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降って湧いたパリ派遣という贈り物

井形 美代子(東京造形大学 / 都立高校(注1) / 成蹊高校)

世界規模のスポーツイベントであるオリンピックについては毎年のようにフランス語の授業で取り上げている。それは紛れもなく、一時途絶えた古代オリンピックを近代オリンピックとして復興させ、国際オリンピック委員会(IOC)の設立に関わり、五輪のマークも考案した人物 Pierre de Coubertin (ピエール・ド・クーベルタン) がフランス人であり、オリンピックの第一公用語がフランス語となっているからである。2021年夏に開催された東京オリンピックは、五輪の旗が東京都知事からパリ市長に手渡され、パリが競技場と化す場面で幕を閉じた。勢いのあるこの映像を学生や生徒に見せると歓声が沸き起こる。


「パリに派遣する生徒を推薦して欲しい。」昨年の秋、都立高校の教員からこんな言葉をかけられた。オリンピック・パラリンピックの開催都市だった東京から次回開催都市となるパリへとバトンが渡されるのを機に、オリパラ教育の一環としてパリで生徒間交流が行われるという。渡航や滞在などの主な費用は主催者である東京都教育委員会持ち。これまでフランス語やフランス文化に関心を抱きフランス語を履修してきた生徒たちにとって、降って湧いたような贈り物である。

「東京都オリンピック・パラリンピック教育のレガシーとして、実践的な国際交流による『豊かな国際感覚』の醸成を一層推進するとともに、生徒の交流を通して、東京都のオリパラ教育をパリ に継承する(注3)。」 これがオリンピック・パラリンピック教育継承事業・パリ派遣研修の目的である。東京都では、公立学校・園において2016年度から2022年度までの6年間に渡り「東京都オリンピック・パラリンピック教育」が実施されてきた。また、2019年に東京都教育委員会がアカデミー・ド・パリ(パリ大学区)との間で教育に関する覚書を締結して以来、都立数校はパリの公立高校と姉妹校として交流し、私もそのうちの一都立高校(注4) でフランス語の授業を担当している。今回のパリ派遣研修は、こうした経緯を経て2023年1月30日から2月3日にかけてパリで実施され、東京都立学校9校、27人の生徒たちが参加した。

ところで、具体的な交流の中身を紹介する前に、私が現地に赴いたわけではないことをお断りしておく。生徒たちを引率したのは各学校の管理職や専任教員であり、これからお伝えする報告は、都立飛鳥高校と都立桜修館中等教育学校(注5) の生徒や教員から伝え聞いた内容が基になっている。さらに、このイベントの主眼は、先ほど説明したようにオリパラ教育の継承であってフランス語教育の一環ではないため、教科としてフランス語がない学校も参加している。

それでは具体的にどのような交流が行われたのか紹介しよう。出国から帰国までの全日程「1月30日〜2月3日」には羽田空港発着やホテルのチェックイン・チェックアウトも含まれているので、パリでの活動は実質1月31日、2月1日、2月2日午前となる。活動のスケジュールは次の通りである。

1/31午前パリ16区にあるジャン・ド・ラ・フォンテーヌ校を訪問し、パラリンピックスポーツ・ボッチャ体験や日本文化の書道体験を通じてパリの生徒たちと交流。
1/31午後シャン・ド・マルス公園にてエッフェル塔を背景に集合写真。専用バスでパリ市内(セーヌ川、ノートルダム大聖堂、オペラ座、オルセー美術館)を車窓見学。スーパーマーケットなどで買い物、市井の人々の生活を肌で感じる。
2/1 午前パリの生徒と共にルーブル美術館見学。その後集合写真。
2/1 午後ソルボンヌ大学で近代オリンピックの歴史やパリの歴史文化についての講義を聴講。
2/2 午前都内の学校とオンラインホームルーム。その後、パリ16区にあるクロード・ベルナール高校を訪問し、スポーツ・ダンス体験、オリパラ教育継承に関する生徒による発表、パリの生徒とのディスカッション。

2日半という短期間に効率良くこうした日程が組まれているが、さらに、オリパラ教育の研修視察という使命のもとパリ市内の名所が会場となっていることから歴史的建造物も見学できたことは、このイベントに花を添えている。とりわけソルボンヌ大学で生徒たちが見学した Grand Amphithéâtre (大講義室)や講義を聴講した Salle des Commissions は1年以上前から予約をする必要があるらしく、随分前から周到に準備されてきたことがうかがえる。Pierre de Coubertin が1894年に国際オリンピック委員会を設立したとされるソルボンヌ大学内の部屋 Salle Gréard(グレアールの間)は、今回のイベントに好適な場所であったに違いないが、残念ながら見学ルートには含まれていなかったそうである。

さて、参加した生徒たちの反応はどうだっただろうか。2月2日のオンラインホームルーム(注6) において、また帰国した彼らに授業の中でインタビューをしたところ、「朝食のクロワッサンが美味しくて毎朝5つも食べた!」「日が昇るのが遅く、朝9時ごろまで暗かった」「暖冬だったパリは東京よりも暖かかった」など、現地ならでは、といった体験が語られた。「高校生活で最高の思い出です!」と語った3年生は、3年間コロナ禍で留学が叶わなかった学年であり、感激もひとしおだ。「パリの生徒たちも意外と引っ込み思案だけど、こちらから話しかけてみると快く応えてくれた。」2年間フランス語を学んだ生徒たちのフランス語力は初級をマスターしたレベルだが、スマホの翻訳アプリをフル活用してパリの生徒たちとの交流を楽しんだようである。

それにしても、オリンピックが東京で開催された後にパリで開催されるという偶然があってこそ成立したこのパリ派遣。将来同じ組み合わせの可能性はそうないだろうと思うと、Pierre de Coubertin が天から微笑みかけてくれているような気がしてならない。

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(注1)私がフランス語を担当している都立高校は次の通りである:都立日比谷高校、都立三田高校、都立小平高校、都立飛鳥高校、都立桜修館中等教育学校。

(注2)掲載している2枚の写真は都立桜修館中等教育学校のサイトから引用。
https://www.metro.ed.jp/oshukan-s/news/2023/02/newsentry_69.html

(注3)東京都教育委員会のサイトより引用。
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2023/release20230216_03.html

(注4)都立飛鳥高校は、2019年にパリ12区のLycée Paul Valérie(ポール・ヴァレリー校)と姉妹校提携を結び、以来交流を続けている。今回のパリ派遣を利用して、ポール・ヴァレリー校ともパリで交流が行われた。

(注5)都立飛鳥高校と都立桜修館中等教育学校ではフランス語を最大2年間学ぶことができる。授業時間は週1回100分程度。ネイティヴとのチームティーチングでフランス語の授業を行なっている。

(注6)都立飛鳥高校のサイトでは、私も参加したオンラインホームルームの様子をご覧いただける。
https://www.metro.ed.jp/asuka-h/news/2023/02/newsentry_130.html