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第12回 日常よく使う言葉を正確に覚えよう

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

2008年度秋季仏検の2級書き取り問題は、ある女性の朝の通勤の話です。その一部に次があります。

D’habitude le bus est à l’heure. Mais hier matin, elle a dû attendre une demi-heure à cause d’un embouteillage.
「いつもはバスは定刻どおりです。しかし昨日の朝は、交通渋滞のために半時間(30分)待たなければなりませんでした。」

ひとつひとつの語句について実際の答案を見てゆきましょう。

D’habitude「いつも、通例」。これはほとんど全員が正しく書いています。

le bus est à l’heure. 「バスは時間どおりに来ます。」Etre à l’heure 「時間が正確だ」という熟語表現です。

この熟語を知らない人がかなりいました。(誤)le bus est alors; (誤)le bus est heure, など苦しい解答が目立ちます。(誤)le bus est à heureは、意味は分かっているのでしょうが、フランス語の熟語としては間違いです。

à l’heureは日常生活できわめてよく用いる言葉です。Elle est toujours à l’heure.「彼女はいつも時間をきちんと守る」。Il n’est jamais à l’heure.「彼は約束の時間に来たためしがない」。Le train est arrivé à l’heure,「列車は定刻に到着した」、など。しっかり覚えておきたい表現です。

Mais hier matin「しかし昨日は」。ここはほとんど全員正解。

elle a dû attendre.「彼女は待たなければならなかった」。ここの正解は少数にとどまりました。

もっとも、(誤)elle a dû l’attendreは文法的に筋が通っていて、書き取りdictéeでなかったら正解にしてあげたいところです。なるほどattendreはまずは他動詞ですね。だから目的語を付けるのが普通だとも考えられます。Je t’attendrai jusqu’à trois heures.「3時まで君を待っているよ」。

その一方でattendreは目的語なし、すなわち自動詞としても用います。目的語が自明である、ということでしょう。日常ではこの用法が多い。J’ai attendu deux bonnes heures.「二時間たっぷり待ったよ」。Attends un peu.「ちょっと待ってくれ」、など。問題文では待つのが「バス」であるのは自明だということなのでしょう。

elle a dû… はdevoirの過去分詞 (^が付いている)は難問といえば難問ですね。しかしdevoirはフランス語の基本語ですから、変化を正確に覚えておくことが大事です。これをクリアーしている答案が少なかったことは残念。

une demi-heure「半時間、30分」。- (トレ・デュニオン)が曲者ですね。(誤)une demi heureが多数。(誤)une demie heureも少なくない。両者とも口頭コミュニケーションならすんなり通じてOKですが、書き取りでは隙を突かれました。口惜しい! と言うべきか。

à cause de(d’) は、ほぼ全員OK。

d’un embouteillage「交通渋滞(のために)」。ここは正解がきわめて少ない。その理由に次の二つが考えられます。

一つには、embouteillageという単語が綴りが長くて難しい感じです。しかし「交通渋滞」なら誰でも一日に何度となく耳にし、自分でも用いているはずです。現地で生活をしたことがある人にとってはごく身近な言葉ですが、そうでない人には難しいと思えるでしょう。この点が外国語学習の関門ですね。embouteillageはbouteille「ボトル」から作られた語で、「ポトル(の口)が詰まっている」といった感じ。言い得て妙。

もう一つは、embouteillageの前に置くべき冠詞の問題です。(誤)d’embouteillageが少なくない。「交通渋滞」は、「彼女」が待っているバスの路線のどこかで具体的に起きたわけですから、冠詞を省くことはあり得ません。他方、(誤)de l’embouteillageはこの点に注意を払っていますが、しかし問題文では「交通渋滞」そのものについての言及はありませんから、限定作用をともなう定冠詞 le を用いるのは行き過ぎでしょう。テープの音声にいまひとつ注意を払ってもらいたかった。(誤)d’une embouteillageが目立ったことについても同様。

日常生活の表現は、現地で暮らしている人ならごく自然に頭に定着するのですが、その機会がまだない人にとっては意外に難関です。参考書などでしばしば目にする言葉で、これは、と思ったものは、少なくとも自分で書いてみることが必要でしょう。ラジオやテレビ、また録音テープの音声に親しむことももちろん効果的ですね。