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「名古屋造形大学」のフランス語教育

牧 博之(名古屋造形大学教授)

 本学は美術系大学です。『APEF通信』において大学・短大別出願状況欄でたびたび掲載されています。なぜ美術系大学でありながら仏検受験者がこれほど多いのかと思われる方も多いと思います。以下に私の考える理由を挙げてみたいと思います。

 私は1985年本学の短期大学部(2008年廃止)にフランス語担当非常勤講師として着任し2008年度から本学の教授としてフランス語、哲学などを担当しております。本学の外国語教育の特徴は卒業必修要件の外国語科目(6単位必修、8単位まで履修可)が「英語」または「フランス語」の選択制であることです。すなわち、フランス語も第一外国語として履修されるということです。授業は各教科とも一年次・週二コマ(通年)と二年次・週一コマの演習授業(通年)があります。二年次には週一コマの自由選択科目(半期1単位×2)が開設されています。

 履修選択は次のように行います。毎年新入生全員に対しオリエンテーションの期間中に語学選択のためと英語クラス編成のために「英語実力テスト」を実施し、その折語学選択についてのアンケートをとり英語とフランス語の振り分けおよび英語の実力別クラス分けをします。この結果、新入生総数の毎年概ね3割が希望通りフランス語を履修しております。

 フランス語検定試験は2000年頃からの導入だと記憶しております。当時、語学担当者による合同外国語会議で仏検を単位認定に利用することを決めました。英語は検定試験による単位認定は行っておりません。仏検受験は当初は大学の学生のみを対象に行っておりましたが2003年頃から短期大学でも指導し始めました。短期大学の授業は各学年通年週一回の授業であり、かなり厳しい受験ではありましたが、毎年5級はもちろん、数こそ少ないのですが4級合格者も出しておりました。仏検受験は大学においては担当教員の指導で毎年一年次の秋に5級、二年次の春、秋に4級を受験させておりました。当時の受験者数は毎年延べ人数で100名近くいたと思います。

 しかし、2008年カリキュラムの再編により必修外国語単位が8単位から6単位になったことにより二年次の授業が通年週一コマとなったこと、また私が受験を完全自由化指導したこともあり受験者数は減少しました。近年では春の受験は無理な状況となっています。本学の単位認定の基準は一年次秋の仏検で5級合格、二年次秋の4級合格が基準となっております。後期が始まると昼休みに過去問題を利用した勉強会を始めます。通常授業履修者の半数近くの学生が仏検を受験しないので平常授業中には特別な受験勉強は行っておりません。仏検受験・合格を目指すという動機付けはかなり有効で勉強会に参加する学生はこの時期に一気に実力をつけてきます。また、フランス語に興味を持つ学生も一気に増加します。近年フランスへ行きたいという学生の希望も多くなってきており、実際春・夏休みや卒業旅行でフランスへ行く学生も多くなってきております。

 ところで、クラス数と受講者数の都合で英語は通常の教室で、フランス語はCALLシステムを導入したマルチメディア教室(MM教室)での指導が行われます。私はMM教室の改修を任されておりましたのでCALLシステムを導入いたしました。また、外国語担当教員としてカリキュラムの再編にも関与し、2008年大学に移籍と同時に自由科目として平常授業より進んだ内容の授業を行う仏検4級及び3級の対策を兼ねた上級クラスを立ち上げました。上級クラス開講とCALLシステムの導入が仏検受験で効果を上げた一因と考えております。

 また、私は専任に就任以来一年次での辞書の購入をやめさせました。辞書はMM教室(40ブース)に十数冊を常時置き、必要な時に自由に使って良いこととしました。学生の経済的負担を減らすのが主な目的です。またMM教室ではネットでの翻訳サイトも利用可能だからです。基本的に予習は課していませんからテキストの単語帳で十分のようです。それでも一年次後期以降、仏検の勉強会開始の頃から自分の辞書を持ちたいとの相談が来るようになります。自主的に学習したい学生の増加の現れであると考えます。さらに一年次の2コマで同じ教科書を二人の担当教員で分担して指導するなど、ここでも学生の不要な金銭的負担を減らしています。様々な負担減が「授業アンケート」の自由記述欄に「フランス語は難しかった」という回答を多く見る割にはフランス語選択者数が減少しない要因ではないかと考えております。

 もともと本学に入学してくる学生は語学(英語)学習が苦手な学生が多いという事実があります。入学当初の英語実力テストの結果がそれを示しております。フランス語を希望した学生に時々聞くのですが、履修理由で一番多いのは「必修科目だから」というものです。では、なぜフランス語かというと「英語が嫌いだから」「英語が出来ないから」という理由があげられます。今年フランス語を履修している学生は履修希望で「どちらでもよい」を選んだ学生が29名、「フランス語」を希望した学生は28名です。また、英語実力テストの成績は50点満点で25点以上の学生はわずか20%です。問題のレベルも含めて考えると決して英語の成績が良い学生たちではありません。もちろん、英語の成績が非常に優秀な学生もいることは付け加えておきます。

 以上、美術系大学である『名古屋造形大学』でなぜ仏検受験者が多いかということを考えてきました。これらをまとめると①フランス語が第一外国語として履修可能であること、②単位認定に仏検を採用しまた比較的容易なレベルで基準を設定したこと、③授業形態など履修しやすい環境へと改革してきたこと、④より効果的なシステム(MM教室でのCALLシステム)の導入が挙げられると思います。また、準会場として大学が利用できるということも大きな理由となっていると思います。これまで何回となくフランス語を第二外国語にするという話が持ち上がりました。その都度本学での外国語教育の意味を説明し今の状態を維持してきております。大学の理解・協力もとても大切な要因だと考えます。しかし、「学生は『造形』に語学を勉強したいと思って入学したわけではない」という前任教授の言葉がすべての改革の原点にあったからできたことだと私は考えております。