませんか?ほんの少し後を見ると、chauffer暖める、があります。さらにその例文を見ると、chauffer une chambre部屋を暖める、とあります。これらをchauffageに重ねると、私たちまで身体がポカポカしてくるような感じがしませんか?これこそ、単なる訳語を超えた、フランス語の語感というものでしょうね。
central中心の よりも、すぐ後のcentre中心 のほうがイメージがつかみ安いと思います。地域の中心に大きな暖房装置を据え付けて、熱湯を各戸に配るわけですね。
aspirateur電気掃除機は、ぜひ、すぐ後のaspirer吸い込む を見てください。
なるほど、ごみを吸い込む機械なのだ。言い得て妙なり。フランス語は賢い!紙の上で接していたフランスが、ぐんと近寄ってくるような気がしませんか?

第2回 「わらべうた」でフランス語

カリタス小学校 麻田 美晴

なぜフランス語をやるの?Pourquoi tu apprends le francais?パリのキャフェでお茶を飲みたい。「星の王子さま」を原語で読みたい。大学の二外で取らされた。ジャン・レノのコマーシャルを聞取りたい。などなど理由は千差万別。でもおそらく共通しているのは、音がきれい。しゃべれたらかっこいい・・・ではないでしょうか。

そう、わたしもフランス語のメロディーに惹かれ、話すことに憧れて、勉強を始めました。う〜ん、でも道は遠いのです。「大学時代ちょっとやったけれど、全然だめ」という声をよく耳にします。「一つの言語をマスターするのには、その言語にとっぷり浸って5000時間かかる」と聞きました。じゃあ、諦める?いえいえ、日本にいながら、あまり遠回りをせずに、楽しみながらフランス語に近づく方法もあるので、それをちょっとお教えしましょう。

まず、フランス語を聞くことです。フランス語のもつ独特のイントネーションやリズムに耳を慣らしましょう。文全体をまとまりとして聞き、簡単な文から繰り返してみましょう。音楽のメロディーを覚えるように、言葉ひとつひとつがわからなくてもいいから、タララララという感じで全体の言葉の流れをつかんで、真似してみましょう。

でも、何を聞いて、真似すればいいの?フランス語のテキストについているCDの音がきれい!こんなふうにしゃべりたい!と思えればそれを真似してみましょう。聞いて、そのとおり口から出してみる。でも、テキストは無味乾燥でつまらない。真似したいけれど、文が難しすぎる。早すぎてとてもむり。

そういう場合には、フランス語のわらべうたCDブック(comptines avec CD)はいかがでしょう。3〜4歳の子供向けのものでも、英語圏の絵本とはイラストや配色が一味違い「おしゃれ」です。インターネットでAmazon.fr、Alapage.com、Fnac.comで注文すれば、1週間ほどで入手できます。わらべうたは、フランスの子どもたちが言葉に親しむようにと作られ、今でも家庭や幼稚園で歌い継がれているものです。歌うというよりも唱えるという感じです。フランス人なら誰でも知っている歌や詩がそこには紹介されていて、言葉だけでなく、その後ろにある文化も感じることができます。文法や単語はあまり気にせず、文をまとまりとして聞き、知っている単語や絵から全体の意味を推測しましょう。まずはフランス語の持つ、リズムやイントネーションに耳を慣らし、口を慣らすことです。

あるいは、もう単純にバック・グラウンド・ミュージックとして料理をしながら、車を運転しながら、お風呂に入って、なんとなく聞いてみましょう。そんなことでも、時間を重ねていくうちに、ある日突然、耳からウロコ。す〜っと単語が聞こえてきたり、意味がわかったりするから不思議です。Bon! On va écouter les comptines.

第1回 合格に有効な勉強法

言語の運用能力は聞く・話す・読む・書くの4つの要素から成っています。この4つの能力をバランスよく、しっかり身に付けることが大切です。

そのためにはまず、APEF発行の『仏検問題集』で過去問を研究し、各級の問題の傾向と要点を把握するとよいでしょう。

5級・4級では文法の初歩をマスターすること。自分の使っている教科書、参考書に付いているCDを繰り返し聞き、口真似すること。

3級ではフランス語文の意味を読み取る力が必要です。また、書き込む問題が出ますから、単語のつづりをしっかり覚えておく必要があります。

2級以上になると書き取り問題が出ます。聞き取って書く練習が必要です。また、多くの動詞の法・時制の活用を暗記し、使い分けを理解することが大切になります。二次試験(面接)がありますから、事態を報告したり、考えをまとめて陳述する能力が要求されます。

すべての級について、NHKラジオ・フランス語講座(入門編・応用編)で勉強するのはたいへん効果的です。

香川大学のフランス語教育

金澤 忠信(香川大学准教授)

香川では高松市中央公園内にある香川国際交流会館(通称「アイパル香川」)が仏検の会場になっています。昨年度からは2級と準2級の2次試験もこちらで開催するようになり、香川県内だけでなく四国の他県からも受験者の方が来るようになりました。香川県在住のフランス語話者はそれほど多いわけではないので、2次試験を開始するにあたって試験員探しに苦労すると思われましたが、適任者が見つかり、無事に実施することができています。

香川大学の学生で仏検を受験する学生は、現段階では正直あまり多いとは言えません。一応フランス語の授業の達成目標として、1年生前期までの学習で仏検5級、後期までで4級、2年生前期までで3級合格を奨励していますが、受験料など経済的な問題も含め、大学として義務化するまでに到るのは難しいのが現状です。履歴書の資格の欄に書けますよと言うだけでは、学生はなかなか重い腰を上げてくれません。

香川大学には教育学部、法学部、経済学部、医学部、工学部、農学部があり、全学共通科目の初修外国語には、ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語があります。近年の一般的傾向にならい、中国語と韓国語を履修する学生が増えています。例年フランス語履修者よりもドイツ語履修者のほうがかなり多く、これは香川大学の特徴あるいは伝統と言っていいかもしれません。いずれにしてもフランス語教育にとって必ずしも好ましい状況ではありませんが、とはいえ履修者数が極端に減少しているわけでもありません。毎年全学部合わせて100人あまりの1年生がフランス語を選択しています。

学部・学科によって多少事情は異なりますが、学生は1科目2単位として既習外国語(基本的に英語)6単位と初修外国語4単位か、あるいは既習外国語4単位と初修外国語6単位か、どちらかを選べるようになっています。後者を選んで2年生の前期まで初修外国語を履修するのは、フランス語では4分の1程度でしょうか。そもそも工学部、農学部は初修外国語が必修ではなく、その卒業要件も4単位であるため(これは医学部も同様)、カリキュラムの都合もありますが、理系で2年生になってもフランス語を継続する学生はほぼ皆無です。これは語学教師としては残念なかぎりです。工学部、農学部の数少ないフランス語履修者には、むしろ理系の人こそ外国語の勉強をして、大学で身につけた知識と技術を海外で活かせる人材になってくださいと授業中に言っています。ただ、たしかに香川大学には文学部や人文学部がないというのも、フランス語を長期的に、あるいは専門的に学ぶ学生が少ない理由のひとつかもしれません。また、卒業後も地元の中国・四国地方に就職する学生が多く、海外にまで目を向けたり行ったりしようとは思わない、いわゆる内向き傾向もいくらかあるように感じます。

既習外国語、初修外国語ともに、ほぼ毎年海外研修を行っており、10日から2週間程度、現地の語学学校や協定校に学生たちを連れて行っています。しかしこれまでフランス語の海外研修だけずっと行われていませんでした。学生からの要望もあり、今年度からはフランス語も海外研修を行うことになりました。実際に参加するのはおそらく10数名程度だと思われますが、参加希望学生らは当然モチベーションが上がり、それだけで授業の雰囲気ががらっと良くなったような印象があります。今後フランス語の海外研修が毎年行われるようになれば、参加した学生が2年生、3年生になってもフランス語を継続して学ぶようになり、また研修の経験を他の学生に話したりして、それが結果的にフランス語履修者の増加、ひいては仏検受験者の増加につながるのではないかと期待しています。ただ、他の言語も含め、この海外研修は経済学部の科目のため、学部によっては参加はできるけれども単位にはならないという問題もあります。今後はそうした制度上の改革をしていく必要がありますし、海外研修に参加した学生がそのあと長期留学することができる協定校を開拓しておく必要も出てくるでしょう。現在でもサヴォワ大学はじめフランスの大学といくつか協定はあるのですが、主に工学部のインターンシップ等に限られており、現地でフランス語を、あるいはフランス語で学ぶ環境が整っているとは言えません。交換留学を促進するためには、こちらから学生を派遣するのもそうですが、当然こちらでの受け入れ態勢も準備しておかなければなりません。香川は瀬戸内の島やお遍路など観光資源が豊かなので、将来こちらに来る学生にはそうした地方独特の文化を学んでもらえたらと思います。また、こちらから行く学生にも、海外のことを学ぶのと同じくらい、自分たちの文化についてよく知ってほしいと思います。たとえ短期間の滞在であっても、外の世界を知ることで、翻って自分たちの社会や文化をよりよく理解できるようになります。むしろそれこそが外国語や異文化を学ぶ醍醐味というか理由なのではないでしょうか。

もうひとつ、香川大学でのフランス語教育の一環として、生涯学習教育研究センターでフランス語の公開講座を担当しています。これも昨年度前期からの試みで、当初は正直高松にそんなにフランス語学習者がいるだろうかと思ったのですが、平日の昼間にもかかわらず、20名近くの方が受講しに来てびっくりしました。私設の語学学校と競合しないようにという指摘を受けたこともあり、それならばせっかく大学で行う授業ということで、徹底的に「読む」スタイルにしました。最初は半期10回の授業で終わりにしようと思っていたのですが、続けてほしいという要望があり、昨年度後期、今年度前期、そして今年度後期も行うことになりました。社会人の方は本当に勉強熱心で、教師にとっても大きな刺激になっています。さきほど少し触れたように、経済学部や法学部の学生相手にある程度の量のフランス語の論説文や文学作品を読む授業というのはなかなか厳しいので、社会人の方を相手にこちらがやりたいことをやらせてもらっているような感じです。今年度前期はルソー『新エロイーズ』の一部を読みました。まずはじめに「難しそう」という先入観を払拭することを心がけてやったのですが、最終的に「意外と面白かった」という反響が返ってきて、やってよかったと思いました。これからも、教師が面白いと思えないものを学生が面白いと思うわけがない、をモットーに、フランス語教育に励んで行きたいと考えています。もちろん授業で社会人の方にも仏検を推奨しています。なかにはフランスに滞在した経験のある方も何人かいらっしゃるので、上の方の級の受験者がもう少し増えてくれることを期待しています。

仏検2級:社会で活躍するための課題

豊島 秀宏(日本外国語専門学校)

当校のアジア・ヨーロッパ言語科 英語+フランス語専攻では、2年間で仏検2級合格を目標としている。1年生のときには、一通りの文法を学び、2年生になったら、専ら仏検2級の筆記問題および聞き取り・書き取り問題を解いていく。

仏検はそのときどきの客観的な学習到達度を見るためにも、また学生たちに自信を持たせるためにも格好の指標となる。当校で仏検を受験していくスケジュールは以下のとおりである。

1年生
前期 仏検5級
後期 仏検4級
2年生
前期 仏検3級
後期 仏検準2級・2級

かなりハードな学習過程であることは事実であるが、毎年このスケジュールを消化して、学生たちは当校を卒業していく。

特に学生たちにとってきついハードルはもちろん最後の仏検2級である。仏検3級までは学習に付いてこられた者の中にも、ここで挫ける者が出てくる。2級では、語彙数が増えて、長文で取り扱うテーマもかなり難解なものも出てくる。それまで単に語学の力だけで追いついてきた学生たちが、初めて本当の意味で言語を取り扱う抽象能力の高さを試されることになるのである。

外国語を学ぶことは、言語を扱うときに必要となる抽象的な思考を鍛えることであるのはいうまでもないが、初学者たちはそのことを特に意識しない。しかし、「言いたいこと」が高度になっていくと、それを表現するために、文型が複雑になり、語彙の抽象度が増す。そして、言語そのものを扱う能力が試されることになる。つまるところ、フランス語を上手く操れるかどうかは、日本語をどれだけ上手く操れるかどうかに比例してくる。その相関関係が如実に現れてくるのが、仏検2級からではないだろうか。単に語学が好きというレベルではこの仏検2級の壁を打ち破るのは難しい。この段階でフランス語の長文を読みながら、なかば日本語の現代文を読むように読解力を付けていくことが求められてくる。また教員の側ではそのことを意識した教え方をしないと、学生たちに本当の力を養成することができないだろう。

