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第32回 準1級の書き取り試験—文法知識の再チェックを—(上級)

慶應義塾大学准教授 井上 櫻子 

 


仏検では、 準2級から書き取り試験が登場しますが、準1級、1級レベルになるとその内容もかなり複雑になってきます。このレベルの試験対策としては、聴解力アップのために、France Info や RFI など、生のニュースを視聴できるインターネットのサイトを活用したり、語彙力を高めるためにフランス語圏の新聞、雑誌のサイトに親しんだりすることが有効であることは言うまでもありません。しかしそれと同時に、細かいミスによる失点を防ぐためにぜひとも求められるのが文法知識の再チェックです。ここでは、2020年度秋季準1級書き取り試験を例にみていきましょう。



                

この書き取り試験では、両親の勧めにしたがって画家になる夢をあきらめ、将来の安定した生活を保証する学校に進学したものの、それから30年たってもいまだに家賃の支払いに苦労するほど困窮している人の話が取り上げられました。そのなかから、多くの受験者がつまずいた箇所をピックアップしてみます。なお、音声は1つ目がポーズなしのもの、2つ目がポーズと句読点指示ありのものです。

 

     

(ポーズなし)

 

(ポーズ、句読点指示あり)

 

(解答)

Mais mes parents se sont opposés à ce projet et m’ont dit qu’il fallait que je m’inscrive dans une grande école pour gagner suffisamment bien ma vie.

(和訳)

「しかし両親はこの計画に反対し、十分な生活費をかせぐためにグランド・ゼコールに登録しなくてはならない、と私に言いました。」

「この計画」とは、画家になるという語り手の計画です。また、「グランド・ゼコール」は、大学とは別のフランスの高等教育機関を指しますから、本文には明言されていませんが、舞台はフランスということになります。

この文ではまず、qu’il fallait という一節について、qui fallait 、qui il fallait といった誤答が数多く見うけられました。確かに qu’il のように音節の短い単語がエリジオンしている場合、音声情報のみにたよるだけでは読み上げられているのがどのような語なのかなかなか見当がつかないかもしれません。しかしそこであせらずに、義務を表わす動詞 falloir は非人称主語 il を必要とするという基本的な文法知識を思い出せば、自信をもって答案を作成することができたでしょう。

またこれにつづく que je m’inscrive も難所だったようです。無回答の答案がめだったほか、m’inscrire とした答案もかなり確認されました。しかしここでも、義務を表わす表現 il fallait は従属節で接続法を要求するという文法知識をふまえれば、正答をみちびけたのではないかと思われます。

最後に、suffisamment bien という一節は今回の書き取り試験でもっともできが悪かった箇所のひとつです。かなりの数の受験者が suffisamment という副詞について m を2つ重ねることをおこたり、失点していました。ただ、フランス語には形容詞から作られる副詞がすくなくないこと、さらに男性形の末尾が -ant あるいは -ent である形容詞は、多くの場合、副詞になったときに -amment 、-emment という形になるという文法知識——これは、やや発展的な知識ですが——を知っていれば、まよわなかったかもしれません。

 

      

もうひとつ、例をみてみましょう。

(ポーズなし)

 

(ポーズ、句読点指示あり)

 

(解答)

Mon existence est devenue plus dure.

(和訳)

「生活はいっそうつらいものになりました。」

この文は、グランド・ゼコールに登録するようにと言われた語り手が、家族でパリに引っ越したときの印象を語ったものです。ここでは、半数近くの受験者が動詞 devenir の直説法複合過去 est devenue について、過去分詞を女性単数の主語 Mon existence と性数一致することを忘れていました。もしかすると、existence は女性名詞ではあるものの、母音で始まる名詞であることから1人称単数の所有形容詞が mon という形で用いられているため、男性名詞と錯覚したのかもしれませんが、全体的に手ごわい問題ばかりの準1級レベルの試験では、こうした細かいミスが合否を左右しかねません。「できたはず」のところでの取りこぼしは避けたいところです。

 

                

学習のツボ 第31回」では、3級の聞き取り問題 [1] (会話の部分書き取り問題)をもとに、確かな文法知識の習得の必要性が示されていますが、同じことは準1級、1級(上級)レベルにも当てはまります。試験直前には文法事項を再確認し、あやふやなところがあればしっかり補強しておきましょう。

 

(仏検事務局より)上で抜粋、解説されたもの以外の箇所は、2022年4月発行予定の『2022年度版 仏検公式ガイドブック』でご覧ください。2022年度版では、2020年度秋季・2021年度秋季の2季分の実施問題と解説が掲載される予定です。