フランスといえば、『フランス研修旅行』

渡邊 里江(中部コンピュータ・パティシエ・保育専門学校教員)

私ども、中部コンピュータ・パティシエ・保育専門学校にとり、フランスと言えば、『フランス研修旅行』です。

当校の学校行事には、遠足や球技大会、フェスタ、修学旅行のかわりの研修旅行など多々ありますが、やはり『フランス研修旅行』が学生にとっても一番思い出深い行事のようです。数年前は、学科別にイタリアとフランスに分かれて行っていましたが、今は全学科でフランス研修旅行をおこなっております。

「パティシエ」イコール『フランス』!!ですが、フランス研修旅行の実施に至るまでにはいろいろな縁がありました。実は、最初、パティシエ・ベーカリー科2年制は、イタリアのジェラートの研修をおこなっていました。ところが、数年前の3月、突然、フランス商工会議所日本支部の方から、当校の見学をしたいとの連絡があり、4月にお見えになりました。その時、同行されたのが、国立高等フランス製菓学院(ENSP)の校長先生とフランス菓子組合長さんと製菓雑誌編集者さんでした。もともと、ENSPの校長先生がフランス伝統菓子関連で専門学校の見学を希望していらっしゃったとのことで、そんなご縁から話が発展しまして、その年、パティシエ・ベーカリー科2年制のみ、フランス研修旅行が行われたのです。初心者向けの研修でしたが、学生もフランス国家最優秀職人(MOF)の方から指導を受け、喜んでおりました。宿泊も雰囲気が素敵で、食事もおいしくて、パンやデザートなども抜群と好評でした。

その後、パティシエ・ベーカリー科2年制は、フランス研修旅行に毎年行くことになりました。それまでは、フランス語の授業といえば、お菓子や製菓用具の種類くらいしか覚えていなかった学生が、フランス研修旅行のための日常会話まで身につけるようになり、授業への学生の集中度が違ってきました。最初の年は通訳の方がいないと、まるで話ができず、通訳待ちだったのが、いまはちょっとしたことなら、ボディランゲージとたどたどしい単語会話でなんとか作業等ができるようになりました。やはり、「フランス研修旅行でMOFから直接指導を受ける」という目標のためなら、学生も張り切るようで、それまでは正直言って出席率はあまりよくなかったのですが、目標があると違うなと思いました。

学生は、韓国やハワイ・グアム以外は行ったことがなく、特にヨーロッパにはほとんど行ってないため、うれしいようです。がしかし、やはり12時間の飛行機は長くて、疲れるようです。飛行機の機内食の回数も多く、美味しく食べる学生もいれば、口に合わない学生もいたり、とバラバラです。出入国検査でも、言葉が伝わるかドキドキ。手荷物検査でも金属チェックやボディチェックを受けるなど、学生たちはフランスに行くまでにもいろいろな経験をします。フランスについたら、ものすごくテンションが上がりっぱなしで、空港からホテルまでの風景も、見るものすべてがめずらしく、クリスマス前だったため、イルミネーションもとてもきれいで、喜んでおりました。ノートルダム寺院や凱旋門、エッフェル塔等の観光もしましたが、学生には、やはり世界遺産の「モンサンミッシェル」が一番のようです。パリからの日帰りでしたので、時間的に制限があったため、早めに集合をかけてしまいましたが、学生からは「もっとゆっくり回りたかった」といわれました。

学科別の研修も、フランスと日本の比較ができるバラエティに富んだ研修内容になっております。コンピュータコースはコンピュータ関連への見学、ペットコースはトリマー美容室への見学実習、保育科は保育園等への見学、医療事務情報科はクリニックや社会保険事務所への見学でした。研修先で、学生たちは「コンピュータは、日本もフランスもほとんど変わらない」とか、犬のトリミング技術はフランスのプードルからスタートしたはずだったのに、「いまは大型犬が主」といわれ、「プードルやダックスは時代遅れ」ともいわれたそうです。医療に関しては、医療博物館があったり、医療制度が日本とフランスは全く違ったり、「フランスでは医療事務という職種がない」ということに、その都度驚きました。保育も医療と同じで、制度や規定が全く違って驚きました。母乳と人工乳の対応、保育園と幼稚園などかなり違いがありました。そして、それらの違いは、人から教えてもらうのではなく、自分で知ることが重要になってくるのかなと思います。

ただ、日本に戻ってきた後、フランス研修旅行のアンケートをおこなうと、「挨拶が大事」「笑顔が一番」「体調を整えておかないと体力が持たない」「日本の常識が非常識のときもある」等の感想のなかに、「もうすこし、話ができればよかった。」「フランス語じゃあなくてもいいから、英語でもいいから、話せたらもっとよかったのに…」と外国語への希望がありました。パティシエ・ベーカリー科2年制はフランス語の授業を定期的におこなっていますが、それ以外の学科に関しては、外国語の授業がないため、やったほうがいいのかと、少々悩んでおります。

今回、学生は、フランス研修により日本以外のことを少し知ることができたと思っております。今後は、外国語を含めて、もっといろいろな違いや共通点などを身体で感じ取り、視野を拡げていってほしいと考えております。

杉野服飾大学 準会場へ

山尾 聖子(杉野服飾大学フランス語講師)