当校ではフランス語のオーラル・コミュニケーションについては、文法や検定対策と同じくらいの時間を割いて、フランス人と会話したり、その言葉を聞き取ったり、さらに発音を矯正したりする機会がある。そこで学生たちはフランス人の教員との交流を通じて、フランス人独特の感じ方や考え方を吸収していくことができる。このことは、先の抽象能力を具体的に伸ばしていくにはかなり有効であるはずだ。

また、パリの語学学校に2週間、語学研修をする機会もある。その際、学生たちは、教室で習っていたフランス語の世界から、生のフランス語が行きかうパリの街の中に放り込まれることになる。それまで教科書や教師からしか聞かれなかった言葉が、日常当たり前のように飛び交う光景を目にし、耳にし、そして否応もなく話すことを求められることになる。Bonjour! の言い方一つにしても、自然に目を合わせることに意識する必要が出てくる。また、フランスでは日本では普通挨拶をしない場面でも挨拶の言葉が行き交う。そんな場面に遭遇しながら、学生たちは生きた言葉を学んでいくことができるのである。そして、文法で学ぶ諸々の事項が、単なる机上のものではなく、言葉をより生き生きと円滑に使うために必要なものであることを実感する。この現地で得られる生々しい感触こそが、後に仏検2級取得を目標として険しい道を登っていくときの一番の確かな足がかりとなるのである。

最初に述べたように、当校では、2年間で仏検2級合格を目標としているが、それが当校が設定する最終目標ではない。というのは、当校は単なる語学学校ではなく、専門学校だからである。日本社会のなかで専門学校の一番大きな役割は、なによりもまず即戦力となる社会人を育成することである。

仏検2級取得したことを社会の中でどう生かすのか。そのことを考えることなしに仏検の取得をしても仕方がないということを、私は学生たちに口を酸っぱくして繰り返し伝えている。フランス語はいうまでもなくコミュニケーションの「道具」である。たとえば、刀を鋭く研ぐことばかりを考えていて、研ぎ澄まされた刀をどのように使うかに考えが至らない者には、おそらく一生その刀を使う機会は訪れないだろう。フランス語についても同様のことが言える。近い将来フランス語を使うとしたら、それは社会人としてであるということ。また、フランス語を使っている社会人であれば当然のように英語も使って仕事をする機会も増えているであろうこと。以上のようなことから、当校では英語および社会人教育にも力を入れており、カリキュラムのなかで大きな柱としている。

2年生になって、就職活動が始まったときに、仏検2級を取得することを目標にどのようなことに心を砕いているのか、そして仏検2級を取得した暁には、その能力をどのように社会に生かせるのかを、学生自身に考えさせていくこと。実のところ、これがフランス語を学んでいく学生たちに当校で私が課している一番重要な課題である。

この課題に対して、自分なりの定見が出来てくれば、フランス語が使えるということは、フランス語が使えない者よりも、確実にコミュニケーション能力の幅が広いということを誰に対してでも堂々と表現できる人間に成長することができるはずである。

そのような課題が課せられていることを意識し、乗り越えることができた当校の卒業生たちは、現在世界を舞台に活躍をしている。フランスで暮らしている者もいるし、商社で海外勤務をしている者もいる。旅行業界や金融業界で働いている者もいる。アパレルや流通の分野で働いている者もいる。

仏検2級取得は単なるゴールではない。当校の卒業生たちにとっては、まず社会人になるためのスタートにほかならないのである。

仏検への道

和泉 涼一 (茨城キリスト教大学教授)

茨城キリスト教大学はその名の通りミッション系で、地元の日立市では「シオン」の名称で親しまれています。創立は1967年。もともとは文学部のみの単科大学でしたが、現在では文学部・生活科学部・看護学部・経営学部(本年4月より)の4学部体制(入学定員550名)となっています。

1991年の「大綱化」以来、残念ながら本学でも第二外国語はあまり嬉しい境遇にはありません。文学部でこそ選択必修ですが、他学部では自由選択なのでほとんど履修者はいません。本学でも地方私学の例に漏れず、保育・福祉・栄養・看護といった職業直結型の学科が主流となり、教養教育全体が低調気味、というより壊滅状態である事実は否めません。また第二外国語のなかでもご時世なのか中国語と韓国語の履修者が非常に多く、フランス語はいまや「第五外国語」の地位に甘んじています。どうも暗い話で恐縮です。

さて、本学で仏検を限定的ながらも正式に導入したのは2000年度のことでしたが、検定試験を単位認定に利用するという発想は、容易には合意が得られませんでした。教員が導入に躊躇した理由を思い出すままに記すと以下の通りです。?単位認定に外部試験を利用するのは大学独自の教育を放棄することにならないか。?外国語教育というのは実用性のみを目的とするものではないはずだが、授業に出席せずに実用技能の検定試験にだけ合格すればそれでも単位を認定するのか。?外部試験を受験するには受験料や交通費や参考書・問題集の購入など相応の費用が掛かるが、希望者だけとはいえ授業料以外に金銭的負担を掛けるのはいかがなものか、などなど。

いずれもご尤もな見解で、私自身も深く同意するところがあります。しかし、それでもなお、学生が外部の客観的試験に挑戦し、そこで得た何がしかの評価が学内でも正式に認められることは学生にとって大いに励みになるだろうという確信がありました。それは、じっさいに受験した学生たちから、合否を問わず非常に良い反応があったからです。合格した学生はさらに上級の試験に挑戦する意欲が湧いてきたと言い、不合格だった学生も「次回こそは是非」という心意気を示してくれました。具体的な目標をもって勉強することは、外国語に興味のある学生にとっても、そしてそうでない学生にとっても、モチベーションの向上に確実に役立っていたのです。

これらの具体的事例にもとづき、また懸念を抱く人々の意見にも十分に配慮した結果として、仏検の利用については、現在では以下のような仕組みになっています。
?まず、学生はいかなる場合でも、本学の規程による出席回数(3分の2以上)を満たしていなければなりません。検定試験の合格をもって授業への出席が免除になることはありえないということです。これは、外国語の授業の目的は実用性に限られるものではないという意見(私もそう思います)を重視した結果です。ただし、もともと授業にはまじめに出席する学生がほとんどでしたので、この制約はあまり現実的な意味はないようです。?つぎに、学生は学内の定期試験を必ず受験しなければなりません。仏検だけを受験して合格すればそれでよし、ということではなく、大学の外国語の授業では歴史や文化、政治経済などさまざまな面を含む異文化理解の教育がなされており、定期試験ではそれらの知識も直接間接に問われるのが通例であるからです。?したがって学生は、仏検は受験せず定期試験だけを受験するか、定期試験と仏検の両方を受験するか、そのいずれかとなります。両方を受験した学生は、より好成績の方をもって単位認定に利用します。たとえば定期試験が65点で仏検が80点であれば、80点の方を採用するわけです。

ところで、近年の不況では、受験料もバカになりません。本学では、2009年度より、第二外国語の検定試験の受験料については年一度に限って各自1500円を奨学金として補助することになりました。大学の台所事情はシベリアの凍土の如くじつに厳しいのですが、これで学生たちが少しでもやる気を出してくれればというのがわれわれの意図するところです。さらに、同じく2009年度より、「外国語優秀賞」を創設しました。これは一定の級に合格した場合、学部から表彰されると同時に副賞として授業料が5万円免除になるという、本学ならではの心もフトコロも温まる制度です。ついでと言ってはなんですが、フランスへの短期語学留学の制度も2009年に発足させました。利用者はまだ1名ですが。

検定試験導入の是非はいまでも議論が絶えません。現に英語では話題にもなりません。私自身、検定試験をもって完全に大学の外国語教育に代えるという考えには大反対です。教育のアウトソーシングなんて学生にとっても教員にとっても悪夢でしかありません。第一、ご飯が食べられなくなります。しかし、仏検によって現に学生の意欲は大いに刺激されるのだから、一定の条件のもとに積極的に利用するべきであるというのが、仏検をめぐるこの十数年の経験から得られた私の信念です。

ただ、中高時代に勉強とは縁遠かった学生も珍しくはない現状では、授業だけではなかなか仏検に合格するところまで到達できません。本学では、とくに兼任講師の先生のご好意もあって、仏検受験のための補習を実施しており、これが学生にはいたって好評で、それがまた授業にもよい影響をもたらしています。協力して下さるボランティアの先生には本当に頭が下がります。さらに、これも兼任講師の先生の発案ですが、3年前からクリスマスの時季に「フランス語学内コンクール」を開催し、詩の朗読、早口言葉、カラオケなどに学生の参加を促しています。教室では死んだふりをしている学生が、マイクを握ると別人のごとくなるのが驚きです。地元のケーブルテレビも取材に来たりして、なかなか楽しいイベントです。賞品としては、リサとガスパールのふわふわ人形が大人気です。仏検の導入もそうですが、フランス語に触れる場面をいろいろなやり方で多様化し、学生を励ましてやることが大切だと思います。

最後にひとこと言わせて頂きますと、このまま何の手も打たずに推移すれば、「大綱化」以前に採用された専任教員が定年退職するにつれて、大学の第二外国語は消滅していかざるを得ないでしょう。とりわけ地方私大の実情にはきわめて深刻なものがあります。縁あってフランス語を学ぶ身となり、フランス語を通じて学生と交流する機会に恵まれたのですから、そういう状況に少しでも歯止めを掛けたいのは山々ですが、個人で出来ることは限られています。大学においてなぜ複数外国語の履修が必要なのかという問い直しを含めて、学会や協会が組織的に対応しうるおそらくは最後の時期が到来しているのではないでしょうか。

フランス語を選ぶということ

川勝 直子 (神戸海星女子学院中学校高等学校他)

「先生、私の元に最高のクリスマスプレゼントが届きました。」ある夜パソコンを開くとこんなメールが入っていました。中学3年生の生徒からでした。そのメールは「仏検の合格証です!」と続き、4月から週に1回フランス語を学び始め、11月に初めての仏検に合格できたことへの喜びが綴られており、そして届いたばかりの合格証の写真が添付されていました。

この生徒の学校では中学3年生から高校3年生までフランス語を学ぶことができます。しかしそれは実は簡単なことではありません。中学3年生では英会話かフランス語を選択するため、フランス語をとることはそれほど困難ではないのですが、その後もフランス語を続けようと思うとかなりの覚悟が必要です。高校生になると選択群に様々な教科が現れ、いわゆる受験科目もその並びにあるからです。その中でフランス語を選ぶには、両親や、ときには担任教諭などの反対があっても負けないほどの意思の強さが問われるのです。そのうえ、原則として希望者が10人に満たなければ開講されません。本人の意志に加えてある種の「運」も必要となるともいえるでしょう。

秋の仏検の頃になると色々な事情を抱えた生徒たちが相談にやってきます。そんな生徒ひとりひとりと向き合うとき、私は決してフランス語をとるようには勧めません(もちろん全体に向けての選択科目説明会などではフランス語を選択してもらえるよう、熱く語りますが)。フランス語を選択したとしてもしなかったとしても、後悔してほしくないからです。一緒に考えることはしますが、最後に本人が自分の意思で選んだ道を尊重します。「道」などというと大げさに聞こえるかもしれませんが、高校生にとっては選択科目ひとつといっても一大事なのです。

ある高校2年生の生徒が、「高3でフランス語をとるかどうか迷っています。高3までフランス語を選択した卒業生の先輩に相談したいのですが、連絡をとっていただけないでしょうか」と言ってきました。早速その「先輩」に連絡をとると、「それぞれの家庭事情や個人のモチベーションに一番左右されると思うので、それらの部分と相談するのがいいと思います。でも以前学校の進路通信に後輩へのアドバイスとして書いたものがあるので読んでもらってください」との答えが返ってきました。

いわゆる超難関国立大学に合格したときに書かれた彼女のエッセイの内容は次のようなものでした。

フランス語を履修すると受験科目として必要な数学演習2(数IIB)がとれなくなるため非常に迷った。しかし「学校は受験勉強だけをするところではなく、それも含めた教養を培うところではないのか」と思い、「大好きだから」フランス語の履修を決めた。履修していない数学も自分で工夫して必死に勉強した。好きなフランス語の授業があることで学校生活がとても充実したものになり、受験勉強全体に対するモチベーションもぐんと上がった。最後のフランス語の授業をやり終えたときも大学に合格した今も「自分で選んだ道だから心からよかったと思え、このうえない達成感や幸福感を得られた」と強く思う、などのことが切々と語られていました。そして最後は「自分で決めた道は自分の力で歩いていけます。どうか他人に左右されず、自分の選択をしてください」ということばで締めくくられていました。

