サンティアゴ巡礼とフランス語
2018年春季4級合格・在日フランス大使館賞
坂原 三郎
無職・千葉県
私がフランス語を学習するきっかけとなったのはサンティアゴ巡礼であった。サンティアゴ巡礼とはキリスト教の三大聖地であるスペイン北西部の都市サンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela、仏語ではSaint-Jacques-de-Compostelle、以下SCという)の大聖堂に眠る聖ヤコブの墓を詣でること。この巡礼路はヨーロッパ中を網の目のようにつなぎ約1200年の歴史がある。スペインとフランスの“道”は世界遺産に登録されている。
この巡礼路を歩きたいとずっと思い続けてきた私は60歳で定年退職になった2010年秋、サンティアゴ巡礼に旅立った。初めての海外長期一人旅は不安だらけ。まずは言葉の壁、日常会話程度は話せるようにと2009年からスペイン語学校に通い学習を開始した。
数ある巡礼路から選んだ“道”は最もポピュラーな「フランス人の道」。スペインとフランスの国境バスク地方のフランス側にある小さな町サン・ジャン・ピエ・ド・ポー(Saint-Jean-Pied-de-Port、以下SJPPという)からSCまで850 km、34日間の旅。重さ約10 kgのリュックを背負い、1日平均25 km歩くため、足のマメ、肩の痛みは毎日続いた。しかし世界中からやってくる多くの人々との楽しい交流は心と体の疲れを忘れさせてくれた。
こんな冒険は一生で一度きりと思っていたが、これが病みつきになり毎年のように巡礼路を歩くようになった。まずスペイン国内の幹線ルート4本を5年で歩いた。スペイン語も徐々に会話の幅が広がり、年々旅を楽しめるようになった。このころはフランス語がまったくわからず、フランス人との会話はしたくてもできず、その結果友人はスペイン語圏、英語圏の人に偏っていた。
その後、巡礼の旅への興味が深まり、次はフランス国内の“道”を歩くことを計画。そのためにフランス語学校に通い2016年1月から学習を開始した。フランス語は « pie », « tranquilo », « comenzar » などスペイン語と似ているところもあるが、発音がとても難しかった。
フランス国内の幹線ルートは4本。主な出発地はル・ピュイ、アルル、ヴェズレー、パリで、いずれもSJPP付近で「フランス人の道」に合流され、距離は約900 kmある。フランス語は全くの付け焼刃だったが、2016年7月ル・ピュイからフランス国内の“道”に最初の一歩を踏み出した。SJPPまで900 km、40日間をかけて歩き通した。その後2017年はアルルからプエンテ・ラ・レイナまで、2018年にはヴェズレーからSJPPまでを歩いた。
フランス国内の“道”を歩く巡礼者の8割はフランス人で、当然フランス語が飛び交う。最初の年は私のフランス語はとても通じるものでなく、結局はスペイン語ないしは英語で対応していただき何とかコミュニケーションをとることができた。その後フランス語の勉強に力を入れる。仏検は学校の友人に刺激を受けたのと自分の力を確認するために2018年に受験した。
フランス南西部は田園地帯で自然が豊かだ。宿の多くは個人の家(ジット)で5~10人程度の宿泊者を受け入れている。夕食はこの家の家庭料理をゆっくりと2時間かけて共にする楽しいものだ。食事の時の « Bon appétit » の掛け声は今もよみがえる。年毎にフランス語にも慣れ、今ではフランス人の友人ができメールの交換ができるようになった。
今年2019年夏にはパリ(ノートル・ダム大聖堂)からSJPPまで歩く計画だ。サンティアゴ巡礼は世界中の人との交流を通して多くの出会いと発見があり、これからも続けていきたいと思う。そしてフランス語、スペイン語の学習はまだまだ続く。