福山市立大学におけるフランス語学習−フランス語を使って行動するために−
大庭 三枝(福山市立大学)
福山市立大学は広島県東部に位置する公立大学で、保育者養成の伝統を誇る福山市立女子短期大学を前身とし、2011年に開学しました。教育学部(教育コース・保育コース)と都市経営学部からなり、大学院(教育学研究科・都市経営学研究科)を合わせても学生数1,000人強の小さな大学です。
教育学部は、1年次に必修の英語(週2コマ、通年)に加え、第2外国語としてフランス語・中国語・ポルトガル語の中から一つ選択必修(週1コマ、通年)となっています。都市経営学部は1年次に英語(週2コマ、通年)と中国語(週1コマ、通年)が必修で、2年次以降に選択科目としてフランス語・ポルトガル語を勉強することができます。大学全体では毎年約40人程度の学生がフランス語を履修しています。
本学のフランス語学習の特徴は、「フランス語を日常的に使う」ところにあります。フランス語履修者は(既修者も)、私と学内で会うと必ずフランス語で挨拶し会話をします。地方都市の福山でフランス語会話の機会は限られていますので、私をフランス人(練習相手)として最大限に「利用」する、フランス語で気軽に話せる環境がキャンパスの中にはあります。
担当教員の私はというと、日本の大学・大学院時代に第2外国語としてフランス語を学習しましたが、在外教育施設(日本人学校)教員としてフランスに赴任した時、聞き取りと会話ができなかったために悔しい思いをしました。地歴公民(当時は社会)科と保健体育科の教員免許を有し両教科を教えていましたが、社会見学に引率するにも、市の体育館・プールを使用するにも、フランス語で交渉ができなくては仕事になりませんでした。
しかし、現地バレーボールチームに所属して国内を転戦、大学院でも学ぶうち、公私ともにフランス語で議論する豊富な経験が、赴任時にほとんどしゃべれなかった私をフランス人と渡り合える日本人教員へと育ててくれたのです。フランスで一番美しいフランス語が話されるという「フランスの庭園」Touraine地方で鍛えられたことも幸いしました。そこで、当時の校長先生からFLE(Francais Langue Etrangere)教員研修とフランス語科へのコンバートを提案され、「現地で苦労しながら習得した過程を経験しているからこそ、日本人が苦手な部分を教えられる」という言葉に、教育のあり方と教員としての姿勢を教えられたような気がしました。
以来、フランスでも日本でもフランス語を教える時は、頭も目も耳も(時には舌も鼻も)口も手も体全身を使い、五感を総動員して学ぶ環境を創出しています。現在は週に1回90分どっぷりとフランス語・フランス文化に浸かります。フランス語の音とリズムに慣れ、フランス語の指示で体を動かしながら、フランスの食べ物等を実際に味わい、フランス文化を体験し、実物に触れ体感しながら学習します。わずか週1回の授業ですが、フランス語運用能力の4つの要素(聴解力、会話力、読解力、文書表現力)を偏りなく育てることを目標としています。
定期試験では筆記(仏問仏答:Comprehension Ecrite, Expression Ecrite)、聞き取り(Comprehension Orale)、口頭(Expression Orale)の3種類の試験いずれも基準を満たすまで指導します。そのために、生活の中で見聞きするフランス語に敏感でいるよう呼びかけていると、「CMの曲が聞き取れた」、「ケーキの名前が理解できた」など、学生たちはプチ成功体験を報告してくれます。あらゆる感覚を駆使して感受した小さなフランス語体験をできるだけ多く積み重ねること、そのためのアンテナを鋭敏にしておくことを推奨しています。また、時計・カレンダーや天気予報を見た時、「フランス語を頭によぎらせる(思い浮かべる)、よぎった数だけ頭に残る」、と即時的かつ日常的に想起することをすすめています。フランス語で感受する力と表現する力をいかにして伸ばすか、担当教員として常に模索しています。
その中で、Francophoneとの直接接触は何よりも大きな動機づけとなります。フランス時代からの研究協力者が勤務するパリ・エスト・クレテイユ大学(L’UNIVERSITE PARIS EST CRETEIL以下UPEC、旧パリ第12大学)と2014年に大学間交流協定を締結、同年春には本学学生がUPEC訪問、秋には研修下見に先方教員が本学訪問、遂に2015年秋にはUPEC学生5人の福山市立大学研修が実現したのです。彼らは教育学部学生でしたから、フランス語授業だけでなく、私が担当する教育学部専門科目(表現指導法等)や学外実践に日本人学生とともに参加しました。日仏両国の学生たちは豊かな体験を共有し、教育・保育職を目指して学習意欲が一段と増したようです。
また、私がOMEP(Organisation Mondiale pour l’Education Prescolaire:世界幼児教育・保育機構)でフランス語圏諸国とともに共同研究する関係から、2016年にはOMEPフランス代表・カナダ(ケベック)代表ら3人が来学してくれました。このように2014年以来毎年、フランス語を母語とする人たちに授業参加してもらい、ゲストを囲む小グループで直接「フランス語を理解する、伝える」機会を設けています。学生たち曰く「生フランス人との遭遇」体験が、異文化理解と学習意欲の向上に寄与していると思います。
実用フランス語技能検定レベルと単純には比較できませんが、本学のフランス語授業(年間30コマ)を学習すると「4.5級」レベル、すなわち5級は確実、もう少し頑張れば4級合格というところまで鍛えます。身に付けたフランス語運用能力を証明するために、希望者は実用フランス語技能検定(4級、5級)に挑戦してきました。2012年に準会場として実施して以来、受験者数は毎年20人前後(のべ)で推移し、4級、5級ともに平均合格率90%を上回る好成績を収めています。本学受験者の特徴は、聞き取り試験の得点率が高く(4級78%、5級86%)、筆記試験得点率を常に上回っている点にあります。
毎年開催する仏検受験報告会は、受験者だけでなく受験を考えている下級生や仏検実施を応援してきた教職員など誰でも参加OKです。現地で調達してきたフランス各地のお菓子を囲みながら受験者の努力を労い、さらなる学習・交流や次の受験に向けての構えを形成します。仏検を媒介として異学年交流と学内における理解を促進することで、本学におけるフランス語学習とフランスとの交流がさらに進んできたと思います。
2016年度までは、「フランス語I」・「フランス語II」を終えさらに学びたい学生たちに対し、自主講座を開き対応してきましたが、継続学習の要望に応え2017年度より「フランス語III」(1単位)を開講しました。フランス語運用能力の基礎を固め、さらに発展させるこの授業には、1年・2年でUPEC学生と交流した経験を持ちながら保育実習等で受験できなかった仏検に3年・4年になってから挑戦しようとする学生が受講するなど、UPECとの交流がフランス語学習に功を奏しているといえます。
教育学部既修者の中には、青年海外協力隊で赴任中の卒業生もいます。フランス語学習がきっかけとなって、異文化への窓を開き相互理解を深めることのできる人材として成長し、日本でも世界でも活躍してもらいたいと願っています。