私はこの作文を読んだとき、強く感動すると同時に身の引き締まる思いがしました。このような思いでフランス語を選んだ生徒たちに後悔させる授業をしてはいけない、一時間一時間の授業を大切にしなければ、と改めて思いました。

もちろんこんな生徒ばかりではありません。別の学校には、なんとなくフランス語を選択してしまっただけという生徒、勉強そのものが大嫌いな生徒、50分の授業さえ座っていられない生徒もいます。けれどもそんな生徒たちも、そんな生徒たちだからこそ、フランス語を勉強していることに誇りを持っていたりもします。ある生徒は仏検5級に合格したとき、「生まれて初めて検定試験というものを受けて合格しました」と言い、とびきりの笑顔を見せてくれました。彼らもまた、本当にたいせつでかわいい生徒たちです。いろんな高校生たちがフランス語を勉強しています。1年間しか履修できない学校も多いけれど、限られた時間を最大限に利用して補習や練習に励み、仏検やDELF、コンクールに果敢に挑戦する生徒たちもいます。そして合格、入賞できたときなどは勲章を手に入れたかのような騒ぎです。そんな生徒たちを見ていると、このような成果を得ることは大きな自信につながるのだということをひしひしと感じます。

先のメールは最後にこう書いてありました。「来年度の選択科目の件ですが、家族との相談の結果、フランス語をとることになりました。」そう、この生徒は家族からフランス語を選択することを反対されていたのでした。まさに私にとっても嬉しいクリスマスプレゼントでした。この生徒にフランス語を選択してよかったと心から思ってもらえるような授業をめざしてがんばろう、と心に誓った夜でした。

「実用フランス語技能検定」過去問の使用法

武末 祐子 (西南学院大学教授)

今年の春学期は久しぶりに60人を超える1年生の大クラスを担当した。これまでにも語学教育における少人数制が議論されてきたが、なかなか簡単に実現できそうにない。この大クラスは週2回、2人の教師によるリレー方式の授業の1つである。私の担当は金曜日4限でCALL教室で行った。金4という時間帯ではあるが、1人1台のパソコンが確保できることもあって皆とてもよく出席してくれた。このクラスに仏検の過去問を使ってみた。どのような効果が得られたのか。

本校は、毎年6月の実用フランス語技能検定(仏検)1次試験の会場となっている。私は3年半くらい前から責任者を務めているが、年々試験環境がよくなっている。会場が古い校舎から新しい校舎に移り、聞き取り試験もカセットからCDの使用になって音質が断然よくなり、また仏検事務局との連絡や会場設置の手配も改善された。

仏検の受験者には、学生だけでなく、さまざまな年齢、職業の人がいて、皆本当に熱心だと感心する。この6月の仏検では、小学生の受験者に父親が付き添っていたが、別室で試験の間中、気になるようで落ち着かない様子だった。私は、80歳くらいの方々を席まで案内した。1級の試験教室では、年配の方々が半分以上を占めている。こうしてみると、仏検は日本でしっかり定着しており、10歳から80歳までの人々に愛されているのだと改めて思う。

では、受験生はどういう目的で仏検を受験するのだろうか。おそらく、目的もさまざまで、フランス人とのコミュニケーション目的から検定マニアまであるだろう。日本にいて毎日フランス語を使う生活をしている人は少ない。試験には実社会で使われているフランス語が出題されていると思うが、逆にそれに合格したからといって実社会ですぐに使えるものでもない。実用の域外で、「自分への挑戦」という目的で意欲を掻き立てている人も多いと思う。

どのような問題が仏検の問題であろうか。仏検問題は5級から1級まで出題様式がパターン化されている。5級から3級までは動詞、前置詞、語彙、文章全体などの的確さを問う3択あるいは2択式、文とイラストの一致問題などのパターンがある。それ以上の級になると変形、長文問題などがあり難しくなる。いずれの場合も合格するには、何度も過去問を解いてみる必要があろう。1級はとても難しいので合格した人の喜びはひとしおである。

このような仏検問題の5級を今年の1年生の大クラスの授業で使った。仏検は上記のように多くの人にとって実用的というより「自分への挑戦」であるなら、意欲を掻き立てる方法で利用できるのではないか、そういう意図で過去問を使った。毎回5級問題を過去問から5~7問くらいピックアップして学生たちに出題する。当然初回は彼らにとって本当のクイズであったろう。正答率は常に40%~50%であった。もちろん、なぜその答えが正解かは解説する。授業の最初に10~15分行うのだが、何回か行うとあまりのばかばかしさに嫌になる学生もいただろう。でも私はかまわず行った。3回目ぐらいから、1回目とまったく同じ問題も出題してみる。その日の授業で習ったばかりの単語も選んで出す。そのうち、私は仏検問題を授業の最初ではなく、真ん中に、あるいは最後に行った。何度も同じことを繰り返し説明した。正答率が60%になった。大して意味のない数字かもしれないが、大いにまじめに取り組む学生もいた。

仏検問題をこの授業で使うことの長所は、クイズ感覚で、フランス語の語感を養うと同時に、学習したフランス語を定着させる、つまり「覚えた」という意識をもたせることにあるように思う。私は1回の授業を文法、文化、会話、聞き取りなどいくつかのセッションに分けて、仏検問題挑戦もその1つとして導入した。同じパターンで、複数のセッションを組み合わせ、繰り返し事項と新規事項を織り込んでいく。繰り返しこそ、過去の記憶を呼び「覚ます」ことであり、「覚える」という行為であろう。「覚える」とは「ぼんやりした意識がはっとかみ合う」「はっと気がついてそれを理解する」と漢字源にある。学生がはっと気がつけばフランス語を覚えた感覚ではないだろうか。

授業をいくつかのセッションに分けてパターン化させ、繰り返し事項と新規事項を織り込むという授業方法の基本を今回改めて、仏検の過去問題で学んだ気がした。学生に「1年間フランス語を勉強したら何級がとれますか」と聞かれたので「4級はとれると思います」と答えた。モチベーションがあがれば3級も可能であろう。学生たちは愉しい授業であったと評価してくれたし、私にとっても実に愉しいクラスであった。

仏検が日本で浸透しているのに比べてフランス政府公認のDELF・DALFやTCFなどはあまり知られていない。私が思うに、仏検1級問題のハードルをもう少し低くして、1級に合格した人には、DELF・DALF試験の1回分の受験料を無料にするといった戦略をとり、仏検とDELF・DALFをリンクしてみてはどうだろうか。6月、仏検の1級受験教室で見た年配の方々の1級合格の喜びの顔を是非見たいものである。

信州大学におけるフランス語教育の現状

吉田 正明 (信州大学教授)

信州大学人文学部では,平成12年度からフランス語教育振興協会と契約を結び,仏検の一次試験会場をお引き受けしてきました。これまでの受験者数はそれほど多くありませんが,一般の方を含めると,毎回5級から1級まで40~50名の方が受験してこられました。

信州大学でも最近は英語教育に重点が置かれ,フランス語などの初修外国語は年々軽視されがちになっていますが,平成23年度からは共通教育のカリキュラム改革が実施され,これまで単位にならなかった学部でも初修外国語の単位を教養科目の単位に振り替えて認定することになりました。私も全学教育連携会議の一員として大学教育における英語以外の初修外国語の重要性を機会あるごとに訴えてきましたが,このカリキュラム改革は,フランス語教育にとって明るい兆しだと言えます。

現在は,フランス語を選択必修にしている人文学部と医学部の1年生が「文法」と「読解・会話」を組み合わせて週2コマ履修し,2年生は「フランス語演習」を週1コマ履修することになっています。しかし医学部では平成23年度からフランス語とドイツ語が選択必修からはずされることになりました。ですから信州大学におけるフランス語教育の将来にとって,これまで単位認定してこなかった他の6学部でどれくらいの学生がフランス語に興味を示して履修してくれるかが鍵になると言えます。

私が担当している1年生のフランス語の授業では,学習意欲を高めるために,前期は仏検5級を,後期は4級合格をその到達目標に設定し,学生には仏検の受験を奨励してきました。来年度からのカリキュラム改革を機に,すべてのフランス語の授業においても仏検の受験を,学習意欲向上のためにも奨励していきたいと思っています。

つぎに人文学部におけるフランス語教育の取り組みについてご紹介します。私が担当している仏文分野では,平成15年度から学術交流協定を結んでいるラ・ロッシェル大学への交換留学を推進しています。大学全体で2名の枠があり,これまで毎年仏文の3年生を1~2名ラ・ロッシェル大学へ派遣してきました。留学の申請に際しては,仏検の3級以上の合格を最低条件に課しています。最近は,フランス留学を目指して当分野に進級してくる意欲的な学生が増えており,フランス語の運用能力を高めるための「フランス語コミュニケーション初・中級」(2年生対象)の授業では,前期と後期に仏検受験を義務づけ,その到達目標を秋の仏検3級に置いて,学生のモチベーションを高めると同時にフランス留学を視野に入れた実用的なフランス語力の涵養に努めています。

最近はもう一つの協定校であるベルギーのカトリック大学ルーヴェンへの交換留学を希望する学生も出てきており,2010~2011年度は,ラ・ロッシェル大学と,カトリック大学ルーヴェンへそれぞれ2名の学生が選考の結果派遣されました。

3年生の前期には,フランス人の非常勤講師による「フランス語コミュニケーション上級」の授業が用意されており,よりいっそう高度なフランス語のコミュニケーション能力の向上を図っています。これまで交換留学生として派遣された学生の中には春の仏検で3年次に準2級を取得して行った学生も何人かいます。昨年度の秋は,留学を終えて帰国した4年生二人がいずれも準1級に合格しました。

この留学制度のメリットとしては,先方の大学で取得してきた単位を人文学部の単位に互換できることと,日本学生支援機構の短期留学生奨学金(毎月8万円)を受給できる可能性があるということです。これまでラ・ロッシェル大学に留学した学生のうち4名がこの奨学金を受給しています。

また学術交流協定に基づく交換留学の他にも,当分野では学生への学習支援として,在日フランス大使館文化部をとおして応募できる世界各国の若者を対象とした夏季フランス語・フランス文化研修旅行にも学生の参加を積極的に促してきました。平成17年には « Connaissance de la France » に仏文の学生1名が選考され,プロヴァンス地方で7月から8月初旬の2週間にわたり世界各国の若者といっしょにフランス語の研修とともに乗馬やカヌーなどさまざまな野外活動を体験してきました。平成18年にも« Rencontres internationales des Jeunes »という名称に変わった同企画に,仏文の学生がやはり1名選考され,Aurillacの演劇祭を中心に世界各国から参加した若者といっしょにフランスでの研修を2週間体験してきました。いずれも交通費以外はすべてフランス外務省が負担するというもので,参加した学生にとっては,恵まれた条件のもとフランスで貴重な経験をすることができました。

このように信州大学人文学部では,フランス語教育においても本学部の理念に掲げられた「実践知」修得のための実践的な語学教育に努めており,その意味において仏検は絶好の目標であり,指標ともなってきたと言えるでしょう。

フランス語はわたしに世界を広げてくれる-報告:仏検1級合格からテレビ出演,授賞式まで-

深川 聡子 (大阪大学招聘研究員・奈良教育大学、神戸女学院大学非常勤講師)

仏検事務局から、助教として勤務していた大阪大学フランス文学研究室にお電話をいただいたのは2009年10月29日。日本テレビ『1億人の大質問!? 笑ってコラえて』の「日本列島検定試験の旅」というコーナーで仏検を取り上げる企画があり、1級のトップ合格者として紹介するから出演してみないか、とのことだった。合格通知を受け取ってほっとしたというのが正直なところだったので、最高点とは想像もしておらず、電話口で思わず歓声をあげた。今回、このAPEF通信にご報告の機会をいただいたことに感謝しつつ、1級受験・合格から番組撮影、そして表彰式までを振り返ってみたい。

そもそも私が仏検を受験した動機は二つあった。第一に、文学研究を中心に、途中6年間のリール留学を挟んでかれこれ20年近く学んできた自分のフランス語の力を、実用フランス語検定というディプロムの取得を通してひとつの形にしておきたいと思ったこと。そして第二に、フランス語教師の立場から、学生たちにフランス語のより自発的な学習のために仏検を奨励するにあたって、勧めるからにはまず自分で受験してみようと考えたことだ。

