dapf 仏検

apef アペフ

  • サイトマップ

遅きに失せず ― Mieux vaut tard que jamais

2015年春季1級合格・文部科学大臣賞
小原 功子
通訳翻訳業・埼玉県

フランスの文化にさしたる興味も無いまま、私が某大学のフランス語科に入学したのは、1970年のことでした。30~40名程度の少人数クラスで、実技科目として毎日のように試験はあるし、1分でも遅刻すれば「教室から出て行きなさい!」と言われるし、ひどい所に来てしまったと後悔したものです。

しかし、3年生になると大胆にもフランス語を使うさまざまなアルバイトに勤しみ、現場タタキアゲ系の会話力を身につけ始める一方、学業は疎かになりましたが、奇跡的に4年で卒業できました。それから40年余り・・・仏検なるものの存在すら知らずに時は流れ、フランス語とは無縁の歳月も10年以上ありました。フランス語圏留学経験も在住経験もなく、1~2泊から1ヵ月以上の業務出張やバカンスを合算しても、滞在期間は数年に満たないでしょう。

一昨年に時間的な余裕ができたので、仏検2級から挑戦しようと思いたち、過去問題集を買いましたが、語学試験というものから遠ざかっていた年月はあまりにも長く、「こんな面倒な文法を習っただろうか?」と途惑うばかり。その時から1級を目指したものの、設問を見ても非常に難しく、無謀な挑戦に思われましたが、「不合格なら、潔くあきらめる!」と決めていました。

さりとて秘策はなく、毎朝10分程度TV放映されるフランスのニュースを見聞きし、Le Monde等のWEB版を読み、時事用語や時制の一致といった文法の確認をしましたが、日々30分~1時間程度の勉強が限度でした。フランス語の書籍を入手することさえ困難だった私の学生時代とは比べようもなく、今は無料の教材も溢れていますが、齢を重ねると雑事に追われる上に、記憶力は刻々と劣化することを実感。家族の通院送迎の待ち時間に、車の中で過去問を解くといった状況で臨んだ1級試験は取りこぼしが多く、不合格も覚悟しておりましたので、準1級に続く表彰は、誠にうれしい誤算でした*。

このように、高齢者となってからの遅過ぎる受験かつ粗雑な準備でしたが、おかげさまで仏検挑戦以前より、語彙も増え、自己流デタラメであった表現も整ってきたような気がします。実務では90%以上の正確性が要求されるのに対し、検定試験では60%超なら合格基準のようで、仕事に必要な資格取得のために貴重な時間を割いて挑戦される方々には、年齢学歴不問の親切な制度だと思われます。すでにフランス語を駆使し、活躍されている方々にとっても、ご自分の基礎力を確認する良い機会になるのではないでしょうか。

理想論ではありますが、1級合格は到達点ではなく、言葉は生きものであり、スポーツのように練習と実戦を繰り返して習得するものなので、脳も筋肉のように鍛えるためにも、フランス語を学び続けるつもりです。

また、フランス語は確かに難しい言語ですが、日本語を母国語とする者ならば、外国語の習得にエネルギーを注ぐあまり、日本語力が伴わないのは本末転倒。人それぞれの言語感覚に応じて、外国語と日本語を、そして話し言葉と書き言葉も、同等の質で使えるようになりたいものであります。


*(仏検事務局註)小原様は、2014年度成績優秀者表彰式でも準1級で文部科学大臣賞を受賞され、2015年度は1級での連続受賞を遂げられました。おめでとうございました!