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フランス語を選ぶということ

川勝 直子 (神戸海星女子学院中学校高等学校他)

「先生、私の元に最高のクリスマスプレゼントが届きました。」ある夜パソコンを開くとこんなメールが入っていました。中学3年生の生徒からでした。そのメールは「仏検の合格証です!」と続き、4月から週に1回フランス語を学び始め、11月に初めての仏検に合格できたことへの喜びが綴られており、そして届いたばかりの合格証の写真が添付されていました。

この生徒の学校では中学3年生から高校3年生までフランス語を学ぶことができます。しかしそれは実は簡単なことではありません。中学3年生では英会話かフランス語を選択するため、フランス語をとることはそれほど困難ではないのですが、その後もフランス語を続けようと思うとかなりの覚悟が必要です。高校生になると選択群に様々な教科が現れ、いわゆる受験科目もその並びにあるからです。その中でフランス語を選ぶには、両親や、ときには担任教諭などの反対があっても負けないほどの意思の強さが問われるのです。そのうえ、原則として希望者が10人に満たなければ開講されません。本人の意志に加えてある種の「運」も必要となるともいえるでしょう。

秋の仏検の頃になると色々な事情を抱えた生徒たちが相談にやってきます。そんな生徒ひとりひとりと向き合うとき、私は決してフランス語をとるようには勧めません(もちろん全体に向けての選択科目説明会などではフランス語を選択してもらえるよう、熱く語りますが)。フランス語を選択したとしてもしなかったとしても、後悔してほしくないからです。一緒に考えることはしますが、最後に本人が自分の意思で選んだ道を尊重します。「道」などというと大げさに聞こえるかもしれませんが、高校生にとっては選択科目ひとつといっても一大事なのです。

ある高校2年生の生徒が、「高3でフランス語をとるかどうか迷っています。高3までフランス語を選択した卒業生の先輩に相談したいのですが、連絡をとっていただけないでしょうか」と言ってきました。早速その「先輩」に連絡をとると、「それぞれの家庭事情や個人のモチベーションに一番左右されると思うので、それらの部分と相談するのがいいと思います。でも以前学校の進路通信に後輩へのアドバイスとして書いたものがあるので読んでもらってください」との答えが返ってきました。

いわゆる超難関国立大学に合格したときに書かれた彼女のエッセイの内容は次のようなものでした。

フランス語を履修すると受験科目として必要な数学演習2(数IIB)がとれなくなるため非常に迷った。しかし「学校は受験勉強だけをするところではなく、それも含めた教養を培うところではないのか」と思い、「大好きだから」フランス語の履修を決めた。履修していない数学も自分で工夫して必死に勉強した。好きなフランス語の授業があることで学校生活がとても充実したものになり、受験勉強全体に対するモチベーションもぐんと上がった。最後のフランス語の授業をやり終えたときも大学に合格した今も「自分で選んだ道だから心からよかったと思え、このうえない達成感や幸福感を得られた」と強く思う、などのことが切々と語られていました。そして最後は「自分で決めた道は自分の力で歩いていけます。どうか他人に左右されず、自分の選択をしてください」ということばで締めくくられていました。

私はこの作文を読んだとき、強く感動すると同時に身の引き締まる思いがしました。このような思いでフランス語を選んだ生徒たちに後悔させる授業をしてはいけない、一時間一時間の授業を大切にしなければ、と改めて思いました。

もちろんこんな生徒ばかりではありません。別の学校には、なんとなくフランス語を選択してしまっただけという生徒、勉強そのものが大嫌いな生徒、50分の授業さえ座っていられない生徒もいます。けれどもそんな生徒たちも、そんな生徒たちだからこそ、フランス語を勉強していることに誇りを持っていたりもします。ある生徒は仏検5級に合格したとき、「生まれて初めて検定試験というものを受けて合格しました」と言い、とびきりの笑顔を見せてくれました。彼らもまた、本当にたいせつでかわいい生徒たちです。いろんな高校生たちがフランス語を勉強しています。1年間しか履修できない学校も多いけれど、限られた時間を最大限に利用して補習や練習に励み、仏検やDELF、コンクールに果敢に挑戦する生徒たちもいます。そして合格、入賞できたときなどは勲章を手に入れたかのような騒ぎです。そんな生徒たちを見ていると、このような成果を得ることは大きな自信につながるのだということをひしひしと感じます。

先のメールは最後にこう書いてありました。「来年度の選択科目の件ですが、家族との相談の結果、フランス語をとることになりました。」そう、この生徒は家族からフランス語を選択することを反対されていたのでした。まさに私にとっても嬉しいクリスマスプレゼントでした。この生徒にフランス語を選択してよかったと心から思ってもらえるような授業をめざしてがんばろう、と心に誓った夜でした。