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第14回 語句と語句の接続 (上級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年秋季準1級の筆記試験(8)は、次の日本語文章をフランス語に訳すことを要求しています。

「私は待つのが苦手だった。ヨーロッパに旅行したとき、エレベーターにドアを閉めるためのボタンがなく、2~3秒の間にもいらいらすることがあった。それにもだんだん慣れてくると、のんびりしたペースで生きるほうが楽であることに気がついた。」

全体は三つの文から成っているとして、最初の文と最後の文について見てゆきます。まずは「私は待つのが苦手だった。」

翻訳(仏文和訳、和文仏訳)は、個々の語にとらわれずに、語と語の集まりが全体として何を言おうとしているかを判断することが肝要です。「苦手だ」という日本語特有の言い回しにこだわりすぎると、肝心のフランス語の発想がそこでストップしてしまう恐れがあります。

答案の多くはこの点をすでにクリアしていて、《Je n’aimais pas attendre.》とずばり文意を表現、これは解答例そのものであって、さすがに準1級であります。《Pour moi, il était difficile d’attendre.》《J’avais du mal à attendre》などの答案も可です。

《(誤) il n’était pas facile à attendre.》がありました。なるほど「facile à + 不定詞」 という言い回しがありますね。ただし後者の場合の不定詞はfacileが形容する語句を目的語とする (例: une voiture facile à conduire 「運転しやすい車」←conduire une voiture)のに対し、前者は il (またはc’) est facile de + 不定詞「~することは容易である」の構文です。字面はわずかにàとdeの違いですが、しかしフランス語の基本がどれだけ身に付いているかがここで問われます。

《(誤) Je n’aimais pas d’attendre》もありました。フランス語の初歩がおろそかです。さらには《(誤) Je n’aimait pas …》が決して例外数ではない。せっかくの良い発想がこれでは台無しです。

「それにもだんだん慣れてくると」

《Au fur et à mesure que》を出だしとする答案がかなりの数、これも解答例と同一です。文の中に《de plus en plus》《peu à peu》を挿入する答案も多数で、準1級受験者のレベルの高さをうかがわせます。

「それにも」は《je m’habituais à cette situation.》とくだいて表してもよく、《je m’y habituais》(解答例と同じ)と代名詞を用いてもよいでしょう。《je m’y suis habitué》は動詞の時制が微妙ですか、得点圏内だと思います。

「慣れる s’habituer」は代名動詞です。《(誤) je pouvais habituer》《(誤) en habituant》などの誤りが目立ちました。基本単語はしっかり身につけなければなりませんね。

「のんびりしたペースで生きるほうが楽であることに気がついた。」

《j’ai compris que …》《je me suis rendu compte que …》など、出だしはほぼ全答案が好調。解答例は《je me suis aperçu(e) que …》で、これも多数。

とは言えこの続きで、これまで指摘した誤りが繰り返されて、減点になってしまう答案が少なくなく、まことに残念です。

まずは代名動詞。《j’ai aperçu …》がかなりの数でした。他動詞 apercevoir 「~を目にする」と代名動詞 s’apercevoir (de, que)は用法としては別の語です。

そしてなによりも良くないのが、il (c’) est + 形容詞 + de + 不定詞の構文を守っていないこと。《(誤) il est plus simple à vivre lentement.》など (lentementもフランス語としては問題です。解答例はtranquilleを用いています。)

要するに前置詞の問題ですね、と言われればなるほどその通りですが、しかし前置詞の穴埋め以上にフランス語のより総合的な力をテストしています。穴埋めの場合なら与えられた構文だけを考えればよいのですが、ここではいくつか可能な構文がある中から一つを選び、それに則した前置詞を的確に用いることを要求しています。と言っても格段難しいことではなく、中級の段階ですでに通過しているはずのレベルが、本当に身についているかどうかを試しているのです。

たしかに上級には上級なりの高度なフランス語の知識が必要です。しかし実際の点取りには(あるいは点を失わないためには)、初級・中級レベルを確実にマスターしていることがより重要である。これは以前にもこの「学習のツボ」に書いたことですが、あらためて注意を喚起しておきます。