いくら仕事や読書を通じて日常的にフランス語に接しているといっても、いざ受験となると準備なしで臨むのは心もとない。時間をみつけては問題集を解き、ネットでニュースを読み、外出時には音楽プレーヤーにダウンロードしたラジオ番組を聴く。フランスの友人に積極的にメールを書く。あるいは趣味を兼ねてシャンソンのディクテに精も出した。どこからどこまでが「試験勉強」だったのかはっきりしない部分もあるが、限られた専門分野を超えて、より幅広く生きたフランス語に触れるように努めることができたのは、仏検という目標を設定したからこそと思う。苦手分野の医療や法律、経済などにも、仏検のモチベーションのおかげでどうにか取り組むことができた。言語を学ぶことが、知見を広め、その言語特有のものごとの捉え方を学ぶことになる──そうした外国語学習ならではの喜びは、「試験勉強」の語が響かせる重苦しさを払拭して余りあるものとなった。

夏に合格通知を受け取り、自分なりに目的はなんとか達成したと思っていたので、テレビ出演のお話は、望外のご褒美。11月に制作の方が大阪大学に二度打ち合わせと撮影に来られ、非常勤出講先の奈良教育大学でもフランス語の授業風景を撮影された(残念ながら放映ではカットされたのだが、ご協力いただいた職員・学生の皆さんにこの場を借りてお礼を申し上げたい)。その後、年が明けて2月11日に六本木ヒルズのレストラン「L’Atelier de Joël Robuchon」で世界的シェフのロビュション氏にインタビューを敢行、3月5日に麹町の日本テレビでのスタジオ収録。こちらは「簡単フランス語講座」として、お菓子やパン、ワイン等を用いて、カタカナフランス語や鼻母音の初歩を紹介した。かくして3月17日、『笑ってコラえて3時間スペシャル』で、午後8時過ぎから30分弱「検定試験の旅」のコーナーが放映された。

撮影は初めての体験で、打ち合わせやシナリオ準備を何度も行ったにもかかわらず、インタビューもスタジオ収録も、いざカメラを前にすると平常心などあっという間に吹き飛ぶ。ロビュション氏の独特のオーラに圧倒されて舞い上がり、鴨とフォワグラのあまりの美味しさに調子に乗ってワインをお願いしてしまったことや、スタジオで帽子がずり落ちて大慌てだったことなどは、思い出すだけで顔から火が出そうだ。全体の収録のうち9割方はカットされたと思われ、辛抱強くまとめあげられた制作の方々には、その手腕にただただ敬服する。仏検1級に泥を塗らずに済んだかどうか、収録直後は本当に不安でいたのが、幸い放映後に多方面から好意的な感想をいただき、ほっと胸をなでおろしている。

3月25日、日仏会館での成績優秀者表彰式では、文部科学大臣奨励賞とTHALES賞とで壇上に呼ばれたうえに、合格者代表としてフランス語スピーチの機会まで与えていただいた。満員の晴れやかな会場と錚々たるご来賓の方々を前に大いに緊張した。フランス語学習のきっかけから1級受験にいたる経緯、或いはテレビのことにも触れて、APEFのホームページにある« Le français m’ouvre le monde »(フランス語はわたしに世界を広げてくれる )という標語が、まさしく自分自身が実際に経験しているものだということを強く実感しながらの言葉となった。

スピーチの最後に述べた « J’espère continuer à découvrir et à redécouvrir, et si possible transmettre aux autres, ce plaisir d’apprendre le français, cette langue qui nous ouvre le monde. »(わたしたちに世界を広げてくれる言語、フランス語を学ぶ喜びを、これからも見出し続けていきたい、そして可能であればその喜びを他の人たちにも伝えていきたい)という言葉は、今の自分の偽りない気持ちだ。ミルフィーユやクロワッサンが入り口ならば、そこから入ってゆくことのできるフランス語の世界はもっと楽しく、もっと深くて広いものなのだから。その魅力をいかに伝えるか、考え、試し続けること、スキルを磨いてゆくことを、これからの課題としたい。

付加価値としての仏検

大谷 尚文 (石巻専修大学教授)

のっけから私事にわたって恐縮であるが、昨年の10月8日付の『APEF通信』に寄稿なさっている沖縄国際大学教授の大下祥枝さんとは旧知の間柄である。そして大下さんはそのエッセーで、私が知りたいと思っていたことをあらまし書いてくださっている。どうすれば2級以上のレベルへと学生をみちびいていけるかということである。準2級と2級の差の大きさに、思わず腕を組んでしまったところだったからである。大下さんは学生指導に交換留学生制度を組み込んでおられる。留学する学生には日本で3級か準2級までを取得させ、それ以上は留学体験の向こう側に位置づけておられるのである。わが大学のように1、2年生の教養科目としてのみフランス語を開講している大学にとって、たいへんに参考になる、きわめて妥当な構想である。ということは、わが大学でもフランス留学へのはっきりした道筋を確立しなければならないということだろう。

さて、これが私に課せられた今後の課題であるとして、当面、私にあたえられたテーマは、「仏検」をどのように利用しているか、「仏検」を採り入れることでどのような効果が期待できるか、ということである。これについては、あまり立派なことは言えそうにない。ご覧の通り、いまだ手探り状態だからである。

「みなさーん、仏検を受験してみませんか。試験会場? 仙台です」
本校の所在地である石巻市は、仙台から東方に60キロ、塩釜や松島という有名な町のさらに倍以上も東に位置する、JR仙石(せんせき)線の終着駅の港町である。
これまで授業中に勧めることはあっても、実際に石巻専修大学を会場にして仏検を開始したのは2007年の秋季からである。その年度がはじまって早々、英語以外の外国語の教員が集まって、そろそろ独検、仏検、中検を単位化すべきではないかと話し合った結果である。実際には専修3大学(専修大学、石巻専修大学、専修大学北海道短期大学)の足並みをそろえるために、仏検合格即単位取得ということにはならず、成績評価の際に大幅に加味するということにとどめ、現在にいたっている。

アルバイトを雇う費用をどこからも捻出できないので、受付と予備監督は家内、正規の試験監督は私ということで出発した。この状況はいまも変わっていない。5級と4級、さらに3級と、試験が時系列に配列されているときは、それですむが、準2級の1次試験がそれに加わると、午前中に試験が二つ同時におこなわれるので、監督者はどうしても2名必要になる。その場合は、アルバイト料を支払う必要のない古くからの友人や親戚に頼んだりする。仏検が午前中だけで終わるときには、受験者数の少ない春季であれば、4級の受験生と準2級の受験生を連れて、そのままラーメン屋になだれ込んだりする。たまたま手伝ってくれた旧友が大酒飲みであったために、昼食をご馳走するつもりが飲み会になってしまったこともある。
「仏検だと思っていたのに、宴会だったのですね」
女子学生には、そう叱られた。

学生たちは一生懸命に受験してくれるが、残念ながら合格率はよくない。試験の前に補講をし、とくに不足していると思われる聞き取りの練習をする。試験前の2度の土曜日、昼食をはさんで、
「先生、疲れた。もうやめましょう」
と言われるまで聞き取り練習をする。それでも合格率がよくない。
ところが、その一方で3級の合格者が出、昨年度は準2級の合格者まで出ている。それらの学生にどのようにして勉強したのかを訊ねてみた。何のことはない。彼らは夏休みと春休みに問題集を買い込んで自分で勉強しているのである。
これで方針が定まった。長期休暇前に、たとえば、つぎに3級を受験しようとする学生には、3級の問題集を買わせ、あるいは貸与し、休暇中に一度、補講らしきものをおこない、その進度を確認するのである。この春休み、3級を目指して3名の学生が勉強している。今度の春季の試験が楽しみである。私の注意すべきは過干渉である。

 付加価値という言葉が浮かんでくる。大学でフランス語の単位を取得しただけでは、もはや学生には不満足であるらしい。『銀河鉄道の夜』の考古学の学士さんの時代は、その余韻さえも消え去った。学生は自分が取得した単位に、だれかが、へえ! と驚いてくれる、もっと公的な認可を求めている。おそらく、学生が仏検に求めているのは、これである。準2級に合格した3年生の学生の言葉が、まさしくそれを証している。
「仏検準2級合格と書かれた履歴書をもって就活をはじめようと思います」
この学生のささやかな希望が実現することを願ってやまない。

高校におけるフランス語教育の現場から ~「ここ」と違う世界を学ぶ喜びのために~

林 宏和 (北海道札幌国際情報高等学校・立命館慶祥高等学校)

90年代、パリ滞在中のこと。
よくモンパルナス界隈で、フランソワ・トリュフォーの映画でおなじみの俳優、ジャン=ピエール・レオを見かけていた。当時、ある雑誌の仕事をしていた私は、彼にインタヴューをすることを思い立つ。レオ氏がよく出没するというカフェの主人から彼のアパルトマンの在り処を聞き出し、直接交渉へ。鉄製の重い扉を何度かたたく。すると、夕方にもかかわらず、ボサボサ頭で下着姿のレオ氏本人が顔を出す。私が、突然の訪問をわびながらも、用件を話すと、彼は「郵便箱に連絡先を残せ」という。アパルトマンの入り口に住人たちの郵便箱が並んでいた。その中にひとつだけ、なぜか“ふた”のない箱があり、手書きで彼の名が書かれている。私は不安な面持ちでメモを残す。それでも、期待に胸はふくらんでくる。そして、まるで『ママと娼婦』の舞台であるアパルトマンを垣間見て来たような気分にとらわれる。
やがて、その晩、家に電話がかかってくる。
「ワタシはジャン=ピエールの友人だ。彼は今パリにいないんだよ。君のメモは渡しておくよ。とりあえず、インタヴューの件はまたにしてくれ、、、」
「ちょっ、ちょっと待ってください。僕はついさっき、彼に直接あったはずですが、、、」
「いや、それは違うんだよ。とにかくそういうことなんだ」
電話はあっけなく切られてしまった。絶句とはまさにこのことだ。しかし、次の瞬間、笑いがこみ上げてくる。むふっという笑いが、、、なぜなら、その、妙に低く、不自然に作られた電話の声はジャン=ピエール・レオ自身のそれだったのだから、、、思えば、映画のなかの彼もよく電話口で声を変え、言い訳をしていたっけ、、、私はいつのまにか彼の映画の世界に引きずりこまれていたというわけだ。

これは、私が授業を担当するクラスで話すエピソードの中の一つである。

高校でフランス語を教えることには、ある面白さがある。
高校生たちが普段学んでいる教科はその多くが大学入試と関連しているのに対し、フランス語をはじめとする第二外国語は入試という出口を持たない。(もちろん、センター試験等をフランス語で受験するということもありうるが、多くの高校では、現在のカリキュラムで受験レベルまで教えることは不可能だ。)
すると、入試科目の学習は彼らにとって「義務」であり、学びの先に目的があるが、フランス語の場合は学ぶことが「権利」であり、それ自体が目的になりうる。入試科目でないフランス語だからこそ、高校生たちは、日々の授業の中で「学びの喜び」を発見しやすいように思える。そして、私は、その喜びの積み重ねによって、大学でもフランス語学、フランス文学を専攻しようという意志をもつ生徒を見てきたし、専門という形ではなくても「フランス」という他者を意識していく生徒を輩出してこれたと思う。目的が「学び」を義務づけるのではなく、「学び」から目的が生まれるのだ。
それでも、一方では、難しさが伴う。私はこの「学びの喜び」を喚起することこそが教育だと思っている。しかし、この点において、私はあるクラスでは成功することもあれば、別のあるクラスでは失敗してしまう。同じことを同じように教えても、また、上記のエピソードをはじめ、同じエピソードを伝えても、クラスによって全く反応が違う。盛り上がることもあれば、シーンと静まり返ることもある。積極的に会話練習に参加するクラスもあれば、そうでないクラスもある。また、一つのクラスでも、日によって生徒の授業への参加度が異なる。だから、教師にとっては、生徒の目を開かせようとする、悪戦苦闘の日々が続くことになる。
そこで私は考える。この日本という国の教育、社会、家庭はあまりに偏差値主義、大学実績主義に傾いてきた。そのすべてが悪いとは思わない。しかし、それは、要領よくテストの点を取りさえすればよいという姿勢を生徒に身につけさせてることには“成功”したが、「学びの喜び」に対する感受性を鈍らせてしまったのではないか?
私はここで制度的な改革を論じようとは思わない。それは検討されるべき問題だが、その実現を夢見る以前に、教師は日々、教壇に立ち続けなければならないからだ。

