仏検と大学におけるフランス語の復権
長沼 圭一 (愛知県立大学 外国語学部)
私が6年前から勤務している愛知県立大学には外国語学部があり、フランス語専攻が存在している。高いモチベーションを持ってフランス語を学んでいる学生も少なくない。そのため、仏検については、強制されずとも、毎年それなりの数の学生たちが出願し受験していた。そこで、学生たちの受験状況を把握したく、私は愛知県立大学の頭文字をとってAKDの名前でAPEFさんに団体受験の登録を申請した。団体受験と言っても、会場提供や一括申込のような大掛かりなことはせず、個別に申し込む学生たちに団体コードを願書に書いてもらい、合否の通知が私のところに届くようにしたというだけであった。
私がこの大学に赴任した当初、私が所属するところは「フランス学科」という名称であり、10名の日本人教員がいた。ところが、その翌年、新カリキュラムの導入に伴い、「ヨーロッパ学科フランス語圏専攻」という名称に変わった。それまでの「フランス学科」、「スペイン学科」、「ドイツ学科」がまとめられ、「ヨーロッパ学科」となったのである。その際に、ヨーロッパ学科の3専攻は教員の定員を1名ずつ削減され、9名となった。さらに、この新カリキュラムが導入されて5年経った今年、また新たなカリキュラムが導入されることになった。5年前と同じようにヨーロッパ学科の3専攻は教員の定員がさらに1名ずつ減り、8名となった。そのうえ、今回は学生の募集定員も50名から45名へと削減されたのである。なぜ、こんな風にヨーロッパがどんどん縮小されてしまうのか。
これは全国的な傾向であるように思われるが、現在の大学では実利的な部分ばかりが求められているのではないであろうか。現在の世界の経済成長は、アジアにおいて著しいものがある。したがって、今後は大学でも中国や東南アジアに関する学問を提供する場を拡張していくことが必要だと考えられ、相対的にヨーロッパの需要は少ないという判断なのであろう。しかしながら、これについては2つの疑問の念を禁じえない。1つは実利と学問を同じ土俵に乗せてよいのかという疑問である。学問というのは、利益と結びつかなければやる意味がないのであろうか。人は知りたいことがあるからこそ真実を追究し学問にいそしむのではないのか。ヨーロッパで長い年月を経て培われてきた英知をそんなに簡単に切り捨ててよいものであろうか。知を愛することこそが学問の本質ではないのか。もちろんこれが理想に過ぎないことは私もよく理解していることであり、実利的な目的で学ぶことを否定するつもりはない。しかし、これをよしとしたならば、2つ目の疑問が湧くことになる。今後経済成長が期待されるのはアジアだけであろうか。もっと長い目で世界を見れば、アフリカの経済発展は無視できないはずである。フランス語はヨーロッパだけで使用されている言語ではなく、アフリカにはフランス語を公用語とする国が21ヶ国あり、通用語も含めれば29ヶ国にのぼる。本当に実利主義をとるつもりならば、大学におけるフランス語教育を縮小するのは決して得策とは言えないではずである。では、フランス語をいつ学ぶのか。
そんな中、本学では、文部科学省のグローバル人材育成推進事業に申請していたプロジェクトが採択され、2012年度後期からこのプロジェクトが始動した。このグローバル人材育成推進プロジェクトの一環として本学に誕生したのが、iCoToBa(多言語学習センター)という語学学習スペースである。この名称の由来であるが、iには、愛知県立大学の「愛」、I(わたし)、independent(自主性のある)の「i」、Coには、communication(コミュニケーション)、community(共同体)、cooperation(協同)の「co」、Toには、格助詞の「と」、to(~へ)、together(一緒に)の「to」、Baには「場」といった意味が込められており、「愛知県立大学においてコミュニケーションによって世界とつながる場」というコンセプトで新設された。このiCoToBaには英語2名、フランス語1名、スペイン語1名、ドイツ語1名、中国語1名、合計6名のネイティブ教員が配属されている。ネイティブ教員は、大学の正課には組み込まれていないiCoToBa独自の授業を担当する他、iCoToBa施設内のラウンジでの学生とのフリートーク、各種イベントの企画・運営なども行っている。また、iCoToBa施設内には、パソコンを使ってe-Learningができるスペースや大画面テレビで外国語放送やブルーレイ・DVDが見られるスペースも用意されている。
また、グローバル人材育成推進プロジェクトの一環として2013年度後期から実施されたのが、語学検定試験の受験料負担制度である。当初は外国語学部の学生全員分を負担することを目指していたが、結局は予算の都合で2年生と4年生のみが対象者となり、秋季のみ補助されることとなった。仏検については、フランス語専攻の4年生は準1級を、フランス語専攻の2年生は準2級を、第二外国語としてフランス語を履修して2年目の学生は3級を、大学側の受験料負担のもと、受験することが義務付けられた。当然のことながら、これまで学生が自分の意志により私費で受験していたときと比べ、圧倒的に受験者の数は増加した。これに伴い合格者の数も増加したことは言うまでもない。例えば、準1級は私の記憶では以前は毎年1人合格者がいるかどうかという程度ではなかったかと思われるが、今回の2013年度秋季では12人の学生が合格となった。正直なところ、これは私の予想を上回る嬉しい誤算であったが、今後仏検の団体受験が学生にとってフランス語習得のモチベーションを上げるよいきっかけとなり、さらには大学におけるフランス語の復権につながることを期待したい。
ツイート