第24回 時制を「視点」で整理してみよう(2) (中級からその先へ)
大阪大学准教授 林 千宏
前回は「視点」を中心に、現在時制、過去時制を整理してみましたが、今回は「未来」も含めて整理してみます。まずは、前回の図をもう一度見ておきましょう。
この「過去」に対し、今回は「未来」も含めて整理してみます。
「未来」は現在の視点から、これから起こるであろう出来事に思いをはせます。
フランス語の単純未来形の語幹は、多くの動詞では不定詞の語末 -r(ただし -re の場合 e を省く)と形が同じですが、一部の動詞については特有の語幹がありますね。これは覚えておきましょう(未来以外でも使えるからです)。
例えば finir は
je finirai | nous finirons |
tu finiras | vous finirez |
il finira | ils finiront |
elle finira | elles finiront |
そして活用語尾(特に赤の部分)ですが、一見して何かに似ていますね。そう、avoir の直説法現在形です。もちろん、nous, vous の語尾は違いますが、他は全く同じです。次の問題を試しに解いてみましょうか。
(1) – Tu resteras longtemps ici ?
– Je ( partir ) quand la pluie s’arrêtera. (17春)
(2) – Il pleuvra demain ?
– Non, il ( faire ) beau. (15秋)
(1) 答えは partirai。「君は長いことここにとどまるの?―雨が止んだら出発します。」ですね。現在の視点から見て「雨がやむ」「出発する」の両方とも未来です。ここは難しく考える必要はありません。
そして、
(2) は fera です。「明日雨がふるかな?―いや、晴れるよ。」というやり取りです。この文章でも「雨が降る」「晴れる」両方とも現在から未来に思いをはせるわけで、未来形が正解となります。faire などの不規則な未来形語幹は覚えなくてはなりません!
さらに未来のある時点にすでに完了した出来事を述べるときには?
このあたりから記憶があやしくなる方も多いかと思います。そして実際のところ、仏検の3級で問題となることもめったにありません。「じゃあ私には必要ないか」と、読むのをやめようと思ったあなた!ちょっと待ってください!!フランス語の時制で混乱してしまう、という原因の多くは、「中途半端に知識を持っている」ことに由来します。初級の授業で、最後の方にとりあえず習った、というその「とりあえずの知識」が腑に落ちないまま他の知識と混ざることが、混乱の原因のひとつです。ですから、この機会に、ぜひ視点を中心としたフランス語の時制の大まかな「見取り図」を頭に入れておくことをお勧めします!それにここまでついて来られたあなたには、まったく難しくないはずです。
では気を取り直して、「未来のある時点にすでに完了した出来事を述べるときには?」
初級の授業でも聞いたことがあるかもしれませんね。これは「前未来」という時制です。活用形は?そう、
avoir, être の直説法単純未来形+過去分詞
です。
ここで、視点を中心に据えた現在と半過去の図に戻ってみましょう。
未来形、前未来形を書き込むと次のようにあらわせます。
例文としては次を見てみてください。
Tu sortiras quand tu auras fini tes devoirs.
「宿題を終えたら、出かけてもいいよ」
「出かける」という時点までに、「宿題を終えてたらね」という話ですね。2つの行為の時間関係はこの場合、分かりやすいのではないでしょうか。
Pourras-tu venir me voir quand tu auras fini ton travail ?
「仕事を終えたら、会いに来てくれる?」
こちらも「仕事を終える」と「会いに来る」の時間関係は分かりやすいですね。
では、ここで質問です。過去のある時点から未来のことを述べるとき(過去における未来)、どんな時制を使うのだったか覚えていますか?
答えは、「条件法現在」です。では、条件法現在の活用形は?
正解は
直説法単純未来の語幹+直説法半過去の活用語尾
です。
なんでこんな組み合わせなんだ!と思われた方も多いでしょうが、この半過去の視点を中心に据えた時間軸を参照すると、理由もわかるような気がしませんか?
例文を見くらべてみましょう。
まずは現在の視点の文章から、
Je suis sûr que tu finiras ton travail ce soir.
