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コロナ禍におけるカリタスの複言語教育  ~ 普遍的な愛( CARITAS )をもって人に尽くす人間を育てるために  Femmes pour les autres avec CARITAS ~

櫻木 千尋(カリタス女子中学高等学校 フランス語科主任)

人類の歴史的災厄といっても過言ではないコロナ禍によって、フランス語の学習環境や授業スタイルが大きく変わった方も少なくないのではないでしょうか?

私が勤務するカリタス女子中学高等学校でも、「生徒たちの命を守り生徒の学びを確保する」ため4月にオンライン授業がスタートしました。本校のオンライン授業の取り組みは、サンデー毎日(9月15日発売、毎日新聞出版)の首都圏おすすめ私立中学ランキングの記事において「学習塾の塾長や教室長が選ぶ中高一貫校 オンライン授業で高評価だった学校」で3位に選ばれました。この度、仏検だよりの執筆の機会に感謝しつつ、コロナ禍における本校の取り組みについてご紹介させていただきたいと思います。

カリタスの複言語教育

3人のシスター 本校は神奈川県川崎市にある唯一のカトリックの女子校で、2020 年で創立 60 周年を迎えました。カナダで初の聖人である聖マルグリット・デュービルが創立した「カリタス修道女会」が、戦後日本の社会的緊急課題であった学校教育の充実に応えるために日本へシスターを派遣し、カリタス学園が創立されました。「CARITAS」とは、ラテン語で「愛」を意味します。

創立当初より、英語とフランス語の複言語教育が行われています。中学では、フランス語を週に2コマ(1コマ45分)必修です。高校では、大学受験をする言語を英語かフランス語か選択し、もう一方を第二外国語として学習できます。「中学で複数の外国語を学び、高校進学時に大学受験をする外国語を選ぶことができる」カリキュラムを持つ日本でも珍しい学校の1つです。

オンライン授業開始に向けた怒涛の3週間

3月下旬、教員に召集がかかり、オンライン授業に必要なツール (zoom、Google classroom、Loilonote、Teams) のチェックとzoomの練習がスタートしました。そして4月1日に全生徒に向けオンライン授業開始を発表し、4月3日 〜 5日に全家庭と接続テストを実施、全授業の zoom ID とパスワードを発表、4 月 8 日に教科書と副教材を全生徒に配送し、4月10日から36時間(1日6時間 × 6日間)の試行期間が始まりました。生徒アンケートの結果をもとに、全教員で効果的だった授業のアイディアをシェアし、生徒の負担軽減策(授業時間を5分短縮、休憩を増やすなど)を話し合いました。

オンライン授業でも一人ひとりを大切に

フットサル部の体幹トレーニング

4月21日からは、通常時間割で全科目オンライン授業となりました。「一人ひとりを大切に」という本校の精神のもと、動画配信ではなく双方向的な授業にこだわって進められました。3週目に入り、各教員がチャット機能やブレイクアウトルーム機能を利用し様々な工夫がされていきました。非常勤の先生も含めた Teams を使った情報交換は、オンライン授業力向上に役立ちました。「先生も頑張っているから、私たちも頑張らなくちゃ」「授業が受けられるということがこんなに嬉しくて有り難いことだったんだ!」といった生徒からの声は、我々教員にとって大きな励みとなりました。

本校が大切にしている毎日の「お祈り」もオンラインで行われました。生徒たちは、祈りの時間を通して、医療従事者、この困難に苦しむ人々に心を寄せ、この状況下で自分に与えられた学びのチャンスに感謝し日々をより良く過ごそうとしていました。6月からはオンラインによるクラブ、委員会、奉仕活動、質問会、講習、図書館(蔵書オンライン検索、郵送貸し出し)が再開し、7月からは時差・分散登校開始、8月にはオンラインで夏期講習、留学プログラム、学校説明会が行われました。8月27日から通常登校が再開され、今に至ります。先日の台風の際は、オンライン授業に急遽切り替えました。いつでもすぐにオンライン授業に切り替える準備が出来るよう備えています。

オンラインでできた絆

本校は教科教室型の校舎で、生徒は毎時間移動して授業を受けます。中1にとっては、大きい校舎はまるで迷路のようです。例年、生徒を連れて校舎案内をするのですが、今年はオンラインで実施されました。

毎日の終礼では、生徒たちの強い希望で、お気に入りのものを紹介して質問し合う Show and tell や、積み木自己紹介(お寿司の好きなあやかです、お寿司の好きなあやかの隣の K-pop が好きな千尋です、と記憶しながら自己紹介を加えていくゲーム)やマジカルバナナ、リアルしりとり(リアルなものを画面に映すしりとり)などを行いました。7月の初登校時、「やっと会えたね!」と微笑み合う生徒の笑顔から、オンラインでの様々な交流を通じて、目には見えませんが、確かな「つながり」ができていることを実感しました。

