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第31回 3級の聞き取りに挑戦!でもその前に(中級)

 白百合女子大学客員所員 池田 潤

filleauxecouteurs 聞き取り試験では、3級になるとマーク式ではない記述式の問題が入り、初級から中級段階に進むためのひとつの関門となっています。とはいえ、リスニングの勉強をどうやってするか、悩む人は多いでしょう。「結局フランスに行かなければだめだ」、「とにかく音に慣れることが大事」、といった「助言」を見聞きすることもありますが、どちらも今すぐシステマティックに取り組めるアプローチとは言い難いものです。

一方、『仏検公式ガイドブック』の「聞き取り試験」総合解説では、対策としてむしろしっかりとした基本的知識の習得が強調されています。ここでは、3級の聞き取り [1]で出題される部分的な書き取り(ディクテ)を例に、着実に聞き取りの力を高めていくためにどのような「仕込み」をするべきかを分析します。

書き取りについては、2級の問題を扱った 第18回「書き取りに強くなるには?(中級)」 でも詳しく解説されています。そこでまとめられているのは、文法的知識が正解への鍵となるということです。3級でも、聴解の前提となる基本的な知識を固めておくことが効果的です。

                      

2020年度秋季の3級聞き取り[1]を例にとりましょう。この問題は、聞こえてくる会話文中の空欄を埋める形式になっています。音声は3回繰り返され、2回目はゆっくりと読まれます。

今回は、5つの空欄のうち3つに注目します(全問の解答は画面の一番下にあります)。

Thomas : Camille, tu sais qu’il y a un ( 1 ) dans la classe ?
Camille : Non. Tu l’as déjà vu ?
Thomas : Oui, je lui ai parlé un peu ( 2 ) l’entrée de l’école.
     Il ( 3 ) en classe tout à l’heure.
Camille : Il est comment ?
Thomas : Il est ( 4 ). Il porte ( 5 )… Il sourit beaucoup.
Camille : Il a l’air sympa !


 

      

まずは(1)です。


Camille, tu sais qu’il y a un ( nouveau ) dans la classe ?

という文のうち、空欄の nouveau を書き取らせる問題でした。「新しい」という形容詞が、ここでは名詞として「新入り」の意味で使われているところが少し変化球です。誤答の中では、nouvel と男性第二形にしてしまったもの、nouvelle と女性形にしてしまったものが目立ちました。また、 neuveau や noveau といった、フランス語の単語にはないつづりを書いたものも相当程度みられました。

ポイントとなるのは、nouveau という形容詞についての正しい知識です。すなわち、nouveau (nouvel) – nouvelle のそれぞれの発音をきちんと覚えていれば、聞こえていないはずの l のつづりを入れる間違いは避けられます。ただし、「聞き流す」だけの対策では、たしかに nouveau, nouvel, nouvelle のそれぞれの音に「慣れる」ことはできるでしょうが、それらがどのように使い分けられているのかを正しく理解するまでにはおそらく膨大な時間がかかってしまうでしょう。それぞれの形がどのような場合に用いられるのかを知っていることが正解への決め手となるのです。また、形容詞の前に冠詞を置くと「〜な人、もの」という名詞として使われることがあるということを知っていれば、un (nouveau) のあとに名詞が来ていないからといって、(  )には何か自分の知らない名詞が入るのではないかなどと考えこまずにすみます。

      

次に(3)です。


Il ( viendra ) en classe tout à l’heure.

と、venir の単純未来形を書かせる問題でした。動詞の活用形を問う問題としては、3級には筆記の[2]があり、「学習のツボ」第26回「動詞に強くなるには?(中級)」でポイントが整理されています。聞き取り問題では、自分で動詞の活用形を作ることが求められるわけではありませんが、聞こえてきた動詞を正しく書き取るためには活用形の知識が必須です。

たとえば、viandra という誤答が少なからずみられましたが、そういう人は直説法現在の je viens はじめ、venir のほとんどの活用形のつづりがあやしいのではないでしょうか。また、viendrai や viendras としてしまった誤答もみられました。こちらの場合は、venir に限らず一般に動詞の単純未来形語尾をきちんと覚えていないであろうことがうかがえます。

      

もうひとつ、(5)です。


Il porte ( des lunettes ).

と、不定冠詞も含めて書き取る問題でした(問題用紙の指示文には「(  )内に入るのは1語とはかぎりません」とあります。注意しましょう)。フランス語で、名詞の前に前置詞や限定詞(冠詞、指示形容詞、所有形容詞)が何もつかないのは例外的です。J’ai faim.「お腹がすいた」などがそうした表現ですね。

さてこの問題では、もちろん lunettes「めがね」という名詞を正しいつづりとともに知っているかどうかが問われているわけですが、おさえるべきポイントはかなり一般化できます。

たとえば、des と複数の不定冠詞を書き取るべきところを、de としている誤答がかなりありました。des と de では発音が異なります。初級レベルの学習者にはこの発音の区別ができていないケースがよくみられますが、細かいようでこれは非常に大事な点です。というのも、フランス語の名詞は単数形と複数形で名詞そのものの発音は変わらないことが多く、そういう場合、聞き取りでは名詞の前に置く語の発音の違いで単数・複数の判別をすることになるからです。定冠詞のついた名詞を例に挙げると、le chien と les chiens では、発音の上で異なるのは le と les の部分のみで、名詞の chien と chiens はまったく同じ発音をします。したがって、le と les の発音を区別できてはじめて、名詞 chien が単数か複数かを判断することができるわけです。

                      

3級聞き取り[1]は、1級まで続くディクテ問題の導入であり、リスニングの基礎力を試すものです。そして、さまざまな品詞を書き取りの対象とすることでこの問題が問うているのは、語の発音を含めた基本的な知識であるといえます。ここでとりあげた例に即してより具体的にまとめると、それは ① 名詞や形容詞、また限定詞の性数変化を正しいつづり字と発音で覚えているか。② 動詞の活用形や、現在分詞・過去分詞を正しいつづり字と発音で覚えているか。ということになります。

こうした知識の習得にあたっては、筆記試験のためにしている勉強がそのまま有効です。筆記の勉強を丁寧にすることがリスニング力の向上に大きく寄与するということですね。また逆に、なんとなく単語を拾うのではなく、細かいところまで正確に理解しつつリスニング教材を聞くことで、文法や表現の知識をいっそう定着させていくというサイクルを作ることができれば理想的です。

 

【 解答 】
(1) nouveau  (2) devant  (3) viendra  (4) blond  (5) des lunettes

 

(仏検事務局より)上で解説されたもの以外の問題は、2022年4月発行予定の『2022年度版 仏検公式ガイドブック』でご覧ください。2022年度版では、2020年度秋季・2021年度春季・秋季の3季分の実施問題と解説が掲載される予定です。