APEF 青山フランス語プロフェショナルコースのご案内
三浦 信孝(中央大学名誉教授、(公財)日仏会館顧問)
早いもので2018年4月に「APEF青山フランス語プロフェショナルコース」を開設して今年で7年目を迎えます。「フランス語プロフェショナルコース」をうたっているのは、フランス語を職業生活で使えるまで訓練するハイレベルのフランス語コースを目指しているからです。通訳コースが3クラス、翻訳コースが2クラスの5クラス編成で、日本人とフランス人の通訳・翻訳の第一線のプロ10人を講師に迎え、毎学期40人以上の受講登録をいただきコースを運営しています。
受講の目安を仏検のレベルで示すと、通訳コースの準備科が2級以上、基礎科が準1級、本科が1級、翻訳コースの基礎科が2級、本科が準1級となりますが、基本的にはリモート形式の入学テストを受けていただき面接でどのクラスが適当かを判断します。受講生には大学の学部生は少なく、大学院生か、すでにフランス語を使って仕事をしている20代後半、30代の社会人が大半を占めます。そのため授業時間は19時から21時までの2時間に設定しており、通訳準備科のみ土曜日の10時〜12時としています。
APEF青山プロフェショナルコースの歩み
本コースは「APEF青山」というAAで韻をふむネーミングをブランド名にしています。実は30年以上前の1990年に、通訳エージェントの老舗サイマル・インターナショナル付属のサイマル・アカデミーにフランス語通訳者養成コースが開設され、英語同時通訳のパイオニア小松達也氏の依頼で私はその主任講師を務めていましたが、採算が合わなかったのか2017年度をもって閉鎖されました。フランス語通訳者養成コースを別の場所でなんとか存続させたいと思った私は、その昔、東大駒場の教養学科フランス科で同級だったよしみでAPEFの西澤文昭理事長に相談したところ、前向きに検討いただき、青山学院大学の文学部長だった西澤氏が青山学院の仏文科と交渉してラボ教室をお借りできることになり、2018年4月の「APEF青山フランス語プロフェショナルコース」開設に至ったのでした。
ところが2020年春に始まったコロナ感染危機により大学が閉鎖されたため、授業はオンラインのリモート方式に切り替えました。ようやくコロナ危機が明けた2022年春からは通訳本科のみ一部青山学院でのオンサイトとリモートのハイブリッド授業にし、それ以外はリモート形式を基本に授業を続けています。リモート形式にしたおかげで地方在住の方や海外在住の方にも受講いただけるようになりました。
実績豊富で豪華な講師陣
【通訳コース】講師陣はサイマル時代から講師だった第一線の会議通訳者です。
◉カトリーヌ・アンスローさん(Catherine Ancelot)
掛け値なしで日仏会議通訳のナンバーワンで、井上靖から芥川龍之介まで
文芸翻訳の実績もあります。
日本語からフランス語への通訳授業を担当します。
◉宇都宮彰子さん
パリ政治学院に学びESIT(Ecole Supérieure d’Interprètes et de Traducteurs)
を卒業して会議通訳者になり、NHKBSのワールドニュースでFrance 2の放送通訳も
こなします。
◉小林新樹さん
東大数学科出身の理学博士なのにフランス語の魅力に耐えられず、
国立大学教師から会議通訳者に転業して40年のベテラン。
Le Monde紙の経済記事精読の授業は定評があります。
◉菊地歌子さん
学生時代に朝日新聞社のコンクール・ド・フランセで優勝してフランスに留学、
アテネ・フランセの名物教師を経て大学教授兼通訳者になった音声学博士で、
フランス語の発音にはうるさいです。
通訳準備科は菊地さんとクルーズさん、寺嶋さんの3人で指導します。
◉エリアーヌ・クルーズさん(Eliane Cloose)
ビジネスフランス語が専門のベテラン教師です。
◉寺嶋美穂さん
フランス生まれで幼稚園から大学までフランスで教育を受け、