「君が今晩仕事を終えることを僕は確信してるんだ」
こんなことを言われるとすごいプレッシャーですが、内容はさておき、今晩という未来に、君が仕事を終えることを、「僕」が現在の視点から確信しているということです。
それが次の文章では時制が変わり、意味も変わってきます。
J’étais sûr que tu finirais ton travail ce soir-là.
「君がその晩に仕事を終えるだろうって僕は確信してたよ」
こう言われると、「で、どうなったの?」と続きが気になりますが、それは自由に想像してもらうとして、私が確信していた、という過去の状態があり、その過去の視点からの「未来」が「その晩」ce soir-là ですね。この2つの文章、特に下線部を見くらべてみてください。現在の視点、半過去の視点が実感できませんか?!
つまり、直説法単純未来は、
単純未来の語幹+未来の活用語尾(≒ avoir の直説法現在形)
過去における未来は、
単純未来の語幹+半過去の活用語尾
なのです。
では、「過去のある時点からみた未来にすでに完了していること」(過去における前未来)は?これまでは答えが出るまで数秒かかった人も、上の図を見れば一目瞭然ですね。そう、「条件法過去」です。形は、
avoir, être の条件法現在+過去分詞
です。
例えば、
Il m’a dit qu’elle viendrait quand elle aurait fini son travail.
「彼女は仕事を終えたら来るだろうって彼が僕に言ったんだ」
それで彼女は来たんでしょうか?来なかったんでしょうか?なんだか複雑な状況ですが、注目していただきたいのは3箇所の下線部です。主節の動詞 dire には複合過去、従属節の1つ目の動詞 venir は条件法現在(過去における未来)、2つ目の動詞 finir には条件法過去(過去における前未来)が用いられていますね。
この文では過去のある時点、すなわち「彼が僕に~と言った」時点は複合過去で設定されていますが、過去における未来・前未来という時制の性質を考えると分かりやすいように、一旦過去のある時点が設定・提示された後は、従属節中ではやはり話し手の視点は過去のある時点に移動し、そこから未来に思いをはせているというわけです。
いかがでしょうか。ここで、これまでの時制をまとめてみましょう。視点を中心にすえたパラレルな時間軸を並べると次のようになります。
こうしてみると、フランス語の時制8つが、活用形も含め、ひとまず整理できたような気になりませんか?!
「それでも、直説法現在の活用や、過去分詞や、半過去の活用語尾、未来形の語幹は覚えないとダメなんですよね?」
その通り!あなたが整理して挙げてくれたその4つは結局のところ、絶対に覚えなくてはなりません。でもその4つを使ってこれだけの時制をつくれるのです!そして覚えるポイントがこの4つだとわかっていれば、存在しないつづりを書いてしまう確率も減るはずです。
あとは、ペンを持ちひたすら書いて覚えましょう。そしてペンよりスマホ、キーボードを触るほうが好きな人は、フランス語活用暗記サイト「活用虎の穴」(http://www.lang.osaka-u.ac.jp/~iwane/katsuyo/index.html)で!
*ここまで読んでくださった方々の中には、上の見取り図でもうまくイメージしにくい例文に出会ったことがあるという方や、「じゃあ単純過去はどうなるの?」という疑問を持った方がいるかもしれません。そうした方はぜひ以下の本を読んでみてください。いうまでもなく上に挙げた説明も、あくまで1つの捉え方ですから、他の観点からの説明をあわせて読むことでより一層時制の理解が深められます。また単純過去などは仏検で直接活用を問われることはありませんが、フランス語の時制すべてを総合的に理解することは、個別の時制の理解にも役立ちます。こうして時制を勉強した後は、ぜひフランス語のテクストを読んでみてください。きっとこれまでよりも奥行きを持って情景が目に浮かぶはずです!
東郷雄二『中級フランス語 あらわす文法』白水社、2011.
曽我祐典『中級フランス語 つたえる文法』白水社、2011.
西村牧夫『中級フランス語 よみとく文法』白水社、2011.
井元秀剛『中級フランス語 時制の謎を解く』白水社、2017.