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第13回 見当をつけるためにもやはり知識が必要 (初級)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年秋季の4級筆記試験より、問題3を取り上げます。会話の空白を埋める問題です。まず問い(1)をやってみてください。

A: Combien de temps faut-il pour aller chez toi?
B: ____________________________
A: Ah, c’est tout près.
① Cinq minutes à pied.
② Il fait beau.
③ Il faut deux heures.

時間について質問していますね。Combien de temps …? (どれくらいの時間・・・?)。何のための時間かといえば、pour aller chez toi (君の家に行くため)。

したがって、Il fait beau.(よい天気だ)は真っ先に除外。

残る二つのポイントはcinq minutes(5分)とdeux heures(2時間)です。決め手は、Aの二度目の発言の中のprès(近い)。

以上の語のほかにも、il faut (・・・が必要だ)、à pied (歩いて)、tout(とても)がありますが、かりにこれらを知らなくても正解①を引き出すことができます。しかし肝心の語、とくに prèsを知らなければ見当をつけることも難しいですね。解答欄の③に印を付けた人が約15パーセントでした。

今度は問い(3)をやってみましょう。
A: Tu n’as pas vu ma clé?
B: _________________________________
C: Merci beaucoup.
① Elle est sur ton bureau.
② Elle n’est pas venue.
③ Quelle clé?

勘が良い人は、ma clé (私の鍵)とsur ton bureau (君の机の上)だけで、正解①に見当をつけたことでしょう。

逆に、clé (鍵)の単語を知らないと迷ってしまいます。迷うと、Tu n’as pas vu…? (見なかった? voirの複合過去形)やElle n’est pas venue. (来なかった。venirの複合過去形)が気になります。加えて、Elleを「彼女」と解釈すれば、「見なかった? – 来なかった」の応答が成立するように思えて、②をマークしてしまいます。このケースが約8パーセント。

フランス語のelleは、なるほど女性代名詞ですが、英語のsheとは違って、人間(さらには動物)の女性だけを指すのではありません。女性名詞一般を受けます。ここではcléが女性名詞ですね。日本語に直せば、「彼女」ではなく、「それ」。

2008年秋季のやはり4級筆記試験に次があります(問題8)。
Vous avez une maison à la montagne? (山にお家を持っていらっしやるの?)
Mais non! Elle est à nos amis, les Martin.(いいえ! お友だちのマルタンさんのお家ですよ。)
Elleは(la) maisonを受けています。être à ~は「~のものである」

ところでこの問い(3)には落とし穴があります。空白に③を入れて、Tu n’as pas vu ma clé? (私の鍵を見なかった?) - Quelle clé? (どの鍵?)は、これだけなら応答がなりたちますが、しかし次にMerci beaucoup (たいへん有り難う)がくることはまずないでしょう。よほどひねくれた人たちなら、あるいは剣呑な雰囲気なら、話は別ですけど。実際にこの落とし穴に落ちた人はごく少数でした。

問い(2)にも同様の落とし穴が仕掛けられていますが、引っかかった人はやはり少数。問い(4)はほとんど全員が正解でした。

実際にフランス語を使うときは、いくつかの主要な言葉をヒントにして、見当をつけてやり取りすることが多いのではないでしょうか。母国語の場合もそうかもしれませんね。その他の言葉は、見当を補強するか、あるいは見当違いの方向に脱線するのを防ぐかの役割をしています。今回のprès (近い)やclé (鍵)は生活上の基礎単語ですから、ぜひ知っておきたいものです。