第37回 音声とスペルを同時に脳内処理!? 疑問文の型(中級)
共立女子大学教授 田口 亜紀
口述試験のむずかしさは、文字と発音を瞬時に一致させて反応することでしょう。準2級の2次試験のQuestionで、Qu’est-ce qu’elle fait dans la vie, Manon ? や、Quelle heure est-il ?と聞かれたとしましょう。もし、これらのフランス語の文があなたの耳に、「ケスケルフェダンラヴィマノン」や「ケラーるエティル」のように意味を伴わない呪文のように届いたとすると、この解読作業に時間がかかり、応答する機会を逸してしまいます。ダイレクトにフランス語でインプット、アウトプットしているわけではないので、このタイムラグが発生しやすいのです。対策としては、フランス語の疑問文に答えるとき、ある程度、反射的に答えられるように、スポーツをするときのように、つまり自由に動かせる身体のように、フランス語をふだんから鍛えておくことが肝心です。
「学習のツボ」の「第33回 フランス語で伝える−初めての 2次試験(準2級)」で中川真知子先生が細かく解説しているので、今回は別の視点から、準2級2次試験のコツをお伝えしましょう。
準2級の2次試験は日本語による氏名の確認、1分の黙読のための準備に引き続き音読、その後の面接委員との質疑応答で構成されます。質問は2回繰り返され、1問につき解答時間は10秒で、全5問ですから、あっという間に試験が終わる印象がありますね。質疑応答のときに、面接委員の質問を聞いてから考え込んでいると、次の質問に移っていた…ということになりかねません。短時間で 実力を出し切るためには事前の準備が不可欠です。さっそく最近の問題(2024年度秋季の準2級2次試験)問題カードAを見ましょう。
本文
Manon travaille dans une banque. Le dimanche, elle va dans la gare voisine pour jouer du piano. Le piano est là depuis mars. Elle joue ses morceaux préférés, et les gens trouvent sa musique très bien.
和訳
マノンは銀行で働いています。日曜日には、近くの駅に行ってピアノを弾きます。ピアノは3月からそこにあります。彼女はお気に入りの曲を弾き、通行人は彼女の音楽をとても良いと感じています。
イラストの描写
駅舎のホールの中央にピアノが置かれていて、女性が演奏している。通行人が4人、足を止めてその演奏を聴いている。絵の左側には少年が腰かけて、クロワッサンを食べている。中央の時計が6時を指している。窓ごしにバイクが2台見える。
(実際のイラストは、『2025年度版2級・準2級仏検公式ガイドブック』でご覧いただけます)

カードが渡されてから、1分間、黙読する時間が与えられます。
このときにすべきことは、次の3点でしょう。
1. 全体の文意をつかむ
2. 声に出して読むためのシミュレーションを行う(心の中で)
3. イラストに何が描かれているかをつかむ
1. 全体の文意をつかむ
可能なら、細かいところにこだわらずに1回通して目を通し、おおまかな内容をつかんでみましょう。「誰が」qui, (加えてqui と結びつくavec quiなど)、「いつ」quand (depuis quand なども)「どこで」où (d’oùも)、「何を」qu’est-ce que, que, quoi、「どのように」comment、「どのくらい」combien、「どうした」、あるいはどんな出来事が起きたかとなどをつかみます。
2. 声に出して読むためのシミュレーションを行う(心の中で)
次に実際に声に出して発音するときのように、リエゾン、アンシェヌマン、イントネーションをシミュレーションしてみましょう。もしフランス語を読むスピードに自信がもてないなら、 1 と2 を同時に行うこともやむを得ません。
3. イラストに何が描かれているかをつかむ
そして、イラストを見ます。余裕があれば、過去問に出ているような質問の答えとなりそうなものに注目しましょう。たとえば、絵に描かれているもの、人や物が複数描かれていればその数などです。人や動物の動作も聞かれるかもしれません。天気、時間をフランス語でどのように言うのかを考えてもいいでしょう。上記の問題カードの場合なら、本文には出てこない単語、例として、時間はsix heures, 子ども(un enfant)が食べているun croissant、窓から見えるdes motos(deux motos)、人はピアノを弾いているのがune femme など。時計が描かれていれば、時間を聞かれる可能性がありますし、太陽や雲、雨降りの様子などでしたら、天気の質問かもしれません。ヤマが外れても、ふだんから様々な場面をベースにしたフランス語の言い回しに触れていれば、とっさの質問に対応することができます。
これだけのことを1分間に行うのはたいへんだと思われるかもしれませんが、公式ガイドブックに掲載されている過去問で繰り返し練習して、コツがつかみましょう。
これは次に行う「音読」とQuestionsへの回答のための準備です。
次にQuestionsを見てみましょう。最初の2問は文章について、続く3問はイラストについての質問です。

Question 1 : Qu’est-ce qu’elle fait dans la vie, Manon ?
