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検定から始まった一つの流れ

寺家村 博 (拓殖大学准教授)

大学における第二外国語の位置付けがここ10年確実にその不透明さを増している。フランス語も例外ではない。このような状況のなか、関東圏の一中規模私大のフランス語学習への取り組みをお話しさせていただきたい。もちろん、フランス語検定を中心にした話であるが、学生の学習意欲向上のきっかけに検定制度を選んだことで、習熟度別クラス編成を行うことになり、さらにこの編成を可能にしていくために共通テストが実施されていくという一連の流れが作られていった。この過程をおっていこうと思う。何か一つを変えることでそれに伴ってまた別の変化がおきていった。

本学がフランス語検定の準会場となって8年目となる。当初は年2回の受験者数をあわせても30人に満たなかったが、2007年にはおよそ220名が受験するまでになった。筆者が所属する政経学部では130名ほどが受験した。これは学部のフランス語履修者数の1学年の総数に相当する。もちろん、履修者の数はそれほど重要なことではないのかもしれない。ただ、1、2年次の履修者数の50%が受験することになれば一つの制度として定着していけるのもまた事実である。

本学の第二外国語のおかれている状況はけっして楽観できるものではない。現在工学部と国際学部を除く3学部で第二外国語のフランス語は選択必修として展開している。1年次2コマ、2年次2コマである。とりわけ政経学部と商学部の学生数が大学の総学生数の60%をしめており、気をぬくことは許されない。さらにこの両学部には3、4年次にそれぞれフランス語のクラスがいくつか設けられている。もし、履修者数が少なければこの3、4年のクラスを維持していくのが困難になる。ここが崩れると現行の1、2年の選択必修制度に悪影響が及ぶのは目にみえていた。いかにして専門科目の学習に忙しい3、4年生の目をフランス語に向けさせるか、ここからすべてが始まった。

3、4年の語学クラスの可能性を考えることは、本学においてはそれはとりもなおさず1、2年の語学学習を見直すことであった。そしてやらなければならないことと、今すぐにできることを考えあわせると、それが検定であった。早速、検定受験と合格を2年生の学習到達目標の一つにし、これにともなって2年次クラスのなかに「特別選抜クラス」(20数名)を設けた。このクラスは1年の成績上位者から構成され、検定3級合格を目標にさだめた。もちろん反対の声も小さくはなかった。「教養教育と検定はなじまない」「語学教育の中で検定に重きがおかれるのはいかがなものか」言われてみればどれも筋の通った意見である。しかしながら何かを変えていかなければならないこともまた明白であった。「特別クラス」のだした結果は2006、2007年とも3級合格がおよそクラスの30%、4級合格が100%であった。本当にささやかな成功体験ではあるが、学生たちはそれでもとても喜んでいた。「目標をもって学べてよかった」「フランスの文化にも興味がわいてきた」彼らの中から本学の短期留学奨学金制度を利用してここ数年4、5名の学生が夏休みに渡仏している。このよい雰囲気は他のフランス語クラスにも伝わっていった。現在3、4年次のフランス語クラスには「特別クラス」で学んだ学生を中心に以前よりかなり多くの学生が来るようになり、試みは軌道にのりだしている。2008年からは第二外国語全体が2年次において習熟度別クラス編成または「特別クラス」設置を予定している。

このような2年生のクラス編成実施にあたって一つ整備したことがある。それは1年次の成績評価の透明化である。もし各クラスで定期試験の採点基準が違えば、2年次のクラス分けの際に学生たちから不満がでることが十分予想されたからだ。そこで1年後期テストのなかに共通テストを一定の割合で導入することにし、問題の内容と形式は検定の5級に準じるものにした。またこの共通テストに用いる語彙は過去3年間の検定5級の語彙をひろって作成した語彙集からだすことにし、学生に事前に配布した。これにより1年の時から学生たちは少しずつではあるが検定を意識するようになっていった。

学生たちは検定という目標をもったことで、フランス語学習に実感のようなものをもてるようになったと思う。それが彼らにとってフランスの社会や文化、政治や経済などいろいろな分野に興味をもつ一つのきっかけとなったことは教える側としてとてもうれしいことだった。初習の言語の大きなアドバンテージは、誰もが同じスタートラインに立てることであり、進歩を自覚しやすいことではないだろうか。

教える側にも変化はある。検定の導入により学部の語学教育の方向性を教員の間である程度共有できるようになった。もし一体感が生まれてくるのであればこんなにうれしいことはない。もちろんこのシステムは完成されたものではなく、問題点も今後でてくるであろう。しかし、立ち止まることは後退と同義である。2008年からは検定合格者と共通テスト成績上位者の表彰制度をたちあげる。これからも試行錯誤を繰り返しながら学生たちによりよい語学学習の環境を整えていきたい。