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東日本高校生フランス語暗唱コンクール―初めてのハイフレックス開催―

松田 雪絵(埼玉県立伊奈学園総合高等学校)

 2022年3月13日、慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールで東日本高校生フランス語暗唱コンクールが開催された。今回は会場に足を運べない高校生のためにオンライン参加も可能にしてハイフレックス開催となった。北海道から神奈川まで21校35名の生徒が出場し、そのうち4校7名の生徒がオンラインで参加した。

 このコンクールはフランス大使館が後援し、アンスティチュ・フランセ横浜(以下IFJ-横浜)、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下慶應SFC)、そして日本フランス語教育学会(以下SJDF)が共同で開催している。私はSJDFの初中等教育委員会の代表として運営に携わっている。準備は年度初めに日程を決めて会場を押さえることから始まる。今回はコロナ禍の対面実施ということで会場担当の慶應SFCの國枝孝弘先生は苦心して三田キャンパスに掛け合ってくださった。

 会場を押さえたら次は課題選びである。フランコフォニー月間の3月に開催されるため、北アメリカ、西インド諸島、アフリカ(サブサハラ)、マグレブ、ヨーロッパの各地域から1つずつ、5つの課題が出される。テクストの種類も小説や詩、政治演説などバリエーションに富み、今回は新たにグラフィック・ノベルが加わった。標準フランス語の初級・中級レベルの語彙で150~250語で書かれているものが望ましい。この難しい注文に例年応えてくださるのが法政大学の廣松勲先生。複数の言語や文化をまたがって生きる苦悩や魅力、ジェンダー、人種差別など、まさに高校生に考えてほしいテーマを扱う素晴らしい課題を用意してくださる。ところが昨年度は廣松先生がサバティカル。そこへ獨協大学のジョルジュ・ヴェスィエール先生が新たに初中等教育委員会に加わり窮地を救ってくださった。ありがたいことに課題文の準備に加えて暗唱のモデル録音まで担当してくださった。これは第2外国語としてフランス語を学ぶ学習歴1~2年目の高校生が対象のコンクールである。初級者にもわかるように「ゆっくりはっきり」と、そして出場者がモデル録音に影響され過ぎないように「表現は控えめに」という要求に見事に応えてくださった。

 課題文とモデル録音が揃ったら募集を開始。対面実施の準備をしていたのに年明けには新型コロナウイルスの感染者数が急増。昨年はビデオ審査だったが、結局今年もオンライン開催になるのかと思っていたら、國枝先生が高校側の意向を尋ねてくださった。都心と地方の高校どちらからも対面実施を望む声が圧倒的だったが、遠方であることや感染が不安、直前に濃厚接触者になった等の理由で会場に来られない高校生を切り捨てたくなかった。そこでIFJ-横浜のシビル・デクフレさんの提案もあり、対面とオンラインのどちらも可能にするハイフレックス形式で開催することになった。慶應SFCの宮代康丈先生と西川葉澄先生は検討すべき点を素早くリストにしてくださり、それをもとにオンライン会議も行った。直前にはSFCの先生方で下見までしてくださった。常に出場する高校生のことを最優先に考えて最善を尽くしてくださるIFJ-横浜、慶應SFC、そしてSJDFの方々とのこの協力体制をとても誇りに感じている。SJDFの私の役割は、募集要項やプログラム、評価シートなどの文書作成、そして運営者側や出場校、協賛団体との連絡調整役である。今回は複数の高校の先生方が助けてくださり、ありがたかった。さすがに先生方は手際が良く、例年よりも余裕を持って本番を迎えることができた。

 当日、司会を務めたのは國枝先生。開会式から冗談を交えて高校生の緊張を解いていた。宮代先生はオンライン参加者の発表が少しでもよく伝わるように細やかな気配りでZoomの操作をしてくださった。審査員を務めたのはIFJ-横浜のデクフレさんとコリンダ=ガエル・ベオンさん、そしてSFCの西川先生、SJDFのヴェスィエール先生。笑顔と温かいまなざしでエールを送るようにひとりひとりの発表を見てくださり、結果発表後も出場者へ丁寧にアドバイスをしてくださった。

 ところで、「フランコフォニーのテクストが課題だなんてとんでもない!」という声が時々聞かれる。そう考える方はぜひコンクール会場へ足を運んでいただきたい。高校生は大人の予想を気持ちよく裏切ってくれる。作品の背景を調べてテクストを解釈し、初級者ながらも見事にフランス語で表現している。コロナ禍で自分の力を試す機会が奪われてきたからか、今年は例年以上に意気込みが感じられた。会場の空気をつかんで生き生きと発表していたのが印象的だった。これだけレベルの高いコンクールとなるのは、出場者本人の努力に加えて、高校の先生方の日頃の熱心なご指導のおかげでもある。

 コンクールは競い合いの場であるが、他にもさまざまな役割がある。まずは交流の役割。高校生が同じフランス語を学ぶ仲間と出会える場、そして高校教師同士、または高校と大学の教師が情報交換できる場となっている。今回も休憩時間に楽しそうに声を掛け合う高校生を見て、苦労して対面で実施した甲斐があったと感じた。また、コンクールは高校生の成長のきっかけにもなっている。まずは「初級者の自分がこのテクストを暗唱できた!」と自分に驚いた生徒は少なくないはずだ。人前で堂々と発表できた自分に自信を持てた生徒もいるだろう。悔しい思いをした生徒もそれもひとつの経験。私の生徒達も他の出場者の発表を見て自分に足りないところを認識し、秋に開催されるスケッチ・コンクールでは絶対にリベンジしたいと言っていた。人前での発表に怖気づいていた2人が大きな進歩である。さらには、フランス語学習に有益な情報を提供する場にもなっている。アンスティチュ・フランセやDELF、仏検の存在をコンクールで知る高校生もいる。また、賞品を通して各出版社が出版するフランス語の学習書を知ることにもなる。他にも慶應SFCの多言語入試や獨協の自己推薦入試などフランス語を活かせる入試も紹介されている。

 このような有意義なコンクールを毎年開催できるのもAPEFをはじめ協賛団体に大きく支えていただいているおかげである。心より感謝申し上げたい。