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仏検活用術 in 群馬

                        佐藤 公彦(外国語会話学校エスパス)

私とAPEFのお付き合いは1993年に遡る。この年の秋、北海道東海大学で開催された学会秋季大会の夜、たまたま学会の幹事を仰せつかっていた私は、偉い先生方に誘われるまま2次会、3次会と流れてススキノのカラオケスナックに辿りついた。そこで偶然隣り合わせたのがAPEFの幹部の方だった。酔った勢いで「群馬の受験者にとっては仏検の受験料よりも東京までの往復交通費の方が高い!」と愚痴ったところ、「それなら群馬に会場を設けましょう。ただし貴方が会場責任者だ!」と返された。お互いに酔っ払っていたせいか話はすぐにまとまったのだが、爾来、私はこの日の口約束を20年近く忠実に守ることになった。

実は、APEFとお付き合いを続けてきたこの20年の間に、私自身には大きな変化があった。2005年に20年間勤めた短大を退職し、2007年には英・仏・西・独・中・韓国語を教える小さな外国語会話学校を開校したのである。このスクールに通うフランス語受講者(以下、会員と呼ぶ)の年齢層は10歳~60歳と幅広い。フランス語圏に赴任する夫に同行する主婦、パリでの修行を夢見るパティシエール、設計事務所で研修する院生、武者修行に旅立つピアニスト、JICAからアフリカに派遣されるOLなど、学習目的も様々で、もちろん習得のスピードにもかなり個人差がある。それでも、一人の例外もなく「やる気」があるのは、教える立場からすればずいぶん贅沢な話だと思っている。そして、そんな彼らのモチベーションをしっかりと支えてくれているのが仏検なのである。

フランス語を学ぶために私のスクールの門を叩く会員の80%は全くの初学者である。その全員にレッスン初日から仏検を紹介し、半年ごとにグレードを上げて受験させている。お断りしておかねばならないが、私自身は資格信奉者ではない。社会に役に立たない学問ほど純粋だという神話を未だに信じている古い人間である。ただ、30年近いフランス語教師経験を通して、仏検が学習者に多大な学習効果を与えていることは否定できない。5級から準2級まですべてストレートで合格した努力家の会員は、私の当初の予想を超えた実力を身につけたし、運良くギリギリの成績で2級に合格した会員は数ヶ月後に取得級に見合う実力になった。仏検には学力診断の他に、飛躍のためのジャンプ台としての効能もあるのである。

この方針のためか、私のスクールは開校してから数年の内に大勢の準2級ホルダーを抱えるようになったのだが、流石に2級はハードルが高く、その手前で足踏みをする者が多い。そのため現在、2級を目指す会員には一緒に過去問研究をする傍ら、時事フランス語の中級読本を使ってシャドーイングや同時通訳をさせて鍛えている。写真は2年前の夏、軽井沢で行ったフランス語合宿の一コマである。1泊2日の週末合宿ではあったが、チェックインからチェックアウトまでフランス語漬けにして計8時間のレッスンを組んだ。ここ数年、会員からはフランス研修旅行実施の希望も出ているのだが、短大教員時代に短期留学を13回企画・引率した当の私にトラウマがあるためか、未だ実現に至っていない。

語学学校を経営する一方で、月・木・金の午前中は県内の国公立大学に出講している。学生たちの所属学部は医学部、理工学部、社会情報学部、文学部、国際コミュニケーション学部とバラバラなので、初講時にはクラスによって内容を変えてフランス語を学習する意味と必要性について話をすることにしている。例えば、将来医師になる学生たちには、フランスの大学や研究所に派遣される可能性やMSF等の活動に絡めて、理工学部や社会情報学部の学生には、就職活動の際、履歴書に「仏検」を記載する意味について触れている。つまり、英検やTOEICの隣に「仏検○○級」と書いてあれば、大学時代第二外国語の単位を取るために悪戦苦闘したであろう人事のオジサマは、君たちに真面目な努力家という評価を下す。その瞬間、君たちはライバルから抜け出るのだと。学部に関係なく全ての学生に伝えているのは次の科白である。「フランス語を第二外国語で1年間勉強しても、10年も経てばフランス語を勉強したという『記憶』しか残らないだろう。でも、仏検を受けて合格すれば『記録』が残る。仏検に合格したその自信が、将来本当にフランス語が必要になった時、君たちを支えるのだ!」

最後に、仏検の発展を願って一つ提案をしたいと思う。受験者を安定的に確保するためには現在のメタボ型受験者構成をピラミッド型に修復しなければならない。そのために5級、4級の受験者確保が必須となる。英検の場合は全国の小・中学生がピラミッドの底辺をしっかりと支えているが、大多数が高等教育機関で学び始めるフランス語の場合は、いきおい大学1年生を取り込んでいかなければならない。ところで、仏検合格をもって単位認定する制度を整えた大学は多いが、はたしてこれまでに何件単位認定の実績があるのだろう。大学のプライドがあるのかもしれないが、単位認定基準が厳し過ぎないだろうか。平均的な学力の大学生が4月からフランス語を始めて11月に3級を取得するのはかなり難しい。学習範囲からしても春に5級、秋に4級を取得するのが妥当である。授業時間や学生の能力といった現状に即して、各大学が単位認定基準を真剣に見直し、学生が積極的に仏検を受けたくなる環境づくりをする必要があるのではないだろうか。

群馬県で2次試験(1級、準1級を除く)を受験できるようになったのは、2010年春のことである。今回は「ススキノの会談」のようなわけにはいかず1年越しのAPEFとの交渉となったが、最終的に「5分間の面接を受けるために往復4時間かかる不合理」を訴えた会員の声をお聞き届けくださったことに深く感謝している。そして、私の役割はこれからも現場の声をAPEFにお届けすることだと再認識している今日このごろである。

フランス語合宿 in 軽井沢 2011年夏