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フランス語を学ぶ環境づくり―大東文化大学でフランス語を学ぶ

野澤 督(大東文化大学外国語学部英語学科)

「フランス語の先生なのに英語学科にいるんですね」。私が自己紹介をすると、よくこのように言われます。たしかにフランス語の先生が英語学科に所属していることは不思議なことなのかもしれません。しかし、ここにはフランス語を教える上で大切なことが含まれていると私は考えています。

「英語学科所属のフランス語教員」のからくりを簡単に説明しましょう。英語学科1・2年生が学ぶ大東文化大学東松山キャンパス大東文化大学外国語学部には日本語学科、中国語学科、英語学科があり、私は英語学科に所属しています。英語学科には2つのコースが設置されています。様々な分野から英語をしっかりと学べる英語コースと、英語とともにフランス語またはドイツ語をしっかりと学べるヨーロッパ2言語コースになります。私はこのコースの英語とフランス語を学ぶ「英仏系」で主に仕事をしており、この特性を活かしたフランス語の学びを提供しようと心がけています。

大東文化大学では1学年でおよそ25名の学生が英仏系に登録し、日本人の先生とフランス語を母語とする先生とともに4年間フランス語を学んでいます。また、英仏系に所属していなくても、大東文化大学の学生は、学部を問わず、週1回から週3回のペースでフランス語科目を選択できるようになっています。さらには第三外国語として3年次からフランス語科目を履修し始めることも可能です。様々な形でフランス語を学び始めたり、学び続けたりできる学習環境を整えることで、複数の言語を学んでほしいという大学からのメッセージを発信しています。

複数の言語を学べる環境は大東文化大学の外国語教育の根幹をなしていると言えるでしょう。ここで大事な点は、英語の代わりにフランス語が学べるのではなく、英語とともにフランス語が学べるという点です。どちらかを選択するのではなく、英語もフランス語も学ぶことであらたに見えてくるものがあるのではないでしょうか。複数の言語を学ぶことは、言語を道具ではなく、文化として見ることに通じています。外国語を学ぶ目的の一つはコミュニケーションの手段を増やすことだとよく言われます。私もそう思います。運用能力を高めれば高めるほど人との交流の機会が増えるでしょう。しかし、それは単なる意味の交換にとどまらず、考え方やものの見方の変化へとつながっています。言語はその言語を使用する人や、その言語が使用されている社会がもつ文化や価値観と切っても切れないものです。外国語を学び、使うことは、自己とは異なる文化や価値観と接触することになりますから、その分だけ世界が広がると言えます。

実際、グローバル社会と呼ばれる現代社会ではもはや英語では対処しきれない問題を抱えています。問題に向き合うためには英語以外の言語を駆使して情報収集するだけではなく、その言語が使われている社会の習慣や文化、歴史的背景などにも通じていなくてはなりません。また、複数の言語を学ぶことは多角的に社会を観察する目をもつことと同義です。例えば、フランス語で発信されている情報へアクセスできれば、英語圏が発信する情報とは異なる視点を得ることができます。そこに母語を加えれば3つの視点がもてることになりますから、より相対的にひとつの事象を分析することができるようになります。大東文化大学のヨーロッパ2言語コースでは「読む」「書く」「聞く」「話す」という4技能の向上だけでなく、異文化との向き合い方も含めた外国語教育の実践を目指しています。

こうしたフランス語学習のあり方はなにも高等教育機関に限られるわけではありません。近年でも200校を超える中学や高校でフランス語科目が設置されていると言われていますし、実用フランス語技能検定試験に挑戦する高校生以下の年齢層も少なくありません。国境や言語による区分が意味を持たない現代社会、――こうした社会はどこか遠い国の話ではなく、日本でもすでに見受けられます――、で生きる力を培い、異なるものや人への寛容さをもつためにも、中等教育レベルで複数の外国語を学べる環境を整えることは非常に意味があることです。さらに言えば、学びは一生ですから、世代にとらわれることなく、こうした視点からの外国語の学びがあってもよいのではないでしょうか。

語学学校では老若男女を問わずフランス語を学んでいます。学校へ行かずとも、多くの方がラジオやテレビの講座で複数の言語を学んでいますし、独学でフランス語を勉強し、フランス語で書かれた本を読んだり、フランス映画を鑑賞したり、インターネット上でフランス語のニュースを聴いたりしているでしょう。そこから世界が広がっていきます。だから私たちの身近にフランス語に触れられる機会があり、学びたいと思ったときに学べる環境があることがとても大事なのです。仏検などの検定試験もその一翼を担っています。学びの到達度を確認するために仏検を活用している人は多いですし、検定合格が次の学びのステップへと後押ししてくれます。学び続けることでますます世界は広がり、様々な人と出会えるわけですから。

「まいにちフランス語入門編Sautez le pas !」の講師陣

フランス語の学びを介して人と人とがつながっていく環境を作ることはフランス語教育に携わる者の使命です。つながりを生み出す力こそがことばがもっている力だと伝えたいと思っています。私が担当したNHKラジオ講座「まいにちフランス語」では、入門編ではありますが、話し相手を意識してフランス語を使うことを目標に掲げました。相手がいてこそのことばであり、ことばは他者とともに行動するためにあるというメッセージを届けたかったからです。

教室、ラジオ、検定試験など、フランス語の学びの形は様々で、学びの目的も人それぞれです。しかし、一つ確かなことがあります。それは、フランス語を学んでいる人たちは色々な人と出会い、交流し、ともに生きていく、ということです。大仰なことかもしれませんが、他者とともに生きていることをイメージできるようなフランス語の学びの場を学生たちと築いていきたいと考えています。