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第15回 名詞の前に置く語: 冠詞、指示・所有形容詞(入門、初級)

東京工業大学名誉教授 中山眞彦

日本語とフランス語の大きな違いのひとつに、フランス語は原則として名詞の前には必ず冠詞などを置く、ということがあります。たとえば「彼は田舎に家を持っている」は、フランス語では「家」の前に、「一軒の」に当たるune を置かなければなりません。

(a) (b)は2008年秋季5級筆記問題1より。( )に適切な語を入れてください。

(a) Il a ( ) jolie maison.
des un une
(b) ( ) livre est intéressant?
Ce Ces Cette

答えを出す前に文法事項を整理しましょう。名詞の前に置く語には、男性単数形、女性単数形、男性・女性複数形があります。( )を埋めてください。
定冠詞 (英語のtheにあたる): le, ( ), les
不定冠詞 (英語のa, anにあたる): ( ), une, des
指示形容詞(英語のthisなどにあたる): ce, cette, ( )
所有形容詞 (英語のmyなどにあたる): mon, ( ), mes,…

名詞の複数形にはs (xの場合もある)が付きます。(a)の《maison》, (b)の《livre》はともにsがなく、ゆえに単数形ですね。ところが答案を見ると、約15%が(Ces) を選んでいました。フランス語学習の出発点を踏まえていないと言わざるをえません。

問題は名詞の性です。数えきれないほど沢山の名詞の、男性と女性をどうやって区別するか。実はこれには一定のルールというものがありません。ではフランス人もなかば当てずっぽうでやっているかと言えば、さにあらず。性を間違えることはまずありません。区別すると言うよりも、初めからおぼえているようです。不思議と言えば不思議、母国語とはそういうものなのでしょう。

われわれ日本人はなかなかそうはゆきません。せめて基本単語は性もいっしょにおぼえるべきですが、初級からそれを厳しく求めるのは無理です。そこでヒントを出しています。(a) (b)では、名詞に付く形容詞の性でもって名詞の性を示しています。(a)の《jolie》は女性形、(b) の《intéressant》は男性形ですね。

したがって正解は、
(a) Il a (une) jolie maison. 「彼はきれいな(素敵な)家を持っている」
(b) (Ce) livre est intéressant? 「この本は面白いですか?」

正解率は、
(a)が約75%。(un)を選んだ答案が約20%だったのは残念。
(b)は正解が60%に過ぎない。(Cette)が約25%。
ここをクリアしないとフランス語は先に進みません。 面倒な文法事項ですが、しっかり頭に叩き込みましょう。

さらに厄介なことがあります。冠詞などは、次に来る語と音をつなぐために、形を変えることがあります。具体的には、次に来る語が母音で始まっているときには、冠詞などの一部が以下のように形を変えます。
定冠詞: le→l’ , la→l’
指示形容詞: ce→cet
所有形容詞: ta→ton

練習に次の穴埋めをやってください。
定冠詞を入れなさい。(1) ( ) aéroport 「飛行場、男性」 (2) ( ) église「教会、女性」
指示形容詞を入れなさい。(3) ( ) enfant 「子供、男性」
所有形容詞 (私の)を入れなさい。(4) ( ) amie「女の友だち、女性」

上の答えは、(1) l’aéroport (2) l’église (3) cet enfant (4) mon amie

さて、2008年秋季5級に次の穴埋め問題がありました。  (c) C’est ( ) école?
ta tes ton

école「学校」は女性名詞ですね。だから所有形容詞はtaが入ると考えてしまいますが、しかし《école》と母音で始まっていることに注意。正解は、
(c) C’est ton école?「これは君の学校ですか?」となります。

écoleが女性名詞であると知っていることが仇になった、と言うべきか、taを選んでしまった答案が約30%。意地が悪い、と不満な人も多いことでしょう。

しかしフランス語にはそれ独自のルールがあって、これに従うことが学習の手始めです。そしてルールは決して滅茶苦茶なものではなく、一定の考え方がゆきとおっています。名詞の前に置く語には、男性単数形、女性単数形、男性・女性複数形の三つがあること。これらの語と次に来る語は音をつなぐようにすること、などです。さらに言えば、名詞とその前に置く語は一心同体である。あるいは、名詞がその前に置く語を分泌する、と考えてもよいでしょう。

2008年秋季の問題1にはさらに二つの穴埋めがあって、こちらは部分冠詞がポイントです。正解率はなんと50%前後。この部分冠詞もまたフランス語独特の考え方ですから、入門段階の学習者にはなかなか難しいのでしょう。機会をあらためて解説したいと思います。