Question 2 : Depuis quand est-ce que le piano est dans la gare ?
Question 3 : L’enfant à gauche, qu’est-ce qu’il mange ?
Question 4 : On voit combien de motos par la fenêtre ?
Question 5 : Quelle heure est-il ?
Questionsは、すべて疑問詞で問われていて、Oui / Nonで答えるタイプではありませんが、1. 文頭にest-ce queをつけて疑問文にする、2. 平叙文に?をつけて疑問文にする、3. 倒置形、という3種類の疑問文の型に対応しています。疑問詞を用いる疑問文では次の型に分類されます。
疑問詞を用いる疑問文の型
1. 主語+動詞 疑問詞 ?
2. 疑問詞 + est-ce que (qu’) 主語+動詞 ?
3. 疑問詞 + 動詞 – 主語の代名詞 ?
(4として、pourquoiを使った疑問文で、「疑問詞+主語+動詞 ?」)
Question 1からQuestion 3まで、疑問文の型はest-ce queを用いる、上記の2の型です。Question 1の疑問文では主語をelleとして代名詞で提示されていますが、文末でそれがManonだと明かされています。直訳すると「彼女は何をしていますか、マノンは」ですね。dans la vieがついていることから「今何をしているのか」ではなく、職業を聞く疑問文であることがわかります。Question 2の文意は「ピアノはいつから駅にありますか」です。Question 3は直訳すると「左の子ども、彼は何を食べていますか」で、名詞が文頭に置かれ、次にそれを代名詞で受けています。
Question 4は、上記1の疑問文の型で、意味は「窓から何台のバイクが見えますか」です。Question 5では、時間を聞く疑問文で、上記3の疑問文の型、つまり倒置疑問文です。
Question 1と3では、主語の内実を表す名詞が文頭か文末に置かれ、文中では主語の代名詞で置き換えられています。このように質問されると、実は解答はしやすいのです。仏検では、各質問に「主語」「動詞」を含めた完全な文で答えることが求められているのですが、さらに疑問文で主語が名詞の場合は、解答するときに代名詞で受け直して答えることが求められているからです。
また、一般的に倒置疑問文は、音としては聞きにくいですが、Question 5では、時間を問う定番の質問なので、反射的に反応し、「6時」Il ‿ est / six ‿ heures. とそれぞれ音をつなげて発音できれば正解できますね。
意表を突かれるかもしれないのが、Question 4です。Il y a ~ ? 「~ある」と同様の内容の聞き方で、On voit ~ ? と問われています。答えるときは、On voit ~.です。voir「見える」を使った質問では、2023年度秋季の問題カードBに、Vous voyez combien de personnes ? という疑問文がありました。この場合は、vous「あなたは」と聞かれているので je「私は」と答える必要があります。イラストには3人の人物が描かれているので、答えはJe vois trois personnes. ですね(または、J’en vois trois. のように中性代名詞enで名詞を受けてもかまいません)。
過去問を見ると、その他にも、疑問文のバリエーションがあります。2022年度春季の問題カードBでは、イラストを見て答える問題に、Il y a combien d’oiseaux qui volent ?という関係代名詞を用いた疑問文があります(『仏検公式ガイドブックセレクション(2019~2023) 準2級』参照)。難易度が上がりましたね。2021年度秋季問題カードBでは、Il y a un oiseau à gauche. Qu’est-ce qu’il fait ?と、2文構成のQuestionもあります。多くの疑問文の形に触れておくことで、自然とさまざまな問い方がわかるようになるでしょう。面接委員になったつもりで、1つの疑問文を別の型の文に言い換えたり、作文してみるのも効果的です。
ふだんから、質疑応答を何度も繰り返すと、口をついて解答が出てくるようになること、まちがいなしです。インプットは必要ですが、これだけでは足りません。アウトプットがあって学習内容が定着します。また、単語や文を学ぶときに、耳から入ってくる音を、口から出すと、その単語は忘れにくくなります。まず音声を聞き、マネをして発音し、それからスペルと結びつけるのがよいのです。外国語学習では、文字ではなく、音声から入ると、そのあと記憶が引き出しやすくなると、脳科学の実験によっても証明されています。ぜひ試してみてください。




















