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「実用フランス語技能検定」過去問の使用法

武末 祐子 (西南学院大学教授)

今年の春学期は久しぶりに60人を超える1年生の大クラスを担当した。これまでにも語学教育における少人数制が議論されてきたが、なかなか簡単に実現できそうにない。この大クラスは週2回、2人の教師によるリレー方式の授業の1つである。私の担当は金曜日4限でCALL教室で行った。金4という時間帯ではあるが、1人1台のパソコンが確保できることもあって皆とてもよく出席してくれた。このクラスに仏検の過去問を使ってみた。どのような効果が得られたのか。

本校は、毎年6月の実用フランス語技能検定(仏検)1次試験の会場となっている。私は3年半くらい前から責任者を務めているが、年々試験環境がよくなっている。会場が古い校舎から新しい校舎に移り、聞き取り試験もカセットからCDの使用になって音質が断然よくなり、また仏検事務局との連絡や会場設置の手配も改善された。

仏検の受験者には、学生だけでなく、さまざまな年齢、職業の人がいて、皆本当に熱心だと感心する。この6月の仏検では、小学生の受験者に父親が付き添っていたが、別室で試験の間中、気になるようで落ち着かない様子だった。私は、80歳くらいの方々を席まで案内した。1級の試験教室では、年配の方々が半分以上を占めている。こうしてみると、仏検は日本でしっかり定着しており、10歳から80歳までの人々に愛されているのだと改めて思う。

では、受験生はどういう目的で仏検を受験するのだろうか。おそらく、目的もさまざまで、フランス人とのコミュニケーション目的から検定マニアまであるだろう。日本にいて毎日フランス語を使う生活をしている人は少ない。試験には実社会で使われているフランス語が出題されていると思うが、逆にそれに合格したからといって実社会ですぐに使えるものでもない。実用の域外で、「自分への挑戦」という目的で意欲を掻き立てている人も多いと思う。

どのような問題が仏検の問題であろうか。仏検問題は5級から1級まで出題様式がパターン化されている。5級から3級までは動詞、前置詞、語彙、文章全体などの的確さを問う3択あるいは2択式、文とイラストの一致問題などのパターンがある。それ以上の級になると変形、長文問題などがあり難しくなる。いずれの場合も合格するには、何度も過去問を解いてみる必要があろう。1級はとても難しいので合格した人の喜びはひとしおである。

このような仏検問題の5級を今年の1年生の大クラスの授業で使った。仏検は上記のように多くの人にとって実用的というより「自分への挑戦」であるなら、意欲を掻き立てる方法で利用できるのではないか、そういう意図で過去問を使った。毎回5級問題を過去問から5~7問くらいピックアップして学生たちに出題する。当然初回は彼らにとって本当のクイズであったろう。正答率は常に40%~50%であった。もちろん、なぜその答えが正解かは解説する。授業の最初に10~15分行うのだが、何回か行うとあまりのばかばかしさに嫌になる学生もいただろう。でも私はかまわず行った。3回目ぐらいから、1回目とまったく同じ問題も出題してみる。その日の授業で習ったばかりの単語も選んで出す。そのうち、私は仏検問題を授業の最初ではなく、真ん中に、あるいは最後に行った。何度も同じことを繰り返し説明した。正答率が60%になった。大して意味のない数字かもしれないが、大いにまじめに取り組む学生もいた。

仏検問題をこの授業で使うことの長所は、クイズ感覚で、フランス語の語感を養うと同時に、学習したフランス語を定着させる、つまり「覚えた」という意識をもたせることにあるように思う。私は1回の授業を文法、文化、会話、聞き取りなどいくつかのセッションに分けて、仏検問題挑戦もその1つとして導入した。同じパターンで、複数のセッションを組み合わせ、繰り返し事項と新規事項を織り込んでいく。繰り返しこそ、過去の記憶を呼び「覚ます」ことであり、「覚える」という行為であろう。「覚える」とは「ぼんやりした意識がはっとかみ合う」「はっと気がついてそれを理解する」と漢字源にある。学生がはっと気がつけばフランス語を覚えた感覚ではないだろうか。

授業をいくつかのセッションに分けてパターン化させ、繰り返し事項と新規事項を織り込むという授業方法の基本を今回改めて、仏検の過去問題で学んだ気がした。学生に「1年間フランス語を勉強したら何級がとれますか」と聞かれたので「4級はとれると思います」と答えた。モチベーションがあがれば3級も可能であろう。学生たちは愉しい授業であったと評価してくれたし、私にとっても実に愉しいクラスであった。

仏検が日本で浸透しているのに比べてフランス政府公認のDELF・DALFやTCFなどはあまり知られていない。私が思うに、仏検1級問題のハードルをもう少し低くして、1級に合格した人には、DELF・DALF試験の1回分の受験料を無料にするといった戦略をとり、仏検とDELF・DALFをリンクしてみてはどうだろうか。6月、仏検の1級受験教室で見た年配の方々の1級合格の喜びの顔を是非見たいものである。