dapf 仏検

apef アペフ

  • サイトマップ

新たな言語を学ぶこと

2018年秋季準1級合格・ロクシタン賞
堀内 美沙子
学生(上智大学)・千葉県

 horiuchi_001_250x414 今の私を形作るためには、フランス語という道具がなければほとんど不可能であったように思います。

大学の専攻でフランス語学科を選択したことが学びの始まりです。その頃の私は、フランス語でこれがしたい・あれになりたい、というような具体的な展望は特に持ち合わせていませんでした。とりあえず英語以外の外国語を習得したい、という軽い気持ちであったと覚えています。強いて言えば、小学生の時に観た、ルイ・マル監督の「地下鉄のザジ」で映し出されたフランスが、幼い頃からの憧れだったということくらいでしょうか。

語学をゼロから学ぶことはもちろん易しいことではありません。発音練習・文法・単語・コミュニケーションと一通りを、毎日つめつめで学ぶ日々が3年間続きました。“r”の発音を習得するのが、少し早かったことくらいはモチベーションになっていたように思います。

3年次には、多くの学科生と同じように、仏語圏への交換留学を決心していました。留学先には、フランスのお隣のベルギーを選びました。そこは、私を特徴づけるものとして、何よりも「日本人であること」が先行する世界でした。私は一年間 une fille japonaise として、異邦人としての生活を送りました。そこでは “r” の発音ができるからといって、ほめられるわけではありません。

現地の大学で私が履修したのは、性(ジェンダー、セクシュアリティ)やアイデンティティーに関する授業です。授業は内容が高度な上に、使用されるフランス語も私にとってはいじわるに感じるくらい難解だったため、一回の授業ですべて理解することは不可能でした。そこで私は授業を録音して、寮に帰ってからそれを文字に書き起こすことで復習をしました。こうして、わからなかった単語を学習し、またディクテの練習をすることもできました。おかげで、授業に関する理解を深められただけではなく、リスニング、スピーキング、ボキャブラリーのレベルも上げられたと感じます。またこの授業での学びがきっかけとなり、今までの性に対する捉え方や疑問を改めて考えることが私の目標となり、行動する上での新たな指針となりました。

 horiuchi_002_300x325語学学校では、留学生向けに開催されたショートエッセイのコンテストに参加しました。私は、留学当初に感じたベルギーと東京の違いに対する戸惑い、その中で見つけたベルギーで暮らす人々のあたたかい心をフランス語で綴りました。エッセイの中では、東京の地下鉄の様子を “être serrés comme des sardines”(イワシのようにぎゅうぎゅう詰めに)という表現を使って説明しました(私はこの表現が個人的にとても好きです。日本語だったら「寿司詰めになる」という表現を使うということに気がつき、食文化の違いを感じるとともに、両国の食へのこだわりを感じ、愛おしさを覚えます)。

このエッセイには、他の国からの留学生たちからも、たくさんの共感のコメントが集まりました。母語以外の言語で、自分の思いを、異なるルーツを持つ人々とシェアする…これが言語を学ぶことの意義の一つではないでしょうか。結果的に、出場した部門で、私の文章は優勝を勝ち取ることができました。

帰国してから約4ヶ月後、仏検を受験しました。口頭試験では、ジェンダーに関するテーマが出題され、運命のようなものを感じました。 horiuchi_bruxelles_cielbleuベルギーでこのテーマについて友人と語り合ったことを思い出しながら自分の意見を話すうちに、7分間あっという間に過ぎていきました。

私にとっての仏検の合格は、大学・留学での学びを証明するものです。最初から具体的な目的があったわけではありませんでしたが、フランス語という舟に乗って、様々な経験ができたおかげで、私が大切にしてきたもの・これからも大切にしていきたいことに気がつくことができました。言語を学ぶ楽しさはそこにあるような気がします。