高校対抗単語力コンクールについて
波多野 敬晃 (都立高校フランス語準常勤講師)
紙面をお借りして、今秋、第3回目の開催が予定されている「都立高校対抗単語力コンクール」について紹介させていただきたいと思います。
1)コンクール誕生の背景と実施経緯
1990年代の始め頃までは都立高校の第2外国語の選択者には語学好きで学習能力も高く、外国文化にも興味を持った生徒が多かったように思います。しかし、ここ数年、選択者は減少傾向ですし、選択者間の二極化も進行しているように感じられます。自ら仏検に挑戦するような意欲的な生徒も登場する一方で、取り敢えず履修はしてみたものの積極的に授業に取り組めないでいる生徒達も見受けられるようになりました。そのような場合には仏検の受験を勧めてもなかなか希望者が現れませんし、また実際、数校の例外を除き、週1回100分程度で1年間のみの学習期間では、5級の受験でもかなり高いハードルになってしまいます。
そこで、今すぐ誰でも簡単に挑戦できて基礎学力向上にも役立つことはないだろうかと思案した結果、仏単語を和訳するコンクールをやってみようということになりました。幸いフランス語教育振興協会編の「フランス語基本500語」の使用を御快諾いただき、そこに掲載されている名詞、形容詞、動詞の中から50語を出題して、2005年10月に第1回コンクールが開催されました(参加4校64名)。まったくの手探り状態からスタートしたコンクールでしたが、幸い高い正解率(98%)の生徒も現れ、まずまずのスタートを切ることができました。06年度の第2回からは成績優秀者にはAPEF賞を出していただけることになり、所属校の校長先生から直接本人に授与されました(参加5校98名)。
2)結果短評(05,06年度)
正解率の高かったのは、 saison(季節)(94.0%)、famille(家族)(87.8%)のように英語から容易に類推できる単語です。その反面、cher(高い)を「椅子」、acheter(買う)を「俳優」と回答したものなどは、ch を「チュ」「ク」と英語読みしてしまったために、全く別の意味の英単語との混同が起きています。montagne(山)を「モンタージュ写真」とするなども同様の間違いです。英語と異なる読み方をするつづり字にはもっと注意を喚起しないといけないようです。また、arriverのように既に教科書に出て来て活用練習などで取り上げられた単語も正解率4位(72.4%)に登場しており、授業時の練習に使用する単語の選び方の重要性を示す結果と言えるでしょう。前述の「基本500語」に準拠した高校生にも分かり易い教科書の登場を強く期待します。
正解率の低かった単語のうち、最下位の entendre(聞く)(2.0%)や45位の meilleur(より良い)(6.0%)は履修期間6ヶ月程度ではまだ登場しておらず、1年目の諸君には難しかったのかもしれません。また、外来語として日本に定着していると思われる単語の中では、voyage(旅行) は正解率が高かったものの(68.4%)、rouge(赤、口紅) は低め(25.5%)となり、このくらいは知っているだろうという教師側の予断の危険性を示唆する結果となりました。
珍回答、迷回答もありました。matin(朝)を「酒」はレミーマルタン?「羊」はジンギスカンブームの影響? meilleur(より良い)を「億万長者」 そんなTV番組ありました。nom(名前)「飲む」、vrai(本当の)「無礼な」はローマ字読みそのままですね。これらの回答は結構笑えて個人的には気に入っているのですが、あまり誉めると次回はダジャレ大会になってしまいそうなので、この位にしておきます。
3)今後の課題 草の根交流の拡大を目指して
これまでの単語力コンクールで優秀な成績を残してくれたような生徒諸君は、どんどん自ら先に進み仏検にも果敢に挑戦してくれることでしょう。問題はそうでない生徒達にどのように学習の動機付けをするかです。グローバル化の急進する現代社会では、より多くの人々に草の根の交流を担ってもらわねばなりません。また、裾野を拡大してゆく努力がなされない学問分野は、いずれ衰退消滅の危惧なしとは言い切れないと思います。事実、ここ数年で閉講になった第2外国語の講座もあると聞いています。
速く進める生徒には仏検への登龍門として、ゆっくり進む生徒には学習継続のための動機づけとしてというように、言わば両極に対応できるシステムとして単語コンクールが定着することを目指し、vulgarisationの誹りを恐れず試行錯誤を続けて行きたいと考えています。単語コンクールで覚えた一語が将来の一会をとりもってくれるなら望外の喜びです。
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