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第8回 点を得ること、点を失わないこと(上級用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

仏検の1級、準1級は極めて難関であります。単語はもはや制限なし(特に1級)、文法事項は何でもあり、内容は政治・経済・文化・科学、等の全分野に及びます。にもかかわらず毎回沢山の人が受験して、日本人のフランス語力のほどを証明しています。なによりも、限られた時間内で、あれだけの分量のフランス語に取り組む意欲は、まさしく称賛に値します。

仏検で点を得るためには、フランス語の知識が多ければ多いほど有利なことはもちろんです。ただし、難しい問題を見事に解いても、片方やさしいところでつまずいたのでは、元も子もなくなってしまいます。仏検はやはり点数がものを言う試験です。そこで今回は、「点を失わないこと」にあらためて注意をうながしたいと思います。

例として2008年春季1級の書き取り(dictée)問題。内容は、将来、一般人も宇宙滞在が可能になるであろう、との見通しのもとに、希望者をつのる企画がある、という話です。正解の一部を引用します。

Selon les estimations des promoteurs du projet, près de 40 000 personnes dans le monde auraient les moyens de se payer un tel séjour, mais la proportion de ceux qui seraient prêts à consacrer une telle somme à un voyage dans l’espace reste inconnue.

企画の発案者の見積もりによれば、世界中で四万人の人がこのような滞在の費用を支払う財力があるだろうとのこと。しかし、宇宙旅行のためにこのような金額(四百万ドル、ということが前出)を費やしてもいい、という人の割合はなかなかわからない。

間違いが目立った6個所を抜き出します。

1) 正解: les estimations des promoteurs du projet 「企画の発案者の見積もり」

誤答例: (x) du promoteur 数の取り違え。冠詞desをしっかり聴き取って欲しかった。

誤答例: (x) des promoteur 名詞複数のs が脱落。フランス語の基本の基本。

誤答例: (x) de promoteur フランス語の仕組が理解できていないのではないか。promoteursは話題の中の特定の人物であるから、ぜひ定冠詞。

2) 正解: près de 40 000 personnes dans le monde auraient les moyens ... 「四万人の人が財力があるだろう」

誤答例: (x) aurraient スペルミスでした、では済まされない。avoirの変化を覚え直すこと。

誤答例: (x) aurait  主語は複数である (près de 40 000 personnes)。文を全体として把握していない、とみなされても仕方がない。

3) 正解: se payer un tel séjour 「そのような滞在の費用を支払う」。ここは正解が少ない。

誤答例: (x) payer  これが半分以上。se (自分のために)が脱落。脱落したままでは、支払うことは支払うが、誰が実際に宇宙滞在をするのか曖昧。たとえば伴侶のための支払いでもあり得る。例: Mon père m’a acheté un sac. 「父が私に鞄を買ってくれた」。meがなければ、お父さんは自分用の鞄を買ったのかもしれない。

誤答例: (x) un séjour  telが脱落。宇宙滞在という巨大なスケールの話題である。その感じを一貫して掴むことが肝要。

4) 正解: ceux qui seraient ... 「・・・であろう人(たち)」。正解はほんの少数。

誤答例: (x) ceux que  queは目的格。関係代名詞は初級レベルの基本文法である。この間違いが半分以上であることには驚かされる。

誤答例: (x) ceux qui serait  動詞の数の間違い。ceuxはちゃんと複数性になっているのに、うっかりミスが残念。

誤答例: (x) ce qui serait  ceuxとceを聞き違えた。文意を振り返れば間違いに気づいたはずなのに。

5) 正解: ceux qui seraient prêts à consacrer ... 「費やす用意がある人たち」

誤答例:(x) près à  この間違いはおそらく次の理由によるのだろう。まず、テープの音声がprêts à をリエゾンしていた。そして、リエゾンの「ザ」の音から、prèsを思いついた。
もしprèsならば、次に来る前置詞はàではなくdeでなければならない。そもそもprêt à 「・・・する用意がある」(品詞は形容詞)と、près de「・・・の近く」(品詞は前置詞)では大違い。
ここは、prêt-à-porter「プレタポルテ」など、単数形で印象づけられている語を、複数形で用いているところがミソであり、落とし穴であるとも言える。ここを誤った答案が三分の一ほど。

6) 正解: la proportion ... reste inconnue. 「・・・の割合はわからない(未知である)」

誤答例: (x) inconnu 性の一致の間違い。たった一字なのに、と不服かもしれないが、これは重大な間違いである。文の主語(la proportion)がわかっていない、すなわち文意をまったく捉えていない、とみなされてもいたし方なし。

今回の結論: 最初に述べたように、仏検1級・準1級は、いわば、土俵もマットもなく、試合延長無制限の勝負です。死力を尽くす、などと悲壮がることはありますまいが、何でも来い、の気迫が欲しいところです。

何でも来い、何でもありの試合に、もはや安直なルールはありませんし、ましてやマニュアルが存在するはずがない。1級と準1級の参考書をもっと沢山作って欲しい、との要望をよく耳にしますが、それに代わるものが、世に行われているフランス語として、いまやわれわれの周囲に満ち溢れているはずです。これをどう活用するかは、この同じホームページの「合格者からの声」に掲載されている、仏検の先達のアドヴァイスを読んでください。

繰り返して強調したいのは、高度なフランス語の知識も大事だが、基礎はもっと重要だということです。例に出した書き取り問題などは、要するに、フランス語でじかに考える能力と習慣がどれだけ身に付いているか、を試しています。能力・習慣と知識は別です。いくら野球のことをよく知っていても、キャッチボールが下手だったら、試合には出してもらえませんね。