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フランス語の履修者を増やそう!

飯田 年穗(明治大学教授)

フランス語の人気がなくなってきていると、この頃よく耳にする。履修者の減少は、フランス語関係者にとっては直接かかわりをもつ事柄である以上、ほんとうなら放置しておくわけにもいくまい。

筆者の専任校である明治大学の政経学部の場合を、手元にある2002年から06年の資料によってみると、確かにその傾向を裏書きするような数値が出ていることは否めない。しかも、英語以外の選択可能な外国語である仏、独、中、スペイン語との関係についてみると、02年にはフランス語選択者がドイツ語を上回っていたにもかかわらず、次の年ではドイツ語に抜かれ、それが05年まで続いている。全般的なところでは、中国語とスペイン語はあまり大きな変動はなく、履修者の割合は、平均的にそれぞれ40%強、15%弱である。ならば、残りを独・仏で二等分すればよいはずなのだが、実際には、ドイツ語が6ポイントほど高い状態であった。ところが、06年にフランス語の増加が再び起こって、ドイツ語を超える結果になった。この傾向が今後も続くと断言することはできないものの、かなり明るい見通しをもつことは可能だと思う。ここ数年続いたフランス語不振の状況に対して危機感を抱いたことから、われわれはそれに対応するための方策について検討し、いくつかの具体的な措置を実行することにした。

従来から指摘されていることだが、いわゆる《第二外国語》の基本的な問題は、学ぶ動機の欠如である。この問題自体の分析はいろいろなところでなされているが、要するに、何のためにやらなければならないのかが分からない、具体的な必要性が感じられないのである。にもかかわらず、それは必修として強制されるので、嫌々ながらただ単位をとるためだけにやることになる。そして、実際の授業に出てみても旧態依然とした有り様で面白くもないとなれば、ヤル気が出ないのも致し方あるまい。

そこで、こうした状況をどう改善すればよいのか。教育論的に考えれば、よい授業をすることが最重要ということになろうし、これにかかわる《ファカルティ・ディベロプメント》の必要性の意識は、近年、大学教員の中にも浸透してきている。ただここでは、それ以外の、より制度的な面に関する対応措置について紹介してみたい。

動機がない理由として、これまで、大学の専門教育と語学が分離している状況があった。いくら外国語をやってもそれまでである。特に、第二外国語はそうだった。しかし、現在のグローバル化時代における大学では、外国語能力は実践的な機能なくしては意味をもちえなくなっていることは、改めて指摘するまでもない。もはや「外国語を学ぶ」ではなく、「外国語で学ぶ」という学習の枠組が大学の中に存在していることが求められている。この点で、第二外国語についても、それを専門の学習につなげていく道をつけ、その観点から、語学と専門教育が有機的にリンクした総合的なカリキュラムの見直しが必要となる。

このことを踏まえて、外国語履修システムを整備していく。その際、履修者のニーズに見合った履修メニューの多様化に留意したい。一種類の定食を仕方なく食べるという事態が食欲をなくす原因の一つであれば、メニューを増やして自由選択の幅を広げることがヤル気を生み出すもとになりうるからである。そこで、まず通常の学部設置授業について、それまですべてクラス指定だった授業形態を改め選択クラスを導入して、複数のメニューからの選択を可能にした。さらには、履修全体の多様化を図るための学則等の改正を行い、異なった形態の学習への道を開いていった。その結果、実践的な会話能力を目指した「共通外国語」科目、学内の教室授業だけでなく合宿形式も取り入れた集中講座、海外協定大学と連携して実施される海外研修などが全学的に活用されるようになった。もちろん、これらは正規の履修として単位認定することができる。

これらに加えて、外部検定試験の認定がある。ここに「仏検」がくるわけだが、具体的には、学部設置の外国語科目の履修に読み替えて単位認定を行うことになる。そして、獲得した級が高くなるに従って、認定される単位数も増えていく。政経学部の場合、2級以上をとれば、一つの外国語履修に最低限必要とされる単位のすべてを「仏検」で満たすことさえ可能である。

