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フランス語教師の習い事

竹内 京子(順天堂大学)

フランス語を学ぶことは、フランス語圏の文化も含めて学ぶこと。教授法の研究会では、いかに文化を教えるかについてのアトリエも多い。学生がフランス語やフランス文化のどのような面に関心があり、何を目標にフランス語を学ぼうと思ったかを考えると、自分の知らないことが沢山あることに気付く。それゆえ、フランス語を教え始めてから、様々な習い事をしてきた。食物調理科のフランス語担当時は、フランス料理の授業に参加させてもらい、ワインについて聞かれれば、ワイン教室に通った。服飾デザイン科では、ファッションについての本を読み、色について調べた。教師は教えることによって、学生からもいろいろなことを学ぶ。学内のソーセージ作りの公開講座に参加したり、オペラ座でミツバチを育てていることに驚いたりもした。

今回は、最近の習い事を紹介したいと思う。5年前から順天堂大学のスポーツ健康科学部の授業を担当している。学生は各自、専門とするスポーツに忙しく、年間通して様々な大会に参加している。日本学生ペタンク選手権大会プレ大会フランス語の授業は「初級フランス語会話」(通年)があり、選択科目である。ところが、オリンピックの公用語がフランス語であるからといって、スポーツといえばフランス語という発想はあまり広まっていない。フランスとスポーツ、フランス語とスポーツの関わりを模索するうちに、近年、特に高齢者のペタンク人口が急激に増え、見渡すと町内にペタンクのサークルがある地域が多いことに気が付いた。早速、練習用のボールを買い、授業でペタンクのルールを紹介すると、熱心に取り組む学生が出て来た。

ペタンクの最低限のルールは簡単であるが、細則が沢山ある。実際の試合は審判員がつきっきりではなく、両チームが納得のいくよう確認しながら進め、判定も競技者が行う。判定に困った時に初めて審判員を呼ぶことが多く、競技者もある程度の知識が必要である。まずはルールを知らなくてはと思い、2016年の春休みにC級審判員、初級指導員の講習会に参加し、知識を得た。また、東京のサークルで個人的にもペタンクを始めた。

順天堂大学さくらキャンパスのある千葉県印西市はペタンクの盛んな市でもある。年に2回、6月と11月に市民ペタンク大会が開催される(参加人数は毎回約120名)。フランス語の授業からの流れで、2年前からこの大会に学生とともに参加している。印西市市民ペタンク大会また、日本ペタンク・ブール連盟主催で、昨年、大学生の全国ペタンク大会が東京で初めて開催された。2024年のオリンピックのパリ大会でもし正式種目になった場合に備えてだそうである。2月のプレ大会に順天堂大学の学生も参加した。結果は2勝5敗で7位だったが、とても楽しい大会であった。

こう書くと、肝心のフランス語は? と思われるかもしれないが、ペタンクをやることによって学生のフランスやフランス語に対する関心が高まっているのは確かである。事実、授業中もより集中し、仏検にも沢山の学生が合格した。何のためにフランス語を学ぶかという目標ができたのがよかったのかもしれない。印西市の大会では、フランス語を全く習ったことがない高齢者の方々が、当たり前のようにペタンク用語をカタカナフランス語で使い、素晴らしい投球には「ビヤン!」の掛け声が飛ぶ。また、時には会場でフランス人に遭遇し、自己紹介や授業で覚えた表現が役立つ。こういうことがあると、またフランス語の勉強が楽しくなる。

さらに、学生たちは「フランス語の授業でペタンクを初めて知りました」と会う人ごとに答え、ペタンク大会の参加者にペタンクがフランスのスポーツであることを広めたようだ。こんなにフランス語の用語を使いながら、フランスのスポーツであるということを知らない方も多い。印西市市民ペタンク大会参加者の方々はペタンクに対する熱意のみならず、競技の実力も学生とは比べものにならないほどレベルが高い。ペタンクがフランスのスポーツだということを知って、フランス語に興味を持つということも十分に考えられる。よくペタンクは頭脳勝負のスポーツだから年齢は関係ないといわれているが、フランス語を始めるのも年齢は関係ないだろう、是非歓迎したい。

自分自身を振り返ると、今まで様々なことを雑多にしている。つまり、学生の興味がいかに広いかということの現れである。フランス語という糸でつながったこれらのことを追いかけるか追いかけないかは教師の自由である。でも、追いかけてみると新しいものが見えてくるだけでなく、思いのほか自分も楽しめる。教師の習い事、おすすめである。