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第7回 めげずに前置詞に立ち向かおう(初級用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

前置詞は、初級・中級では、穴埋めの形式で、一組の問題としてまとまって出ることが多いようです。2008年春季4級の筆記問題6について見てみましょう。

(1) Elle travaille ( ) la banque.
① à ② en ③ par
(2) Nous habitons ici ( ) 1980.
① à ②­ depuis ③ entre
(3) On achète des pommes ( ) le dîner?
① chez ­② pour ③ sur
(4) Sylvie va à Paris ( ) voiture.
① avec ­② de ③ en

(1), (2), (3), (4)それぞれについて見てゆきます。

(1) 誤答例: (en) la banque. ただしごく少数。働いている「場所」を考えたのでしょうか。la banqueは場所というよりは職業の「種類」を言っています。定冠詞 la はすべての「銀行」を総括する働き。もし働いている「場所」なら、dans une banque「ある銀行で」、dans la banque「その銀行で」。

したがって正解は Elle travaille (à) la banque. 「彼女は銀行で働いている」。

類例。Je passe les vacances à la mer.「私は休暇を海で過ごす」。休暇を過ごす場所の「種類」を言っています。「山で à la montagne」などに対して「海で」。

(2) 誤答例: (entre) 1980が少数。「1980年(の間)に」と考えたのでしょうか。もし「間」を言うのなら、entre A et Bの形にならなければなりません。たとえば「1980年の1月と7月の間」など。また、1980年は過去のことですから、動詞の現在形 Nous habitonsとも辻褄が合わない。

正解: Nous habitons ici (depuis) 1980. 「私たちはここに1980年以来住んでいます。」1980年から今までずっと、の「今」に基づいて、動詞は現在形。

類例。Depuis quand êtes-vous au Japon? 「いつから日本にいらっしゃいますか?」Je vous attends entre sept et huit heures. 「7時と8時の間お待ちしています。」

(3) 誤答例: (sur) le dînerが少数。surは「…の上」(例: sur la table「テーブルの上」)の意味ですから、le dîner「夕食」の前に置くことは考えられない。これは当てずっぽうの誤答でしょう。acheter des pommes「ジャガイモを買う」とle dîner「夕食」をつなぐのは「目的」の観念以外ではないはずです。

正解: On achète des pommes (pour) le dîner? 「夕食(用)にジャガイモを買おうか?」なおここのOnはNousの気持ち。夫婦などが買い物をしています。

類例: Il fait de l'exercice pour sa santé.「彼は健康のために運動をしている。」

(4) 誤答例; (avec) voitureがかなりの数。「自動車を用いて」、つまり「手段」のことである、と考えたのでしょう。なるほどMange avec la fourchette, pas avec tes doigts.「フォークを使って食べなさい。手では駄目(小さな子供に向かって)」などと言います。ただし冠詞または限定詞(avec la fourchette, avec tes doigts)が付いていることに注意。また、この場合の「手段」は手や指で扱える「用具」のことで、「自動車」はこれには当たらないでしょう。ここでの「手段」は移動するための「乗り物」のことです。

誤答例: (de) voitureがやはりかなりの数。なぜdeにしたのかは理解できない。当てずっぽうではないでしょうか。

正解: Sylvie va à Paris (en) voiture. 「シルヴィは自動車でパリに行きます。」 必ずしも自分で運転する必要はない。乗り物として自動車を用いるということ。

類例: 一般に乗り物はen+冠詞なしの名詞。en avion「飛行機で」、en bateau「船で」、en métro「地下鉄で」、など。ただしこれらは乗客の体が中に収まるような乗り物の場合であり、「上にまたがる」種類の乗り物は à cheval「馬に乗って」、à bicyclette「自転車で」となります。

今回の結論: 仏検は前置詞の問題が難しい、とよく聴きます。実際、前置詞は数が多く、その一つ一つがいくつもの用法に分かれていて、まことに複雑であり厄介であります。辞書でà、de などを引くと、字面を眺めるだけで頭が痛くなってしまいますね。フランス人って、よほど頭が良い人たちなのだ、と感心したくもなります。

他のことではさほど頭が良さそうでもない人までも、仏検満点の勢いでしゃべりまくるから、これまた不思議です。フランス語を話すことそのものが人間の頭を良くするのでしょうか?

ところがフランス語の前置詞は、よく見ると、必ずしも完璧な論理的整合性と緻密さを備えているとは言い難い面があります。「手段」「用具」「乗り物」の概念にしても、完全な分類と言うわけにはゆきませんし、どこで線引きをするのか曖昧になることがあるはずです。また実際の用法はかなりいい加減(?)な点があります。たとえば「自転車で」はà bicycletteが普通だとされていますが、en bicycletteと言ったりもします。「列車で」はen trainともpar le trainとも言います。それを自由自在に使って話すなんで、ますます頭が良い!

なるほど、そう考えて悪いことはありませんね。ただしその「頭」とは、理屈で固めたものではなく、フランス人(一般にフランス語を母国語とする人)が、赤ちゃんの頃から、初めはお母さんの言葉をまさに口移しに覚えて作り上げたものにほかなりません。ちなみに「母国語 la langue maternelle」は「母親の言語 la langue maternelle」の意味です(ラテン語のmater=mèreより)。

フランス語を学ぶとは、フランス語の母の声に耳を傾けることだと思います。理屈はその後からついてきます。ですから、目にし耳にする言葉のひとつひとつに注意を配りましょう。とくに前置詞はフランス語の要ですから、基本的な例文を正確に覚えることが第一です。