dapf 仏検

apef アペフ

  • サイトマップ

喜寿過ぎて1級合格

青木 達郎

フランス語との関わり 

今はメガバンクの一つになったS銀行の退職者である私が、フランス語に興味を持つようになったのは同行I元頭取(当時最高顧問)が多彩な財界活動の一環として日仏政財界人の交流組織である「日仏クラブ」の会議出席のためパリに出張の折に秘書役として随行したことが切っ掛けである。会議には同時通訳が付くし現地支店もあるので、私自身がフランス語を必要とすることはなかったが、マティニョンと呼ばれる首相府やセーヌ川沿いの財務省にお供したり、パーティの末席に連なったりしている間に、フランスの誇る接遇文化の上質な香りに魅せられた。

一個の自由市民として暮らし始めた時に、それまでやろうと思っていた色々なことに手を染めたが、その一つがフランス語であり、学習進度を測るために仏検を受験しようと思い立った。

学習の道のり 

2003年秋季に5級4級に合格し、ここから10年をこえる仏検受験の幕が開くのだが、2004年春季3級秋季2級合格の辺りまでは、苦労はあったものの週1、2日学校に通いつつラジオ講座を聴いたり短期留学をしたり楽しみながら勉強していた。そして2006年春季の準1級に満を持して臨んだところ、1次試験は合格したが、2次試験(面接)は1点差で不合格になった。口頭試問の時、参考書によると「質問や単語の意味の分からない時は遠慮なく聞き返したり質問したりしましょう」とあったのを思い出し、試験官の質問を都度確認したことが聞き取り力不足と判定されたかと推測している。そこでもっぱら会話クラスに重点を置き2007年秋季に2次試験合格を果たした(1次試験免除)。

この年から1級を目指して受験準備を進めたが、準1級との難易度の格差は私にとっては大きく、いわば本当の仏検が立ちはだかっている感じで何度も敗退し、昨年春季に1級の合格通知を頂いた時には私は喜寿を過ぎていた。

1級試験の問題内容に従って受験者としての感想を述べてみたい。

[筆記]①名詞化 ②多義語 両者には毎回手こずった。教材として配布されるプリントはあっても仏和辞典以外に特別の参考書は見つからないから、語彙を増やしその応用力を身に付けることは本当に難しい。モンプリエの学校で出会ったケンブリッジ大の女子学生が、夏休み中に仏独語それぞれ500語を覚え休暇明けに教授の面接を受けるのだと、大きな方眼紙に教室で採取した単語を書き込んでいるのを見て、大陸への語学留学に長い伝統を持つ国の古典的な暗記法が語彙増強の王道かと感じたものだ。③前置詞 数が限られているので仏和辞典の主だった前置詞の項を拡大コピーし精読したが、1級ともなると熟語的なものが出題されるのであまり成果はあがらなかった。④時事用語 参考書の時事用語リストをベースに単語カードを作り、NHK Worldのフランス語ニュースで聞いた新しい単語を補充して行った。⑤動詞活用 出題される文法事項が大体決まっているので学習しやすい。⑥長文完成 ⑦内容理解 ⑧内容理解 読解については、現在は帰仏し上院のスタッフとして活躍中のF先生主催「Le Mondeを読む会」に参加したことがフランス語の文章構造に慣れて自信を付けることに役立ったと思う。⑨和文仏訳 通信教育や翻訳講座でフランス人の先生に指導を受けた。ここでも語彙力の涵養は重要で、2012年にアリの社会についての問題でどうしても「アリ」と「巣」と言う単語が浮かんで来ず惨敗した苦い思い出がある。

[書き取り]級が進むと試験で読まれる文章が長くなるせいか、途中で付いて行けなくなり苦労したが、dictéeのクラスを週2コマで数年間受講しているうちに、継続は力なりの言葉通り最後まで書き取れるようになった。

[聞き取り]①穴埋め ②内容一致 ネットからRFIのfait du jourを聴いて、付属している旨く工夫されたテストにトライした、ただしアフリカのフランス語圏のニュースが多いのに食傷気味となったが。

総じて過去問の練習が有効であることが分かってきたので、昨年は買い集めた1997年分からの公式問題集の復習に力を注いだ。

語学留学

時間的に自由な生活をしている上、マイレージ特典など航空会社のサービス進化とネットの急速な発展のお蔭で海外旅行が安直になったから、1、2週間の短期語学留学をかなりの頻度で実行した(別表)
ただし留学期間の前後に観光やオペラ鑑賞をしているので仏検の勉強をしたのかフランス旅行にはまったのかはっきりしない。留学先は公的品質保証とみられる Label Qualifié français langue étrangère が付与された学校のリストから選び、授業内容や宿泊先に関する学校との打ち合わせ、航空機や鉄道の予約はネットや電話を通じ個人で行って、これもフランス語の実践に役立てた。

留学先の学校や宿舎の受け入れ体制は良く、幸い金銭的あるいは感情的なトラブルを経験したことはない。敢て言えばパリなど大都会より地方の方が日本人の影も疎らになりフランスの生活にどっぷり漬かれるというものだ。なかでも南仏ムスティエ=サント=マリの古い修道院を改装したCrea-langues校では初心者の受け入れはなく参加者の水準も高くて良い勉強が出来た上、専属シェフの出すプロヴァンス風の食事やワインはなかなか美味であった、また「天国にいちばん近い島」があるニューカレドニアのCREIPAC校で、南洋の温暖な気候に包まれて少人数の授業の後にゴルフ、海水浴やグルメを楽しんだことも忘れ難い。 

おわりに
フランス語の学習を通じ、定期的に学校に行き、海外留学をし、試験を受けることで私は新しい生活のリズムを作り精神の高揚感を持続させて来たが、1級合格は柔剣道や碁将棋で言えば有段者になった感じで、今後は私のフランス語を如何にして深化させるかが課題だと思う。学習過程でお世話になった人や事柄は多いが、ここでは我が国のフランス語辞典の良質さに感謝したい。フランスの語学学校で色々な国籍の人と共に学ぶ間に、我が国の辞書は断然優れていることに気が付いた。電子辞書という優れものがあることはもとよりだが、内容が豊富適切でアップデイトされており、明治以来孜孜として行われてきた研究の成果を享受できるのは有難いことである。数年前「舟を編む」と言う日本語辞典の編纂をテーマにした映画を見たが、外国語が対象の事典づくりの場合には仕事の困難さは倍増するであろう。フランス語学界のますますの発展を心から祈念している。