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仏検2級:社会で活躍するための課題

豊島 秀宏(日本外国語専門学校)

当校のアジア・ヨーロッパ言語科 英語+フランス語専攻では、2年間で仏検2級合格を目標としている。1年生のときには、一通りの文法を学び、2年生になったら、専ら仏検2級の筆記問題および聞き取り・書き取り問題を解いていく。

仏検はそのときどきの客観的な学習到達度を見るためにも、また学生たちに自信を持たせるためにも格好の指標となる。当校で仏検を受験していくスケジュールは以下のとおりである。

1年生
前期 仏検5級
後期 仏検4級
2年生
前期 仏検3級
後期 仏検準2級・2級

かなりハードな学習過程であることは事実であるが、毎年このスケジュールを消化して、学生たちは当校を卒業していく。

特に学生たちにとってきついハードルはもちろん最後の仏検2級である。仏検3級までは学習に付いてこられた者の中にも、ここで挫ける者が出てくる。2級では、語彙数が増えて、長文で取り扱うテーマもかなり難解なものも出てくる。それまで単に語学の力だけで追いついてきた学生たちが、初めて本当の意味で言語を取り扱う抽象能力の高さを試されることになるのである。

外国語を学ぶことは、言語を扱うときに必要となる抽象的な思考を鍛えることであるのはいうまでもないが、初学者たちはそのことを特に意識しない。しかし、「言いたいこと」が高度になっていくと、それを表現するために、文型が複雑になり、語彙の抽象度が増す。そして、言語そのものを扱う能力が試されることになる。つまるところ、フランス語を上手く操れるかどうかは、日本語をどれだけ上手く操れるかどうかに比例してくる。その相関関係が如実に現れてくるのが、仏検2級からではないだろうか。単に語学が好きというレベルではこの仏検2級の壁を打ち破るのは難しい。この段階でフランス語の長文を読みながら、なかば日本語の現代文を読むように読解力を付けていくことが求められてくる。また教員の側ではそのことを意識した教え方をしないと、学生たちに本当の力を養成することができないだろう。

当校ではフランス語のオーラル・コミュニケーションについては、文法や検定対策と同じくらいの時間を割いて、フランス人と会話したり、その言葉を聞き取ったり、さらに発音を矯正したりする機会がある。そこで学生たちはフランス人の教員との交流を通じて、フランス人独特の感じ方や考え方を吸収していくことができる。このことは、先の抽象能力を具体的に伸ばしていくにはかなり有効であるはずだ。

また、パリの語学学校に2週間、語学研修をする機会もある。その際、学生たちは、教室で習っていたフランス語の世界から、生のフランス語が行きかうパリの街の中に放り込まれることになる。それまで教科書や教師からしか聞かれなかった言葉が、日常当たり前のように飛び交う光景を目にし、耳にし、そして否応もなく話すことを求められることになる。Bonjour! の言い方一つにしても、自然に目を合わせることに意識する必要が出てくる。また、フランスでは日本では普通挨拶をしない場面でも挨拶の言葉が行き交う。そんな場面に遭遇しながら、学生たちは生きた言葉を学んでいくことができるのである。そして、文法で学ぶ諸々の事項が、単なる机上のものではなく、言葉をより生き生きと円滑に使うために必要なものであることを実感する。この現地で得られる生々しい感触こそが、後に仏検2級取得を目標として険しい道を登っていくときの一番の確かな足がかりとなるのである。

最初に述べたように、当校では、2年間で仏検2級合格を目標としているが、それが当校が設定する最終目標ではない。というのは、当校は単なる語学学校ではなく、専門学校だからである。日本社会のなかで専門学校の一番大きな役割は、なによりもまず即戦力となる社会人を育成することである。

仏検2級取得したことを社会の中でどう生かすのか。そのことを考えることなしに仏検の取得をしても仕方がないということを、私は学生たちに口を酸っぱくして繰り返し伝えている。フランス語はいうまでもなくコミュニケーションの「道具」である。たとえば、刀を鋭く研ぐことばかりを考えていて、研ぎ澄まされた刀をどのように使うかに考えが至らない者には、おそらく一生その刀を使う機会は訪れないだろう。フランス語についても同様のことが言える。近い将来フランス語を使うとしたら、それは社会人としてであるということ。また、フランス語を使っている社会人であれば当然のように英語も使って仕事をする機会も増えているであろうこと。以上のようなことから、当校では英語および社会人教育にも力を入れており、カリキュラムのなかで大きな柱としている。

2年生になって、就職活動が始まったときに、仏検2級を取得することを目標にどのようなことに心を砕いているのか、そして仏検2級を取得した暁には、その能力をどのように社会に生かせるのかを、学生自身に考えさせていくこと。実のところ、これがフランス語を学んでいく学生たちに当校で私が課している一番重要な課題である。

この課題に対して、自分なりの定見が出来てくれば、フランス語が使えるということは、フランス語が使えない者よりも、確実にコミュニケーション能力の幅が広いということを誰に対してでも堂々と表現できる人間に成長することができるはずである。

そのような課題が課せられていることを意識し、乗り越えることができた当校の卒業生たちは、現在世界を舞台に活躍をしている。フランスで暮らしている者もいるし、商社で海外勤務をしている者もいる。旅行業界や金融業界で働いている者もいる。アパレルや流通の分野で働いている者もいる。

仏検2級取得は単なるゴールではない。当校の卒業生たちにとっては、まず社会人になるためのスタートにほかならないのである。