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仏検への道

和泉 涼一 (茨城キリスト教大学教授)

茨城キリスト教大学はその名の通りミッション系で、地元の日立市では「シオン」の名称で親しまれています。創立は1967年。もともとは文学部のみの単科大学でしたが、現在では文学部・生活科学部・看護学部・経営学部(本年4月より)の4学部体制(入学定員550名)となっています。

1991年の「大綱化」以来、残念ながら本学でも第二外国語はあまり嬉しい境遇にはありません。文学部でこそ選択必修ですが、他学部では自由選択なのでほとんど履修者はいません。本学でも地方私学の例に漏れず、保育・福祉・栄養・看護といった職業直結型の学科が主流となり、教養教育全体が低調気味、というより壊滅状態である事実は否めません。また第二外国語のなかでもご時世なのか中国語と韓国語の履修者が非常に多く、フランス語はいまや「第五外国語」の地位に甘んじています。どうも暗い話で恐縮です。

さて、本学で仏検を限定的ながらも正式に導入したのは2000年度のことでしたが、検定試験を単位認定に利用するという発想は、容易には合意が得られませんでした。教員が導入に躊躇した理由を思い出すままに記すと以下の通りです。?単位認定に外部試験を利用するのは大学独自の教育を放棄することにならないか。?外国語教育というのは実用性のみを目的とするものではないはずだが、授業に出席せずに実用技能の検定試験にだけ合格すればそれでも単位を認定するのか。?外部試験を受験するには受験料や交通費や参考書・問題集の購入など相応の費用が掛かるが、希望者だけとはいえ授業料以外に金銭的負担を掛けるのはいかがなものか、などなど。

いずれもご尤もな見解で、私自身も深く同意するところがあります。しかし、それでもなお、学生が外部の客観的試験に挑戦し、そこで得た何がしかの評価が学内でも正式に認められることは学生にとって大いに励みになるだろうという確信がありました。それは、じっさいに受験した学生たちから、合否を問わず非常に良い反応があったからです。合格した学生はさらに上級の試験に挑戦する意欲が湧いてきたと言い、不合格だった学生も「次回こそは是非」という心意気を示してくれました。具体的な目標をもって勉強することは、外国語に興味のある学生にとっても、そしてそうでない学生にとっても、モチベーションの向上に確実に役立っていたのです。

これらの具体的事例にもとづき、また懸念を抱く人々の意見にも十分に配慮した結果として、仏検の利用については、現在では以下のような仕組みになっています。
?まず、学生はいかなる場合でも、本学の規程による出席回数(3分の2以上)を満たしていなければなりません。検定試験の合格をもって授業への出席が免除になることはありえないということです。これは、外国語の授業の目的は実用性に限られるものではないという意見(私もそう思います)を重視した結果です。ただし、もともと授業にはまじめに出席する学生がほとんどでしたので、この制約はあまり現実的な意味はないようです。?つぎに、学生は学内の定期試験を必ず受験しなければなりません。仏検だけを受験して合格すればそれでよし、ということではなく、大学の外国語の授業では歴史や文化、政治経済などさまざまな面を含む異文化理解の教育がなされており、定期試験ではそれらの知識も直接間接に問われるのが通例であるからです。?したがって学生は、仏検は受験せず定期試験だけを受験するか、定期試験と仏検の両方を受験するか、そのいずれかとなります。両方を受験した学生は、より好成績の方をもって単位認定に利用します。たとえば定期試験が65点で仏検が80点であれば、80点の方を採用するわけです。

ところで、近年の不況では、受験料もバカになりません。本学では、2009年度より、第二外国語の検定試験の受験料については年一度に限って各自1500円を奨学金として補助することになりました。大学の台所事情はシベリアの凍土の如くじつに厳しいのですが、これで学生たちが少しでもやる気を出してくれればというのがわれわれの意図するところです。さらに、同じく2009年度より、「外国語優秀賞」を創設しました。これは一定の級に合格した場合、学部から表彰されると同時に副賞として授業料が5万円免除になるという、本学ならではの心もフトコロも温まる制度です。ついでと言ってはなんですが、フランスへの短期語学留学の制度も2009年に発足させました。利用者はまだ1名ですが。

検定試験導入の是非はいまでも議論が絶えません。現に英語では話題にもなりません。私自身、検定試験をもって完全に大学の外国語教育に代えるという考えには大反対です。教育のアウトソーシングなんて学生にとっても教員にとっても悪夢でしかありません。第一、ご飯が食べられなくなります。しかし、仏検によって現に学生の意欲は大いに刺激されるのだから、一定の条件のもとに積極的に利用するべきであるというのが、仏検をめぐるこの十数年の経験から得られた私の信念です。

ただ、中高時代に勉強とは縁遠かった学生も珍しくはない現状では、授業だけではなかなか仏検に合格するところまで到達できません。本学では、とくに兼任講師の先生のご好意もあって、仏検受験のための補習を実施しており、これが学生にはいたって好評で、それがまた授業にもよい影響をもたらしています。協力して下さるボランティアの先生には本当に頭が下がります。さらに、これも兼任講師の先生の発案ですが、3年前からクリスマスの時季に「フランス語学内コンクール」を開催し、詩の朗読、早口言葉、カラオケなどに学生の参加を促しています。教室では死んだふりをしている学生が、マイクを握ると別人のごとくなるのが驚きです。地元のケーブルテレビも取材に来たりして、なかなか楽しいイベントです。賞品としては、リサとガスパールのふわふわ人形が大人気です。仏検の導入もそうですが、フランス語に触れる場面をいろいろなやり方で多様化し、学生を励ましてやることが大切だと思います。

最後にひとこと言わせて頂きますと、このまま何の手も打たずに推移すれば、「大綱化」以前に採用された専任教員が定年退職するにつれて、大学の第二外国語は消滅していかざるを得ないでしょう。とりわけ地方私大の実情にはきわめて深刻なものがあります。縁あってフランス語を学ぶ身となり、フランス語を通じて学生と交流する機会に恵まれたのですから、そういう状況に少しでも歯止めを掛けたいのは山々ですが、個人で出来ることは限られています。大学においてなぜ複数外国語の履修が必要なのかという問い直しを含めて、学会や協会が組織的に対応しうるおそらくは最後の時期が到来しているのではないでしょうか。