コロナ禍でも普段の学びをとめない工夫

本校は4年前から文部科学省委託事業「グローバル化に対応した外国語教育推進事業」のフランス語の拠点校に指定され、慶應義塾大学外国語センター、中・韓・西・独の先生と共に「新学習指導要領を踏まえた学習指導案の作成とパフォーマンス評価を取り入れた授業づくり」の研究をしています。2020年の新学習指導要領改定を見据えてCEFR準拠のテキスト ( Adosphère / Hachette ) に変えて6年目、オンライン授業でも「読む、書く、聞く、話す」4技能5領域をバランスよく伸ばすカリキュラムを続けました。Smart Note book による音声を組み込んだ教材を画面共有し、音声や映像を駆使し可能な限りインタラクティブな授業を心掛けました。夏休みには、例年通り「学習している言葉が話されている様々な国や地域の多様な暮らしや文化を知り、自分の世界を広げるための課題」を Loilonote でオンライン提出としました。Google Form で「フランス語を学習する意味」を問うと「世界と自分を繋ぐ英語とは違う一歩である」「いろんな言語に触れることに意味があると思う」などの意見が見られました。

オンラインによる仏検・DELF対策講座、フランス語講座

本校は仏検の準会場となっています。今年度は、仏検対策直前講座 (3級、4級)、DELF A1、A2講座、復習講座、漫画やシャンソンで学ぶフランス語など全ての講座が全てオンライン実施です。また、iPad を導入した中学生用の仏検対策 Web 問題も配信しています。受験は義務にしていませんが、白水社の「ふらんす夏休み学習号 仏検5級模擬試験 2020」の無料採点に参加した者はその挑戦を評価しています。2016年には文部科学大臣賞団体賞をいただきました。仏検は、普段の学習や留学の成果を確かめ学習意欲を高めるきっかけとなっています。今後、大学入試における外部検定試験に認められることを願っています。

オンラインで発表の場や交流の機会を確保

外国語発表会 ( The Bilingual Entertainment / Le Divertissement bilingue ) は、40回目を迎える本校の伝統行事です。全生徒が、英語とフランス語で学年ごと、グループごとに特色あるパフォーマンスを披露します。今年度は2021年1月にオンラインでの実施となります。

39回目を迎えるフランス語フェスティヴァル(フランス語を第一外国語として履修可能な学校(雙葉、聖ドミニコ、カリタス、白百合、暁星)による中高フランス語教育連絡協議会が主催)も、教員と生徒による zoom 会議や SLACK による生徒交流を通じて11月のオンライン実施に向けて、準備を進めています。

オンライン発表会 第4回 高校生日本語プレゼンテーション に参加

全日本高校生プレゼンテーションコンクール(主催:国際交流基金パリ日本文化会館 共催:APEF)において、本校の生徒3名(久保、菅原、北川:仏語選択)が最優秀賞に選ばれました。審査員の方から、咄嗟の判断と日々の学習の成果が如実に出るフランス語による質疑応答の力を高く評価していただけたことはとても励みとなりました。

残念ながら日本代表として渡仏は叶いませんでしたが、オンライン発表会に参加できました。改めてパリ日本文化会館と APEF の皆様に感謝いたします。また、ENA や Lyon 政治学院で研修され、外交の現場で活躍されている外務省のスペシャリストの方がフランス語の特別レッスンをしてくださいました。国際平和や教育、演劇に興味を持つ3名にとって自分たちのキャリアを真剣に考える刺激的で貴重な体験となりました。ここでの学びは3人のこれからに大きく関わっていくことと思います。

「デラシネの画家 藤田嗣治のエスプリに学ぶ」



急速に進んだ ICT 化を振り返って

急速に進んだ ICT 化により、授業研究に一番時間をかけることができたこと、Teams によって非常勤と専任の繋がりが強くなり同僚性が増したこと、教科横断的な交流が促進したこと、ライフワークバランスが取れたことは良い点でした。一方、オンライン授業は、対面授業よりも自立した学習習慣の有無によって学力の二極化が進みます。生徒の学習のフォロー体制を強化しながら、ニューノーマルな時代に則した授業力を高めていくことが今後の課題だと感じています。

予測不能な社会を生き抜くための人間力が求められている時代、教員も失敗を恐れず前へ進んできました。その姿を通して、生徒が何かを感じ、自らの学びに活かしていってくれたら嬉しく思います。

多様な価値に対する寛容な心を持つ社会の担い手を育むために

私は、言語は世界を見る窓であると考えています。一か所しか窓がない部屋から見える景色は一つ、しかし、窓をもう一か所作れば、もう一つ別の景色を見ることができます。英語に加えてもう一つの言語を学び世界を見る窓を増やしていけば、様々な物の見方があることがわかり、多様な考え方が身につくでしょう。外国語を学習することで、一人ひとりが程度の差こそあれ、複数の言語を身につけ、言語も文化も異なる他者を尊重する寛容な心や「複言語」力を身につけて行くことを願っています。そのような社会の担い手を育成していくことは、外国語を教える教員の大切な使命ではないでしょうか。

また私は、中等教育の現場で、英語以外の外国語を自分の第一外国語として選ぶことができるという「選択の多様性」も非常に貴重なものであると感じています。高校時代に英語圏とは異なるフランス語を第一外国語として深く学び、異なる物の見方を得た高校生の数は多くはありませんが存在しており、貴重な多様性だと考えています。高校時代に習得した言語能力は、必ず英語や他の外国語にも活かされていきます。彼らが高等教育でさらなる専門性を高め、その多様性が豊かな世界を作っていくことに繋がっていくことを願っています。外国語教育を通して、多様な価値に対する寛容な心を持つ社会改革の担い手となる人材の育成に貢献していけたらこれほど嬉しいことはありません。

在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本賞