信州大学におけるフランス語教育の現状
吉田 正明 (信州大学教授)
信州大学人文学部では,平成12年度からフランス語教育振興協会と契約を結び,仏検の一次試験会場をお引き受けしてきました。これまでの受験者数はそれほど多くありませんが,一般の方を含めると,毎回5級から1級まで40~50名の方が受験してこられました。
信州大学でも最近は英語教育に重点が置かれ,フランス語などの初修外国語は年々軽視されがちになっていますが,平成23年度からは共通教育のカリキュラム改革が実施され,これまで単位にならなかった学部でも初修外国語の単位を教養科目の単位に振り替えて認定することになりました。私も全学教育連携会議の一員として大学教育における英語以外の初修外国語の重要性を機会あるごとに訴えてきましたが,このカリキュラム改革は,フランス語教育にとって明るい兆しだと言えます。
現在は,フランス語を選択必修にしている人文学部と医学部の1年生が「文法」と「読解・会話」を組み合わせて週2コマ履修し,2年生は「フランス語演習」を週1コマ履修することになっています。しかし医学部では平成23年度からフランス語とドイツ語が選択必修からはずされることになりました。ですから信州大学におけるフランス語教育の将来にとって,これまで単位認定してこなかった他の6学部でどれくらいの学生がフランス語に興味を示して履修してくれるかが鍵になると言えます。
私が担当している1年生のフランス語の授業では,学習意欲を高めるために,前期は仏検5級を,後期は4級合格をその到達目標に設定し,学生には仏検の受験を奨励してきました。来年度からのカリキュラム改革を機に,すべてのフランス語の授業においても仏検の受験を,学習意欲向上のためにも奨励していきたいと思っています。
つぎに人文学部におけるフランス語教育の取り組みについてご紹介します。私が担当している仏文分野では,平成15年度から学術交流協定を結んでいるラ・ロッシェル大学への交換留学を推進しています。大学全体で2名の枠があり,これまで毎年仏文の3年生を1~2名ラ・ロッシェル大学へ派遣してきました。留学の申請に際しては,仏検の3級以上の合格を最低条件に課しています。最近は,フランス留学を目指して当分野に進級してくる意欲的な学生が増えており,フランス語の運用能力を高めるための「フランス語コミュニケーション初・中級」(2年生対象)の授業では,前期と後期に仏検受験を義務づけ,その到達目標を秋の仏検3級に置いて,学生のモチベーションを高めると同時にフランス留学を視野に入れた実用的なフランス語力の涵養に努めています。
最近はもう一つの協定校であるベルギーのカトリック大学ルーヴェンへの交換留学を希望する学生も出てきており,2010~2011年度は,ラ・ロッシェル大学と,カトリック大学ルーヴェンへそれぞれ2名の学生が選考の結果派遣されました。
3年生の前期には,フランス人の非常勤講師による「フランス語コミュニケーション上級」の授業が用意されており,よりいっそう高度なフランス語のコミュニケーション能力の向上を図っています。これまで交換留学生として派遣された学生の中には春の仏検で3年次に準2級を取得して行った学生も何人かいます。昨年度の秋は,留学を終えて帰国した4年生二人がいずれも準1級に合格しました。
この留学制度のメリットとしては,先方の大学で取得してきた単位を人文学部の単位に互換できることと,日本学生支援機構の短期留学生奨学金(毎月8万円)を受給できる可能性があるということです。これまでラ・ロッシェル大学に留学した学生のうち4名がこの奨学金を受給しています。
また学術交流協定に基づく交換留学の他にも,当分野では学生への学習支援として,在日フランス大使館文化部をとおして応募できる世界各国の若者を対象とした夏季フランス語・フランス文化研修旅行にも学生の参加を積極的に促してきました。平成17年には « Connaissance de la France » に仏文の学生1名が選考され,プロヴァンス地方で7月から8月初旬の2週間にわたり世界各国の若者といっしょにフランス語の研修とともに乗馬やカヌーなどさまざまな野外活動を体験してきました。平成18年にも« Rencontres internationales des Jeunes »という名称に変わった同企画に,仏文の学生がやはり1名選考され,Aurillacの演劇祭を中心に世界各国から参加した若者といっしょにフランスでの研修を2週間体験してきました。いずれも交通費以外はすべてフランス外務省が負担するというもので,参加した学生にとっては,恵まれた条件のもとフランスで貴重な経験をすることができました。
このように信州大学人文学部では,フランス語教育においても本学部の理念に掲げられた「実践知」修得のための実践的な語学教育に努めており,その意味において仏検は絶好の目標であり,指標ともなってきたと言えるでしょう。
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