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フランス語はわたしに世界を広げてくれる-報告:仏検1級合格からテレビ出演,授賞式まで-

深川 聡子 (大阪大学招聘研究員・奈良教育大学、神戸女学院大学非常勤講師)

仏検事務局から、助教として勤務していた大阪大学フランス文学研究室にお電話をいただいたのは2009年10月29日。日本テレビ『1億人の大質問!? 笑ってコラえて』の「日本列島検定試験の旅」というコーナーで仏検を取り上げる企画があり、1級のトップ合格者として紹介するから出演してみないか、とのことだった。合格通知を受け取ってほっとしたというのが正直なところだったので、最高点とは想像もしておらず、電話口で思わず歓声をあげた。今回、このAPEF通信にご報告の機会をいただいたことに感謝しつつ、1級受験・合格から番組撮影、そして表彰式までを振り返ってみたい。

そもそも私が仏検を受験した動機は二つあった。第一に、文学研究を中心に、途中6年間のリール留学を挟んでかれこれ20年近く学んできた自分のフランス語の力を、実用フランス語検定というディプロムの取得を通してひとつの形にしておきたいと思ったこと。そして第二に、フランス語教師の立場から、学生たちにフランス語のより自発的な学習のために仏検を奨励するにあたって、勧めるからにはまず自分で受験してみようと考えたことだ。

いくら仕事や読書を通じて日常的にフランス語に接しているといっても、いざ受験となると準備なしで臨むのは心もとない。時間をみつけては問題集を解き、ネットでニュースを読み、外出時には音楽プレーヤーにダウンロードしたラジオ番組を聴く。フランスの友人に積極的にメールを書く。あるいは趣味を兼ねてシャンソンのディクテに精も出した。どこからどこまでが「試験勉強」だったのかはっきりしない部分もあるが、限られた専門分野を超えて、より幅広く生きたフランス語に触れるように努めることができたのは、仏検という目標を設定したからこそと思う。苦手分野の医療や法律、経済などにも、仏検のモチベーションのおかげでどうにか取り組むことができた。言語を学ぶことが、知見を広め、その言語特有のものごとの捉え方を学ぶことになる──そうした外国語学習ならではの喜びは、「試験勉強」の語が響かせる重苦しさを払拭して余りあるものとなった。

夏に合格通知を受け取り、自分なりに目的はなんとか達成したと思っていたので、テレビ出演のお話は、望外のご褒美。11月に制作の方が大阪大学に二度打ち合わせと撮影に来られ、非常勤出講先の奈良教育大学でもフランス語の授業風景を撮影された(残念ながら放映ではカットされたのだが、ご協力いただいた職員・学生の皆さんにこの場を借りてお礼を申し上げたい)。その後、年が明けて2月11日に六本木ヒルズのレストラン「L’Atelier de Joël Robuchon」で世界的シェフのロビュション氏にインタビューを敢行、3月5日に麹町の日本テレビでのスタジオ収録。こちらは「簡単フランス語講座」として、お菓子やパン、ワイン等を用いて、カタカナフランス語や鼻母音の初歩を紹介した。かくして3月17日、『笑ってコラえて3時間スペシャル』で、午後8時過ぎから30分弱「検定試験の旅」のコーナーが放映された。

撮影は初めての体験で、打ち合わせやシナリオ準備を何度も行ったにもかかわらず、インタビューもスタジオ収録も、いざカメラを前にすると平常心などあっという間に吹き飛ぶ。ロビュション氏の独特のオーラに圧倒されて舞い上がり、鴨とフォワグラのあまりの美味しさに調子に乗ってワインをお願いしてしまったことや、スタジオで帽子がずり落ちて大慌てだったことなどは、思い出すだけで顔から火が出そうだ。全体の収録のうち9割方はカットされたと思われ、辛抱強くまとめあげられた制作の方々には、その手腕にただただ敬服する。仏検1級に泥を塗らずに済んだかどうか、収録直後は本当に不安でいたのが、幸い放映後に多方面から好意的な感想をいただき、ほっと胸をなでおろしている。

3月25日、日仏会館での成績優秀者表彰式では、文部科学大臣奨励賞とTHALES賞とで壇上に呼ばれたうえに、合格者代表としてフランス語スピーチの機会まで与えていただいた。満員の晴れやかな会場と錚々たるご来賓の方々を前に大いに緊張した。フランス語学習のきっかけから1級受験にいたる経緯、或いはテレビのことにも触れて、APEFのホームページにある« Le français m’ouvre le monde »(フランス語はわたしに世界を広げてくれる )という標語が、まさしく自分自身が実際に経験しているものだということを強く実感しながらの言葉となった。

スピーチの最後に述べた « J’espère continuer à découvrir et à redécouvrir, et si possible transmettre aux autres, ce plaisir d’apprendre le français, cette langue qui nous ouvre le monde. »(わたしたちに世界を広げてくれる言語、フランス語を学ぶ喜びを、これからも見出し続けていきたい、そして可能であればその喜びを他の人たちにも伝えていきたい)という言葉は、今の自分の偽りない気持ちだ。ミルフィーユやクロワッサンが入り口ならば、そこから入ってゆくことのできるフランス語の世界はもっと楽しく、もっと深くて広いものなのだから。その魅力をいかに伝えるか、考え、試し続けること、スキルを磨いてゆくことを、これからの課題としたい。