そこで、あらためて教師とは何かを問いたい。教師の仕事場は教室だ。この場こそがまさに大事だと思う。ここで教師は生徒の前に立ち、声を伝える。それは生徒の耳に届き、そして、「そうか」「そうなの?」という反応を引き起こす。聞く力、受け取る力、そして考える力を育てること、それが教師のしごとだ。教師には伝えたいことがある。それは、「ここ=教室」とは違う世界のことだ。自身が取り憑かれて一生をかけてつきあっていこうとする世界、フランス語の世界のことだ。自分が「すごい」「面白い」と感じていることを伝える。生徒の側に、「ここ=教室」とは違う世界について学び、想像し、それとつながっていこうとする意志を育てることが、フランス語教師の使命である。しかし、これは難しい。生徒のいる地点とは別の世界を扱っているのだから。だから、教師は「本気」でなければならない。「本気」の姿が生徒の目を開かせる。その力を私は信じたい。
教師が一人の生徒と向き合う時間はわずか1年か2年。教室で教える初級フランス語では満足に会話する力、読む力は育てられない。しかし、それでいい。なぜなら、ひとたび目を開いた生徒の「学び」は持続していくからだ。私は、高校のひとつの教室が「ここ」とは違う世界とつながること、そして自分が生徒にとって「学びの喜び」への窓口になれることを願っている。

南の島のフランス語学習

大下 祥枝 (沖縄国際大学教授)

学生からの要望に応えて、仏検を初めて沖縄で実施した日の光景は記憶に残っているが、果たしてそれはいつ頃だったのだろうか?研究室の書棚にずらっと並ぶカセットテープを調べてみると、最も古いのが1990年の春季のものであった。その日から今日まで、検定試験を受ける準備のため、また、カセットテープを借りるために研究室に立ち寄った多くの学生の顔が目に浮かぶ。

沖縄での仏検の歴史を振り返ってみると、当初は3級、4級、5級の試験を勤務校の学生だけを対象に行なっていたが、やがて宜野湾会場という形になり、他大学の学生や一般の方も受験に来られるようになった。10年程前に春季は沖縄国際大学、秋季は琉球大学という具合に会場を分担しあった時、2級の秋季のみの実施も決まった。少ないスタッフで会場のお世話ができるギリギリの状況であったが、1級と準1級の1次試験を沖縄で実施してもらえないかという嘆願書が、数年前に仏検事務局に寄せられた。確かに、1次試験の段階から高い航空運賃を払って県外へ出向くのは、経済的にも時間的にも大きな負担である。ちょうど準2級が導入された時期と重なり、関係者との協議の末に、1次試験は全ての級を実施することが決定された。2次試験に関しては、今年度から準1級が沖縄での受験が可能となり、1級のみが県外受験となる。

仏検にどのように取り組んでいるのか、勤務校での実践の一端を次に述べてみたい。4月に新入生を前にして、英検と比較しながら仏検の内容と単位認定について紹介する。3級合格は4単位、4級なら2単位が認定されると分かると、学生の側から教科書をどの程度学べば検定を受けることができるかといった質問が出される。各種語学検定試験に対する大学側のサポートとして、対策講座がある。これは14時間分の講師料を大学が負担して学生に提供するもので、仏検に関しては、8月上旬に4日間という開催方式をとってきたが、留学生にアルバイトで手伝ってもらうようになってから参加者が増え始めた。4年前に学術交流協定を締結したレンヌ第二大学から派遣されてくる3名の留学生が、週末にボランティアで、2年目のクラスの学生を対象にした勉強会を開いてくれている。Dictéeが中心で、仏検3級の問題やラジオ講座のテキストを彼らが何度も読み、次に学生たちが聞き取ったままに板書した文章を訂正してもらうやり方であるが、日本語とフランス語を交えながらフランス語表現法や、時にはフランス人の生活様式を熱心に説明する彼らの姿にはいつも感動を覚える。勉強会の常連の他に、1年生から4年生まで参加する語学検定試験対策講座では、準1級から5級までの過去問を数回分プリントして配布する。解決できない文法事項などを、各自が講師や留学生に質問するという手順で始まり、筆記試験の解答が概ね終わった頃を見計らって、各級に分かれてテープ、もしくは留学生のナマの声を聞き取る作業に移る。様々な級の受験準備をする学生が同じ教室に集まることで、お互いに刺激を与え合っているようである。検定の直前になると、質問がある学生には、教室や研究室で個別に対応している。

レンヌ第二大学への派遣留学制度を契機に、仏検が教職員や学生の間で広く知られるようになった。選考試験を受ける基礎資格について、仏検のパンフレットに記載された「試験のあらまし」を基に議論が重ねられた結果、4級合格程度の基礎力を持つ者と規定された。実際には3級合格後に選考試験を受け、フランスへ出発するまでに準2級に合格する学生がおり、派遣留学を希望する学生たちの間では、先ず3級合格が目標になっている。3名の派遣学生は、大学の講義を受講できる力はまだ備わっておらず、大学付属の語学学校(CIREFE)で学ぶ傍ら、時間割を工夫して大学の講義を聴講するというのが実態である。とはいえ、10か月間の滞在中に学校や学生寮などでフランス語を鍛えてもらっていることは確かで、全員が帰国前にDELFを受験して沖縄に戻ってくる。派遣学生の仏検結果を見ると、仏検とDELFのレベルがうまく連動しているように思われる。留学前に準2級に合格した学生は、DELFのB2を取得して帰国した年の秋季に仏検準1級に合格しており、3級の合格証を持っていた学生は、DELFのA2かB1を取得後、仏検2級に合格している。フランスで勉強した後、彼らがフランス語学習を継続する動機となっているのが仏検であり、1級に合格してから、再度フランスへ渡ろうと考えている者もいる。検定試験を沖縄で実施した初期の頃は、週2コマで2年間しか学ぶ機会のない学生には3級までが限度かと考えていたが、近年、特に留学生が南の島にやってくるようになって以来、フランスを身近に感じ取り、仏検3級以上に合格して留学に結びつけようとする学生が少しずつ増えてきている。今後の目標は、仏検準1級か1級に合格する実力を持った学生を育て、フランスへ派遣することである。それが実現される日が必ず訪れると考えたくなる程、学生たちは留学生と日常的に交流しながら、フランス語学習に励んでくれている。

フランス語をとおして見えるもの

日比野 雅彦 (人間環境大学教授)

大学に入学して2年目、フランス語会話の授業を受け持ってくださった先生はアフリカ出身の先生だった。ムバンジャ先生という。先生は毎週、お住まいのある京都から名古屋まで来て授業をしてくださった。当時、フランス語がフランス以外の地域でも話されているということは頭の中では理解していた。また、イヨネスコやベケットといった劇作家がフランス人でないこと、当時人気のあった歌手のムスタキやナナ・ムスクーリもフランス人でないことも知っていた。しかし、現実に目の前にいる先生がアフリカのカメルーン出身の人であるということは、映画や書物でフランスのイメージを作ってきた学生にはやはり驚きであった。風の便りで聞いたことだが、ムバンジャ先生は日本で教鞭をとられた後、帰国されたがそれからしばらくしてお亡くなりになったとのことである。アフリカの西海岸ではカメルーン以外にもセネガルやコートディヴォワールなど、かつてフランスから植民地支配を受けた多くの国がフランス語を公用語もしくは第一言語としていることを強く意識するようになったのはこれがきっかけだったかもしれない。

大学時代に教えていただいたフランス人にはベルギー出身の先生もいた。デュケンヌ先生という。背丈が2メートルあるのではと思える先生で、教室に入るときも頭を低くしなければならないほど大柄な体を、小さな椅子に座って授業をされる様子はなんともアンバランスであった。また、大学の英米学科にはカナダ出身の先生がいたが、フランス人の先生とそれぞれが英語とフランス語を使って会話をされていた場面を目撃したこともある。

フランス語を学びながらフランス語がフランス以外の地域でも話されているということを実感できたのは、40年ほど前の日本、それも外国人の多い東京ではなく、まだ数えるほどしかフランス語を話す外国人がいなかった都市では貴重な経験だったのではないかと思う。

はじめてフランスに行ったとき、南フランスの小さな町を訪れたことがある。というより、その町の近くに古代ギリシャの遺跡があるというので夏の一日、バスを乗り継ぎ、ブドウ畑を2キロほど歩いて遺跡に辿りついた。フランスではごく当たり前のことだが、12時になると昼休みになりこの遺跡も閉館となる。あわただしく見学したのだが、遺跡そのものより、そこから見える奇妙な風景に驚いた。放射線状に拡がる円形の畑地で、フランス人は庭園だけでなく畑も幾何学模様にするのかと驚いた。

12時に閉館になってしまったので町まで戻った。地中海の乾燥した夏のことである。町に着くころには干物のようになってしまった。そこで、咽喉の渇きを癒すため町の中心にあるカフェに入ってun demiをたてつづけに2杯飲み干した。田舎町のカフェに突然入ってきてビールを飲む不思議な東洋人を見て、カフェの主人がいろいろと尋ねてきた。「どこから来たのか?」と聞くので、「どこから来たと思いますか?」と逆に質問を返してみた。ところが、なかなかJaponという言葉がでてこない。最初はVietnam、つぎがChineとくるのだが、そこから先はなかなか日本にたどり着かない。25年前の地方の小さな町では日本というイメージが頭に浮かんでこないらしかった。しびれを切らして日本人であること、この町の名はNissan-lez-Enséruneというが、私はNissanではなく、もう一つの日本の車Toyotaの近くの町から来たことを話した。自分ではしゃれた表現をしたつもりであったが、つたないフランス語能力、そして、日本で日産と呼ばれている車はヨーロッパではDatsunと呼ばれていたこと、さらに、当時、トヨタの車はフランスで見かけることがほとんどなかったことから考えて、相手のフランス人にはまったく理解できなかっただろう。しかし、このわけのわからない会話をしたおかげで、なんと昼食に馬肉のステーキをご馳走になってしまうという貴重な経験ができた。いずれにせよ、フランス人には東洋人として最初に頭に浮かぶのがベトナム人ということがなんとなくつかめたことも事実である。

その後、中部フランスにある美食で有名なロアンヌにある語学学校に学生を連れて行ったときのことである。宿舎でコックをしていた老人から、軍隊にいたとき、船で長い間コックをしていたこと、そして横浜にも寄港したこと、さらに、若い頃ベトナムに行って知り合ったベトナム人と結婚したことなどを聞かせてもらった。フランス人にとってベトナムは、私たちが考える以上に身近な土地なのである。

もっとも最近は、フランスからみて日本も近くなってきたのだろう。ロアンヌの近郊にある人口200人程の村を学生と一緒に訪れたとき、学生たちのおしゃべりに気がついたのか、男の人が小さなお店から出てきて、「日本の方ですか?」と声をかけてきた。「絵を描くためにしばらく日本に滞在したことがある」という。昔は日本人を見ることが珍しかったであろうフランスの片田舎でも、「日本に行ったことがある」というフランス人に遭遇できるというのも、世界が近くなった証なのかもしれない。

外国の学校との交流授業

立花 英裕 (早稲田大学教授)

最近、visioconférenceによって海外と交流授業を行なっている。いわゆるテレビ会議によるフランス語授業である。一般の学習者は、実際にフランス語を話す機会になかなかめぐまれない。いかに教師が実践的なフランス語教育を唱えても、学生が学んだことを生かせる機会が限られているのであれば、その意義は減じてしまう。そこで、教室内に実践の場を作ってしまおうと考えた次第である。

導入したのは、早稲田大学のオープン教育センターで開講されているフランス語上級クラスにおいてである。オープン教育センターの授業は、全学部の学生が登録できる。登録定員は20人に限定した。抽選で落ちた学生が相当数出たがいたしかたなかった。この形態の授業には20人が限度である。