ESITの翻訳科を卒業して来日、通訳の仕事を始めた若手バイリンガルの通訳者です。
世代交代の必要から最近、講師陣に加わってもらっています。
【翻訳コース】
◉ロドルフ・ディオさん(Rodolphe Diot)(翻訳コース本科)
日本語アグレガシオン(高等教育教授資格)をお持ちで書道に関する論文で博士号を
取得されていますが、日本でフランス語を教えている奇特な方です。
翻訳コースの本科では私とペアを組みます。
◉小野潮さん(翻訳基礎科)
スタンダールの研究者で、ツヴェタン・トドロフなど沢山の人文書を翻訳している
中央大学仏文科教授です。
◉カトリーヌ・ルメートルさん(Catherine Lemaître)(翻訳基礎科)
彼女のお名前は在日フランス商工会議所発行の日仏バイリンガル雑誌
Japon France Ecoの編集者として知っていましたが、エディターであり
翻訳者であり日本文化を紹介する著書もある方で、カトリーヌ・アンスローさん
の紹介で翻訳基礎科を担当していただいています。
かく言う私自身の自己紹介が遅れました。私は通訳コースと翻訳コースの両方を担当していますが、その昔、フランス留学中に通訳の仕事のおもしろさを覚え、帰国後、大学教師をしながら会議通訳を始めた最も古い世代です。最も緊張した仕事として記憶に残るのは、1982年春にミッテラン大統領が初来日した時に経団連会館での講演を逐次通訳したことで、折からの貿易摩擦で大統領の一語一句が注目され、翌日経済紙の一面に大きく報道されました。もう一つは、東京日仏学院に初めて同時通訳ブースが設置された1983年に哲学者ジャック・デリダの難しい講演をあえてひとりで同時通訳したことです。講演会の同時通訳は2人のペアでやるのがルールですから、ルール違反をしたことになります。その後は1984年以来一連の「日仏文化サミット」や日仏会館での学術講演会の同時通訳で自分の知的関心が広がり、通訳は「永遠の学生」たる私にとって最良の学校になりました。
2つのコースの醍醐味
通訳コースの授業では、時事問題を中心にさまざまなテーマを扱う適切な音源を教材に、日本語からフランス語、フランス語から日本語への両方向の通訳技術を学びます。各学期に1回、外部からゲストスピーカーを招いて、ライブ通訳訓練を行います。通訳にはスピーチ原稿がある場合とない場合がありますが、正確な通訳を行うためには、フランス語を正確に読む力と、それを的確な日本語に通訳する語学力と、テーマ毎の背景知識が必要です。ましてや日本語を私たちとっては外国語のフランス語に通訳する場合は、フランス人が聞いて自然なフランス語に通訳するだけの表現力を養う必要があります。
そのために私がお勧めするのは翻訳コースです。翻訳コースでは日本人の講師とフランス人の講師が毎週交代で授業を担当し、あらかじめ翻訳課題の文章を受講生に翻訳してもらい、それを講師が添削してお返しします。フランス語の表現力を身につける上で、自分の翻訳をフランス語ネイティブの講師に添削してもらうほどいい方法はありません。
おわりに
日本の会議通訳市場は英語が95%で、残りをフランス語や中国語など「多言語」が分け合っています。日仏の同時通訳者は10人ほど、逐次通訳のみの通訳者を入れても30人ほどで、その大半は女性です。しかしフランス語通訳への需要はコロナ後復活、拡大しており、大きな会議が二つ重なると人手不足になってしまいます。世代交代を進め若い世代の通訳者を養成する必要がありますので、ぜひ「APEF青山フランス語プロフェショナルコース」の門を叩いて見てください。
仏検2級以上の方々にはぜひ挑戦していただきたいスピーチコンテストです。
今年は、11月23日(土)に東京恵比寿の日仏会館ホールで決勝大会が開かれますので、
ぜひ足を運んでみてください。
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