仏検3級, 受けてみた
2025年度春季3級合格
神林 靖
大学教授・山口県
仰けから私事で恐縮であるが,西日本の端に単身赴任している。愛妻との連絡は主にラインなのだが,数か月前からメッセージの端々にフランス語らしきものが混ざるようになった。 はて面妖な,と思いつつ帰宅して聞いてみると,スマホのアプリに語学学習用のすぐれものがあり,姉妹揃ってスコアを競っているのだという。「あんたもやんなさい」ということで, フランス語とギリシャ語を始めることにした。
ときを同じくしてネットの記事で,テレビのクイズ番組で有名らしい東京大学の学生が 「たった3か月の勉強で仏検3級に合格しました!」と持ち上げられていた。ふむ,仏検3級とはそんなに簡単なのかと思い,せっかくだから腕試しに受けてみようと思い立った。近所の 書店で仏検3級の問題集を買って,ぱらぱらと拾い読みをする。さすがは東大生,これを3か月でマスターしたのかと感心した。動詞の格変化が覚えられない。しかたがないので,昔米国 留学中に買ってしまい込んでいたTeach Yourself Frenchを引っ張り出してきて,付録の動詞 活用表を隙間時間に覚えるようにした。接続法など無視していたのだが,試験に出題されると言われれば致し方ない。ひたすら修行だと思って暗記する。
古いフランス映画で小学生が綴り方の授業で先生に叱られて泣きそうになっていたのを思い出す。これは辛い。ニコラ少年よ,やっとわかったぞ。たいへんだったね,と同情するも, 実は自分に同情している。スマホのアプリはしゃべってくれるのでありがたい。最初はただの音であったものが, 3ヶ月を過ぎたあたりで少しずつ聞き取れるようになった。
試験の当日は広島まで行かなければならない。なにしろ西日本のどん詰まりのようなところに住んでいるので新幹線の駅に辿り着くまでがアバンチュールである。2時間に一本のバスに 乗り,山陽本線の無人駅を経由して新幹線に乗車する。地方では新幹線が日常の足であるとは知らなかった。広島に着くと駅前は観光客でごった返している。いつからこんな大都会に なったのだ。広電は長蛇の列でとても間に合いそうもない。しかたなくタクシーに乗る。検定料の何倍もの交通費だ。地方都市に住んでいる悲哀が身に染みる。高校生が都会の大学に進学してしまうわけだ。会場は原爆で有名な袋町小学校。子どもの頃を思い出して感慨深い。
試験そのものは問題集どおりに進むので驚くことは何もない。語尾変化以外はおおむね正答できたのではないかと思う。期待以上の高得点を頂くことができた。もっとも3か月の勉強で 合格するのはよほどの秀才だけであろう。私の場合スマホのアプリを始めたのが昨年の11月 なので半年以上かかっている(実は若いころにちょっとだけ齧っていた)。しかしフランス語は英語に多く取り入れられているので,英語話者にとっては取り組みやすい。英語ではあまり使わない気取った語彙がフランス語では日常語だという発見もあって面白かった。
後期高齢者にさしかかった身としてはボケ防止になってよい。せっかくなので次は準2級に 挑戦してみようと思う。スマホのアプリだけでどこまでいけるか楽しみだ。
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