授業形態は、いろいろ考えられるだろうが、一つのポイントは、どこの、どのような学校と提携するかである。そこで私が参考にしたのは、昔のフランス夏期講習での経験である。まだ思うようにフランス語が話せない段階では、フランス人よりも外国人の方が仲良くなりやすいことを思い出した。そこで、まずフランス・ブレストの語学学校CIELに声をかけた。大学の方が通りがいいが、あえて語学学校を選んだ。次に、韓国の仁荷大学Université Inhaとルーアン大学と交渉した。ルーアン大学の場合は、FLEのマスターに在籍している大学院生が相手だったので事情は異なるが、他の2校とは期待通り、外国人フランス語学習者との交流になった。仁荷大学の場合は、もちろん韓国の学生たちが相手で、CIEL校はタイの学生だった。

交流では、双方の学生が料理のレシピを紹介することにした。食は誰でも関心がもてるし、表現が比較的単純である。また、食材を切ったり、フライパンを扱ったりする真似をしなければならないことにしたので、動作と言葉を結びつける練習になる。一回の交流は約60分を目処とした。1人の発表者が、3分から5分程度でレシピを紹介し、質問を受ける。次に、相手校の番になる。やってみると、双方から質問が続出し、毎回予定を大幅に越えて2時間近く授業することになった。今後は、もっとコンパクトにまとめるように努力したい。

授業運営のポイントの一つは、教師の役割である。理想からいえば、学生が主体になってほしいわけで、教師は、様子を見ながら、アドヴァイスを与える程度がいいのだろう。しかし、実際には、継続的に毎週同じ相手と話すなら別だが、1セメスターで1回から3回程度しか顔を合わせない学生同士が対話を維持するには、教師も一定の役割を担う必要がある。たとえば、相手の質問が分からなかったらどうするのか、あるいは、説明が相手に理解してもらえなかったときどうするのかなど、様々な状況に出くわす。今回私は、ある程度、介入することにした。ただし、日本語は使わない。遠隔授業で大事なのは、相手校の教師との間の十分な信頼関係である。相互に信頼できれば、多少のことがあっても乗り切れる。

学生が選んだ料理は、お好み焼き、カツ丼などなど....。韓国の学生は、韓国料理を紹介してくれた。日本の学生もキムチ料理など韓国料理に馴染んでいるので、双方から笑いがわき起こった。フランス料理なら、こうはいかないだろう。CIEL校のタイ人の学生たちは、フランスの大学に入学するために勉強していたので、レベルが遥かに上だった。レベルが均質でないときは、教員が助け船を出してあげる必要がある。そうでなければ、相手が退屈してしまうだろう。相手方も楽しめるように、教師が臨機応変にコメントや情報を与えてやると、次の回の雰囲気も盛り上がるようである。文化的な要素を積極的に取り入れて、教師だからこそできる話をした。タイ人の発音は独特で学生には聞き取りにくかった。しかし、そういうフランス語の発見も、visioconférenceだからこそできる。

遠隔交流授業の利点でもっとも貴重なのは、他者性の体験である。たとえば、こちらの学生が、生卵をご飯にかけて食べる話をしたときのことだ。タイの学生たちが、一様に驚きの声をあげた。「病気にならないか」と、目を丸くした女子学生もいた。このような時、学習者は、普通の授業では学べない何かを体験する。そこには、異文化を「理解」するということには収斂しきれない何かがある。それを他者性の体験と呼んでおきたい。今回の場合は、発表者の語学力があまり高くなく立ち往生したので、教師が引き取ってあげた。とっさにリービ英雄の小説『星条旗の聞こえない部屋』が生卵を食べる行為で終わっていることを思い出したので、その話をした。

実践的な場で学生たちの力は目覚ましく向上していく。文法的な間違いは直さない方がいいようだ。その中で、学生の感応力をいかに引き出してあげるか、それをこれからも模索していきたい。

カリタス短大:小さな学び舎のこころみ -フランコフィルと共に歩む-

稲葉 延子 (カリタス女子短期大学 仏語・仏語圏文化専攻 主任)

現在カリタス学園では、フランス語教育は幼稚園から短期大学まで、それぞれ独自のカリキュラムに従い実施されているが、カリタス学園教科研究会の枠内で、今年度はとりわけ「オラル」教育に関して、エリック・ボグナール教授を中心に積極的な情報交換がなされている。中学高等学校で毎年実施している英仏二言語の「外国語発表会」には、幼小、及び短大の教員も招かれ、生徒たちの大きな励みとなっていることは言うまでもない。学園の中でもフランス語科の結束は、どの教科よりも強く、学園の教育活動の牽引力となっている。
さて、本稿では筆者が勤務する短期大学の仏語・仏語圏文化専攻に関して記述する。というのも、どの校種もフランス語教育という点では全国で稀少な教育現場であるが、短期大学で、フランス語やフランス文化を専門に学ぶ学科やコースが設置されているのは、国内で唯一カリタス短大のみであるからだ。この小さな学び舎でのこころみのいくつかをご紹介させて頂くと共に、今後もご協力とご指導をいただければと願っている。

カリタス短大のフランス語教育の歴史
1983年に、カリタス女子高等学校で、第一外国語をフランス語で履修した生徒たちの進学先として、それまで英語科のみであった短大に、仏語科を設置することとなった。短大のフランス語教育は、いわばカリタス学園内の需要から始まったのだが、当時は、学科新設の認可が非常に厳しい時期で、薄暗い廊下の文部省(当時)に、リタ・デシャエンヌ理事長とアガタ・ベルニエ学科長、両修道女とともに筆者(当時中高フランス語教諭)は、何度も足を運んだ。二人の年配の日本語のおぼつかない修道女と駆け出しの教員であった筆者とのトリオは、多くの四大、短大の認可が降りない中で、奇跡的にも認可をいただけることとなった。このとき、お力添え下さったのは、早稲田大学名誉教授の岩瀬孝教授(2002年帰天)である。責任者となるスール・アガタが、岩瀬教授に感謝すると同時に《La Providence travaille.》と呟かれたことを筆者は忘れられない。その後1996年に学科の改組を受けて、仏語科は文化面も強調して、仏語・仏語圏文化専攻という名称に、また2009年には、より学際的な学びを可能とする「仏語・仏語圏文化コース」と改める。以下、本学のフランス語教育の特色を述べる。

① 少人数教育
創設時の25名定員で既習と初習をわけたクラス編成は、今日も引き継がれているが、これがあってこそ、2年間(実質1年半)で、優秀者は、既習クラスでは、仏検一級や準一級、初習クラスでは二級を取得する学生が育っている。
定員は30名、在籍は2008年度は80名余(二学年合計)であり、全国的に見ても非常に小規模な学び舎であろう。

② 豊かな教授陣
教員は専任4名(日本人3名、フランス人1名)、講師は11名(日本人6名、フランス人4名、カナダ人1名)である。(2008年度)
創設時より、若い先生方のほかに、講師として、岩瀬孝教授、支倉崇晴教授、そして現在では、大賀正喜教授をお迎えし、学識を惜しみなく与えてくださる贅沢な講義を学生たちが受けていられるのも、仏語科設置以来の伝統であろう。

③ 留学
派遣奨学生(長期1名、短期2名)制度を利用しての留学を始めとして、私費留学生も多く、2007年から2008年にかけては、ストラスブール、パリ、アンジェ、グルノーブル、ブザンソン、トゥールーズ、エクス・アン・プロヴァンスに、在学中に1年の留学をする学生がいた。また研修旅行にも、在学生の1/3にあたる学生の参加が例年ある。卒業してからの留学も「留学前パック」という名称で、3月卒業後から渡仏まで、授業を受けられたり相談できる制度を設けているので、パリやリヨンなどには、常時10名前後の学生や卒業生が、仕事や学業に従事しながら滞在している。カリタシエンヌの情報交換も教員  を仲介に、数多く行われている。中には、パリINALCO や、トゥールーズのミュライユ大学で、日本語教育を担っているものもいる一方で、パティシエやメーキャップアーティスト、グラフィックデザイナーなど、カリタスでの勉学を基盤に、さらにキャリア留学を果たして、フランスでも各方面で羽ばたいている。

④ 四年制大学編入学等
二年間という短期間ではあるが、フランス語学習とフランス文学や文化に対して芽生える探究心や勉学の意欲は、半数から2/3の卒業生が四年制大学に編入学していることでも明らかであろう。大学院に進学する学生も少なくなく、国内、外国(フランス、カナダ、ベルギー等)での勉学を継続する基盤をカリタス短大では培っている。編入学先では、総長賞や優秀賞をいただくなど、学問にめざめた卒業生たちを四年制大学で高く評価してくださるのは、本人たちはもとより、私ども教員の喜びでもある。

⑤ 社会人学生
18歳から20歳の学生たちと伍して、30代から60代の学生が学んでいる姿は、欧米で見られる状況にも似ているが、社会人学生は、その人生経験の豊かさから、若い学生たちには「マダム」と呼ばれながら敬意をはらわれている。50代の学生の中にも、さらに四年制大学に編入学したり、フランス語研修旅行に参加するマダム学生たちが見受けられる。

⑥ 芸術鑑賞・学外講師
一年に一度、フランス演劇を中心に、教員が選んだ演目を、学生が補助金をうけて鑑賞する制度を設けている。小さな学び舎の中で得られないものを外部で体験できるように働きかける企画である。さらに、学外講師としてオペラ歌手を招き、「パリを歌う」というミニコンサートを授業内で開き、教員の力の及ばない部分を音楽芸術を通じ補強していただいている。どちらも学生たちのフランス文化への視野を広げることを目的としている。

⑦ 情報誌liaisons 発行
2004年から、仏語・仏語圏文化専攻では、フランコフィルのための情報誌としてliaisonsを年に二回発行しており、教員によるエッセイの他、卒業生の活躍やフランスやカナダからの通信などを掲載する場を設けている。

⑧ 市民講座・オープンカレッジ
正規学生以外にも、フランス語の学習を希望する近隣の方々を対象に、フランス語教室を開講しているが(2008年度は5クラス)、15名定員のクラスは、受付開始と同時に埋まるほどの盛況振りで、地域のフランス語教育の拠点となっている。
また、「パリを紐解く」(2005年度)「音楽と言葉」(2007年度)「フランスの女性たち」(2007年度)などをテーマに市民大学講座を開催し、100名前後の受講生が集った。語学のみならず、フランス文化の発信も常時行っている。

⑨ よこはまフランス月間等
公共の企画に本専攻が参加することで、フランコフィルの連帯と広がりをより一層強化することができよう。本学が設置されている横浜市は、数年前から6月から7月にかけて「よこはまフランス月間」を設けており、条件が教育機関とは合いにくいのだが、調節して参加した「フランス語であそぼ」は、カリタス小学校 麻田美晴講師の全面的協力を得て成功したといえる。
また、「よこはま大学リレー講座」では、姉妹都市リヨンについて講演するなど、神奈川県や横浜市の企画にはなるべく参加し、「フランス語とフランス文化」を地域でアピールするようにこころがけている。

⑩ 仏検受験補助
仏検受験を年一回公費を受けて受験できる制度を設けており、この結果、学生は積極的に受験できるようになっている。

⑪ 仏検会場校
2001年度より、準会場校から会場校へと変更した。本学の学生のみならず、500名余の受験生が本学に來学する。全学生定員が250名余りの学び舎での収容人数には限りはあるが、フランス語教育の場として本学をアピールすることができ、そののち、フランス語教室生やひいては正規学生になるきっかけにもなり得る。また、対応する教員も、通常10数名の学生を相手に授業をし、30名程度の学生と相対しているので、このような大人数のフランコフィルと出会う機会は、またとなく、フランス語教員の原点に戻るひとときでもある。

⑫ 自己表現力
カリタス短大の仏語・仏語圏文化コースの教育目標は、仏語科設置以来の「自己表現力」である。フランス語やフランス語圏文化を学ぶことで、自己の思いや考えを言語化して、世界へ向けて発信する力を養う。500名を超える同窓生、カリタシエンヌが、本学で得たことを基盤としてそれぞれの人生を切り開いてくれていることは、何にも優る喜びであり、感謝するとともに、スール・アガタ・ベルニエ初代学科長の言葉《La Providence travaille.》を、繰り返し呟く日々である。

検定から始まった一つの流れ

寺家村 博 (拓殖大学准教授)

大学における第二外国語の位置付けがここ10年確実にその不透明さを増している。フランス語も例外ではない。このような状況のなか、関東圏の一中規模私大のフランス語学習への取り組みをお話しさせていただきたい。もちろん、フランス語検定を中心にした話であるが、学生の学習意欲向上のきっかけに検定制度を選んだことで、習熟度別クラス編成を行うことになり、さらにこの編成を可能にしていくために共通テストが実施されていくという一連の流れが作られていった。この過程をおっていこうと思う。何か一つを変えることでそれに伴ってまた別の変化がおきていった。