こういったことが、このところの明治大学の仏検受験者数の増加につながっていると見られる。明大が試験会場校になっていることも、明大生には受験をしやすくする効果があるだろう。大学として「仏検」受験を促進する方向にあって、政経学部では四月の新学期には一年性に対して「仏検」の説明を行い受験を奨めているし、先にふれた共通外国語科目の中にも「仏検」に対応したクラスがあり、「仏検」の合格を目指したトレーニングが行われている。実際、「仏検」のよさは、もっとも身近なチャレンジ目標になれることだ。ひとり一人の学生が具体的な目標を自分でもとうとする場合、「仏検」はすぐにそれに応えてくれるものであることは確かである。しかも、4級に合格すれば、次は3級、そして2級と、どんどん上を狙いたくなるのは当然の心理だろう。達成感も得られる。動機付けの手段としての「仏検」の役割は、じゅうぶん認められてよい。

「仏検」に関して、もう一つ指摘したい点がある。それは、教科としての学習目標または学習レベルの表示に役立つことである。ある科目のレベルを「仏検3級程度」という仕方で示すことによって、学生にとっては、それが自分の求める程度のものであるかがわかり、選択しやすくなる。それだけではない。教員サイドにもメリットがあることだ。通常の大学では、たとえば「初級フランス語」を複数の教員が別々に担当していることが多いが、その場合、そこで何を教えるかについては各教員に任されているのが実状だろう。結果として、同じ科目なのに教わる内容にばらつきがでてきてしまう。このことが、おうおうにして学生間にとまどいを生じさせる原因にもなっている。そこで、担当教員のあいだでは、少なくとも学習目標についてお互いに認識を共有しているべきであろう。「仏検」はそのための具体的な指標となりうる。われわれのところでは、非常勤も含めて担当教員が集まり教科内容に関する検討会をもっているが、その時に、以上のような観点から教員間の合意形成に対して「仏検」は有効である。

以上は語学に関してだが、それだけでなくフランス全体への関心を高める目的で、新たな講座の設置や講演会の企画なども行うようにしている。この際に、フランス大使館に対しても積極的に協力を求めて、講師の派遣や後援などの面での支援をうけるようにしているが、学生たちには、予想以上の好評を得ていることは喜ばしい。

これらの延長線上に留学がある。フランスにいって学びたいと思うことは、もっとも強い動機になることはいうまでもない。明治大学は、海外の大学への留学の促進を全学的な目標として掲げ、そのための施策を推進しているが、その中でもフランスとの交流は、フランス法律学校としての建学の理念と伝統を有する本学にとって、優先課題として力を入れているものの一つである。

その成果として、フランスの大学との交流協定が推進され、フランスの大学で学ぶ機会がいちだんと拡大された。さらにフランス本国のみならず、フランス語圏としてのカナダも対象地域に含めて、カナダの大学との交流も促進している。こうした交流協定とともに、多様な留学プログラムを取り入れることにもつとめている。近年、フランス政府との連携による留学制度の新たな整備や、ルノーなどの企業の提供する留学プログラムが各種実施されるようになってきている。明治大学は、これらに積極的に参加することで、フランスを軸とした質の高い教育の実現を目指しているところである。

なおこれらに対しては、当然のことだが具体的な支援のプログラムを実施するようにしており、語学面での対応はもとより、留学準備講座の設置や、エデュ・フランスと組んでの留学説明会などを定期的に開催している。また、フランス商工会議所と連携した「フランス企業就職説明会」も好評である。

学生諸君にとっては、これらが総合されて、フランスを日常的に身近で現実感のある国にする環境が作りだされていると言えるだろう。その結果として、フランス語履修者についても、その増加の実現につながっていったと考えることはじゅうぶん許されてよいと思われる。