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南の島のフランス語学習

大下 祥枝 (沖縄国際大学教授)

学生からの要望に応えて、仏検を初めて沖縄で実施した日の光景は記憶に残っているが、果たしてそれはいつ頃だったのだろうか?研究室の書棚にずらっと並ぶカセットテープを調べてみると、最も古いのが1990年の春季のものであった。その日から今日まで、検定試験を受ける準備のため、また、カセットテープを借りるために研究室に立ち寄った多くの学生の顔が目に浮かぶ。

沖縄での仏検の歴史を振り返ってみると、当初は3級、4級、5級の試験を勤務校の学生だけを対象に行なっていたが、やがて宜野湾会場という形になり、他大学の学生や一般の方も受験に来られるようになった。10年程前に春季は沖縄国際大学、秋季は琉球大学という具合に会場を分担しあった時、2級の秋季のみの実施も決まった。少ないスタッフで会場のお世話ができるギリギリの状況であったが、1級と準1級の1次試験を沖縄で実施してもらえないかという嘆願書が、数年前に仏検事務局に寄せられた。確かに、1次試験の段階から高い航空運賃を払って県外へ出向くのは、経済的にも時間的にも大きな負担である。ちょうど準2級が導入された時期と重なり、関係者との協議の末に、1次試験は全ての級を実施することが決定された。2次試験に関しては、今年度から準1級が沖縄での受験が可能となり、1級のみが県外受験となる。

仏検にどのように取り組んでいるのか、勤務校での実践の一端を次に述べてみたい。4月に新入生を前にして、英検と比較しながら仏検の内容と単位認定について紹介する。3級合格は4単位、4級なら2単位が認定されると分かると、学生の側から教科書をどの程度学べば検定を受けることができるかといった質問が出される。各種語学検定試験に対する大学側のサポートとして、対策講座がある。これは14時間分の講師料を大学が負担して学生に提供するもので、仏検に関しては、8月上旬に4日間という開催方式をとってきたが、留学生にアルバイトで手伝ってもらうようになってから参加者が増え始めた。4年前に学術交流協定を締結したレンヌ第二大学から派遣されてくる3名の留学生が、週末にボランティアで、2年目のクラスの学生を対象にした勉強会を開いてくれている。Dictéeが中心で、仏検3級の問題やラジオ講座のテキストを彼らが何度も読み、次に学生たちが聞き取ったままに板書した文章を訂正してもらうやり方であるが、日本語とフランス語を交えながらフランス語表現法や、時にはフランス人の生活様式を熱心に説明する彼らの姿にはいつも感動を覚える。勉強会の常連の他に、1年生から4年生まで参加する語学検定試験対策講座では、準1級から5級までの過去問を数回分プリントして配布する。解決できない文法事項などを、各自が講師や留学生に質問するという手順で始まり、筆記試験の解答が概ね終わった頃を見計らって、各級に分かれてテープ、もしくは留学生のナマの声を聞き取る作業に移る。様々な級の受験準備をする学生が同じ教室に集まることで、お互いに刺激を与え合っているようである。検定の直前になると、質問がある学生には、教室や研究室で個別に対応している。

レンヌ第二大学への派遣留学制度を契機に、仏検が教職員や学生の間で広く知られるようになった。選考試験を受ける基礎資格について、仏検のパンフレットに記載された「試験のあらまし」を基に議論が重ねられた結果、4級合格程度の基礎力を持つ者と規定された。実際には3級合格後に選考試験を受け、フランスへ出発するまでに準2級に合格する学生がおり、派遣留学を希望する学生たちの間では、先ず3級合格が目標になっている。3名の派遣学生は、大学の講義を受講できる力はまだ備わっておらず、大学付属の語学学校(CIREFE)で学ぶ傍ら、時間割を工夫して大学の講義を聴講するというのが実態である。とはいえ、10か月間の滞在中に学校や学生寮などでフランス語を鍛えてもらっていることは確かで、全員が帰国前にDELFを受験して沖縄に戻ってくる。派遣学生の仏検結果を見ると、仏検とDELFのレベルがうまく連動しているように思われる。留学前に準2級に合格した学生は、DELFのB2を取得して帰国した年の秋季に仏検準1級に合格しており、3級の合格証を持っていた学生は、DELFのA2かB1を取得後、仏検2級に合格している。フランスで勉強した後、彼らがフランス語学習を継続する動機となっているのが仏検であり、1級に合格してから、再度フランスへ渡ろうと考えている者もいる。検定試験を沖縄で実施した初期の頃は、週2コマで2年間しか学ぶ機会のない学生には3級までが限度かと考えていたが、近年、特に留学生が南の島にやってくるようになって以来、フランスを身近に感じ取り、仏検3級以上に合格して留学に結びつけようとする学生が少しずつ増えてきている。今後の目標は、仏検準1級か1級に合格する実力を持った学生を育て、フランスへ派遣することである。それが実現される日が必ず訪れると考えたくなる程、学生たちは留学生と日常的に交流しながら、フランス語学習に励んでくれている。