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第6回 古池の蛙をどう数えるか (初・中級用)

東京工業大学名誉教授 中山 眞彦

古池や 蛙飛びこむ 水の音」。これをフランス語に訳す場合の一番の問題点を考えることから始めましょう。

「蛙」はgrenouilleです。「蛙」が「飛びこむ」から、grenouilleが主語であり、動詞は「飛び込む(plonger)」。正当な発想ですね。

しかし、いきなり《Grenouille plonge ... 》としたらフランス語になりません。フランス語は「蛙 grenouille」が1匹(単数)か、それとも2匹以上(複数)か、ということにとてもこだわります。これを考えることがフランス語で考えるということである、と言ってもよい。

単数と複数の区別の仕方は、まず、複数は、名詞の語尾に、多くの場合、sを付ける(ただしsは発音しない)。他の少数の場合については参考書を読んでください。

と同時に、冠詞など、名詞の前に置く語で区別する。フランス語は、冠詞や、冠詞の働きをする語(所有形容詞、等)には単数・複数の区別があります。

以上を踏まえて、古池の蛙は、
1匹ならば ..... une grenouille
2匹以上ならば ..... des grenouilles

「蛙がいなかったら、どうなるの?」

なるほど、それも考えなければなりませんね。芭蕉は俳句を作らなかったであろう、としても。
《Il n'y a pas de grenouille.》「蛙はいません。」

この (pas) de はゼロを表す、と考えると便利です。整理すると、
一つだけ(単数) ..... un, une
二つ以上(複数) ..... des
ゼロ      ..... (pas) de

要は、この三つを除いては、フランス語には「蛙」は実在しない、ということです。数えることができるもの(者、物)には、必ずこの三つの区別を付けなければなりません。なお、もの(者、物)が特定されている場合は定冠詞(le, la: les)にします。

こうして、「古池や 蛙飛びこむ 水の音」の仏訳の一例は、
《 Ah! Le vieil étang Une grenouille y plonge (y = dans l'étang) Le bruit de l’eau 》

「蛙」を複数にする訳もあるようです。ネットで「古池や 仏訳」「古池や 英訳」を見てください。

さて、以上を基礎に踏まえて、次は、仏検2008年春季準2級の「書き取り(dictée)」の一部です。

Chaque jour elle (=ma mère) va faire les courses à pied. Elle aime beaucoup écouter de vieilles chansons. 「毎日彼女(年を取った母親)は歩いて買い物に行きます。彼女は古いシャンソンを聴くのが大好きです。」

単数と複数、あるいはものの数え方の面で、上の文から、(1) chaque jour、(2) de vieilles chansonsを抜き出します。

(1)を検討する前に、もう一度「古池や」に立ち戻ります。

「蛙」が7匹いると想定しましょう。すなわち、
grA, grB, grC, grD, grE, grF, grG.

7匹の蛙の全部について述べるのなら、普通には次があります。
les grenouilles (全体はおのずと特定されます。なお、des grenouillesでは全部になりません)

toutes les grenouilles (「全部」ということを強調しています)

chaque grenouille (「それぞれの蛙」。単数形に注意。)

聞き取り問題文の(1) chaque jourについて考えましょう。老齢の母親の一週間を次のように表してみます。
jL, jMar, jMer, jJ, jV, jS, jD.

上の記号が二つの要素から成っていることに注目してください。j (jour)はすべてに共通ですね。たとえば、たとえそれぞれの日の内容は違っていても、一日が24時間であることには変わりない、など。これに対してL(lundi), Mar(mardi), ... は内容が様々です。「蛙」についても同じことが、言おうと思えば言えますね。出眼も細目でも、蛙(gr)は蛙(gr)だ、いや、目玉の違い(A, B, C ...)はやはり無視できない、云々。

さて「全部の日」が、j に焦点を絞って言うのであれば、j を共有する日「それぞれ」のことであり、《chaque jour》となります。j (L, Mar ...)と考えればよい。同一のものが一貫する、といつた感じですね。ここは単数形。

これに対して、L, Mar... にウエイトをかけるなら、いろいろな日があるものの、とにかく「それらすべて」ということで、《tous les jours》となります。もちろん複数形です。

フランス人の頭の中がすこし見えてくる気がしませんか。ところで、日本語の「毎日」はどちらでしょう? また、《tous les jours》にぴったりの語は何でしょう?「来る日も来る日も」ではやや大げさですね。

仏検の答案には次の間違い(x)が目立ちました。
(x) chaque jours.
(x) chaques jours

ともに気持ちはわかります。でもこの気持ち、あるいは日本人だけのものかも。

(2)のde vieilles chansonsについては、フランス語の約束があります。すなわち、多くの場合、不定冠詞複数形+形容詞+名詞(複数形)では、不定冠詞はde に変わる。
たとえばdes grenouillesに形容詞petitesが付くと、
→ de petites grenouilles

これはフランス語の文法(文の法律)ですから、左様でございますか、と従うほかはありません。

問題文では、des chansonsに形容詞vieillesが付いて、
→ de vieilles chansons

仏検の答案では次の誤答(x)が多数でした。
(x) de vieille chanson
deがゼロの印になってしまいますね。お母さんは歌を聴かない、ということになりかねない。
(x) vieilles chansons
フランス語の数は名詞だけでは不十分。
(x) des vieilles chansons
文法違反。悪法(?)もやはり法。

総じて、フランス語は数について几帳面である。神経質でさえある。ということを今回の結論にします。