本学がフランス語検定の準会場となって8年目となる。当初は年2回の受験者数をあわせても30人に満たなかったが、2007年にはおよそ220名が受験するまでになった。筆者が所属する政経学部では130名ほどが受験した。これは学部のフランス語履修者数の1学年の総数に相当する。もちろん、履修者の数はそれほど重要なことではないのかもしれない。ただ、1、2年次の履修者数の50%が受験することになれば一つの制度として定着していけるのもまた事実である。

本学の第二外国語のおかれている状況はけっして楽観できるものではない。現在工学部と国際学部を除く3学部で第二外国語のフランス語は選択必修として展開している。1年次2コマ、2年次2コマである。とりわけ政経学部と商学部の学生数が大学の総学生数の60%をしめており、気をぬくことは許されない。さらにこの両学部には3、4年次にそれぞれフランス語のクラスがいくつか設けられている。もし、履修者数が少なければこの3、4年のクラスを維持していくのが困難になる。ここが崩れると現行の1、2年の選択必修制度に悪影響が及ぶのは目にみえていた。いかにして専門科目の学習に忙しい3、4年生の目をフランス語に向けさせるか、ここからすべてが始まった。

3、4年の語学クラスの可能性を考えることは、本学においてはそれはとりもなおさず1、2年の語学学習を見直すことであった。そしてやらなければならないことと、今すぐにできることを考えあわせると、それが検定であった。早速、検定受験と合格を2年生の学習到達目標の一つにし、これにともなって2年次クラスのなかに「特別選抜クラス」(20数名)を設けた。このクラスは1年の成績上位者から構成され、検定3級合格を目標にさだめた。もちろん反対の声も小さくはなかった。「教養教育と検定はなじまない」「語学教育の中で検定に重きがおかれるのはいかがなものか」言われてみればどれも筋の通った意見である。しかしながら何かを変えていかなければならないこともまた明白であった。「特別クラス」のだした結果は2006、2007年とも3級合格がおよそクラスの30%、4級合格が100%であった。本当にささやかな成功体験ではあるが、学生たちはそれでもとても喜んでいた。「目標をもって学べてよかった」「フランスの文化にも興味がわいてきた」彼らの中から本学の短期留学奨学金制度を利用してここ数年4、5名の学生が夏休みに渡仏している。このよい雰囲気は他のフランス語クラスにも伝わっていった。現在3、4年次のフランス語クラスには「特別クラス」で学んだ学生を中心に以前よりかなり多くの学生が来るようになり、試みは軌道にのりだしている。2008年からは第二外国語全体が2年次において習熟度別クラス編成または「特別クラス」設置を予定している。

このような2年生のクラス編成実施にあたって一つ整備したことがある。それは1年次の成績評価の透明化である。もし各クラスで定期試験の採点基準が違えば、2年次のクラス分けの際に学生たちから不満がでることが十分予想されたからだ。そこで1年後期テストのなかに共通テストを一定の割合で導入することにし、問題の内容と形式は検定の5級に準じるものにした。またこの共通テストに用いる語彙は過去3年間の検定5級の語彙をひろって作成した語彙集からだすことにし、学生に事前に配布した。これにより1年の時から学生たちは少しずつではあるが検定を意識するようになっていった。

学生たちは検定という目標をもったことで、フランス語学習に実感のようなものをもてるようになったと思う。それが彼らにとってフランスの社会や文化、政治や経済などいろいろな分野に興味をもつ一つのきっかけとなったことは教える側としてとてもうれしいことだった。初習の言語の大きなアドバンテージは、誰もが同じスタートラインに立てることであり、進歩を自覚しやすいことではないだろうか。

教える側にも変化はある。検定の導入により学部の語学教育の方向性を教員の間である程度共有できるようになった。もし一体感が生まれてくるのであればこんなにうれしいことはない。もちろんこのシステムは完成されたものではなく、問題点も今後でてくるであろう。しかし、立ち止まることは後退と同義である。2008年からは検定合格者と共通テスト成績上位者の表彰制度をたちあげる。これからも試行錯誤を繰り返しながら学生たちによりよい語学学習の環境を整えていきたい。

仏検とフランス語書籍とおどけた猫たち

榎本 恵美(レシャピートル書店主)

仏検2級を受験したのは20代のころ、今から20年以上前の話だと記憶します。無事に合格し、あまり煌びやかではない私の履歴書に華々しく書き添えたことを覚えています。その後フランス語専門書店「欧明社」本店で働き始め、結婚、育児とライフステージが変化し、多忙な日々を送る中で2級以上を目指すことはありませんでした。2022年2月に欧明社が閉店、選書や輸入業務をしていた経験を生かし、フランス語専門オンライン書店「Les Chats Pitres – レシャピートル」で独立しました。ウクライナ戦争によるフライトの激減、燃料費高、歯止めない円安、順風満帆な出航ではなかったレシャピートルでしたが、一年が過ぎようやくこれからの展望が見え始めてきたところです。「実店舗を開店してほしい」という声が当初からあり、いずれ作家や翻訳者、読者が交流できるサロンのようなリアル店舗を持ちたいと思っています。

プロフィールはここまでにして、ここからは経験をベースとした、学習者に有益な参考書や選書のアドバイスをジャンルごとにお伝えしようと思います。

■試験対策参考書

「旅行に行く」「映画が好き」「料理を勉強したい」などフランス文化は多角的で、フランス語へのアプローチは人それぞれです。目的に合った参考書を使って学習するのが一番効率的ですが、学習手段を見つけるのはなかなか難しいものです。その場合、仏検やDELFといった試験対策の参考書がおすすめです。参考書は初級から上級レベルまで刊行されており、設問を解きながら、レベルに応じた文法事項、語彙、表現などが習得できます。仏検の参考書は全国各地の大型書店の棚に並んでいて、なかでも前年度の過去問題を詳細な解説付きで掲載したAPEFの『仏検公式ガイドブック』(駿河台出版社刊)は毎年4月に刊行されます。新しい年度の幕開けを感じてやる気が湧いてくるものです。日本では圧倒的に仏検受験者数が多いのですが、世界基準であるDELFも近年受験者が増えているようです。DELFのB2を保持していれば、フランスの大学入学免除にもなります。当店は洋書をメインに取り扱っていますが、仏検参考書も販売しています。ディクテや文書作成など苦手科目克服のための教材やアプリ版教材なども取り揃えています。

■リーダー/多読教材

書く・聞く・読む・話すをまんべんなく学習できる「試験対策参 考書」と並行して、学びの手段として、内容のある何かを「読む」ことにも挑戦してほしいと書店員として願っています。フランス語で書かれた文学作品を読むことは、初学者には少しハードルが高いと思われますが、レベルに応じた文法や語彙でリライトされた文学作品をラインナップした「グレーデッド・リーダー」があります。FLE (Français Langue Etrangère – 外国語としてのフランス語教育)大手出版社CLEやDidier、Hachette FLEでは、ユゴーの Les Misérables、モーパッサンの短編集、Arsène Lupinシリーズなど、古典をはじめジャンルに富んだストーリーが実に多くあり、楽しく読めるような工夫がされていて多読におすすめです。グレーデッド・リーダーとはいえ、原書を読了した時の達成感は大きいものです。作品が気に入ったら、オリジナルに挑戦するのもいいと思います。フランス文学を読むことで選書の幅が広がり、多様な価値観、独特のユーモアセンスを培い、それはやがて人生を豊かにしてくれる土壌となります。

■フランス絵本

多読とは、自分のレベルより易しい本を、辞書を使わずたくさん読んで、語彙や表現を身に着けていく学習方法です。一番取り組みやすいのは、ページに2~3行程度の絵本で、わからない単語や慣用句も絵から想像し、シチュエーションとともに身に着けていく。絵本の読み聞かせを毎日欠かさずすることが、語彙力や文章力を身に着けるのにとても効率的だということを、私自身、自分の子育てを通じて実感しました。子どもの歯が抜けた時、枕の下に抜けた歯を置くと、寝ている間にネズミがきてコインに換えてくれる、というフランスの言い伝えをモチーフとした絵本を、子どもたちに読み聞かせをしたことがあります。それから子供たちは歯が抜けると、今度はどんなコインかな?と楽しみに待つようになりました。語彙力や文章力だけでなく、フランスの豊かな文化知識を得るのにも絵本は最適です。 フランス語の絵本を毎月セレクトして、購読者にお届けする「フランス絵本定期便」というサブスク的な選書サービスを始めました。夏はヴァカンス、冬はノエルやガレットなどフランスの文化を意識した選書を心がけています。このサービスは欧明社の時から始めて7年目になりますが、フランス絵本には独特のユーモアセンス、色彩豊かな絵で日本の絵本とは違う楽しみ方があります。小さいときからのフランス絵本の読み聞かせを通して、豊かな文化に触れることはとても大切な経験です。毎日15分程度で読める絵本はとても魅力的なアイテムなのです。

■仏仏辞典

フランス語の原書を読むようになると、仏和辞典では物足りなくなるはず。そこでおすすめしたいのが、仏仏辞典です。フランスではLe Robert社とLarousse社といった大手辞書版元がありますが、語源解説、例文、文法事項など情報が多い Le Robert micro を一般的におすすめしています。廉価なポッシュ版と二色刷りで見やすいハードカバーがあり、私は年齢的に小さな文字が見えにくいので、ハードカバーを日常愛用しています。フランスの広辞苑的存在 Le Petit Robert や、百科事典的仏仏辞典 Le petit Larousse も手元にあると便利です。イラストを多用した Le Robert Benjamin(ロベール家の末っ子)といった、「辞書を引く楽しさ」を学ぶ子供向け辞典や Le Robert junior / Larousse junior といった小学生向けで、イラストや写真、資料が豊富に収録された読みやすい辞書もあります。白水社 『ふらんす』 2023年4月号では特集内にて「仏仏辞典ヴァリエテ」を寄稿しました。選書に困ったときはお気軽にご相談下さい。

■最後に

フランス文学を原書で読むことが、私にとって長い間フランス語を学習する動機でもありました。カミュの作品を通して人生の不条理を知り、スタンダールの愛の表現に酔い、プレヴェールのテキストに自由に羽ばたく鳥を見出し、モディアノの記憶の追体験をする。フランス文学は、私の価値観や人生観を豊かにしました。フランス語を取得することはゴールではなく、新たなスタートです。仏検で身に着けたフランス語力を生かして、学習者の皆さんが多様な分野で活躍されることを願ってやみません。そして私は自分にできる事をコツコツと、フランス書籍を身近に感じるような書店を目指していきたいと思います。

■フランス語専門オンライン書店「Les chats pitres レシャピートル」

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フランス語の履修者を増やそう!

