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大阪大学外国語学部におけるフランス語教育

栗原 唯(大阪大学)

 大阪大学外国語学部フランス語専攻は1学年約27名、ネイティブ教員を含む専任教員5名と10数名の非常勤講師で運営しています。学生たちは、フランスに留学したい、国際機関・企業で働きたいなど明確な動機の他、映画や文学、絵画、バレエなどフランスの芸術文化に興味があった、入試の流れで図らずもフランス語を勉強することになったなど様々な動機を持って入学してきますが、入学後に少しずつフランス語圏の見聞を広め、フランス語の面白さを発見し、お互いに刺激し合いながら日々切磋琢磨しています。

 フランス語の授業は27名、またはその半数ずつの少人数制で行われており、文法の授業を含めペアアークを多く取り入れ、学生が能動的に学習に取り組める形態をとっています。1・2年次は各年度文法、会話、講読、LL(発音・聞き取り)を内容とした5コマの必修科目があり、3・4年次はネイティブ教員による会話、作文、ビジネスフランス語などの授業が選択必修として設置されています。その他、フランス語圏についての歴史、社会、政治、文学、文化、言語などの講義・演習が日本語・フランス語で開講されています。これらの授業ではフランス語の題材やテキストを使用しており、フランス語圏の知識を深めるだけではなく、実践的なフランス語を身につけることができます。

 ここでは私が担当している1年次の文法の授業での取り組みを少しご紹介します。授業は1コマ90分を週に2回、教科書は朝日出版社の『新·フランス語文法 四訂版』を使用し、一年間でフランス語の基本文法を網羅します。文法解説がメインの教材のため、本専攻ではオリジナルの補足冊子を作成し、練習問題の拡充を図っています。昨年から特に力を入れているのが、口頭の練習課題です。各文法項目ごとに、活用、代名詞のリストや言い換え文、型となる例文などを口頭で暗記してもらいます。制限時間や個数などの具体的目標を事前に設定し、次回の授業でクリアできたらスタンプカードにハンコを押すシステムは、クリアしたい・ハンコをたくさん集めたいという動機を与え、学習意欲を刺激しているようです。

 











 口頭の練習課題は頭で理解した文法を、実際に口に出して使えるフランス語に繋げることを目指したものでしたが、思わぬ副産物がありました。一つは学生同士ペアで確認作業を行わせることで、学生間での励まし合い・教え合いが広がり、クラス一丸となってフランス語を頑張っていこうという機運が高まったことです。もう一つは、目標クリアに必要な口頭暗記のスピードのモデルとして配布している音源が、学生たちの発音向上に繋がったことです。LLの授業でも発音指導は行いますが、週に1コマしかなく、これまでどうしても取りこぼされてしまう学生が出てしまっていましたが、口頭の文法練習課題を取り入れてからは、フランス語特有の母音やリエゾンなどの基礎的な発音のマスターだけではなく、アクセントやイントネーション、フランス語らしいスピード、長い文でも途切れのない発声などを1年次の夏にはほぼ全員が身につけられるようになりました。

 カリキュラム外でのフランス語実践の場は、主に3つあります。まずは交換留学です。留学先はパリ、リール、ストラスブール、グルノーブル、マルセイユ、ボルドーで、毎年3年次の後期から1年間10数名を派遣しています。留学に行った学生たちは、ネイティブの学生と席を並べて受けるフランス語力が大いに試される授業のほか、文化交流イベントや旅行を通して多くの刺激を受け、帰国後はフランス語に対する自信とさらなる意欲を持って、専攻の授業や卒業論文に取り組んでいます。国内に留まっていてもフランス語実践の機会はあります。外国語学部に限らず、大阪大学は多くの外国人留学生を受け入れており、留学生との交流の場として「多言語カフェ」を開催しています。英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、朝鮮語(韓国語)の6つの言語を中心に、昼休みに集まって自由におしゃべりできる場が提供されています。カジュアルな会で日本語・英語厳禁というわけではないので、入学したての1年生でも参加できます。毎年新学期には「フランス語で挨拶できた!」「フランスの話を聞いてきた!」と嬉しそうに報告してくる学生がおり、国際交流の第一歩をここで踏んでいるようです。外国語学部のイベントとしては「語劇祭」があります。

日本語を含む25言語の専攻が、専攻語で劇を行うもので、演技を通して表現力を磨くだけではなく、それぞれの文化特有の社会問題、笑い、詩情などに触れることができます。2023年度はフランス語専攻は漫画『ベルサイユのばら』を題材に、2年生の学生たちだけでフランス語の台本を作り上げ、日本語のセリフをフランス語に翻訳する難しさに四苦八苦しながらも、素晴らしい舞台を成功させていました。

 このような形でフランス語教育を進めていますが、仏検・Delfなどのフランス語能力試験は当然欠くことのできない要素です。仏検2級・Delf B1以上のフランス語能力が必要な留学のためにはもちろんですが、私は留学をしない学生にはより一層仏検受験を勧めています。大学での4年間という長い学びの中、留学などの具体的目標を持たない学生は、時に道を見失ってしまうことがあるからです。5級から1級まで7つの段階に分かれ、それぞれに必要な語彙・文法項目を細やかに設定してくれている仏検は、このような学習者それぞれに具体的な指標を与えてくれます。学年・クラス単位で設定される大学のカリキュラム内では示しきれないものを補ってくれる仏検はまさに、フランス語教育の両輪の一つであると言えます。そのような仏検を運営してくださっている事務局をはじめ多くの方々に御礼申しあげます。