学び始めて30年
2023年春季1級合格・日仏会館賞
緒方 林太郎
衆議院議員・福岡県
今回、フランス語検定1級に合格し、更には成績優秀者として表彰の栄に浴する事が出来ました。恐縮の限りです。
外務省に奉職する事が決まった31年前(20歳)、割り当てられる専門言語の欄に「フランス語」と書いてあるのを見て愕然としたことを思い出します。一度も触れた事のない言語だったからです。その後、1995-97にフランス、1997-1999にセネガルで勤めました。フランス在住当初、スーパーの量り売りでいつも正しくモノが買えなかったのは懐かしい思い出です。
フランス語を学び始めて30年余。光陰矢の如し、です。ただし、19年前に32歳で外務省を退職してから、日常的にフランス語を使う環境に居た事はほぼありません。最後にパリに行ったのは20年前です。今は福岡県北九州市から国政に送り出していただいています。
※2017年京都大学にて開催された Fédération internationale des professeurs de français(国際フランス語教授連合) の IVe Congrès régional de la Commission Asie-Pacifique(第4回アジア太平洋大会)での講演
特に地方都市での日常生活において、フランス語に触れ続けるというのは簡単な事ではありません。ただ、昨今はウェブで良質なコンテンツに触れることは容易です。私は平素からスマートフォンで「Radio France Internationale」を聞くようにしています。また、ル・モンド、フィガロ等の活字媒体にも触れるようにしています。ただ、媒体やコンテンツの種類を増やせば、より上達するかと言えばそうではないでしょう。なので、「これ!」と決めた媒体にアクセスし続ける事で良いように思います。陳腐ですが「継続は力なり」です。
フランス語検定1級合格に向けたテキスト等については、他の方の体験記に譲るとして、私が「日本人が最も苦手としている部分」と思っている事を挙げます。それは「日本語に無い音」への対処です。フランス語は日本語に比して、母音の数も、子音の数も多いですので、その違いを常に意識した方がいいです。特に日本人にとっての難関は「ou」の発音です。強く発する「ウ」の音です。これは日本語にはありません。なので、大半の日本人話者が正しく発音できていません。実は「monsieur」、「toujours」という極めてよく使う言葉を正しく発音するのは、日本人には一定のハードルがあります。ここを留意いただき、鍛錬するだけで、フランス語の発音は劇的に変わります。学び始めはどうしても「r」の発音が気になると思いますが、あれはやり続ければ身に着きます。それよりも「ou」の音を始めとする母音の発音を意識した方がいいと思います。
あえて、フランス語検定1級についてコメントするなら、「国立大学の二次試験を受けた経験があるかどうか」が影響しそうな気がします。問題の作り方が似ています。その経験があるかないかは、点数に一定程度影響するはずです。なので、試験の観点から重要なのは「過去問をやって問題のスタイルに慣れる」という事です。過去問ほど、最善の問題集はありません。
ちなみに「フランス語だけ出来る」というのは、残念ながら日本社会ではあまり得をしません。しかし、「フランス語と英語が出来る」となると、とても、とても得をします。「英語が出来る」の比ではありません。そして、日本語、フランス語、英語くらいが出来るようになると、フランス人が好きな「多様性」という言葉の意味がより深く分かるようになります。日本のメディアは結構アングロ・サクソン系の見方に影響されていますが、フランス語メディアの視点から見る力を持つと、世界情勢を見る能力が格段に上がります。それくらい、同じ事象に対して、フランスとアングロ・サクソンでは見方が異なります。また、フランス語と英語がある程度できるようになると、言葉の習得において相乗効果がどんどん上がっていきます。
最後に一言。
私はフランス人に以下のような事をよく言います。
「フランコフォニー(フランス語共同体)という言葉は複数形なのではないか。フランス共和国のフランス語、北アメリカのフランス語、カリブ海のフランス語、アフリカのフランス語、インド洋のフランス語、南太平洋のフランス語、一つの概念で纏められない。多様性という観点から複数形でいいと思う。」
世界には多種多様なフランコフォニーがあります。「シャンゼリゼ」、「モンマルトル」、「モン・サン・ミッシェル」、「ヴェルサイユ」といったステレオタイプ的なフランコフォニーに籠るのは勿体ないです。そして、つまらないです。是非、多様性の塊であるフランコフォニーに関心を持ち、その扉を開くツールであるフランス語の学習を頑張ってください。