飯田 年穗(明治大学教授)

フランス語の人気がなくなってきていると、この頃よく耳にする。履修者の減少は、フランス語関係者にとっては直接かかわりをもつ事柄である以上、ほんとうなら放置しておくわけにもいくまい。

筆者の専任校である明治大学の政経学部の場合を、手元にある2002年から06年の資料によってみると、確かにその傾向を裏書きするような数値が出ていることは否めない。しかも、英語以外の選択可能な外国語である仏、独、中、スペイン語との関係についてみると、02年にはフランス語選択者がドイツ語を上回っていたにもかかわらず、次の年ではドイツ語に抜かれ、それが05年まで続いている。全般的なところでは、中国語とスペイン語はあまり大きな変動はなく、履修者の割合は、平均的にそれぞれ40%強、15%弱である。ならば、残りを独・仏で二等分すればよいはずなのだが、実際には、ドイツ語が6ポイントほど高い状態であった。ところが、06年にフランス語の増加が再び起こって、ドイツ語を超える結果になった。この傾向が今後も続くと断言することはできないものの、かなり明るい見通しをもつことは可能だと思う。ここ数年続いたフランス語不振の状況に対して危機感を抱いたことから、われわれはそれに対応するための方策について検討し、いくつかの具体的な措置を実行することにした。

従来から指摘されていることだが、いわゆる《第二外国語》の基本的な問題は、学ぶ動機の欠如である。この問題自体の分析はいろいろなところでなされているが、要するに、何のためにやらなければならないのかが分からない、具体的な必要性が感じられないのである。にもかかわらず、それは必修として強制されるので、嫌々ながらただ単位をとるためだけにやることになる。そして、実際の授業に出てみても旧態依然とした有り様で面白くもないとなれば、ヤル気が出ないのも致し方あるまい。

そこで、こうした状況をどう改善すればよいのか。教育論的に考えれば、よい授業をすることが最重要ということになろうし、これにかかわる《ファカルティ・ディベロプメント》の必要性の意識は、近年、大学教員の中にも浸透してきている。ただここでは、それ以外の、より制度的な面に関する対応措置について紹介してみたい。

動機がない理由として、これまで、大学の専門教育と語学が分離している状況があった。いくら外国語をやってもそれまでである。特に、第二外国語はそうだった。しかし、現在のグローバル化時代における大学では、外国語能力は実践的な機能なくしては意味をもちえなくなっていることは、改めて指摘するまでもない。もはや「外国語を学ぶ」ではなく、「外国語で学ぶ」という学習の枠組が大学の中に存在していることが求められている。この点で、第二外国語についても、それを専門の学習につなげていく道をつけ、その観点から、語学と専門教育が有機的にリンクした総合的なカリキュラムの見直しが必要となる。

このことを踏まえて、外国語履修システムを整備していく。その際、履修者のニーズに見合った履修メニューの多様化に留意したい。一種類の定食を仕方なく食べるという事態が食欲をなくす原因の一つであれば、メニューを増やして自由選択の幅を広げることがヤル気を生み出すもとになりうるからである。そこで、まず通常の学部設置授業について、それまですべてクラス指定だった授業形態を改め選択クラスを導入して、複数のメニューからの選択を可能にした。さらには、履修全体の多様化を図るための学則等の改正を行い、異なった形態の学習への道を開いていった。その結果、実践的な会話能力を目指した「共通外国語」科目、学内の教室授業だけでなく合宿形式も取り入れた集中講座、海外協定大学と連携して実施される海外研修などが全学的に活用されるようになった。もちろん、これらは正規の履修として単位認定することができる。

これらに加えて、外部検定試験の認定がある。ここに「仏検」がくるわけだが、具体的には、学部設置の外国語科目の履修に読み替えて単位認定を行うことになる。そして、獲得した級が高くなるに従って、認定される単位数も増えていく。政経学部の場合、2級以上をとれば、一つの外国語履修に最低限必要とされる単位のすべてを「仏検」で満たすことさえ可能である。

こういったことが、このところの明治大学の仏検受験者数の増加につながっていると見られる。明大が試験会場校になっていることも、明大生には受験をしやすくする効果があるだろう。大学として「仏検」受験を促進する方向にあって、政経学部では四月の新学期には一年性に対して「仏検」の説明を行い受験を奨めているし、先にふれた共通外国語科目の中にも「仏検」に対応したクラスがあり、「仏検」の合格を目指したトレーニングが行われている。実際、「仏検」のよさは、もっとも身近なチャレンジ目標になれることだ。ひとり一人の学生が具体的な目標を自分でもとうとする場合、「仏検」はすぐにそれに応えてくれるものであることは確かである。しかも、4級に合格すれば、次は3級、そして2級と、どんどん上を狙いたくなるのは当然の心理だろう。達成感も得られる。動機付けの手段としての「仏検」の役割は、じゅうぶん認められてよい。

「仏検」に関して、もう一つ指摘したい点がある。それは、教科としての学習目標または学習レベルの表示に役立つことである。ある科目のレベルを「仏検3級程度」という仕方で示すことによって、学生にとっては、それが自分の求める程度のものであるかがわかり、選択しやすくなる。それだけではない。教員サイドにもメリットがあることだ。通常の大学では、たとえば「初級フランス語」を複数の教員が別々に担当していることが多いが、その場合、そこで何を教えるかについては各教員に任されているのが実状だろう。結果として、同じ科目なのに教わる内容にばらつきがでてきてしまう。このことが、おうおうにして学生間にとまどいを生じさせる原因にもなっている。そこで、担当教員のあいだでは、少なくとも学習目標についてお互いに認識を共有しているべきであろう。「仏検」はそのための具体的な指標となりうる。われわれのところでは、非常勤も含めて担当教員が集まり教科内容に関する検討会をもっているが、その時に、以上のような観点から教員間の合意形成に対して「仏検」は有効である。

以上は語学に関してだが、それだけでなくフランス全体への関心を高める目的で、新たな講座の設置や講演会の企画なども行うようにしている。この際に、フランス大使館に対しても積極的に協力を求めて、講師の派遣や後援などの面での支援をうけるようにしているが、学生たちには、予想以上の好評を得ていることは喜ばしい。

これらの延長線上に留学がある。フランスにいって学びたいと思うことは、もっとも強い動機になることはいうまでもない。明治大学は、海外の大学への留学の促進を全学的な目標として掲げ、そのための施策を推進しているが、その中でもフランスとの交流は、フランス法律学校としての建学の理念と伝統を有する本学にとって、優先課題として力を入れているものの一つである。

その成果として、フランスの大学との交流協定が推進され、フランスの大学で学ぶ機会がいちだんと拡大された。さらにフランス本国のみならず、フランス語圏としてのカナダも対象地域に含めて、カナダの大学との交流も促進している。こうした交流協定とともに、多様な留学プログラムを取り入れることにもつとめている。近年、フランス政府との連携による留学制度の新たな整備や、ルノーなどの企業の提供する留学プログラムが各種実施されるようになってきている。明治大学は、これらに積極的に参加することで、フランスを軸とした質の高い教育の実現を目指しているところである。

なおこれらに対しては、当然のことだが具体的な支援のプログラムを実施するようにしており、語学面での対応はもとより、留学準備講座の設置や、エデュ・フランスと組んでの留学説明会などを定期的に開催している。また、フランス商工会議所と連携した「フランス企業就職説明会」も好評である。

学生諸君にとっては、これらが総合されて、フランスを日常的に身近で現実感のある国にする環境が作りだされていると言えるだろう。その結果として、フランス語履修者についても、その増加の実現につながっていったと考えることはじゅうぶん許されてよいと思われる。

仏検とフランス語書籍とおどけた猫たち

榎本 恵美(レシャピートル書店主)

仏検2級を受験したのは20代のころ、今から20年以上前の話だと記憶します。無事に合格し、あまり煌びやかではない私の履歴書に華々しく書き添えたことを覚えています。その後フランス語専門書店「欧明社」本店で働き始め、結婚、育児とライフステージが変化し、多忙な日々を送る中で2級以上を目指すことはありませんでした。2022年2月に欧明社が閉店、選書や輸入業務をしていた経験を生かし、フランス語専門オンライン書店「Les Chats Pitres – レシャピートル」で独立しました。ウクライナ戦争によるフライトの激減、燃料費高、歯止めない円安、順風満帆な出航ではなかったレシャピートルでしたが、一年が過ぎようやくこれからの展望が見え始めてきたところです。「実店舗を開店してほしい」という声が当初からあり、いずれ作家や翻訳者、読者が交流できるサロンのようなリアル店舗を持ちたいと思っています。

プロフィールはここまでにして、ここからは経験をベースとした、学習者に有益な参考書や選書のアドバイスをジャンルごとにお伝えしようと思います。

■試験対策参考書

「旅行に行く」「映画が好き」「料理を勉強したい」などフランス文化は多角的で、フランス語へのアプローチは人それぞれです。目的に合った参考書を使って学習するのが一番効率的ですが、学習手段を見つけるのはなかなか難しいものです。その場合、仏検やDELFといった試験対策の参考書がおすすめです。参考書は初級から上級レベルまで刊行されており、設問を解きながら、レベルに応じた文法事項、語彙、表現などが習得できます。仏検の参考書は全国各地の大型書店の棚に並んでいて、なかでも前年度の過去問題を詳細な解説付きで掲載したAPEFの『仏検公式ガイドブック』(駿河台出版社刊)は毎年4月に刊行されます。新しい年度の幕開けを感じてやる気が湧いてくるものです。日本では圧倒的に仏検受験者数が多いのですが、世界基準であるDELFも近年受験者が増えているようです。DELFのB2を保持していれば、フランスの大学入学免除にもなります。当店は洋書をメインに取り扱っていますが、仏検参考書も販売しています。ディクテや文書作成など苦手科目克服のための教材やアプリ版教材なども取り揃えています。

■リーダー/多読教材

書く・聞く・読む・話すをまんべんなく学習できる「試験対策参 考書」と並行して、学びの手段として、内容のある何かを「読む」ことにも挑戦してほしいと書店員として願っています。フランス語で書かれた文学作品を読むことは、初学者には少しハードルが高いと思われますが、レベルに応じた文法や語彙でリライトされた文学作品をラインナップした「グレーデッド・リーダー」があります。FLE (Français Langue Etrangère – 外国語としてのフランス語教育)大手出版社CLEやDidier、Hachette FLEでは、ユゴーの Les Misérables、モーパッサンの短編集、Arsène Lupinシリーズなど、古典をはじめジャンルに富んだストーリーが実に多くあり、楽しく読めるような工夫がされていて多読におすすめです。グレーデッド・リーダーとはいえ、原書を読了した時の達成感は大きいものです。作品が気に入ったら、オリジナルに挑戦するのもいいと思います。フランス文学を読むことで選書の幅が広がり、多様な価値観、独特のユーモアセンスを培い、それはやがて人生を豊かにしてくれる土壌となります。

■フランス絵本

多読とは、自分のレベルより易しい本を、辞書を使わずたくさん読んで、語彙や表現を身に着けていく学習方法です。一番取り組みやすいのは、ページに2~3行程度の絵本で、わからない単語や慣用句も絵から想像し、シチュエーションとともに身に着けていく。絵本の読み聞かせを毎日欠かさずすることが、語彙力や文章力を身に着けるのにとても効率的だということを、私自身、自分の子育てを通じて実感しました。子どもの歯が抜けた時、枕の下に抜けた歯を置くと、寝ている間にネズミがきてコインに換えてくれる、というフランスの言い伝えをモチーフとした絵本を、子どもたちに読み聞かせをしたことがあります。それから子供たちは歯が抜けると、今度はどんなコインかな?と楽しみに待つようになりました。語彙力や文章力だけでなく、フランスの豊かな文化知識を得るのにも絵本は最適です。 フランス語の絵本を毎月セレクトして、購読者にお届けする「フランス絵本定期便」というサブスク的な選書サービスを始めました。夏はヴァカンス、冬はノエルやガレットなどフランスの文化を意識した選書を心がけています。このサービスは欧明社の時から始めて7年目になりますが、フランス絵本には独特のユーモアセンス、色彩豊かな絵で日本の絵本とは違う楽しみ方があります。小さいときからのフランス絵本の読み聞かせを通して、豊かな文化に触れることはとても大切な経験です。毎日15分程度で読める絵本はとても魅力的なアイテムなのです。

■仏仏辞典

フランス語の原書を読むようになると、仏和辞典では物足りなくなるはず。そこでおすすめしたいのが、仏仏辞典です。フランスではLe Robert社とLarousse社といった大手辞書版元がありますが、語源解説、例文、文法事項など情報が多い Le Robert micro を一般的におすすめしています。廉価なポッシュ版と二色刷りで見やすいハードカバーがあり、私は年齢的に小さな文字が見えにくいので、ハードカバーを日常愛用しています。フランスの広辞苑的存在 Le Petit Robert や、百科事典的仏仏辞典 Le petit Larousse も手元にあると便利です。イラストを多用した Le Robert Benjamin(ロベール家の末っ子)といった、「辞書を引く楽しさ」を学ぶ子供向け辞典や Le Robert junior / Larousse junior といった小学生向けで、イラストや写真、資料が豊富に収録された読みやすい辞書もあります。白水社 『ふらんす』 2023年4月号では特集内にて「仏仏辞典ヴァリエテ」を寄稿しました。選書に困ったときはお気軽にご相談下さい。

■最後に

フランス文学を原書で読むことが、私にとって長い間フランス語を学習する動機でもありました。カミュの作品を通して人生の不条理を知り、スタンダールの愛の表現に酔い、プレヴェールのテキストに自由に羽ばたく鳥を見出し、モディアノの記憶の追体験をする。フランス文学は、私の価値観や人生観を豊かにしました。フランス語を取得することはゴールではなく、新たなスタートです。仏検で身に着けたフランス語力を生かして、学習者の皆さんが多様な分野で活躍されることを願ってやみません。そして私は自分にできる事をコツコツと、フランス書籍を身近に感じるような書店を目指していきたいと思います。

■フランス語専門オンライン書店「Les chats pitres レシャピートル」

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