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第25回 2級語彙問題の攻略法(中級)

慶應義塾大学准教授 井上 櫻子 

 

筆者の勤務先の大学では、仏検2級取得を目指す学生がかなりいます。学内の交換留学制度への応募資格が仏検2級以上となっているという事情もあるのですが、2級であれば履歴書の資格欄に記載できるからと考える学生も少なくないようです。しかし、いざ受験対策を始めてみると多くの学生が2級の語彙問題を取り組みくいと感じるようです。そして実際、試験実施結果をみると、全般的に語彙問題の正答率があまりかんばしくありません。ここでは特に、2018年度春季2級1次試験筆記問題2番を例に、どういったところにつまずきやすいのか、みていくことにしましょう。


                  

あたえられた日本語の文が表わす意味になるよう、(   ) 内にもっとも適切な語を1語入れるという問題です。

(1) Ce n’est un secret pour (   ).
  みんな知ってるよ。

(2) Cette région ne (   ) pas de charme.
  この地方はなかなか魅力がある。

(3) Il ne faut pas prendre au (   ) tout ce qu’il dit.
  彼の言うことを本気にしちゃだめだ。

(4) Les effets du médicament se sont fait (   ) tout de suite.
  薬の効果はすぐに現れた。

(5) Tiens-toi (   ) !
  背筋をぴんと伸ばして!


                  

(1) Ce n’est un secret pour (   ).
  みんな知ってるよ。

正解は Ce n’est un secret pour ( personne ). 「それは誰にとっても秘密ではない」、こなれた日本語にすると「それはみんなが知っていることだ」となります。他の否定語とともに用いられて否定を表わす ne に着目し、文意を考えれば ne…personne「誰も……ない」という表現が思い浮かんだでしょう。「みんな」という表現につられて tous, tout とした答案が多く見うけられましたが、ne に対応する否定表現の欠落した不完全な文になります。

(2) Cette région ne (   ) pas de charme.
  この地方はなかなか魅力がある。

正解は Cette région ne ( manque ) pas de charme. ne pas manquer de +無冠詞名詞「……に事欠かない」、すなわち「……を十分に備えている」という意味の表現の理解を試す問題です。(1) とも関連しますが、否定表現をともなう文の含意するところをとらえるのが苦手な受験者は少なくないようです。rien とした答案がかなりありましたが、これでは動詞のない文になってしまいます。また、a を入れた受験者もいましたが、それでは「魅力がない」という意味になります。ne とのエリジオンが必要でもあることからも、ここには当てはまらないと気づくようにしましょう。

(3) Il ne faut pas prendre au (   ) tout ce qu’il dit.
  彼の言うことを本気にしちゃだめだ。

正解は Il ne faut pas prendre au ( sérieux ) tout ce qu’il dit.  ここでは前置詞 à と定冠詞 le の縮約形が直前に置かれていることからもわかるように、sérieux は名詞で用いられており、prendre A au sérieux で「Aを真に受ける」という熟語表現になります。apprendre A par cœur「Aを暗記する」という表現と混同したか、あるいは「本気」というのを気持ちの問題ととらえたのか、cœur という誤答が数多く確認されました。prendre A au sérieux という熟語表現は、ほとんどの仏和辞典に載っているものです。辞書を引くときには、単語の意味だけでなく、項目末尾に記された熟語表現にも目を向けるようにしましょう。

(4) Les effets du médicament se sont fait (   ) tout de suite.
  薬の効果はすぐに現れた。

正解は Les effets du médicament se sont fait ( sentir ) tout de suite. sentirの代わりに voir としてもかまいません。A se faire sentir「Aを感知させる」、転じて「Aが現れる」という表現は受験者になじみのないものだったのか、今回の試験でもっともできの悪かった問題です。se faire で動詞の形としては完結しているように映るためか、bien と解答した受験者がかなりいました。また apparaître とした答案も多数ありましたが、この語だけで「現れる」という意味を持ちますから、se faire「(……を)させる」という表現と組み合わせるのはおかしいと判断すべきでしょう。

(5) Tiens-toi (   ) !
  背筋をぴんと伸ばして!

正解は Tiens-toi ( droit ) !  se tenir+様態で「……の姿勢を保つ」という意味になりますが、Tiens-toi droit「しゃんとしていなさい」という表現は、子どもをたしなめる場面などで慣用的に用いられるものです。設問文に「背筋を」とあるからか、dos とした答案が相当数ありました。


                  

こうした問題を多くの学習者が難しいと感じる理由は、設問文の日本語と正答となるフランス語の表現が一対一対応になっていないことにあります。もっともできの悪かった (4) などはその好例で、「現れる」という日本語と、「感じる」という意味を第一義とするフランス語の動詞 sentir はなかなか結びつかないのでしょう。

大学で2級取得を目指す学生から、しばしば「2級レベルの単語帳を教えて欲しい」との要望を受けます。しかし、2級レベルで求められるのは、フランス語と日本語が本来全く異なる体系の言語であることを意識しながら学習を進めることです。そのためには、日頃から辞書に示された定義や熟語表現を丁寧に確認し、「フランス語ではこう言うのだな」という表現に出会ったら、自分自身で手を動かして単語帳、表現集を作っていくようにお勧めします。ただぼんやりフランス語の文章を読んだり、聞いたりするのではなく、意識的にフランス語を書く習慣を身につければ、正確な綴りも早く覚えることができ、動詞問題や、書きとり・聞き取り問題など他の筆記式問題でも高得点を獲得できるようになるでしょう。