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東北大学と仏検

深井 陽介(東北大学 高度教養教育・学生支援機構 准教授)


東北大学 私は2017年4月に東北大学高度教養教育・学生支援機構(以下「機構」と省略)に赴任しました。機構は外国語教育を含む全学教育を担っている部局で、川内北キャンパスを中心に授業を行っています。現在、機構のフランス語の専任教員は私を含めて2名ですが、実際の授業は本学国際文化研究科、文学研究科の先生方をはじめ、非常勤講師の先生方にも担当して頂いています。

東北大学のフランス語の授業は非常に自由で、例えば1年生の授業の場合、週2コマをペアで担当することになっていますが、内容は会話中心1コマ、文法中心1コマと決まっているだけで、教科書も教育方法も教員の裁量に任せられます。現在、私は学部生の授業を中心に6コマの授業を担当しており、1年生の授業ではゲーミフィケ―ションを応用した自著『政宗伝』(三修社)をベースとした反転授業、2年生では小松祐子先生の『フランコフォニーへの旅』(駿河台出版社)をベースとした聞き取りとインタラクション中心の授業、3年生以上ではテレビ・ラジオなどのニュースの聞き取り・ディスカッションや、スイス、ローザンヌ大学との共同映画プロジェクト、昨年度より始まった「日本におけるゴンクール賞」の読書会などを中心に授業を進めています。

東北大学には優秀な学生が沢山いますが、赴任当初はフランス語をはじめとする初修外国語に対する学習のモチベーションが低いように感じました。というのも、教養教育にあたる全学教育を終えると、文系学部の学生は隣の川内南キャンパス、理系学生は青葉山キャンパスなどに移動し、学部の授業・研究が生活の中心になっていくからです。多くの学生にとって外国語の授業はいわば「本業」の前の「通過点」で、仕方なしにやっている雰囲気も感じられました。また、入学当初はモチベーションが高い学生でも、2年生の後半ごろになるとモチベーションが下がり、学習時間が減少していく傾向にありました。実際、学生生活に慣れていくと、部活動やサークル、アルバイトなどに熱を上げ、地道な努力が必要な外国語学習を継続しようという学生は減っていきます。

このような現状を打開する為、学習意欲の向上と維持を目的として、仏検を活用させて頂くことにしました。私は、既に前任校の東海大学時代より、当時お世話になっていた惟村宣明先生と共に仏検を積極的に活用してきました。学生に対して身近な目標を明確に示すことで、学生のやる気が増すことは経験的に分かっていましたので、まずは自分の授業を受講する学生に仏検の受験を勧めました。また、東北大学の先生方とも話し合い、仏検に合格することによって成績に加点することも認めて頂きました。例えば私の担当する「基礎フランス語Ⅱ(1年生の後期の授業)」では、5級に合格すると5点、4級で10点、3級で15点を加点します。こうすることにより、仏検の受験者数が飛躍的に増加するとともに、以前より意欲を持ってフランス語学習に励む学生が増えてきました。また、私の授業では到達すべき目標と達成期間を明確に定めるようにしました。例えば、1年生の11月に受験する4級では80点以上取ることを目標にします。続く2年次の6月では3級、11月では準2級に合格することが目標です。こうすることで、2年次終了までにフランス語を学ぶ学生の多くが準2級を取得するようになり、現在では文系はもちろん、理系の学生でも2年次の6月(つまり学習開始から1年3か月ほど)で準2級に合格する学生が多数出るようになりました。

東北大学におけるもう一つの改革が、学部の垣根を取っ払い、意欲のある学生が集まって、高学年まで外国語を集中的に学ぶプログラムを構築することです。まずは、本学文学研究科の阿部宏先生にご相談し、フランス語学習に意欲的な学生を対象とした「展開フランス語(検定・留学向け)」というクラスを開講しました。そして、本年度からは、全学教育カリキュラム改革に伴い、「東北大学プルリリンガル・スタディーズ(TUPluS)」という新しいプログラムが創設されました。本プログラムは東北大学が現代社会における新たな課題に挑戦する「挑創プログラム」の1つであり、初修外国語を集中的に学習するプログラムです。12単位で認定される「スタンダード」の他、「アドヴァンスト」、「エキスパート」の3つのコースがあり、文・教育・法・経済・理・工・農学部に属する25名の一期生と共に4月にスタートしました。今後、仏検の受験はもちろんのこと、フランス語圏に留学する学生を増やし、学内外の様々なイベントにも参加し、プログラムのブランド化を図っていく予定です。こうすることで、学生の就職や進学の際にアピールするポイントが増え、彼らの将来に少しでも役立つのではないかと考えています。現に私と共にフランス語を学んでくれた学生は、フランス語の学習とそれに関わる様々な活動を面接でアピールし、数多くの一流企業から内定を取ってきてくれています。研究室にやってくる学生からそのような報告を受けると、私も教員として非常に嬉しく、励みになります。

仏検は日本の学習者を対象とする唯一のフランス語の資格試験です。受験することで、全国の受験者と比較することもできますし、学内の他のクラスとの比較することも可能になり、教育上の戦略も立てやすくなりました。フランス語の授業内容や方法が自由であっても、仏検という共通の評価基準があるお陰で、学生も教員も明確な目標を持ち、達成した時の喜びを共に分かち合うことができるのではないかと思います。

コロナ禍で弁論大会が中止になったり、留学が困難になったりする中で、仏検は今まで以上に大切な存在になりました。有難いことに、東北大学のフランス語履修者、仏検受験者は右肩上がりで増加し続けています。就任当初219名だったフランス語履修者は今年度369名まで増え、2016年度、僅か年間15名だった仏検受験者は、2021度では239名まで増加し、合格者も2級9名、準2級7名、3級36名、4級120名まで増えました。22年度春季の受験者も過去最高を更新しています。また昨年度は2級を受験した文学部の赤城みうさんが文部科学大臣賞を受賞しました。今後もこのような発展を維持できるように学生と共に頑張っていきたいと思います。

2018年より初修外国語の履修希望を取りはじめましたが、フランス語の受講希望者は増加傾向にあります。 履修配属者数も2016年から2022年で約1.6倍増加しました。