杉野服飾大学は、毎回5級、4級合わせても10名前後の受検者しかいないが、準会場にしていただいている。20年ほど前から、3,4年次の選択授業でフランス語を続けている学生に、4級、3級の受検をすすめており、個別指導と語学学校の集中講座参加で3級合格者も数名出ていた。ある年、一人の女子学生が受検のため訪れた他大学の広い構内で迷子になり、開始時間に遅れ、周囲のデキそうな学生さんたちの中で気後れしたまま失敗した、という涙ながらの事後報告を聞いた。通い慣れた本学で受検できれば、と思い始めたが、そのためには少なくとも10名の受検者を確保しなければならない。

一方、大学としての団体申込と学内受検は、大学事務方の協力があって初めて実現する。本学では、ファッション色彩、ファッションビジネス、秘書、パターンメイキングなど数多くの検定を実施しているため、受検者の少ない仏検のために、さらに年に2回の日曜日、事務職員2名に出勤していただくということは、言い出しにくいことであったが、さいわい、事務方の好意的な了承を得ることができた。次には受検者を増やすべく、1,2年生の実力底上げに数年を要したが、2006年にようやく18名の希望者が出て、準会場申請が叶った。

杉野服飾大学のフランス語は、英語、中国語と並んで1,2年の選択必修、週に2コマ、2001年から念願のフランス人講師による会話クラスも実現しており、基礎フランス語学習の体制としては充分である。

ただ、各学年約100名のフランス語選択学生の学習意欲にはかなりの差がある。本学の学生にとっては服飾に関する知識、技術を身につけることが第一目的であり、座学の苦手な人も多い。そもそもフランス語選択の動機は英語で失敗したから、という学生もおり、まずは、視覚に訴えるさまざまな資料を提供し、フランスの文化やファッションフランス語に関心を持ってもらうことから始めている。

毎回、約10分程度の動画、学生をモデルにしたファッション用語スライド、先輩学生が作成したレポート、フランスで出版されている MANGAのファッションに関わる場面の抜粋など、とにかく短時間で数多く見せる。

映画については、文法の進度に合わせて選んだ20作品を服飾に関する場面に絞り込んで見せているが、ここ数年は、YouTubeによる、旬のニュース、映画の予告編、ファッションショー、デザイナーインタビュー、ブランドCMなども合わせて活用している。

大学図書館には多くのファッション関連資料があるが、洋書はなかなか手に取りにくいようなので、1年では図書館でのフランス語資料探しとその紹介、2年後期では各自関心のあるテーマのフランス語資料を選び、翻訳し、関連情報も盛り込んだレポートを作成してもらう。レタリングやイラスト、フォトコラージュは、本学の学生たちの得意分野なので、これらも含め「見せるレポート」として評価している。学生は、先輩たちの作成したレポートを見ると俄然やる気を出してくる。

さて、このように文法と発音の大変さを面白さでくるみつつ落ちこぼれが出ないようにし、おもむろに仏検の話をする。

受検をすすめる場合、いきなり過去問を配布したりすると、最初から拒否反応が出てしまうので、「私がみなさんの努力に対してよい評価を出しても、世間では信じてくれません。仏検なら、たとえ5級でもちゃんと勉強をしたということを学外でも認めてもらえます」と学生を説得する。受検者は、合否にかかわらずその努力を期末評価に反映させます、と以前は言っていたのだが、それを期待してか学期末の課題や提出物に手抜きがみられたこともあったので、最近は言わないようにしている。

短期大学部は、1年次のみ週1回しかフランス語の授業がないので、これまで、受検呼びかけはしていなかったが、構内の仏検ポスターを見た短期大学生たちから、私たちでも受けられるでしょうか、と、昨年の夏休み前に相談があった。短大では、大学2年用のファッション関係の資料も簡単に説明し、フランス人講師による会話もあり、文法解説に取っている時間は、11月の受検日まで15時間程度。しかし、彼らの受検してみようという意欲に応えるべく、過去問や聞き取り演習用CDなどを貸し出した。おそらく後期が始まったら、やっぱり無理ですというのではないかと思っていたところ、10月からの週2回の昼休み補習には、大学1年、2年の受検希望者より真面目に参加し、11月の学園祭後の休日を利用して補習の要望もあった。目黒駅前のカラオケボックスで過去問解説をするという体験は、20年余りの教師生活で初めての喜ばしいできごとだった。このようながんばりで短大生3名のうち2名が5級に合格、1名は全国平均を上回る得点だった。学年や授業時間数に関わらず、本人の努力次第ということではあるが、おおぜいの学生に同じように期待はできず、いかに個々の意欲を引き出すかに腐心している。仏検受検が最終目的ではないが、仏検への挑戦が、授業全体を牽引していることは言うまでもない。

1926年に創立されたドレスメーカー女学院では、当初からフランス語の授業が行われていた。1930年代の同窓会報に、当時20代後半の朝倉季雄が「佛語科講師」として「佛蘭西語の讀み方」「ファッション・ブックが讀めるまで」という記事を連載している。1950年に開学した杉野学園女子短期大学では、辰野隆、鈴木信太郎、渡辺一夫がフランス文学を講じ、その後1964年の杉野女子大学開学からは、今尾哲也、佐々木孝次、中原好文が中心となってフランス語を担当。開学当時は短期大学、大学とも、英語とフランス語の2ヶ国語が必修であり、演劇部は「シラノ・ド・ベルジュラック」を上演したという。時代を先取りする女性教育への意欲と、幅広い教養に裏付けられた服飾研究を目指した先人たちの志の高さを忘れないようにしたい。

現在のパリコレの共通言語は英語であるが、それぞれのメゾンでは日常まだまだフランス語が飛び交っている。ファッションフランス語を足掛かりに、フランスならではのエスプリを学生たちに伝えたいと日々試行錯誤している。